第四話――姉の場合――
「城壁の外に出るためには許可証が必要。そしてその許可証にランクがつけられていて、高ランクであればより遠くへと出動できる。そして、許可証を手に入れる、ランクを上げるために特定のクエストを手に入れる、って訳ね」
一度ストーリーモードの世界から戻ってきてから、私と夕凪は今度はクエストモードの世界へと向かっていた。勤務隊入りは果たせたのだが、その直後に遠征にはお留守番だと言われたのだが、このタイミングでクエストモードが入ってくるのかと納得した。
その際に夕凪から察しが良すぎると白い目で見られたが、知ったことじゃあない。どうせ夕凪は家でしているみたいいに駄々をこねたんだろう。夕凪がこの辺りをプレイしていたのは中一の時とすると、今よりも幼かったのだからあり得ない話ではない。
「クエストモードでは、基本的に多人数でプレイするのを前提としているから、敵の強さもストーリーモードと比べると別次元なんだよね。特に体力面が段違いなんだ。でもって、今回クリアしないといけない鍵となるクエストは、一個だけだからすぐ終わると思うよ」
そう言って夕凪は、クエストを受注するためのカウンターに私を案内した。何人もの係員の人達が、それぞれのレベルの依頼の紹介を担当しているようだ。
始めたばかりの私には関係が無いが、中にはプレイヤーによる依頼なんかも含まれているらしい。強すぎて倒せない敵を代わりに倒してもらうことが可能なようで、中級プレイヤーが上級プレイヤーによく頼るようである。
そして、私が最初に向かったのは白い服を着た係員のカウンターだ。ここでは物語序盤で受注できるクエストが紹介されている。裏を返すと、今はまだここの依頼しかできないという訳だが。
報酬が“許可証”となっている依頼を見つけ出し、さっと目を通す。依頼内容は一体のボスモンスターの討伐。最大参加人数は十人、となっている。
「参加者制限はつけますか?」
誰かがクエストを受注すると、掲示板のようなシステムにその情報が張り出されるらしい。そして、その中から自分も興味を持ったクエストがあれば、参加出来る。が、受注者が参加者に制限をかけると、受注者が許可したプレイヤーしか参加できなくなる。
とりあえずは、夕凪以外は特に要らないので、制限をかけておく事にした。
さて、今から行こうかという時に、不意に周囲からどよめきが走った。何だろうと思いながら、他の人が視線を釘付けにしている所を眺める。そこには、私と同じぐらいの年代の二人の少年が立っていた。
片方は赤髪の、端正な顔立ちで睨むような鋭い目つきだ。もう一方の少年は黒髪でこれといった外見的特徴がない。
皇帝だ。そんな声が至る所から聞こえてきた。皇帝だ、皇帝だ。いつも通り相棒のシラギも一緒だな。誰もが二人を眺めてそんな事を口々にしている。相当な有名人のようだ。
「あー、出たね。最強の無課金者二人組」
人ごみの中でぼうっと立ちつくしている私に、夕凪が近寄ってきた。しっかりと、クエスト参加の許可を求めてからのようだ。夕凪の申請を許可しながら、あの二人組について夕凪に訊いてみる。
「あの二人ってそんなに有名人なの? それに、無課金の帝王って夕凪じゃなかったっけ?」
「ああ、一応僕はそう呼ばれてるけど、単純に強さだったら向こうの方が上なんだよね」
「ランキングってあの二人何位なの?」
「一万位ぐらいじゃない」
これほど有名になっているのに、夕凪とランキングに大きな差が開いているのに少し驚く。実際、一万位というのは相当な上位に位置しているはずではあるが、それでも百位以内に入っている夕凪とはかなり差が開いているだろう。
「なのにどうして、あの二人が最強の無課金者なの?」
「ランキングっていうのはね、ストーリーがより先に進んでいる人が上位に位置するんだ。強さとは関係無くてね。それで、あの二人はバトルマニアで、クエストモードに入り浸ってるから強さは折り紙つきなんだけど、あんまりストーリーを進めようとしないんだよね。適当にストーリー進めないと新しいクエスト出ないから、その時だけ進めてるらしいけど」
そう言えばそうだったと、ランキングのシステムを思い出す。別に強いからといって、上位に行く訳でもないし、上位にいても強くないことだってあるのだろう。
その二人組が、何かに気がついたかのように、目を見開いてこちらへと歩み寄ってきた。嬉々とした表情で彼らが見ているのは、私のすぐ隣にいる夕凪だと分かった。
「イザナギじゃん、誰かと組んでるのは珍しいな! で、誰なの、そいつ?」
「双子の姉だよ。イザナミっていう名前でやってる」
「へえ、良い感じにセットになってんじゃん」
フレンドリーに話しかけてきたのは、赤髪の方だ。まるで学校の同級生と話しているかのように、親密なのが窺える。夕凪が家族以外で仲良くしているのは藤村ぐらいだから、新鮮な感覚がした。
「で、今から何にいくっていうんだ?」
「ビッグバードの討伐」
「ああ、そっちの奴の手伝いか」
冷めた口調で話しているのは、シラギと呼ばれていた黒髪の方の少年だ。ここで私は、ふとあることに気付いた。二人とも、武器を手にしていないということに。たった今クエストから帰ってきたであろうこの二人は、なぜか他の人とは違って何の武器も携えてはいなかった。
「夕凪、この二人の武器は?」
「ゲーム内で本名は控えてよ、みな……じゃなくてイザナミ」
「あんたもじゃない」
気まずそうに夕凪が頬を掻く。そんな事よりもと、私は続きを促した。
「ソーヤ……髪赤い方は炎。シラギの方は素手だよ」
「炎?」
「こういうこった」
そう言ってソーヤは、指を鳴らした。その瞬間、ソーヤの頭上に一匹の炎の龍が現れた。それが炎であると裏付けるかのように、焼けつく刺激が肌を襲ってきた。本物のような臨場感を持った炎の龍は低い鳴き声を響かせながら。そこらを旋回した。
「こんな風に火を自由自在に操る、って訳。何か俺があんまりにも強かったからそれ以来炎とか風とか雷とかは選べなくなったらしいけどな」
「ま、要するに桁違いの実力者だから気にしたら負けだよ。じゃ、時間ももったいないから僕等は行くよ。じゃあね」
「ああ、大会本戦で闘ろう」
二人は次のクエストのためにカウンターの方へと去っていき、夕凪から行くよと言われて私は歩き出した。
そう言えば、何でソーヤという少年は“皇帝”と呼ばれていたのか、少し気になったけれども、夕凪が無課金の帝王と呼ばれているのと大して変わらないだろうと思った私は夕凪についていった。
チートな新キャラ二人組です。
作中でのセリフ通り、実際こいつらが今のところ一番強いキャラですね。
次回は父親サイドの話の予定です。