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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第9章 ファシール共和国
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第56話 大会受付

○179日目


 秋生がおもむろに答えた。


「最後の1人は……強いっすよ。

昨年の大会の優勝者っす。

オレも戦ったんすけど、手も足も出なかった」


「へえ、秋生君が敵わないって相当だね」


 ラナが秋生のフォローとして口を挟んだ。


「プレイヤーとしての総合力なら秋生と互角だと思います。

魔物相手なら秋生の方が有利かもしれません。

でも、対人戦に徹底的に慣れている上に女の子なので、秋生じゃ本気で戦えなかったし」


「へ? 女の子なの?」


王小麗(ワン シャオリー)って言うんですよ。

確か中国人の19歳だったかな。

美人ですよ~。殴れませんよ、あんなの」


「なるほどね。

それなら負けたのも頷けるな。

どんな戦い方するの? その子」


「確か大林寺っていう中国拳法の道場の娘らしいっす。

まあ、寺でも有るんですが。

何というか、有段者というより、達人に近い感じっすね。

あれを目指して体術を鍛えたら1年で相当強くなりましたよ。

ちなみにフレンド登録はしてるんで、時々体術関係は教えて貰ってるんす」


「ああ、秋生君が古代竜(エンシェントドラゴン)と戦ってるときの体術に恐ろしく無駄がなかったのはそういう理由なんだ」


「ですねえ。

オレは大体3手先まで読みながら戦えるんすけど、小麗は先の動きを読むというより視えてるらしいっす」


「相手の動きの先が視えてるってこと?

画像的な未来予知に近い感じかな」


「らしいっすね。

だからもう徹底的に避けられまくりっすよ。

あ、雄介さんも小麗もどちらもフレンドなんで、小麗のことこれ以上は教えないですよ。

小麗は有名人なんで、今言ったことは調べたらすぐ分かる程度のことっすから」


「えこ贔屓はしないか。

俺のこともその程度ならその小麗って子に知らせて良いから。

ま、大会で戦うときは楽しく戦おう」


「それがいいっすねー。

あと有力者教えとくと、昨年準優勝のアルマメロス・ディルアールって言うのもかなりやるっすよ。

去年小麗に負けてめちゃめちゃ悔しがってましたからね。

あとキド・リューデイーンって奴も相当やりますね。

竜人族って知ってます?」


「竜人族?」


「この辺じゃ竜人族は居ないっすからね。

獣人族やエルフ族と同じような種族のことで、肉体的性能はピカ一っすね。

見た目はドラゴンと人間のハーフみたいな感じですよ」


「うおお、会ってみたいな。

どこに居るんだ?」


「キドは大陸を回って武者修行の旅をしてるって言ってたし、今はシャエリドに居るっすよ。

他の竜人族はどこに居るかオレも知らないっす」


「おお、そかそか。

ところで、幻獣はどうしてるの?

確かフェンリル狼とペガサスだっけ」


「今はハッセルト帝国で魔物狩りしてるっす。

Sクラス程度なら楽に勝てるんで」


「え? 幻獣だけでSクラスの魔物に勝てるの?」


「ええ、ペガサスが牽制してフェンリル狼が攻撃するのが基本パターンですけど。

雄介さんの幻獣はどれくらいの強さなんですか?

黒不死鳥王って言ってましたし、相当強いですよね」


「あ~、ずっとサポートに回って貰ってるから単独での強さってどれくらいなんだろうな。

確かAクラスの魔物なら焼き殺すのを見たことが有るんだが」


 そこへダークテンペストが口を挟んだ。

黒鷲が口をきいたのを見た店員は目を白黒させていたが、流石に答えるべきだと思ったらしい。


「うむ、余が単独で戦うところは雄介すら見たことがないはずだ。

今ならSクラス程度は楽勝だぞ。

SSクラス上位でもそうそう引けは取らん」


「へえ、そこまで成長してるとはな」


「ええ! 黒王ってそんなに強かったんですか。

ブルーダインはどうなの?」


 カサンドラが気になって蒼鷹に尋ねた。


「現時点での我の強さはSクラス上位だ」


「うーん、俺もカサンドラさんも飛翔魔法を覚えたから、黒王とブルーダインがそれほど戦えるなら戦術が変わってくるのにな。

どうして報告してくれなかったんだ?」


「余もブルーダインもまだまだ発展途上だからな。

魔界に居た頃の強さとは比べ物にならん。

それにパーティ全体を見てサポートに回った方が雄介達の成長は早いであろう」


「それはまあ、そうなんだが」


 幻獣の召喚はある種の生まれ変わりであるため、相当に弱体化し、プレイヤーの成長と共に強くなるのだ。

ただ召喚前の知識と技術は失われていないため、ある程度の強さは保持している。

ダークテンペストの魔界に居た頃の最盛期の強さなら、今の雄介を容易く倒せるほどである。

一般に魔界の生物とGWOの世界の魔物では、魔界の生物の方が強いのだ。



「しっかし、SSクラス上位の幻獣なんて居るんすね。

今まで何十体もの幻獣を見ましたけど、SSクラス上位は初めてっす」


「へえ、そうなんだ。

しかし、何十体もの幻獣を見たって秋生君は顔が広いな」


「ラナが旅行好きなんでね。

あちこち行ってるんすよ。

すると自然と出会うじゃないすか」


「え? 私のためなの?」


 ラナは下半身不随だったため、旅行にはほとんど行けなかった。

だからこそ、治った今はあちこちへ連れて行ってやりたいと秋生は思っているのだ。

ラナに対してぶっきらぼうな扱いが多い秋生だが、本音を言えば大事に思っているのだった。

2人はお互いにもう少し積極的だったら付き合い出すのだろうが、恋愛に関しては奥手で鈍いのだった。


 雄介達と秋生達はそれからもファシール共和国のことや周辺国家のことなどを情報交換し、食後に分かれた。



 秋生達と会った翌日、雄介達は天頂武練大会の受付に向かった。

会場は直径100mほどの円柱形の建物であり、その入口横に選手受付があった。

そこには受付嬢だけでなく、赤毛の女性と金髪の男性が立っていた。


「あのー、すみません。

選手受付をしたいのですが、大会のルールなどを教えて貰えませんか?」


「ええ、どうぞ。

そこの席にお座りください」


「貴方も出場するの?

あたしも出るから、ぶつかったらよろしくね」


 赤毛の女性が話しかけてきた。

彼女は目がパッチリとした10代後半の美人で、人目を引く紅色の髪は背中まで長く伸びていた。

旅人の様子だったが、動きやすく仕立ての良いかなり高級そうな服装であった。

砕けた口調だったが、振る舞いに育ちのよさが伺える。

雄介はどこかの貴族の娘だろうかと感じた。


 金髪の男性は20代後半で背が高く、190cmほども有りそうだった。

鍛えられた体格をしており、美しく装飾された全身鎧を着込んでいる。

大剣を背負っており、かなりの強者であることが伺えた。

赤毛の女性に対して、どこかへりくだった態度をしていた。

雄介はおそらくは騎士で、女性の護衛のようだと思った。


「ああ、その予定だ。

しかし、後ろの騎士ではなく君が出るのかい?」


 雄介はわざとタメ口で答えた。

金髪男が眉をしかめるが、放置しておいた。

年下だったのもあるが、この女性にはくだけた口調が良いという雄介の勘である。

赤毛の女性は軽く驚いた顔をすると、にっこりと笑った。

それは向日葵を思わせる笑顔だった。


「あら? 騎士だって分かったの?

彼はリウル、あたしはライムね。

出場するのはあたしよ」


「俺は滝城雄介だ。

よろしくな」


「タキシロ・ユウスケね。

どこかで聞いたような……」


「雄介様、そろそろ受付をされた方が」


 ロベリアが会話を止める。

でないと、後ろの騎士が動き出しそうだったのだ。

きっとライムに近寄る悪い虫を排除する任務があるに違いない。


「ああ、そうだな。

お待たせしてすみません」


 雄介達もライム達も受付前の椅子に座った。



 天頂武練大会のルールは以下のようなものだった。

不正行為が見つかると当然ながら失格。

武器・防具の使用は認められず、布製の衣服・靴・グローブのみ着用が許される。(素手も可)

魔法の使用は禁止。

闘技場は一辺が50mほどの正方形をしており、それを円形の客席が取り囲んでいる。

相手を降参・気絶・テンカウントダウン・闘技場から押し出すと勝利であり、死亡させると反則負けになる。

試合時間は予選は3時間、本戦は1時間で、その時間で決着が付かなければ審判が判定する。

予選は32チームに分かれて、各チームごとに参加選手が一堂に会して戦うことになる。

各チームごとに勝ち残った1名が本戦に出場できる。

予選のチームはくじびきで分けられるが、誰と戦うかは当日まで公開されない。

過去の大会の上位入賞者は予選でぶつからないようチーム分けを調整される。

本戦は32名による1対1のトーナメント式である。

ベスト16以上には賞金が与えられる。


 その他に分かったことは

昨年の参加者数は3051名で、今年も同じくらいか少し増えそう。

5日後に予選が開始される。

本戦はその翌日から開始で、同じ日に2戦することはない。

試合ごとに賭けが行われ、その利益によって大会は運営されている。



 説明が終わると、雄介がパーティメンバーに話しかけた。


「なあ、せっかくの機会だから、誰か出場してみないか?」


 すると、リセナスとクラノスが手を上げた。


「わしも出場します」


「僕も出たいですね」


 流石にカサンドラ・トゥリア・ロベリアは出ないということだった。

カサンドラとロベリアは魔術師タイプだし、トゥリアの剣の腕は王国で有数の使い手だが、素手ではめっきりと弱くなってしまうためだ。

そこへダークテンペストが黒鷲から人型へと変わって言った。

服装は収納魔法がかけられた指輪により、人型に変わった瞬間に着替えている。


「余も出場するぞ。

余の強さ、見せてやろうではないか」


 受付嬢もライム達もその変身を見て、目を丸くしていた。

ブルーダインは人型には変身出来ないため、出場したいが断念した。

雄介はため息をつきつつ念話で話しかけた。


「(おいおい、人前で変身するなよ)」


「(まあ、良いではないか。

黒不死鳥王の姿は見せておらんのだからな)」


「(そりゃそうだがなあ)」



「あのー、こっちからはこの4人が出場します」


「わ、分かりました。

出場は人の姿でお願いしますね。

鳥の出場規定はないので、困りますから」


「適応力ありますね。

じゃあ、登録お願いします」


「あはは、変わった選手は多いですから」


 そこへしばらく考え込んでいたライムが叫び声を上げた。


「あー! 思い出したわ! 滝城雄介!

貴方の噂は聞いてるわよ。

スラティナ王国唯一のSSクラス冒険者にして伯爵ね。

よく見れば、その武装のレベルは破格の物よね。

鳥が人間に変身するなんて初めて見たわ」


 後ろの騎士はそれを聞いて驚愕している。

雄介達は外国で知っている人が居ることに驚いていた。


「外国でも知ってる人って居るんだなあ。

それで合ってるよ」


「そういうことなら、正式に挨拶するわね。

あたしはライム・メートディア・エルフェフィン。

メートディア公国の公女よ」


 メートディア公国はファシール共和国の西隣の国である。

この出会いが雄介達をやがて1国を揺るがす大陰謀へと巻き込んでいくことになろうとは、知る由もなかった。



次回の投稿は数日後の0時となります。

サブタイトルは「予選開始」です。

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