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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第8章 スラティナ王国
57/67

第50話 王国の変化 (2)

風邪が大体治ったので更新しました。

なので、いつもより少し短いです。

修正終了しました。

○120日目


 元宰相のタンボフ・ビンスク・マンハイムは取り巻き連中の前で怒鳴り声を上げた。


「くそったれ! 100人も殺し屋が居てたった3人の冒険者を殺せないとは情けないやつらだ。

あの金髪の女と黒髪の少女は嬲り殺しにしてやるつもりだったのに。

役立たずどもめ」


「しかし、暗殺に失敗した以上、あいつらが復讐に来ないでしょうか?」


「心配いらん。

殺し屋に依頼する時、間に何人も挟んでワシらまで辿れんようにしておる。

第一、平民風情が貴族様を害するなど有ってはならんのだ」


「私たちまで辿れなくても、状況を見れば誰が命じたかは分かるでしょう。

念のため、護衛の者を増やしておくべきです」


「ふむ、それはそうかもしれんな。

全員がバラバラの屋敷では護衛の者も分散して手薄になる。

一旦ワシの別荘に全員でほとぼりが冷めるまで居ることにしよう。

全員の護衛をそこに集め、新たに雇う者も含めれば数百人にはなるだろう。

それだけ居れば、大丈夫だ」



 その頃、雄介邸では美鈴が烈火の如く怒っていた。

いや、雄介とカサンドラも青筋を立てていた。


「兄さんを狙うなんて、ぜ~~ったいに許せないわ!」


「俺としても、美鈴やカサンドラさんを狙ったのは許してはおけん!

空幻の魅了で吐かせても誰がやらせたか分からなかったが、どう考えてもタンボフの命令だろうな。

犯罪が告発されて少しは大人しくなるかと思ったら、アホすぎる行動だな」


「怒りに任せて行動したんでしょうね。

少なくとも雄介さんに30人程度の殺し屋が通用するはずがないのは考えれば分かることなのに。

あの女の敵は生かしてはおけません」


「そうよ。

元宰相連中の犯罪歴調べてて吐き気がしたわ。

プリマヴェーラ子爵の娘はかろうじて生きて帰ったけれど、一般人の娘さんは皆殺されているのよ。

わかっただけで30人以上、調べ上げれば何人出てくるか知れないわ」


「この国の法律だと、貴族は平民を殺しても金貨10枚程度の罰金が遺族に支払われて終わりだからね。

あまりにも貴族と平民の不公平が過ぎるよ。

流石に貴族を殺したら死刑も有り得るんだけれど」


「元宰相の死刑相当犯罪者の判定は出てないんですよね?」


「ああ、出てないよ。

日本の法律なら元宰相は確実に死刑だけど、その地域の法律に基づいて死刑相当かどうか判定されるからね。

出てなくても半死半生まで追い込んでしまうという手もあるけれど、愛娘を奪われた親の悲しみを聞いてしまうとそれだけで済ませたくないし」


「相手が貴族だからという理由で我慢せざるを得なかった家族の怒りと悲しみの声を何人も聞いたわ。

やっぱり半死半生じゃ元宰相連中の犯した罪には釣り合わないわ。

何か方法は…………あ、方法はある!

ちょっとグレーゾーンのやり方だけど、この方法ならどう?」


「ほう、どんな方法なんだ?」


「グレーゾーンって一体どんな?」


 美鈴は思いついた方法を話すのだった。


「う~む、確かにその方法なら出来るだろうが。

ちょっと待ってな。

……うん、契約書に記載されているルールには接触しないな」


「美鈴さんって、ホント雄介さんの敵には手段を選びませんね」


「だって手段を選んでて負けたら死んじゃうんだよ。

兄さんが死んじゃうくらいなら、手段を選ばない方がずっと良いでしょ。

それに、私が少々ダーティなことしても兄さんは私を嫌ったりしないから」


 美鈴はあっけらかんと答えた。

長い闘病生活で死を身近なものと捉えるようになったようである。

スポーツやゲームであれば、ルールは厳守しなければならないだろう。

だが生死がかかった戦場であれば、敵に対してルールを厳守することは悪徳になることがあるのだ。


「とにかく、あと5日で爵位授与式があるからその後に実行しよう。

準備は進めておいて良いから」



 5日後、王城の大広間に雄介のパーティ6人全員が正装を着て集まっていた。

美鈴は雄介の家族として参列客の1人になっていた。

元宰相とその取り巻きはそれぞれに理由を付けて欠席している。

それ以外の貴族たちはほとんどが参列していた。


 国王はいつも自分を補佐してくれた元宰相が居なくなったことで心細そうにしていたが、仕方なく前に進み出て宣言した。


「皆のもの、本日は新しき貴族の仲間を迎えるこの良き日に参列してくれたこと嬉しく思う。

知っての通り、ここにいる滝城雄介は勇者として数々の魔物を退治しておる。

また、兵士たちへの武術指南役としてその優れた指導の評価も高い。

そして、悪魔に支配されたアスタナ共和国に赴き、4000匹のアンデットの大群をほぼ全滅させておる。

更に悪魔軍の幹部、上級悪魔(アークデーモン)の一角、暴食のベルゼブブを打倒したのである。

これらの功績により、パーティリーダーの滝城雄介には伯爵の位を、サブリーダーのカサンドラ・ディアノには子爵の位を授与する。

またパーティメンバーの4人には騎士の位を授けるものとする」


 見えないように隠してはいたが、役人の誰かが作った原稿を読み上げたのだった。

爵位を与えられるときは同時に領地も与えられることになっている。

雄介に与えられた土地はアラドの町とその周辺、西のアスタナ共和国との国境沿いであった。

カサンドラに与えられた土地は雄介の土地の隣で、同じくアスタナ共和国との国境沿いであった。

つまり、土地はやるから悪魔から護ってくれよということである。

アラドの町は雄介が初めてGWOの世界で訪れた思い出深き町で、ティアナと出会った町である。


 その後は立食パーティが行われ、多くの貴族たちが雄介達に挨拶にやってきた。

娘を紹介しようとする者も多く、その度に美鈴の機嫌がはっきりと、カサンドラの機嫌が微妙に悪くなっていくのだった。

雄介は冷や汗をかきながら応対していたのである。

それらがひと段落すると、雄介はロベリアに話しかけた。

最近はあまり会話出来ていなかったからだ。


「やれやれ、魔物相手に戦ってる方がよっほど楽に思えるよ」


「そうですか?

随分とおモテになっていたようですが」


「冒険者から貴族になった人なんて他に居ないだろうからね。

毛色が違って珍しいんだろう」


「雄介様の冒険談は人が聞いたらとても面白いですよ。

話も上手いですし。

(口が上手いというべきかしら)」


「ああ、そうかもしれないな。

4ヶ月前までの自分が聞いたら、夢物語としか思えなかっただろうしな」


「え! そうなんですか?」


「ああ、4ヶ月前までは普通のどこにでも居る一般市民だったんだよ」


「冒険者を始めたのがその頃だってことは聞きましたが、どうしても想像できませんね。

それが今は伯爵様ですか。

これからの名前は雄介・アラド・滝城になるんですよね?」


「雄介・アラド・滝城か。

凄い違和感があるな。

やっぱり、よほどの時以外は滝城雄介を名乗るだろうな」


「私も違和感は有りますね。

でも、どんな名前でも雄介様は雄介様ですから。

ところで、伯爵になったからにはあちこちから縁談が来るでしょうね。

……私も側室の1人にしてもらえませんか?」


「俺はグランデ教のことを信仰している訳じゃないし、好きでもないし嫌いでもない。

つまり中立の立場を取っているんだが、それでも良いの?」


「それは大分前から気付いてることですよ。

勿論、承知の上です」


「じゃあ、万一の話だけど、今後グランデ市国にいる教皇と対立するようなことが有ったら耐えられるの?

勇者の力を利用しようとする者は多い。

グランデ教の者の中にもそういう人は居るんだよ」


「……大司教様もその1人ですね。

弟子入りした最初は気がつかなかったんですけど、今はそういうの分かります。

私、バカだったんですね。

単純に人に勧められる通りに頑張れば、人を助けられる、幸せにできるって考えてたなんて」


「人を助ける方法は無数にあるんだよ。

だから知恵を絞ってより良い方法を探していく。

人の言う通りにするのは楽だけど、それじゃそれ以上に良い方法は見つからないんだ」


「深く考えるほど答えは無数に見つかるんですね。

雄介さんが見えている世界が私と違うように感じるのはそのせいでしょうか?」


「今までの経験の違いもあるだろうね。

(何しろ生まれ育った世界自体が違うし)」


「雄介さんは今までどんな経験をしてきたのか、あまり詳しく話してくれたことないですよね。

いつか、聞かせて下さいね」


「ああ、話せる範囲で話すよ。

ねえ、そんなに俺と一緒に居たい?」


「はい!」


「ん、わかった」


 雄介はロベリアの頭を優しく撫でるのだった。



 爵位授与式から3日後の晩、雄介はタンボフの別荘の前にいた。

頭にはクエストが浮かんでいる。


クエスト:タンボフの護衛の成敗


獲得勇者ポイント:成敗数次第


注意事項:タンボフの護衛は全員死刑相当犯罪者



「護衛が全員死刑相当犯罪者ってどこの暴力団でもそこまで酷くないだろうに」


 タンボフの護衛は当然手下としてタンボフの犯罪の片棒を担いでいるためだ。

護衛は皆平民であり、平民が平民を殺せば死刑相当の犯罪なのである。


 雄介は正門から入って襲ってくる護衛達を次々と切り捨てていった。

クエストシステムを使って更生の見込みのある者は助けることにしていたが、20人に1人も居なかった。

やがて逃げ出す者も出たが、逃げた者はカサンドラが拘束した。

カサンドラと美鈴が手を汚すことは雄介が禁じている。

タンボフたちが居る部屋に入ると、タンボフは驚愕した。


「き、貴様、どうやってここに!

護衛達は何をやっているんだ。

おい、ここに侵入者が居るぞ。

早く来て殺してしまえ」


「ひぃいい、お助けを~」


「何でも差し上げますので、どうか」


「はあ、タンボフより取り巻き連中の方がまだ頭が良いな。

俺がここに居るってことは、護衛はもう居ないってことだよ」


 328人居た護衛達の内、更生の見込みのある14人を助け、残りは始末したのだ。

使用人は皆拘束している。


「ば、馬鹿な。

300人もの護衛が居たんだぞ」


「それが何か?

俺1人で2000匹のアンデットを倒してるんだぞ。

さあ、美鈴とカサンドラさんを殺そうとした報い、そして多くの女性たちを殺した報いを受けてもらおうか」


「2000匹……そんな知らせは来ていたが、ガセに違いないとばかり」


 ようやくタンボフは手を出してはいけない相手を怒らせたことを実感したのだった。


「さて、お前たちに手を下すのは俺じゃないよ。

だから命乞いするならその相手にするんだね。

(美鈴、入れていいよ)」


「(わかった~)」


 部屋のドアが開き、手に粗末な武器を持ったどう見ても平民の男たちが50人ほど入ってくるのだった。


「紹介するよ。

こちらの方々は、お前たちに娘を陵辱され殺された家族だ。

父親・兄弟・あと婚約者も居る。

これらの方々の許しが得られたら、俺は何もするつもりはない。

俺がするのは逃がさない、これだけだから」


 タンボフ達の顔面は蒼白になり、へたり込んでしまった。

そこに立っている男たちの顔に心底からの憤激が浮かんでいたからだ。


 その後の光景は見る気がせず、雄介はドアから出たところで待機していた。

しばらく恐ろしげな物音がしていたが、それが終わるとドアから先ほどの平民の男たちが出てきた。

その男たちは涙ながらに雄介に感謝の言葉を述べると帰って行った。

最後に助けた護衛と使用人の記憶を空幻が操作し、屋敷は綺麗に焼き払ったのだった。



次回の投稿は明後日0時となります。

サブタイトルは「王国の変化 (3)」です。

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