第二話――父の場合――
ちょっと間が開いた? な二話、父の場合です。
「いつの時代の街並みなんだこれは……」
辺りを見渡してまず感じたのはそれだった。
レンガ造りの建物に、やはりレンガで舗装された路面。
奥の方には王宮のような御殿が控えていて、そのさらに奥には凱旋門が立っている。
アーチ型の橋がそこかしこにかかっていて、その下には川が流れており、ゴンドラがいくつも優雅に浮いていた。
「この世界は、ストーリーモード、クエストモード、対戦モードの全ての中継地点のような場所です。皆、ターミナルタウンって呼んでいます。舞台としては、中世ヨーロッパをイメージしているんですよ」
俺の呟きに対して、すぐに解説を入れてくれたのは、右肩の上に乗っている緑色の服を着た小さな妖精だ。
ゲーム進行の際にアドバイスをくれるらしく、初心者は連れていた方が良いのだとか。
背中では、まるで天使のような羽が翼を構成している。
名前は分かりやすいことに、ナビゲーターの“ナビ”というらしい。
「中世ヨーロッパ……どうりで俺の服装が合わない訳だ」
先ほどの職業、ユーザーネーム、武器の選択を思い出して今の自分の格好を眺めてみる。
大体予想通りの姿になったのだが、予想通りだからこそこの空間には似つかわしくなかった。
両手の甲をガードするように、金属で出来た手甲が覆っていて、服装は真っ白な道義に黒い帯が締められている。
武器は何が良いかと訊かれたけれど、正直そういうものを扱うのは慣れていない。
だから小さい時に少しだけ護身術として手解きを受けてきた空手を利用することにした。
まあ、ブランクが相当あるので型などはグダグダ、そこらのチンピラが喧嘩に使うようなものになるだろう。
それでもやはり、武器よりも自分の拳の方がしっくりくるのではないかという直感が働いた。
ついでに職業は武道家だ。
「えっと……ストーリーを進めるためにはどこに行けば良いんだ?」
「あそこの大きなお城ですよ。あそこの門を入って右側の宮殿に入っていくとストーリーモードスタートです」
やはり語尾を疑問形にしてみると、ガイド役の妖精は説明してくれた。
とりあえずはこのナビゲーターに従って、そのストーリーモードとやらを始めてみようかと歩きだす。
それにしても、やはりかなりの数の人がいるものだなと、感嘆せざるを得ない。
時代と趣を感じさせる、ゲーム内の城下町は人々でごった返していている。
かなりの人口がストーリーモード等でエリアの方へと進出しているにも関わらず、だ。
一応はこの城下町のような本拠地は、何万と用意されているらしい。
そして、一つの城下町に登録されるユーザーは上限がおおよそ十万人なのだとか。
時差を考え、今このゲームにログインしている、つまりは眠っている人の人数を考えると大体二億五千万くらいだろうか。
世界人口は確か七十五億だから、この時間帯にログインしている城下町一つあたりの人数の平均は大体三千人ぐらいになる。
周りを見渡すと本当に、さまざまな格好の人たちが見受けられて、その度に驚いてしまう。
騎士のような甲冑の男性もいれば、貴族のようにドレスを纏った女性も歩いている。
そうこう考えている間にも、隣には髷を結った侍が、目の前には袈裟を来た尼がいる。
それにしても、本当に多彩な職業があるものだなぁとひとしきり感心したが、引きこもりというものには苦笑せざるを得なかった。
例の王宮にたどり着くと、待ってましたといった風情で、ナビが空中を旋回してナビゲーターを務め始めた。
意気揚々と右側の方を指で指して方向を示してくれているので迷うことは無い。
前方には、青い屋根の宮殿が寝そべるようにして立っていた。
ストーリー進行上必要な武器をここで売るために、大分広くなっているようだ。
基本的にはその商品はゲーム内で敵を倒して手に入れる通貨で買うらしいのだが、中には課金しないと買えない物もあるらしい。
特にレアな武器や防具は通常にプレイするよりも五千円払ってでも買った方が良いと言われている。
まあ、良識ある保護者としてはそれは控えておくつもりだが。
「では、ザッキーさん、今のうちにストーリーモード進行についての説明をしておきますね」
ザッキーとは、俺のユーザーネームであり、もっと言うと小中学校時代に用いられていたニックネームだ。
神崎だからザッキー、まあそういう訳である。
「このゲームモードは、戦闘部分がアクションとなったRPGです。草原とかを歩いているといきなりモンスターが出てきますのでバトルスタートです。後半のダンジョンでは弱い敵なら五十体も一度に相手にしないといけません」
詳しい戦闘のシステムはまたその時に、と言い残し、今度は別の話題へと飛ぶ。
「ストーリーの進行上、どうしても一人じゃなんとかならない! という時には近くの人に助っ人を頼めます。助っ人は両者の合意の上でのみ成り立ちます」
それなりに話が進んでくると人によっては自分一人で攻略するのは難しいらしい。
現実世界の運動神経の問題が最も大きいらしいのだが、とりあえずそういう場合には自分より強い人の助けを借りられるというのは便利だろう。
ずっと同じところで行き詰っていたら飽きてくるだろうからそのシステムはきっと妥当な案だろう。
そうこう言う風に説明を続けられているうちに目的地である宮殿、さらにはその内部の巨大な扉の目の前にまで到着していた。
大きな龍と七人の甲冑の衛兵を描いた巨大な門扉だ。
どっしりと立ちそびえるその巨大な門とも言えるドアには、威圧感のようなものがあった。
「ここをくぐるとストーリーモードがスタートするのですが、その前に」
あっちに向かってくださいと言いながら、ナビが指を指した方向に俺は足を進める。
初心者がチュートリアルの中自分勝手に突き進む訳にもいかないだろうからだ。
後後痛い思いをしてしまわないように、そちらに行ってみるとかなり大きな空間だった。
ここはたくさんの人が集うリビングのような場所だとナビは言う。
ここで助っ人を募集して旅立つことができるらしい。
そして、さらにその奥の方には何種類かのドアが見えた。
そのドアが一体何を意味しているのか、訊こうとしたところで、先回って説明を始めてくれた。
「奥の方にあるドアは、スキルや魔法を習得する重要な施設なんですよ」
まず最初に、そう前置いたナビは一番左、黄色いドアの方を指差した。
「あそこは、スキルを習得するために行く部屋です。まず、スキルを習得するためにはレベルを上げる必要性があります」
レベルが10までは一つレベルがあがるごとにSPと略されるスキルポイントが溜まる。
そして、10を越えると5レベルが上がるごとに一つスキルポイントが貰える。
そして、スキルポイントを一消費することで武器固有の技を習得できるのだ。
そしてこのスキルは、能力に関係なく武器によって統一されている。
さらにそのスキルのが解放される順番は決められているようで、欲しいものだけ習得できるという訳ではないらしい。
勿論のごとく、後ろに行けば行くほどより強い技を手に入れることができる。
「お次はあの赤いドアです」
そして指を向けたのはそのすぐ隣のものだ。
あそこはもしもストーリーでやられてしまった際に、運び込まれる地点だ。
ストーリーを進めている途中で体力がなくなる、つまりはゲームオーバーになったら所持金が半分になってあそこに運ばれる。
あそこでは他に、次にいつレベルアップするのかと預金ができる。
「青いドアはあれです! 課金者用です!」
「分かった、その説明は良い」
課金をするつもりは今のところはまだ無い。
というか、そこまでやってしまったらこのゲームにのめり込んでいるに関わらず課金していない夕凪に合わせる顔が無い。
「はい、ではストーリーの方に行きましょうねー」
ナビのその掛け声を合図に先程の場所へと体を向けた。
さて、やってやろうじゃないか。
次回から、戦闘シーン書き始めないとです。
という訳でゲームプレイのトップバッターは次回、梶本先生へとバトンタッチ。
まあ、先生らしく頑張ってくれるでしょうと思いつつ、それほどシリアスな雰囲気を出さないようにするかもです。
後、露骨で申し訳ないのですが、気になったこととか、ここはもう少しこうした方が良いんじゃない?という点があれば言ってくれると幸いです。
では、次回もよろしくお願いします。




