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第四話――片思い女子の場合――

藤村サイドとは違って、そこそこ真剣にバトります。

そしてこの話が終わり次第、新しい章へと繋ぐ『Interlude』が始まります。

「にしても久々に見るなー、このでっかいだけの鳥」


 突如猛風が熱帯林をかき混ぜたかと思うと、上空には一羽の巨大な鳥が浮かんでいた。藍色の羽毛に体を覆わせて、黄色いくちばしは赤黒い血で汚れている。甲高い鳴き声をその鋭いくちばしから吐きだして、巨大な翼をまた一打ちした。周囲の木々が放射状に軋んでいく。

 その姿を目にして、私は完全に震えていた。ちょっと前に戦った苔の怪物なんて可愛く見えるほど、強そうだ。確かに、こっちのモードは多人数プレイを前提としているから強いって言ってたけどこれはないだろうと愚痴りたい。

 だが、その怪鳥を目にしても、経験者二人は全く怯えていなかった。お姉様……と私が勝手に呼んでいるアテナさんや、どこかで見たことがある顔の弓使いの沙羅っていう人は落ちついている。まあ、この人達にとってはこのモンスターはただの雑魚になるのだろう。

 それよりも私が驚いたのは藤村のリアクションだ。さっきまで苦手な女子に囲まれていたせいで、現れたモンスターに対しては微塵も恐怖を抱いていない。むしろ、助かったと言いたげだが、すぐさまあいつは臨戦態勢に入った。

 掌を空中にかざしたかと思うと、強い光が発せられて、光の球体ができあがった。あれはきっと藤村の武器なのだろうが、どうやって使うのだろうか。それを疑問に思っていたその時、藤村はその球体を自分の足元へと放った。


「どうせ、先手必勝だろ!」


 呆気に取られる私を尻目に、藤村はその光の球を上空へと蹴りあげた。全力で蹴りあげられたボールは、一直線に巨大な鳥に向かっていく。威嚇ばかりしていて、隙だらけの腹にボールがめり込んだ。


「おっとさっきとは打って変わって案外やるねぇ、君」

「じゃあ、ヤバくなるまで私達は下がっとくから頑張ってね」


 そう言って二人は、本当に私達に任せて何歩か後ろに下がった。藤村はやる気満々だが、本音を言うと私は全然覚悟ができていないんですけど。

 っていうかそれならこの二人は何でこんな依頼に参加してるの? 確かにマジで倒しに行く方向性でいったらつまらなくなっちゃうとは思うけれど、どうにもそこが解せない。


「おい、来てんぞ!」


 闘いになるとスイッチが入るのか、覇気のある藤村の声が飛んだ。気付くと、ダメージを受けて激昂した“ビッグバード”が私達目がけて滑空していた。そこいら中に樹が生えているので、翼やらが引っ掛かると思ったのだが、そんなもの意にも介さず、全てなぎ倒しながら突進してくる。

 とりあえず、棒立ちしている訳にもいかないので、私も自分の武器を取り出す。自分の身長よりも大きな槍。現実でこんなものを持ったら絶対に振り回せないけれど、ゲーム内のものはまだ両親的な重量だ。それでも、リアリティを出すためにそれなりの重さにはなっているから、そうやすやすとは振り回せないけれど。


「“一閃いっせんき”!」


 MPを消費して、さっき習得してきたばかりの技を使う。とりあえず、ストーリーモードから帰ってきてすぐのタイミングで、すぐにスキルの習得を促してくれた案内役のアンナに感謝だ。ジョブスキルはまだ消費MPの都合上使えない。

 私が構えた槍が、赤色の闘気が纏う。燃えるような真っ赤な闘気を見て警戒したのか、真っ直ぐこちらに向かってきていた鳥型モンスターは軌道を変え、上空へと舞い戻った。


「むー……届かない」

「じゃあ俺がやるよ、“ソニックショット”!」


 さっきは黄色かった光の球体が、今度は青色の光を放っている。見てみると、同じような青色のエネルギーが、藤村の足の甲にも溜まっている。馴れた動作で脚をしならせるように振り上げ、青色に瞬くボールを手から離した。

 鞭のように素早い動きで、藤村の足はボールへと叩きつけられた。蹴りつけられたボールは、先程のようにすぐに飛んでいくのではなく、エネルギーを充てんしているように、少しの間そこに留まり、ある一瞬で爆発したかのように飛び出した。

 ソニック、というだけはあって恐ろしいまでのスピードで、視認はほとんど不可能だった。辛うじて、藍色の光の筋が木々を貫いたのが見えただけだ。


「あー、クソ! ズレた! 狙いは土手どてぱらだってのに」


 見れば、黄色いくちばしが下から突き上げられたようで、突然の衝撃にビッグバードは首をのけぞらせていた。脳しんとうのようなものを起こしかけたのか、頭を振って意識をしっかりとさせようとしている。どこまでもリアルなのだなあと、どうでも良いことを私は呟いた。

 それにしても、藤村の技術に私は驚いた。そう言えば、こいつは夕凪くんのサッカーでのパートナーみたいな人なんだからそれも当たり前なのかもしれない。私がいつも美波の陰に隠れているみたいに、藤村も夕凪くんの陰にずっといたのかもしれないんだ。


「私だって……負けられないんだ」


 一か月後に開かれるという、このゲーム一のプレイヤーを決定する大会の、日本での予選で夕凪くんと肩を並べて、私の声を届かせるためにも、こんな所で負ける訳にはいかないんだ。きっと、藤村だってそれを目的に参加しているはずなのだから。愛情は友情に勝てるかは知らないけど、負けたくはない。


「藤村、あいつ落として。そしたら私が叩くから」

「了解」


 そして、もう一度モンスターを狙って藤村がソニックショットを撃とうとしたその時、凄まじいエネルギーが森の中を貫いた。周囲の木々が、おられるとかではなく、根こそぎ吹っ飛ばされてけし飛ぶ、そんな強大なエネルギーだ。


「“殲滅カタス大剛弓トロフィ”!」


 離れて見ていたから辛うじて識別できたが、矢とは思えないほどに巨大な光の矢が、藤村の一撃に対して怒りに燃えていた巨鳥を撃ち抜いた。断末魔の鳴き声を上げることもなく、体力以上のダメージを一気に与えられたそれは、青い煙へと変わって消え失せた。


「掘り出し物発見!」


 矢で撃ち抜いたのは、沙羅の方だった。弓を持っているからこっちしかありえないので、最初から多少は予測できていたが、さっきの奴を一撃で片付けるような実力の持ち主が自分と同じような女子だというのが、凄い驚きだ。

 そしてその沙羅は、心底面白そうな表情で藤村を見つめていた。そしてそのまま、狙った獲物は逃がさないとでも言いたげに、すぐさま藤村の方に歩み寄った。まだ戦闘時のスイッチが入っている藤村はきょとんとしているだけで、赤面してはいない。

 沙羅は藤村の目の前に立つと、がっしりと藤村の肩を掴んだ。


「ねえ、私とコンビ組んでよ、『バトフェス』の!」

「はい?」


 バトフェス? コンビ?

 何の事かさっぱり分からない私と藤村は、ただただ混乱するだけだった。

ちなみに『殲滅の大剛弓』のルビは『カタストロフィ』です。『の』は読まないです。

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