第58話 予選終了
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○184日目
◇◇◆老人side◆◇◇
狭間の世界でローブを纏った老人は考えていた。
三馬鹿にペナルティを与えたが、予め防ぐ方法はなかったか考えているのだ。
プレイヤーの暴走を防ぐにはどうしたら良いかのう。
人の自由意志は尊重しておるが、プレイヤーに求めるルールは契約書に記載し、覚えさせているんじゃが。
あやつらも最初からああではなかった。
人は良くも悪くも変わって行くものじゃな。
地球ではただの一般人がGWOの世界では勇者になれるからのう。
力に応じた責任感を持てば精神的にも大きく成長してくれるが、力に自惚れて自分を見失えば堕落していくようじゃな。
プレイヤーの精神的なフォローも幻獣にさせておるのじゃがのう。
GWOの正式開始からはもう少し面接と幻獣によるサポートを厳しくするかのう。
今回、猫又が悪事に協力しておったからな。
そうそう、成長といえば雄介の成長は著しいのう。
半年でトップクラスのプレイヤーの1人になりおった。
GWOの設計をしておる時は、SSSクラスには最短でも2年はかかると思っておったんじゃが。
神であるワシの予想を超えるとは、ちと異常じゃな。
武才があるというだけでは説明がつかん。
それに運のよさ:-999は本来有りえん数字じゃ。
何か理由があるはずじゃな。
一応調べておくかのう。
念のため、じゃがな。
◇◇◆雄介side◆◇◇
審判が雄介の勝利を宣言し、予選の第1試合が終了した。
雄介の試合に感動し、満場の拍手と歓声が沸き起こる。
武術が盛んなファシール共和国では強い者は尊敬される。
いつ魔物に襲われ殺されるか分からない世界では、強さこそ信頼の対象なのだ。
雄介は予選を終え、選手控室に戻ってきた。
第2試合の選手たち108人が広い控え室にひしめいていた。
雄介の試合を見ていた者も多いらしく、彼の戦いに衝撃を受けていたようだ。
話しかけようとする者もいるが、その中で知り合い故に一歩早かった者が居た。
朱色の髪をなびかせた美しい女性だった。
ライム・メートディア・エルフェフィン、メートディア公国の公女である。
先日はスカートを履いていたが、今日はズボン姿であり、グローブを持っている。
男性なら誰もが見惚れるような魅力的な微笑みを浮かべ、砕けた口調で雄介に話しかけた。
公女としてではなく、選手の1人として会話しようとしているのが分かった。
「雄介殿、貴方の試合を見せて貰ったわ。
本当に凄かったわ。
ほとんど勝負にならないほどの力の差が有ったし、動きに華があって、会場も相当盛り上がったわね。
圧勝とか完勝という言葉じゃ追いつかないほどだったわ。
今日の試合を見た人はみんな貴方の名前を覚えたでしょうね」
「まあ、そう大したものじゃないよ。
俺くらいに戦える人は他にも何人も居るだろうしね」
「謙遜……なのかしら。
貴方と互角に戦えるのは、大会で数人しか居ないって言ってるように聴こえるんだけど」
「さあ、それはどうだろう。
そういう君も相当な強さだね。
さっき歩く姿を見ても、重心に全くブレが無かった。
ごく自然にそれだけの動きが出来るなら、相当な修錬を積んできた証拠だよ。
本戦で戦えるのを楽しみにしているよ」
「あら、あれだけの動きで見抜かれるなんて観察眼も凄いみたいね。
でも、本戦では手加減はしないでね。
退屈しないだけのものは見せられると思うから。
そうそう、大会が終わったらメートディア公国に来ない?
歓迎するわよ」
「うーん、そうだなあ。
SSクラス以上の魔物と戦えるなら行っても良いよ。
Sクラス以下ならスラティナ王国で探せば見つかるしね。
(この言い方なら魔物退治以外の無理難題が出たら断れるはず……多分)」
「あたしに誘われて、魔物と戦えるならってそんなに戦いたいの?
(朴念仁? いや、余裕なのかしら)
SSクラスなら何匹か居るし、SSSクラスというか今まで誰も生きて帰った人が居ないって魔物なら居るわよ。
強い魔物を倒して貰えるなら大歓迎なんだけど、本当に良いの?」
「ああ、それで良い」
「やったわ。約束よ」
ライムは満面の笑みを浮かべた。
その笑みは、辺りがパッと明るくなったような錯覚を覚えるほどだった。
周りの男どもからの嫉妬と羨望の入り混じった視線が雄介へと突き刺さった。
だが、もはや慣れっこになっている彼はほとんど気にしていなかった。
「ああ、約束だ。
予選頑張ってね。応援してるよ」
それからしばらくして予選の第2試合が始まった。
ライムに対し、近くに居た男が突っかかっていく。
その男の手がライムに触れそうになった瞬間、彼は空を飛んだ。
ライムが投げ飛ばしたのだ。
魔法が禁じられている以上、空中では完全に無防備になる。
裂帛の気合と共にライムの肘打ちが炸裂した。
全身を回転させ、体重の乗った肘が男の顔面に直撃する。
鼻血を流しながら、男は気絶するのだった。
次の相手がライムに殴りかかった。
次々と連撃を放つ。
一発でも当たればライムは吹っ飛ばされるだろう。
だが、ライムは無駄のない動きで尽く避けていた。
相手の攻撃の予備動作を見て、推測しているのだ。
焦った相手は力いっぱいの攻撃をした。
大振りの一撃を避けると相手の身体が流れた。
そのまま隙を突いて背後に回ると、チョークスリーパーをかける。
彼女の細い腕でも両腕で首を締められると、相手は意識を失った。
ライムは対人戦に慣れていた。
魔物相手に戦ったことは少ないが、権力争いにより大公の娘として暗殺者に命を狙われたことは何度も有った。
元々武術に関心のあったライムは第2騎士団長のリウル・マクダフィンが護衛兼師匠となり、メキメキと腕を上げていった。
今では並大抵の暗殺者なら容易く返り討ちにするほどになっている。
余談だが、女性としてはあまりに強くなりすぎ、父親である大公ゼッセル・メートディア・エルフェフィンが嫁の貰い手に頭を悩ませている。
それは美しいライムに縁談の申し込みが無いわけではなく、彼女が自分より強い者でなければ結婚などしたくないと言っているためである。
もっとも自由を愛するライムとしてはそれを口実に縁談を断っているだけで、当然結婚相手は強ければ誰でも良いと思っているわけではない。
ただ強いに越したことはないとは思っているが。
試合開始から約2時間後、残ったのは2人だった。
ライムとSクラス冒険者サルド・シルースアである。
両者ともにかなりの疲労が伺える。
ライムが慎重に間合いを測りながら近づいていった。
大柄なサルドの間合いはライムよりも遠い。
遠距離・中距離・近距離に分けて考えるなら、遠距離はサルド有利、近距離はライム有利と言えるだろう。
中距離は戦ってみなければ分からない。
サルドは距離を取って戦えば、自分が勝てるはずだと考えていた。
サルドは距離を取りながらフェイントを織り交ぜてライムを牽制する。
押せば引き、引いては押され、ライムは自分の間合いにはなかなか近づけずにいた。
チャンス到来と見たサルドが、足を高く上げると踵落としを放った。
この距離ならライムの攻撃は届かないはずだった。
空気の切り裂くような音が響き、岩を割るほどの威力を持った一撃が天から落ちてきた。
ライムは紙一重で半身になって避けると、目の前を通り過ぎる足に対し膝を突き上げた。
サルドの足首の裏に膝が直撃し、アキレス腱にダメージが通った。
避けられるだけならともかく、カウンターを食らうとは思っていなかったサルドが小さく悲鳴を上げる。
ライムはすかさず足を取ると、サルドのバランスを崩させ、倒れさせた。
そのまま足を両腕で抱え込むと体重をかけて捻り上げ、アンクルホールドをかけた。
言葉にならないほどの痛みがサルドの足を突き抜ける。
魔物相手を中心に戦ってきた冒険者に関節技をかけられた経験などなかった。
まして返し技を習得しているはずもなく、痛みに耐えかねサルドは降参するのだった。
予選は見ていた雄介は嬉しそうに呟いた。
「体力・筋力で勝る男に勝つために、肘や膝、投げ技や関節技を身に着けているわけか。
三馬鹿より遥かに手強い相手だな。
戦ったことがないタイプだし、楽しみだ」
翌日以降、ダークテンペストやリセナス、クラノスの予選が順次行われた。
雄介と共に数々の修羅場をくぐり抜けてきた仲間達にとっては、予選で戦った相手は余裕を持って倒せる者ばかりであった。
秋生、小麗やアルマメロスなど前大会で活躍した選手は今回も勝ち進んでいた。
そして予選を勝ち抜いた32名が決まった。
これで本戦の1回戦の組み合わせが発表されたのである。
第1試合 滝城雄介 VS ライム・エルフェフィン
第2試合 シーヴァトル・ディオ VS キド・リューデイーン
第3試合 エド・ドルフォン VS 榎木秋生
第4試合 ダークテンペスト VS ルト・ヒューガイン
第5試合 アル・ソロス VS エルゼディン・ゴラルド
第6試合 タバサ=ヴィシャール VS リセナス・ペンフィールド
第7試合 王小麗 VS ミゲル・レノルード
第8試合 イルロレチ・エーロス VS ラルド・グララス
第9試合 ディエオナル・ミルセオード VS ウェロルド・シーブルーク
第10試合 レルクッス・シド VS ノエリクス・ジャハラ
第11試合 ノア・ジルテイン VS ホーク・ミットフォン
第12試合 ルトゥ・プリノ VS ガウェイン・フーラルバルト
第13試合 ラートン・キークイン VS カールクス・サルト
第14試合 クラノス・アリケメス VS ヴェリト・バーンラジール
第15試合 ロゼ・ディルウェール VS ラドウス・サグウス
第16試合 アルマメロス・ディルアール VS ガードス・ノードラーク
現時点ではこの第82回天頂武練大会は命の危険のないただのイベントに過ぎない。
だが、やがてファシール共和国中を震撼させる大事件の前触れとなるのである。
大会の裏で計画は着々と進行していた。
現時点でそれを知っているのは、事件の首謀者だけであった。
次回の投稿は1週間後の6日の0時……の予定でしたが、数日遅れます。
サブタイトルは「1回戦」です。
今回多くの名前が出てきましたが、事件の首謀者の名前は既に登場しています。




