バトルフェスティバル 藤村side
「えっと……『バトフェス』って一体何でしょうか?」
不意に詰め寄ってきた沙羅というプレイヤーに、おそるおそる俺は質問してみる。彼女は手を俺の肩から離して、一歩下がった。
「バトフェスっていうのは、このゲーム、“Quest Online”において、一番大きなイベントの事。一番のお祭り騒ぎだから、バトルフェスティバルって訳。腕に覚えのあるプレイヤーがこぞって参戦するのよ。そして、二人一組で闘うの」
現実世界で言うならば、オリンピックのようなものかと俺はすぐに理解した。本当にオリンピックやワールドカップ規模のものならば、お祭り騒ぎになるのも頷ける。実際に五輪の際には、あらゆるメディアがこぞって取り上げるほどだ。
しかし、俺には一つだけ引っかかることがある。このゲームの初心者である俺が、そんな大舞台で戦えるのだろうか。しかも沙羅は『腕に覚えのあるプレイヤーが』と言っていたが、俺には自信なんて欠片も無い。
「いや、でも俺には無理っすよ」
とりあえずここは断っておくのが正解だ。端的に、曖昧さ加減は見せず、ストレートに断る。誘いを断る際にはそれが一番だと夕凪に昔言われたからだ。
しかし、相手はそんな事お構いも無しにしつこく絡んできた。
「大丈夫だって。私だって大してベテランでもないし。君、始めたばっかりで装備はあれだけど結構強いからさ。後一カ月本番までに磨けば伸びるって」
「いや、そう言われても……」
「ん? 課金とかの話? 私も無課金だって。それに、世の中には“無課金の帝王”ことイザナギだっているんだから」
その名前を聞いた時に、俺はふと大事なことを思い出した。そう言えば俺がこのゲームを始めた理由は、夕凪に自分の言いたいことをぶつけるためじゃなかったのか、と。
イザナギ、そのハンドルネームは夕凪が完全に不登校になる前、さぼりがちになった頃に聞いた。そういう名前でゲームを始めたって。寝てからもあんなに楽しく過ごせるなんて最高だ。そう言っていたのを思い出す。間違いない、そいつは夕凪の事だ。
「……そのバトフェスで、イザナギに会えんのか?」
「勝てばね。その人はそういう大きな大会にはいつも参加するらしいし、去年は惜しくもベスト8で終わったらしいし。今回は優勝狙ってくるんじゃないかな」
その時に、何か意味ありげに沙羅は、アテナの方に視線を向けた。ほんの一瞬のその仕草ではアテナも、天野も気づかなかったようだ。
そして俺はというと、『勝ち続けていればいつかイザナギとぶつかる』それだけで闘う理由ができた気がした。
「どうしたの? 知り合いとか?」
「はい。親友です。……少なくとも、俺にとっては」
俺にとってあいつは、紛れもない親友だ。誰が何と言おうとそれは紛れもない事実だ。
そして、だからこそ知りたい。
「会って言いたいことがある」
お前にとって、俺は何だったのか。
Interludeは一個一個の話が短いです。
今回は藤村が沙羅とコンビを組みました。
天野ゆかりが沙羅に見覚えがある理由や、沙羅がチラッとアテナの方を見た意味は、その内書かれると思います。
次回は天野sideです。
 




