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第三話――父の場合――

この話は普段の三分の二ぐらいの長さです。

ちょっと短めですが、きりが良かったので。




「えっと、旅人って?」


 いきなり、国王らしき人物からお前は『旅人』だと宣告されたが、そもそもそれが一体何を示すのかさっぱり分からない。

 首を捻り、ナビの方を一瞥するが、彼女は王の話を聞き続けたら良いとだけ告げた。


「旅人とは、他の街から来た旅人ではない。それは皆も知っておろう」


 登場時よりずっと、彼はプレッシャーを放ち続けている。

 おそらく昔の権力者というのはいつもこのように威厳や自身、漠然とした力に満ち溢れていたんだろう。

 今の社会のトップの人達にもそれは見習ってほしいものだ。


「旅人とは、他の世界から来た旅人だ」


 ええ、だとかその通りですだとか相槌が打たれる。

 とりあえず、この世界の中では旅人に対する知識は一般教養らしい。


 それにしても、異世界からの訪問者を旅人と呼ぶのに、何だか俺は既視感を感じた。

 一体どうしてだろうか、そう思った次の瞬間に、ある小説を思い出した。

 中学時代に呼んだ小説に、そのような設定があったのだ。

 その本自体は二千年ぐらいにでたようなので、百年以上前の作品なのだが、当時著名な作家が書いたらしく、今でも読書家には有名な一冊だ。

 タイトルを直訳すると“勇気の物語”といったところか。


「確か言い伝えでは、旅人が玉虫の番人を見つけ出した……となっております」

「ああ、その通りだ」


 さっきから常々思うが、きっとこのリースという男は王から一番信頼を置かれているのだろう。

 王からも、リースからもそのような雰囲気が窺える。

 信頼し合った上下関係、俺の勤める会社では見られそうにもない光景だ。


「突然現れた旅人は、この世界に来るや否や、当時では使えるものなど居なかった攻撃の魔法を使いこなすようになり、自警団の一員となった。自警団とは、今でいう王宮勤務隊であるのは皆も知っておろう。そして、その旅人が玉虫の番人を説き伏せ、共に闘うように説得してくれたのだ」


 そして、玉虫の番人達が、我々に攻撃の魔法の使い方を教えてくれたのだ、と王は締めくくった。


「……そこまで細部まで聞いたのは初めてですが?」

「ああ、王家に伝わる伝説だからな。そして、私はこう考えている」


 番人とは、旅人よりも遥か昔にこの国に降り立った“旅人”だったのではないかと。

 そう、国王が口にした時、思わず皆が息を吸い込んだ。

 ハッとしたような表情を見ていると、ついこれがゲームの中だと忘れてしまいそうになる。

 それほどまでに、現実味を帯びた世界が構成されている。


「そして、このタイミングで旅人が現れたのは神の思し召しではなかろうか」


 途端に、彼らから発される空気が変わった。

 まさか、と懐疑的になる者など一人もおらず、ほとんどの者はその顔に希望を見つけた明るさを宿していた。

 そして、一部の例外を上げると、リースである。


「お言葉ですが陛下……この者は本当に旅人なのでしょうか?」

「間違いないだろう。門番が誰も出ていないというのに、街の外に彼はいた。少なくともこの街の者ではない。それに、ここ以外はもう既に壊滅的である、という事を踏まえると、より真剣みを帯びてくる」

「ですが……」

「さらに」


 どうやら彼は、俺が旅人を名乗る一般人だとでも言いたかったのだろうが、王にそれは否定される。

 まあ、冗談半分の輩に付き合う余裕が無いのだから、ちょっとは疑り深くもなるんだろうな、という冷めた考えになってしまう。

 これまでの説明では疑念の晴れなかったリースは、王様の言葉の途中で言葉を濁した。

 が、その直後に王はまた口を開いた。

 異論は認めない、といった意思が言外に伝わってくる。


「彼は“紅い霧”を、つまりはこの世界の事を知らなかった、ときている。本当にこちらの世界の者か?」

「それは……」


 さすがの彼も、これでようやく折れたらしく、すごすごと引き下がった。

 だが、それにしては少し不安げな表情をしているのが気に障る。

 他の人が喜ぶ中、この人物だけが陰鬱とした表情をしているのが場違いに見える。

 それを心配と受け取った王は、極力明るく努めてなだめようとする。


「心配せずとも良い。もし仮にこの者が旅人でなかったとして、民の安全はお前たちが守るのであろう。気にするな」


 それを聞くと共に、沈みかけていた彼の表情も持ち直し、皆と同じようなものになった。

 これ以上、自分の憂いを見せないようにと、頼られているということに対する誇らしさを伴っていた。


「で、名を何と言う?」


 王がそう訊いてきた。

 さっき騎士団の連中に答えたばかりなのだが、その時この人はいなかったのだから仕方が無い。

 俺が自分で名乗ろうとしたその時、ザッキーだと、勤務隊の連中が先に答えた。


「そうか。して、お前は戦えるのか?」

「えっと……はい?」

「だから、闘うことはできるのか?」


 いや、そりゃできますけど……。

 呆然としながら俺はそう答える。

 っていうか、そうしないと困るのは、どっちかと言うと貴方がたですよね?

次回は梶本先生が主人公です。

では、次回もよろしくお願いします。

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