バトルフェスティバル 天野side
藤村と沙羅さんのやりとりが終わった。さっきまで疲れきって、しかも急な提案に目を白黒させていた藤村は、会話の途中から雰囲気が変わった。呆然としていただけの気配から、使命を持った戦士のような気迫へと、百八十度変わってしまった。
一体何が原因で――――?
そう疑問に思った私は、さっきまでのやりとりを頭の中でもう一度なぞった。『イザナギに会えんのか?』『親友だ』『言いたいことがある』……。
瞬間、暗闇の中の一筋の光のように、たった一つの答えが私の脳裏で弾けた。藤村がこんなに執着していて、名前の語感が似ていて、会いたいと願う人物。
夕凪くん以外には考えられなかった。さっきまでの会話から、漠然とした推測だったある考えが確信に変わった。藤村 英明は私と同じで、夕凪くんと接触するためにここに居るのだと。
そして、その藤村が覚悟が決めて、前を見据えている以上私も負けている訳にはいかない。
「おっと沙羅ちゃんはそっちを取ったかー。私はこっち」
そう言って私と方を組んできたのは、アテナさんだった。サラサラとした赤の長髪が私の頬に触れる。美波によく似ているなと、私は感じた。接し方も髪の色もよく似ている。
「やっぱり自分が遠距離武器使ってる分、コンビは近距離の方が色々と適応できそうだし。二人とも遠距離だと間合い詰められるとジリ貧になるしさ」
「いえ、ジョブ的にも脚力を使えば藤村くんは接近戦にも対応できますよ。それに、スポーツ選手をジョブにすると、大概ジョブスキルのうちの一つは身体能力を上げるものになりますし」
得意げに弱点を指摘するアテナさんに、沙羅さんはこれまた淡々と反論する。何だか実力者同士の会話はよく分からないなぁと思っていると、隣の藤村もよく分かっていないみたいで、少し可笑しく感じられた。
「でも、喧嘩して奪いあわずに済んで良かったじゃないですか。お互い目的が達成できて」
「ええ、そうね」
頷き合う二人を目にして、その『目的』について考えてみる。そう言えばと言っては何だが、この人達は何でこんな低レベルなクエストに参加したのだろうか。
私はさっぱりその辺りが理解できていなかったが、藤村の方は気付いていたようだ。やっぱり、と呟いた後に二人の間に割って入った。
「有能な新人をスカウトして、育て上げてコンビにする、っていう目的ですか?」
「……よく分かったね」
驚いた風に二人は目を丸くして、藤村の方に向き直った。途端に、相手が女性だということを思い出したのか、藤村は硬直した。見る見るうちに日焼けした小麦色の顔が、赤く染まって行く。
「そ、そりゃ、『掘り出し物』とか言われたら分かり、ま……すよ……」
あー、また面倒くさくなった。
そう呟いた沙羅さんは藤村を落ちつけるために少しだけ距離を取った。それだけでもかなり気分は楽になったようで、藤村も元の顔色に戻って行く。
そして私は、一つだけ言っておきたいことがあった。クエストをクリアしたため、そろそろターミナルタウンの方に強制送還されそうな気がしたので、手短に用件を片付ける。
「こっから、名義上は私と藤村は敵だけど……」
夕凪くんと会うっていう意味では味方だから。
そう、伝えられたか伝えられなかったかギリギリのところで、私達は元の世界へと消えるようにワープした。
ちなみに、これは予約掲載です。
天野sideもやっぱり短いですね。
次回は神崎姉弟sideです。
神崎父side、梶本sideは、さらにその後に二人纏めて行います。




