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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第8章 スラティナ王国
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第52話 王位簒奪 (1)

大変遅くなりました。

申し訳ありません。

○160日目


 エイラスを次期国王に就けることを決意した雄介の行動は迅速だった。

スラティナ王国では、前国王の意見が述べられた後全貴族による投票が行われ、過半数の支持を得た王子が次期王位継承者に定められる。

過半数の支持を得た者が無ければ、支持が少なかった候補者を半分に減らして再度投票となる。

貴族達はいくつかの派閥に分かれているため、結局大きな派閥の支持を受けた王子が次期国王となるのである。


 次期国王を狙うなら普通は貴族の派閥の中心人物に働きかけるだろう。

だが、雄介はまず国内の有力な商人とコンタクトを取ったのである。

エイラスは王族であり、雄介は勇者にして伯爵であり、社会的信用と権力を持っている。

カサンドラは記憶力増強薬の効果で、読書などにより地球の知識を容易く習得できる。

美鈴は慧眼の瞳により一切の嘘を見抜く。

これで商人相手に契約を結べないはずがなかった。


 ごく短期間に雄介達は巨大なビジネスネットワークを構築したのである。

その結果、雄介に友好的な貴族は領地の経営が上手く行くよう種々の便宜がはからわれるようになった。

逆に敵対的な貴族は経済的な不利益を多数被るようになったのである。


 そこまで状況が進んでから貴族の派閥の中心人物相手に交渉を開始した。

また、出産を中心に医療知識の徹底・上下水道を設置し衛生環境の向上・孤児院の設立・衛兵の増加による治安の向上・冒険者への支援策による魔物の被害の減少などに着手したのだった。

そのための資金は、商人との契約によって得られた収益が使用された。

これらが実行されれば多くの人の命が助かり、勇者ポイントの獲得が期待できるだろう。

しかしそれらは非常に急進的な行動であり、当然ながらそれらに反対する勢力もあった。



◇◇◆大貴族side◆◇◇


 王都の一角に贅を尽くした大邸宅があり、そこに置かれた調度品の1つでも庶民の年収を軽く超えていた。 

その大邸宅の一室にタンボフ亡き後、雄介に反対する勢力の中でも中心となる大貴族達が集まり、会合を重ねていた。

ほんの10人ほどの会合だが、議論は紛糾しその熱気は大変なものだった。


「このままでは大変なことになるぞ!」


「そうだ!

貴族派の権力が削られていくばかりだ。

それというのもあの勇者達のせいだ」


「まったく忌々しい奴らだ」


「しかし、平民たちの勇者への期待は大きいぞ。

そもそも数十年ぶりの平民出の貴族というだけでも人気が出るのに、ましてや伝説の勇者などとは」


「あの男の屋敷を訪れて要望を述べる者が後を絶たんそうだ。

まったく人気取りをどれだけするつもりだ」


「まったく新入りの貴族だというのに生意気だとは思わんか。

我々に断りもなしに好き放題にやっているぞ」


「王都に上下水道を設置して衛生的な環境を造るなどと提案していたそうじゃないか。

なぜ平民の生活などのために税金を使わねばならんのだ」


「だが、一体どうすれば良い?

69人の殺し屋でも殺せなかった以上、力づくでは難しいぞ」


「国王陛下の協力を得るのはどうだ?

タンボフ殿を殺したという噂を国王陛下に伝えれば、我らに力を貸して下さるはずだ」


「だが、あの国王陛下は無気力・無知・無能力の塊だぞ。

正直なところ、協力が有っても役立たずなのではないか。

いっそのこと、我らに協力的な王子を王位につけるべきだろう」


「おお、それが良い。

第一王子は単純で操りやすいし、政治のやる気など欠片も無いからな。

贈り物をすれば素直に従ってくれるからな」


「勇者は最近エイラス王子と親しくしているようだ。

あんな奇人王子を担ぎ上げるとはどういうつもりだ」


「あの王子は庶民派と言われ、貴族優遇政策には反対することが多いからな。

そこが気に入ったんじゃないのか」


「そんな王子に決まったら益々やりにくくなるじゃないか」


「勇者と関わりのある貴族はエイラス王子を支持する者が増えてきているようだぞ」


「それは清廉派などと呼ばれていい気になってる連中か。

そいつらは2割とはいえ、無視はできんぞ。

タンボフ殿さえ居てくれればこんなことにはならなかったのに」


「エイラス王子には消えて貰うしかあるまい。

皆がこの通り不承知なのだからな」


「しかし、どうやってだ?」


「なあに、方法は色々あるさ」


 トスカニーニ侯爵は悪辣な笑顔を浮かべた。



◇◇◆雄介side◆◇◇


 そんな貴族達の密会から数日後、雄介達は屋敷で話し合っていた。

美鈴が用件があると言って集めたのだ。


「大事な話があるの。

空幻からの情報だけど、どうもきな臭い動きをしてる貴族が居るみたい。

今それが誰か特定するために調べさせてるわ。

まったく、貴族意識に凝り固まってる人ってどうしたら良いのかしら」


「イギリスには今も貴族が居ますけどあんな人達とは違いますよ。

数百年の歴史的成熟を経て、現在の形になっています。

この国の段階で貴族と平民の融和なんてどれだけ大変なことか、ちょっと想像もつかないですよ」


「それでもエイラス王子の支持者は順調に増えてるよ。

まあ、まだ2割くらいだけどね」


「やっと2割なのね。

過半数にはまだほど遠いわね。

勇者ポイントはどうなの?

あの元宰相の件でいくらのポイントが得られたの?」


「手下たちを倒した分を含めて514ポイントだね。

まだまだ先は長いなあ」


 雄介は軽くため息をついた。

政治に関すること以外に時々魔物狩りはしているが、勇者ポイントは明らかペースダウンしているためだ。


「政治を変えて大量ポイントというのは大分時間かかりそうね。

エイラス王子が次期国王に決まったらこっちは私達に任せて、兄さんは外国に行った方が良いと思うわ。

この国の主だった魔物は見付かる範囲では倒してしまったみたいだし」


「ああ、そうだな。

南のファシール共和国で武術大会があるから、時間の都合が付いたら参加したいんだ」


「ファシールの武術大会は武器無し魔法無しでしたね。

純粋に力と技を競う大会だそうで、楽しみです」


「武器や魔法の使用を許可すると簡単に死人が出てしまうからね。

総合格闘技みたいな感じなのかな」


「ところでカサンドラさん、新魔法の開発はどうなってるの?」


「クリエイトハウスという大地属性魔法がほぼ完成に近いです。

今はまだ簡単な家を一軒ずつしか造れませんけど、もう少し応用できそうですよ」


「それが完成したら、ジェバラナの人々を俺たちの領地へ引越しさせる計画が進められるね。

候補地の選定はもう終わったよ」


「やっぱりアスタナ共和国は危険ですからね。

ゴーレムに常時警備させているとはいえ、何が起きるか分からない所ですから」


「アラドの町の人たちの意見は空幻が報告書に纏めておいたけど、概ね好意的に受け取られているわ。

どんな姿にも化けられるのは情報収集には便利すぎね」


「ああ、本音の意見を集めるのは本来なかなか大変な仕事だからな。

そうそう、俺のほうも新魔法の開発に成功したよ」


「確か人を傷つけずに無力化させる魔法って言ってたわね。

眠らせるとかそういうの?」


「いや、そんなのじゃなくてな……」


 そのとき突然、通信用の魔法具に連絡が入った。

アルジェからである。

アルジェはエイラス王子と徐々に親しくなっており、今日はデートに出かけているはずだった。


「どうしたの? アルジェさん」


「たす……けて。

王子が血を吐いて……」


 雄介達の顔色が一変した。

すぐさま雄介が指示を出す。


「俺がアルジェさんの所に行く。

カサンドラさんはロベリアを連れてきてくれ。

美鈴は待機だ」


「分かりました」


「分かったわ」


 雄介は窓を開けるとすぐさま飛び出した。

韋駄天を使い、秒速100mを超える速度で風よりも早く移動する。

家族に渡している通信用の魔法具には相手の方角と距離が発信する機能を持たせているのだ。

ただし、行ったことがある場所ではないためテレポートでは移動できなかった。


 アルジェとエイラス王子は王都のあるレストランで倒れていた。

支配人と従業員が看病し、医者を呼んでいたが、刻一刻と死が迫っていた。

レストランの食事に毒が仕込まれていたのだ。

遅効性であるため、2人共が食べてしまっていた。

食べて10分ほどで血を吐いて倒れ、その約5分後に死に至る毒薬である。

連絡があって数十秒後に雄介は2人の元に到着した。

アルジェとエイラス王子が土気色の顔で倒れていた。


「おい! 大丈夫か? しっかりしろ」


「ゆ……すけさん。

食べていたら……急に」


 アルジェはかろうじて意識が残っていた。

雄介はすぐさまクロックダウンを発動させる。

時間の流れを遅くする魔法であり、これで2人の死まで10分ほどの時間を稼げるようになった。

そして数分後、カサンドラがロベリアを連れて飛び込んできた。

ロベリアは2人の様子を確認するとすぐにキュアを使った。

毒・麻痺・混乱などの状態異常全般を回復させるかなり上級の魔法であり、これはカサンドラは使えないのである。

碧色の光が辺りに降り注ぎ、アルジェとエイラス王子の顔色が血の気の通った色に変わったのだった。

解毒に成功したことが分かると、ホーリーヒールをかけて削られたHPを回復させた。


「ふう、何とか間にあったな。

青酸カリみたいな毒薬なら間にあわなかっただろう。

カサンドラさん、2人を屋敷まで運んで休ませて。

再度狙われる可能性があるから気を付けてくれ。

ロベリアは念のため2人についててくれよ」


 雄介は落ち着いた口調だが、その表情にはありありと怒りが浮かんでいた。


「(美鈴、2人はもう大丈夫だ。

原因を調べるため、空幻を寄越してくれ)」


「(はあ、良かったぁ。

10分ほどで到着すると思うわ)」


 美鈴も気が気じゃなかったらしく、心底心配していたのが念話から伝わってきた。

そして雄介は厳しい表情でレストランの支配人に詰め寄った。


「さて支配人、何が有ったのか教えてくれ?

事細かに正確に話してくれ。

これは王族殺害未遂事件だぞ」


「ひっ! 王族だったのですか。

わ、分かりました。何でも話しますから」


 第8王子の顔は知られていないため、支配人は倒れた男が王子であることは知らなかったのだ。

支配人が話した内容をまとめると以下のようなものだった。

エイラス王子はこの店が気に入っていたらしく、今まで何度か足を運んでいた。

アルジェと2人で来たのは初めてだった。

今日の店員は数年以上働いている人ばかりだが、あるウェイトレスの様子が数日前から何か悩みをかかえてるようだった。

だが、悩みの内容は聞いてもどうしても教えてくれなかった。

2人が倒れたとたん、その子が医者を連れてくると言って店を出てまだ戻ってきていない。

まさか毒薬による殺害など瞬時に思いつかなかったため、その子が飛び出すのを止められなかった。

支配人から見てその子の性格は弟思いの優しい子なのだが、短慮なところがあるということだった。

その子の名前はカナット・マスカーニと言った。


 他の店員にも話を聞いたところ、2人に食事を運んだのはそのウェイトレスの女の子であることが分かった。

話している途中で美鈴と空幻が到着し、魅了を使って確認を取ったところ、支配人と店員に証言に嘘はなく、毒薬の混入もしていなかった。

どう考えてもそのウェイトレスの女の子が怪しいということで、その子を探すことにしたのだった。



「う~ん、困ったな。

どこに逃げたかが問題だ」


「そのウェイトレスの子の似顔絵は私が描くから」


「絵に関しては俺より美鈴の方が上手かったな。

似顔絵が出来れば、黒王・ブルーダイン・空幻が協力して探せるはずだ。

とはいえ、王都中から探すというのは時間がかかりすぎる。

今回の標的はエイラス王子で、アルジェさんは巻き添えのはずだ。

それなら、可能性の高い相手はある程度は絞れる。

居場所も絞られてくるはずだ。

犯人は絶対に見つけ出すぞ」


「うん、勿論!」



 支配人と店員の証言を元に美鈴が似顔絵を描き、ある程度回復したエイラス王子が可能性の高い相手のリストを書き上げた。

そして黒王・ブルーダイン・空幻が王都中を探し回った。

ちなみに美鈴の似顔絵は少々マンガチックだったが、特徴をよく捉えていて分かりやすいと支配人と店員からは太鼓判を押されていた。



◇◇◆カナットside◆◇◇


 とある屋敷の地下牢にカナットとその弟ジョルジュは拘束されていた。


「まったく、計画がこれほど崩れるとはな。

毒殺に失敗するだけならともかく、この女を口封じする前にあの勇者がやってくるとは予想外にもほどがあるぞ。

お陰で安全に口封じできる場所に連れて来る必要ができちまった。

まあ良い。この地下牢のことを知ってる奴はほとんど居ないからな」


「やっぱり口封じなんですか。

お願いです。

どうか弟だけでも助けて下さい」


 カナットは涙ながらに土下座をして頼み込んだ。


「お姉ちゃん、何を言ってるんだよ!」


「エイラス王子の殺害に失敗したじゃないか。

成功したら弟だけは助けてやるって話だっただろう?

まあ、成功しても助けるつもりなんかなかったけどな。

今晩2人仲良く死なせてやるよ」


「鬼! 悪魔!」


「貴様、平民の分際で何を言いやがる。

貴族様のお役に立って死ねることを感謝するんだな。

いや、言い付けられた命令すらこなせないんじゃ、まったくの役立たずかね」



次回の投稿は数日後の0時となります。

サブタイトルは「王位簒奪 (2)」です。

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