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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第8章 スラティナ王国
58/67

第51話 王国の変化 (3)

済みません。

遅くなりました。

○129日目


◇◇◆貴族side◆◇◇


 別荘が焼け元宰相とその取り巻きだった元大臣達が死んだという知らせは、燎原の火の如く王国中の貴族と王都の住民たちに広まった。

十数日前まで国のトップだった男たちの死は貴族たちには衝撃を与え、住民たちは祝杯を上げた。

その日の晩はあらゆる酒場が満員になるほどだったらしい。

どれほど王都でタンボフが嫌われているかよく分かる一事である。


 貴族たちがタンボフが死んだ原因を調べると、生き残った使用人と護衛の一部の証言は以下のようなものだった。


「タンボフ様は使用人や護衛に対しても情け容赦がない方だったため、不満を持つ者が多く有りました。

あの晩、タンボフ様に特に冷遇されていた護衛たちが反乱を起こしました。

使用人は戦力にならないので、すぐに逃げ出しました。

反乱した者たちとタンボフ様に従う護衛が戦い、士気が低かったタンボフ様に従う護衛は多くが亡くなりました。

しかし、反乱を起こした者もそのほとんどが死亡しました。

生き残った反乱した者が致命傷を負いながらもタンボフ様達を殺すと、別荘に火を放ちました。

タンボフ様に従う護衛の内14人がかろうじて火の点いた別荘から逃げ延びました」


 科学鑑定のような物はないが、嘘判定をする魔法はあり、証言すべてが上記の内容で嘘をついていないと判定されたため犯人は死亡で決着した。

しかし、情報通の貴族の中には、雄介達が何らかの形で関わっているのではないかと考える者が居た。

69人もの雄介達を襲った殺し屋達が衛兵に突き出されたため、多くの貴族がその事件があった事を知っていた。

69人もの凄腕の殺し屋を雇える者はかなりの富豪に違いなく、この国で最も裏金を溜め込んでいるのが元宰相であることは公然の秘密だ。

ならば、雄介達を殺そうとしたのは元宰相ではないだろうか、そしてその報復によりタンボフは死んだのではないかと推測したのである。

勿論、そのことを示す証拠はどこにもなかったが、生き残りの証言を無視すれば有り得ない話ではなかった。

この推測は噂として貴族たちのあいだに広まっていき、ある者は雄介に対して畏怖の思いを抱き、またある者は雄介を危険視するようになった。

いずれにせよ、平民上がりの新貴族である雄介に対して表立って軽んじる者は大きく減ることになった。

そして敵対視する貴族は隠れて対策を練るようになったのである。



◇◇◆雄介side◆◇◇


 一方、タンボフが死んだ翌日には雄介たちは今後の対応について話し合っていた。

戦いが始まってしまった以上、何らか形で決着がつくまでは気を抜くことは許されないのだ。


「まずしばらくの間は表立って動くのは辞めた方が良いね。

タンボフが死んだ真相に気がつく者が居るかもしれないし、少なくとも警戒してる貴族が多いのは間違いないし」


「それなら空幻に情報収集をさせておくわね。

空幻なら誰にも見つからないから。

何の情報が必要なの?」


「事件の真相に気付いた者が居ないかどうか。

タンボフが死んだことがどのように貴族社会に影響を与えたか調べること。

国王に対して取り入ろうとする貴族は必ず出てくるだろう。

そしてタンボフという重しが消えた以上、国王を廃位させて王子を担ぎ上げての権力争いが巻き起こる可能性が高い」


「権力争いは起きそうね」


「あの国王って政治をしないでひたすら後宮に通ってるから子沢山だったよね。

何人居たっけ?」


「23人ですよ。

男子14人、女子9人です。

男子と言っても1番上は35歳ですが」


「この国の歴史では基本的に年長者の男子が国王を継ぐことが多いけど、中には例外があるんだよね。

そして、皇太子はまだ決まっていないんだ」


「王子がどんな人かも空幻に調査させるから。

調査結果は報告書に纏めさせるので」


「口頭で良いんじゃないですか。

私、全部覚えられますよ」


「そうだな。口頭にしてくれ」


「ラジャー」



 それから7日後、再び会議は開かれた。


「空幻から報告は聞いたけど、よくあれだけ1週間で調べられたね。

全王子の容姿・性格・嗜好・価値観・人間関係・特技・etcetc(などなど)大したものだよ」


「雄介さんが伯爵になったから、王子への謁見を申し込むことはできますね」


「国王は元から腑抜けた感じだったけど、タンボフが死んでからめっきり老け込んだそうよ。

そのせいで、廃位させようという動きが出てきてるわね。

まだ計画段階だけど、空幻からの情報だから確かね」


「やれやれ、まだ大人しくしてるつもりだったけど、そろそろ動かないと後手に回りそうだな。

すべての王子に会ってみようと思うんだ。

次の国王に相応しいのは誰か、空幻の報告だけで決めるのはあんまりだからね」


「私も行きますからね」


「私は高校があるから、時間の都合が付いたらね。

でも空幻が居るから大丈夫でしょう」



 雄介達は王子と会ってはスラティナ王国の進むべき未来について話し合った。

雄介達3人の意見では、長期的な展望として民主的な立憲君主国を目指すことで一致している。

だが、この国の文化水準では民主主義という考え方自体がまだ無かったのだ。

王権主義か貴族中心主義が当然だと思われており、清廉派と言われる者でも民衆への配慮やノブレス・オブリージュを果たすことを重視しているだけで民主主義には程遠かった。

そして7日が過ぎ5人の王子と話し合ったのだが、志を同じく出来そうな人は居なかった。その日の晩、雄介は2人を集めて言った。


「ちょっと予想外の出来事が起きたんだ」


「兄さん、何があったの?」


「招待状が届いた。

家に招待したいってさ。

相手は第8王子のエイラス・スラティナ・ドミトロフスクだよ」


「第8王子といえば、兄さんと同じ22歳ね。

金髪で灰色の目をしたちょっとイケメンって空幻ってば何言ってるんだか。

頭は良いが、非常識な行動が多く奇人王子と言われる、だっけ」


「向こうから会いたいってことは何か用事があるんでしょうね。

何でしょうか?」


「いくつか候補はあるんだが、奇人王子だから絞り込めないな。

王子の私邸だし、危険はないだろ。

今回、空幻なしの3人で行くぞ」


「空幻はお留守番か。

ま、たまにはそれも良いわね」



 それから3日後、エイラス王子の招待の日となった。

王都の一角に赤い屋根の個性的な屋敷が有り、そこが第8王子の私邸だった。

美鈴達は失礼にならない程度に着飾っていたが、雄介は貴族服の中でも動きやすい物を着込んでいた。

門の前には珍しいことに全身鎧で顔までも隠れる物を着込んだ男が立っていた。

一般に門番は長時間勤務になるため、ここまでの重装備はしていないものである。

雄介がその男に話しかけてみた。


「あのーちょっと済みません。

こちらがエイラス王子殿下のお屋敷でしょうか?」


「はい、その通りです。

何か御用でしょうか?」


「伯爵の滝城雄介です。

エイラス王子殿下に招待されたので、参上しました」


「招待ですか? おかしいですね。

本日来客があるとは聞いていないのですが」


「は? いや、ここに招待状が有るのですが」


「分かりました。

中を確認したいのですが、見せてもらえますか?」


「ええ、どうぞ」


「うーむ、殿下の印章が押してありますね。

何か連絡に間違いがあったのでしょう。

確認して参りますので、しらばくここでお待ち下さい」


 そう言って男は招待状を持ったまま屋敷へと入っていってしまった。

そして10分経っても男は戻ってこず、15分ほど過ぎた頃、女中が出てきて声をかけたのだった。


「あのう、門の前でずっと立っておられますが、どうされましたか?」


「……どうされましたかって、こっちが聞きたいんだけどな。

エイラス王子殿下との面会の約束がありまして、全身鎧を来た門番が招待状を持っていったのですが」


「は? 全身鎧を来た門番などこの屋敷にはございませんが」


「居ないってさっきまで……。

伯爵の滝城雄介です。

エイラス王子殿下との面会の約束があるのですが、確認して頂けますか?」


「殿下に本日、来客の予定とは聞いておりません。

何かの間違いではありませんでしょうか?」


 その発言を聞くと美鈴は腹にすえかねて割って入った。


「何ですって!

そっちから招待状を出しておいて失礼にも程があるでしょう」


「招待状ですか?

招待状がお有りなら見せて頂けませんか?」


「それはさっきの門番が……」


 雄介が呆れた口調で断りの言葉を述べた。


「はあ、それなら良いです。

失礼します」


「兄さん、それで良いはずないでしょ。

明らかにからかわれてるわよ」


「良いから、帰るぞ。

(美鈴、今日の発言に嘘は有ったか?)」


「(それは当然……あれ? 慧眼の瞳に嘘の反応はなかったわ)」


「(そうか、それさえ分かれば十分だ)」



 そうして雄介たちが帰る途中、どう見てもホームレスの汚い格好をした男が話しかけてきた。

歩く姿はホームレス歴10年といった雰囲気を持っていた。


「よお、綺麗どころを連れた兄ちゃん。

良かったらオレに何か恵んでくれねえか?」


 雄介はじっとその男を眺めると、突然笑い出してしまった。


「ぷっ随分と上手く化けましたね。

さっきの門番とはまるで別人ですよ、殿下」


 その言葉を聞いたとたん、その男はすっと背筋が伸びホームレスらしい雰囲気が消えてしまった。

美鈴とカサンドラは目を白黒させている。


「声もちゃんと変えたはずなんだが、一目で見抜かれるとはなあ」


「全身鎧を来ててもある程度体格は分かりますから。

(それに嘘がないなら『確認して参ります』も本当のはずだし)」


「え? え? ええー!

この人がエイラス王子!?」


「奇人王子とは聞いていましたが、ここまでとは。

今日やったことはいたずらとして相手を怒らせる可能性が高かったんじゃないですか?」


「怒らせるかもしれないが、本気で嫌われるとは思わねえよ。

この勇者の兄ちゃんがそこまで狭量なはずねえし。

しかし、洒落が分かるやつで良かったぜ」


「兄さん、この人一体何がしたかったの?」


「一言で言えば、強烈な自己紹介だろうな。

門番に化けて人をからかって、機嫌を悪くした所でホームレスとして話しかけて、ほどほどの所で正体を明かすつもりだったんだろう。

感情的になると本音が分かるから、反応が見たかったってことだろうね」


「ああ、乞食として話す間にいつ気がつくか観察するつもりだったんだが、まさか最初の一言とはね。

短時間で本音を聞くには怒らせるか信頼を得るしかないからな。

ちなみに女中は何も知らないぜ。

杓子定規で余計なことは何も言わない奴だからこういうとき使えるんだ」


「さて殿下、先ほど何か恵んでほしいと言われましたが、ご飯を奢りましょう。

俺の家に来られませんか?」


「おお、そりゃあありがてえな。

それからオレのことはエイラスと呼んでくれ」


「呼び捨てか。

俺は雄介で良いぞ」



 雄介がタメ口で話し始め、そのままお喋りしている内に4人は雄介の屋敷に着いた。

エイラスはホームレスの格好のままである。

ティアナ達は少し驚いた様子だったが、嫌な顔一つしないでエイラスを迎えた。


「風呂の用意をさせたからすぐに入ってきたら良いぞ。

服は俺のを貸そう」


「ありがたい。

流石にこの格好で食事はどうかと思ってたんだ」



 エイラスが風呂から上がると、食事の準備ができていた。

そしてティアナとアルジェの作った素朴ながらも温かい食事をしながら、スラティナ王国が抱える問題点とその対応策、未来目指す国の姿について話し合った。

雄介とエイラスの会話にティアナとアルジェは口を挟まないようにしていたが、身振り手振りで表しながら切れば血が出るような具体性に富んだ政治の話は興味を惹かれる様子だった。


 エイラスは関心があることなら足を使って調べるタイプだった。

例えば税金で行われる土木工事を調べる時には実際に現場に行き、平民である土木作業員に親しく話しかけてその工事の妥当性・必要性・問題点を調べあげてしまうのである。

そんな生活を今まで何年も続けていたことが話の内容から伺えた。


 そんな会話が一段落した頃、雄介は雰囲気を変え真剣な目でエイラス王子を見つめながら言った。


「エイラス、この国が欲しいとは思わないか?」


「ああ、欲しいぜ。このくそったれな国がほしい。

うちのクソ親父がボロボロにしちまった国だが、兄弟の中でもオレ以外建て直せる奴はいないと思ってる。

兄弟は話を聞いただけ、文を読んだだけで分かったつもりになっちまう。

実際に現場を見なけりゃ、その場所に居る人達の心は分からねえんだ。

特に平民の心は、王族も貴族もわかってねえ。

俺の母親が平民出だからひでえ目に遭ってんだ。

平民は人間じゃねえなんて言う貴族が居る始末だ。

オレはそれを何とかしたい。

雄介、頼む、俺に協力してほしい」


 エイラスは雄介に深く頭を下げた。

本来王族が深く頭を下げるのは禁忌と言っていい。

王族はその権威によって立つものであり、その権威を崩すことに繋がるからだ。

エイラスは1人の人間として雄介に頭を下げたのである。


「分かった。

全面的に協力しよう」



 その後は酒盛りになった。

無礼講としてティアナとアルジェも気軽にエイラスに話しかけていた。


「ところで雄介、おまえ随分と美人を連れてるじゃないか。

噂以上だな」


「ん? そうか?」


「そうかじゃないぞ。

はあ、1人くらいオレに分けてほしいくらいだ」


「バカ言え。

好きな女は自分の手で幸せにするさ。

そういえばアルジェさん、王都に引っ越してから結構たつけど、いい人は見つかった?」


「わ、私ですか?

そ、そんな、いい人なんて」


「んー何だかさっきからエイラスを見る視線に熱を感じるんだけど、気のせい?」


「き、気のせいです。気のせいに決まっています」


「エイラス、気のせいだそうだ」


「雄介、確認するがアルジェさんと付き合ってる訳じゃないのだな?」


「ああ、違う違う。

妹のティアナと付き合ってるんだ。

アルジェさんの好みは金髪のイケメンだから、俺は好みじゃないらしい」


「雄介さん、なんてこと言うんですか!」


「いや、しかしだな。

実はオレ、女との交際が長続きしたことがないんだ。

オレの行動を知ると大抵の女は去っていくし、王子の肩書きに惹かれてくる女も居るんだが、そういう女だって分かったらオレの方から距離を取るしな」


「非常識な行動は俺を知ってるからアルジェさんは強いぞ。

アルジェさんは肩書きで男を選ぶほどアホじゃないしな」


「そうかあ。

雄介、また今度来るぞ。

アルジェさん、またお邪魔したとき、ご飯お願いしますね」


「あ、はい。

こんなご飯で良かったら、いつでもどうぞ」


 アルジェは薄く頬を染めていた。



次回の投稿は数日後となります。

サブタイトルは「王位簒奪 (1)」です。

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