第57話 予選開始
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○184日目
◇◇◆三馬鹿side◆◇◇
予選受付から5日後、天頂武練大会の開会式が行われた。
ファシール共和国の執政官であるラビティス・ウィロイルが首都シャエリド最大の広場のバーディン広場の壇上に立っていた。
大会参加者全員はとても闘技場には入れないため、毎年バーディン広場を使っているのである。
今回の参加者は3426名であり、観客は5万人を超えていた。
ラビティスのよく通る声が響いた。
「誇り高く、優雅なこの国を代表して、第82回天頂武練大会の開会を宣言します」
ラビティスが執政官に就いたのは3年前のこと。
それ以来打ち出す政策は不思議なほど次々と成功してきた。
また天頂武練大会の大規模化を推し進め、4年前までは国内規模の大会だったのが、近年は国際規模となり、周辺諸国からも人が集まるようになっている。
この開会式の前日、三馬鹿はある細工をしていた。
元基の幻獣・猫又を使って予選の対戦を変更したのだ。
猫又は全長80cmほどの全身が黄色で2本の尻尾を持つ猫であり、変身能力を持っている。
見たことのある人間なら誰にでも変身できるのだ。
猫又は天頂武練大会担当の役人に変身すると、予選の対戦表を探した。
首尾よく予選の対戦表を見つけると、雄介と自分たちの出場する試合を書き換えた。
予選の同じ試合に元基たち3人と雄介が出場出来るようにしたのだった。
それが終わったのを聞くと、元基が厭らしくニヤリと笑った。
「へっへっへ、これであいつを3人がかりでボコボコにしてやるぞ。
そうすればカサンドラさんの目も覚めるはず」
「しかし、書き換えたのバレたりしないかね。
大丈夫か?」
「予選の参加者は3000人以上も居るでござる。
おそらく気が付かんでござろう」
「念のため予選の試合を明日の第1試合にしておいた。
1日程度ならバレっこないさ。
試合後ならバレるかもしれないが、カサンドラさんのためなら仕方ないだろ」
「カサンドラさんのための聖戦だからな。
とはいえ、これで本戦に出場できるのはオレたちの内1人だけだな。
バレたらそれも取り消しかもしれんが」
「仕方あるまい。
どうせ小麗が居る限り拙者たちには優勝はとても無理でござる」
「ああ、あの拳法女にはとても敵わないからな。
今SSSクラスだっけか。
発勁を使って素手で岩を砕いてるのを見たぞ」
「可愛い顔して人間凶器だな。
いくら気を使えるからってどれだけ硬化できるんだよ」
「硬気功で守りを固めたら、並の武器では傷つかんでござる。
あのアルマメロスならダメージを与えられるでござろうが」
「昨年準優勝のアイツか。
決勝戦はほぼ互角だったからなぁ。
技と素早さなら小麗、力と体力ならアルマメロスだな」
「今年の優勝は誰になるのかねえ」
カサンドラのためと言いながら、明らかにカサンドラが悲しむことをしているのだが、目先のことしか見えない3人にはそれは頭に浮かばないようである。
◇◇◆雄介side◆◇◇
雄介達は開会式の後貼りだされた予選の組み分けを見ていた。
予選は32試合有り、第2試合までは108人、第3試合以降は107人で行われる。
100人以上のバトルロイヤルのため、試合時間が3時間もあるのだ。
試合会場は1つしか無いため、基本的に1日に3試合のみが行われる。
初日の今日は時間の関係上、2試合だが。
ラビティスの説明では、すべての試合を観客に見てもらうためということらしい。
従って予選は11日かけて行われるのである。
雄介は予選の組み合わせを見て顔を顰めた。
初日の第1試合の紙に自分と三馬鹿の名前が書かれていたのだ。
偶然の一致にしては出来すぎだろう。
自分と三馬鹿全員が同じ組になる確率は3万分の1以下であり、裏工作の匂いがした。
ただ、リセナスとクラノスとは上手くバラけていて、その点はホッとしていた。
初日の第2試合にはライム・エルフェフィンの名前があった。
あの赤髪のお姫様である。
正式な名前を出していないのは当然だろうが、少しメートディア公国に詳しい者が見れば一発で分かる名前を使っているということは、お忍びではなく公式に許可を取っての訪問だと分かった。
メートディア公国はファシール共和国とは比較的友好的な関係だと聞いていたが、それでも一国の姫君が態々出場するということは何かしら理由が有りそうだと雄介は思った。
予選の第1試合と第2試合ということは、勝ち進めば本戦の1回戦でぶつかるということだ。
雄介はなぜか面倒事の予感がするのだった。
天頂武練大会の会場は首都シャエリドから南東に1kmほど離れた場所にある。
そこにエフレイ山と呼ばれる不自然なほど円錐形に整った小山があり、その小山の麓に闘技場は建立されていた。
この闘技場は3年前に造られたものであり、数万人の観客が入れるようになっている。
闘技場に行くと、もうかなりの人が集まっていた。
出場選手は皆それぞれに修羅場をくぐった拳法家・武術家・冒険者が集まっているようである。
観客席はもう満員に近く熱気で満ちていた。
カサンドラ達がどこかで応援しているはずだが、この人数ではとても見つけられそうにない。
念話で連絡すれば見つけられるかなと思っていると、三馬鹿が雄介を見つけて話しかけてきた。
「僕達3人と同じ組み合わせになるとは運が悪かったな」
「おー、来たじゃんか。
オレら3人に恐れをなして来なかったらどうしようかと思ってたぜ」
「拙者たちのコンビネーションに隙はないでござるぞ」
雄介が軽くため息をつきながら答えた。
「おい、お前たち、何か仕組んだろ?」
三馬鹿に動揺が走った。
自分たちの完璧な計画が見抜かれるはずが、と思っていたのだ。
「な、何を証拠にそんなことを言うんだ。
証拠もなしに人を疑ったらいけないんだぞ」
「そうだそうだ、何の証拠があるんだ」
「せ、拙者たちは何もしてないでござるぞ」
「いや、目を逸らしてるし、どう見ても動揺してるぞ。
何というか……子供だな」
「うぅ……そ、そんなことはどうでも良い。
それより、お前は一体LVはいくつなんだ?」
「(あからさまに話題をそらしてるし)
教える義理も無いんだが、まあ良いか。
LVなら59だぞ」
「何? 59?
フッフッフ、勝ったな。
僕はLV82だぞ。どうだ、参ったか」
「なんだ、まだ50代か。
オレはLV78なんだぞ」
「拙者はLV80でござる。
これはもう勝負は見えたでござるな」
「へえ、3人とも80前後なのか。
それならSクラス上位って所かな。
小細工したようだから期待してなかったんだが、思ったよりまともな試合になるかもしれないな」
「ふん、強がっても無駄だぞ。
LV59なら精々AかSクラス下位のはずだからな」
「まあ、一般的にはそうだろうな。
お、そろそろ始まるぞ」
審判が現れ、試合開始の時刻となり、始まりを知らせる銅鑼が鳴った。
出場選手が手当たり次第にお互いに戦い始めた。
三馬鹿が雄介を囲もうとする。
素早く移動すれば容易く抜け出せるのだが、雄介は敢えて正面から受け止めることにした。
背後には元基が立ち、右前にアストル、左前にマルシオが位置した。
前の2人が牽制し、背後の1人が攻撃を担当していると雄介は予想する。
前方の2人がジリジリと近づくと、タイミングを合わせアストルが下段蹴り、マルシオが上段蹴りを放った。
仮にもSクラス、直撃すれば丸太をへし折る威力は持っている。
もし防御するか避けるかして体勢を崩せば、後ろの元基の攻撃が当たるはずだった。
アストルとマルシオの攻撃が当たると思った瞬間、雄介はジャンプすると後ろ回り宙返り飛びをして元基の両肩に手をついた。
そして元基の後ろに着地すると同時に彼をドンと押す。
雄介の動きが見えず、唖然としていた元基はフラフラと前に進み、アストルとマルシオの蹴りが直撃したのだった。
倒れた元基を見ながら、雄介は余裕綽々とした表情で言った。
「タイミングは悪くないけど、元基君は油断しすぎだよ。
何なら片手で相手しようか?」
「ふざけるなああああっ」
カッとなった元基は立ち上がるとパンチを連打した。
1秒間に5発もの速射砲のようなパンチが放たれる。
それを雄介は全て右手だけで受け止めていた。
その間にアストルとマルシオは雄介の後ろへと回り込もうとする。
元基の渾身の右ストレートが放たれると、雄介は半身になってストレートを躱し、アストルの方向へと突き飛ばす。
元基の渾身の一撃はアストルにぶつかると、そのまま2人揃って倒れこむのだった。
「相手が余裕で受けてるのに、大振りのストレートなんて駄目だよ。
小さく鋭く連打する方が良かったね」
「馬鹿な、LV59じゃないのかよ。
くそっこうなったらアレを使うぞ」
「アレは流石にまずいんじゃ」
「勝てば官軍でござるよ」
三馬鹿は審判が他の選手の方を向いているのを確認すると、懐から何やら握りこぶし程度の小袋を取り出す。
言うまでもなく、何が入っているにしても道具を使った時点で反則である。
「へっへっへ、これでお前も終わりだよ」
「そんな道具まで使って、馬鹿にも程があるだろうに」
「うるせえ」
実は小袋には呼吸によって効果を発揮する痺れ薬が入っているのだ。
三馬鹿は息を止めると、それを雄介に振りかけようとした。
雄介は痺れ薬だとは知らずとも、吸い込むと何かまずい物だとは推測できる。
呼吸を止め軽く本気になると、右手だけで正拳突き3発を放った。
コンクリートの壁を粉砕するほどの拳が、神速でもって突き出された。
三馬鹿は全く反応できずみぞおちに喰らうと、そのまま闘技場の外まで弾き飛ばされていった。
闘技場からリングアウトすれば負けのルールだ。
審判が三馬鹿の負けを判定するが、正拳突きを受けた時点でもはや意識はなかった。
3人ともSクラスであり、命に別状はない。
「何かの薬のようだが、少し吸収してしまったかもしれないな。
もっと試合を楽しみたかったが、仕方ない。急ぐか」
雄介の姿が消え、台風が吹き荒れているように選手が次々と吹き飛ばされていく。
常人の目には映らぬ速さで動きまわり、殴り回った。
パンチ1つで優に10m以上も人が飛んでいった。
闘技場は広いため、中心付近に居た者には投げ技を使った。
相手の右腕を引っ張って崩すと、右肩から相手の前に潜り込み、右手で相手の肩を掴むと一本背負いで勢い良く投げ飛ばした。
雄介の力なら20m以上も飛ぶのである。
ほんの数分の間に残った選手は半分以下になってしまった。
残った選手の1人が叫ぶ。
「ぜ、全員でアイツを狙うしかない。
周囲を取り囲んで襲うんだ」
バトルロイヤルでは強敵が集中攻撃されるのは当然のことだ。
雄介1人を残った42人が倒そうとする。
だが、基本的な戦闘力が違いすぎた。
10分と経たず、全員がリングアウト負けになるのだった。
途中、痺れ薬の効果で動きが鈍らなければ3分とかからなかっただろう。
この強烈な勝ちっぷりで観客は大いに盛り上がるのだった。
◇◇◆三馬鹿side◆◇◇
雄介にやられてダウンしている三馬鹿は同じ夢を見ていた。
白いローブを着た老人が出てきたのである。
今まで三馬鹿が見たことがないほど厳しい顔をしている。
「おぬしら、此度のこと全て見せてもらったぞ」
「ひいいっ、ど、どうかお許しを、神様」
「オレはマズイって言ったのに、他の2人が」
「拙者たちは一体どうなるのでござるか」
「まったく、プレイヤーになった時の初心を忘れ、勇者としてもてはやされるにつれ増長しおってからに。
狭間の世界を出入り禁止にしたときに言ったはずじゃ。
己の行動を顧みず、今後もはた迷惑なことを続けるようならペナルティを与えるとな」
三馬鹿も最初からこのような行動をしていたのではなく、初期はGWOに真面目に取り組んでいた。
だからこそ、LV80前後にまで成長することが出来たのだ。
だが、Sクラスと言われるほど強くなれば、たまに働くだけでお金の心配はいらず、毎日贅沢な物を食べ、女にはモテ、周囲にはもてはやされるようになっていた。
それが続くほどに身を持ち崩していったのだ。
「ペナルティを申し渡す。
所持勇者ポイントを3割減とし、3ヶ月間GWOへのログインは禁止じゃ。
また、その後も反省が見られぬようなら最悪プレイヤーの資格取消も覚悟せよ」
「「「うぎゃああああああ」」」
三馬鹿の悲鳴が響き渡るのだった。
次回の投稿は1週間後の30日の0時となります。
サブタイトルは「予選終了」です。




