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第二話――片思い女子の場合――



「王宮……勤務隊?」

「ああ、そうさ。そこで待ってな」


 いきなり現れたその男の人に問いかけてみると、優しい声が返ってきた。

 そしてその人は、持ち上げた剣の刃を先程現れた巨大な狼の方へと向けた。

 存在感、というか威圧感みたいなものがまだ中学生の自分にも感じられ、目の前の男性の強さみたいなものが伝わった気がした。

 だけど、この感覚はどこかで感じたことがあるような……。

 そう思って考えてみたが、中々それにたどり着かない。

 まあいっかと思いなおし、目の前の景色へと意識を戻した。


 依然、男性はモンスターの方を見据えて、モンスターも同様にその人を見つめて膠着していた。

 じりじりとその間合いを狭めるようなことも、逆に広げるようなこともなく、お互いを値踏みし合っている。

 先に動きだしたのは、ファングと呼ばれる狼のボスの方だった。

 動いた、と言っても逃げ出す方だったが。


 野生の勘なのか、ボスとしての力量なのか、目の前の男は自分よりも強いと判断したさっきの狼は、一目散に地平線の向こうへと逃げ帰って行った。

 その動きはここに現れた時人同様に、疾風が走りぬけるように凄まじいスピードだ。


 助かったんだなぁ、そのように冷めた感想を胸中で呟いた私に、目の前にいる彼は振り返った。

 切りそろえられた金髪がなびき、さっきまで反対側を見ていた真っ青な瞳が私を映す。

 その目は、大きな一重の、とても優しそうなものだった。


「無事だったかい?」


 彼の、第一声はそれだった。

 思わず見とれていた私は、少しの間返答することができなかった。

 それを訝しく感じ取った彼は、少し曇った表情で私の方を見つめる。

 その視線を感じた瞬間に、私はふと正気に戻った。


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


 私がそう言ってみせると、彼はほほ笑んでくれた。

 その顔はとても端正に整っていて、どこか夕凪くんを彷彿とさせるものだった。

 夕凪くん、その名前が出て次に思い浮かんだ彼女の事を思い出して、さっきこの人に対して誰かを思い浮かべた、その誰かを私は察した。

 そうか、この人の頼りがいのある雰囲気は美波に似ているのだ、と。

 優しさと強さを合わせ持つ私の親友と、このキャラクターは大層強く重なって見えた。


「それにしても、君は誰だい? こんな所で一人でいるなんて」

「こんな所でって……」


 どういうことですか?

 そのように質問してみようと思った、丁度その時だ。

 突然、さっきまで真昼のように明るかった風景が、突然に夕暮れのそれに変わった。

 さっきまで白かった陽光は、いつの間にか深紅の西日へと変化している。

 ゲーム内だから、一瞬にして時間軸が映り変わるのだろうか。

 それにしては制作の会社も手抜きだなあと思ったのだが、そうではないらしい。


「不味い、“紅い霧”だ」


 そう呟いた彼は、すぐに私の手首を掴んだ。

 そして、説明を一切せずに急いで私を城の方へと引っ張って行った。


 城……?

 そう思いなおした私は目の前のその街の方へと目を凝らしてみる。

 今までずっとモンスターの相手をしていたから全然気づかなかったが、さっきファングがやって来て、帰って行った方向と反対側には、大きな城と、それを取り囲む城下町があった。

 その街の周囲には、高くてさらにはとても頑強そうな城壁がぐるりとお城を一周して取り囲んでいた。


「えっ、紅い霧って一体……」


 小さく口にしてみるも、彼はそんなもの気にも止めずに私の手を引き続ける。

 何かに怯え、その何かから遠ざかっているようだ。

 一体何から逃げようとしているのか、私の疑問がピークに達したその瞬間、ガイド役の彼女が現れた。


「あ、ゆかり様。どうかなさりましたか?」

「どうかした、じゃないのよアンナ」


 彼女は、私がゲームを進めていく時に、何か分からないことがあった時に対応してくれる、案内人だ。

 あんない、から名前をもじってアンナという名らしい。


「王族勤務隊って? 紅い霧って? それにそもそもこの世界ってどうなってるの?」

「ああ、一から説明していくからちゃんと聞いててね」


 プレイヤーネームを『天野ゆかり』とした私のことを“ゆかり様”と呼ぶ彼女は、天使のような純白の羽を打たせながら話を始めた。

 その説明を、そのままここに記載していくことにしよう。


 この世界では、数千年前にとある大事件が起こったのです。

 今までずっと平和に暮らしてきたのに、ある日突然魔王が現れたのです。

 魔王は数多の魔獣たちを従えて、人間達を滅ぼし始めました。

 少しずつ街は減り、人口も大幅に減ってきたその時です、彼らが現れました。


 彼らは、七人の騎士でした。

 それぞれ、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の甲冑でした。

 彼らは皆、魔王に対して効果的な魔法の数々を持っていました。

 そして、彼らはそれを人々へと教えました。


 そこからは、人間たちの逆襲が始まりました。

 多くの魔物たちを倒し、少しの魔物は改心し、人間側へとつき、ついには魔王へとたどり着きました。

 しかし、その先がどうしても何ともなりません。

 どれだけの人がそこへと着いても、魔王には勝てないのです。

 その時、再び七人の騎士は立ちあがりました。

 我々が直接魔王と相対せんと。


 七人と魔王の死闘は、三日三晩続いたと言われています。

 そして、七人の騎士は魔王を倒したその後に、力尽きたと言われています。

 人々は彼らの死を大いに悼みました。

 そして彼らは、世界の恩人たちのことを、このように呼ぶことにしたのです。


 玉虫の番人、と。


 そして世界に再び平和は訪れたのですが、その平和もつい数年前に破れることとなったのです。

 またしても、魔獣たちがその力を強めてきたのです。

 これは一体何事なのだろうか、多くの人々がその事に対して大きく疑問を感じたその時にはもう、手遅れでした。

 誰かが、新たな魔王として再君臨していたのです。

 それが誰なのかは、未だ誰も分かりません。

 しかし、数千年前の悲劇が再来した、それだけは誰しもの頭でも分かります。


 そうして、再び魔獣たちによって、人類はその数を減らし始めました。

 私達のような、数千年前に改心した者も、全て殲滅の対象です。


 そして、今回の魔王となった者は、以前の魔王よりも遥かに強力な力を持っています。

 その力のうちの一つが、“紅い霧”です。

 紅い霧は、多少吸ったぐらいでは全く害はありませんし、死ぬこともありません。

 ただ、死ぬよりももっとひどい効果があるのです。

 紅い霧を長時間吸い続けた人間は、体がだんだんとモンスターに近付き、最終的にはモンスターへと体を再構成されてしまうのです。

 これにより、多くの人々は魔王軍へと成り変わっていきました。

 今、残った人類はあの城下町に住む、たった数万人の人々だけです。

 そして人々を魔獣から護る役目を担っているのが、先程の王宮勤務隊です。

 果たして人類は、破滅へと向かうこの道を、断ち切ることができるのか――――。


「――――という話です。それより先の話は私は知りません」

「ああ、そうなんだ」

「急ぐぞ、城門が閉まる前に」


 紅い霧が城下町へと侵入してこないように、王宮勤務隊はいつも平野でその様子を観察し、城門を閉めるように指示する。

 城門が閉められてしまうと、しばらく開けることはできない。

 だからこそ、勤務隊は命がけであり、なおかつ勤務隊でもないのに街の外に出るのは自殺以外の何者でもない。

 だからこそさっき彼は、こんな所で何をしているのかと訊いた、という訳か。


 門が閉まりだしているのだろうか、古い木が軋むような音が大きく辺りに響いている。

 気付くと、私と彼は昼間の景色へと戻り、半分閉まりかけていた門の中へと跳び込んだ。





まあ、ゲーム内のストーリーがありきたりっぽいのはお許しを。

今回は天野ゆかりの話です。

ユーザーネームを彼女は本名でつけました。

という訳でアンナから本名で呼ばれています。


次回更新は第三話となるのですが、もしかしたら2.5話とか入るかもです。


では、次回もお待ちいただけると幸いです。

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