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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第7章 初めての報酬
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第48話 新たなる幻獣

○95日目


「ううん、私前衛職にも後衛職にもならないつもりよ。

それから私の幻獣のことなんだけど、九尾の狐にしようと思うの」


 その発言を聴いて、雄介もカサンドラも唖然としてしまった。

雄介が当然の疑問をぶつける。


「前衛職にも後衛職にもならないってどういうことだ?

パーティに入らないってことか?」


「そうよ。

学業を優先しろって兄さんが言ったでしょう。

それならせいぜい1日数時間しかプレイできないわ。

その状態で戦ってLVを上げても兄さんに追いつくのは不可能でしょう。

だから私はソロでやろうと思うの」


「ソロプレイか。

しかし、それじゃ50万ポイントには物凄く時間がかかるんじゃないの?」


「そうですよ。

勇者ポイントは強くならないとなかなか貯まらないですから」


 カサンドラが雄介のフォローをする。


「普通にプレイしてたらそうでしょうね。

普通なら、ね」


 美鈴は自信ありげにクスクスと笑った。


「普通じゃないプレイか。

一体どうするんだ?」


「私、内政専門で行こうと思うの。

九尾の狐の特殊能力を使ってね」


 九尾の狐とは9本の尻尾を持つ黄金色の妖狐である。

強い魔力を持った狐が年月を経て妖怪化することで妖狐となり、その魔力の強さに応じて尻尾の数が増えていく。

その最終形態が九尾の狐であり、最上級の妖狐である。

少なくとも数千年は生きているとされる。

直接的な戦闘力は高くはないが、狐火と種々に変化(へんげ)する能力を持ち、魅了(チャーム)の魔力は傾国と言われるほどの強大さである。


「九尾の狐の特殊能力って確か狐火と変化の術と魅了(チャーム)だよな。

相手に合わせて変身して、魅了(チャーム)を使ったら思い通りに動かせるよな。

それを内政に利用すると……何か恐ろしいこと考えてないか?」


「え? そんなことないわよ。

ただ兄さんをスラティナ王国の最高権力者にしようと思ってるだけよ」


 美鈴はサラッと、まるで当然のことのように言い切ったのだった。

その発言を聴いた雄介とカサンドラは驚愕し、目をまん丸にした。


「すまないが、もう一回言ってくれないか。

どうも幻聴を聴いたようでな」


「美鈴ちゃん、一体なにを言っているの?」


「兄さんの性格なら抵抗があるのは分かるけど、当然のことを言ってるだけよ。

兄さんをスラティナ王国の最高権力者にしようって言ったのよ」


「そうかそうか、最高権力者にするのか。

って、そんなこと出来るはずがないだろうが!」


「どうして出来ないの?

スラティナ王国って国王が治めてるんでしょう。

でも、その国王は政治にやる気がなくて宰相が私物化してるんでしょ。

だったら引退してもらってそれに相応しい人を就けないといけないわ。

それなら兄さん以上に相応しい人が居るはずないじゃない」


「まだスラティナ王国に行ったことがない美鈴が、どうして俺以上に相応しい人が居ないなんて言えるんだ?

それにそんなことが許されるはずがないだろう」


「スラティナ王国最強の兄さんが武力を担当し、記憶力増強薬を飲んだカサンドラさんが地球の知識を伝え、私が反対意見を抑えるわ。

政治・経済・科学・医学・法律などのすべてが変わるでしょうね。

どこにこれ以上相応しい人が居るっていうの?

それにこの方法は神様がやっても良いって許可は取れてるのよ」


「ちょー、神様、一体なにを言ったんですか?」


 韋駄天を使い、アッという間に雄介が老人に詰め寄った。


「美鈴から質問があったから答えただけじゃよ。

大量のポイントを狙うには有効な手じゃよ。

まあ、相応の努力と能力は必要になるがのう」


「GWOのルール上は問題ないってことですね。

しかし、この方法は……問題点は……」


 ブツブツとつぶやいて現実的な問題点と対処法を検討し始める雄介。

そのときカサンドラが老人に尋ねた。


「神様、地球の知識や技術をGWOの世界に持ち込んでも良いのでしょうか?」


「当然良い影響を与えることもあれば、その逆もあるのう。

クエストのシステムを上手く利用すれば、悪影響は相当小さく抑えられるであろう」


「クエストのシステム?

ひょっとして、知識や技術の持ち込みについてクエストを使用することが出来るのですか?」


「何じゃ、知らんかったのか。

自分で見つけ出してほしかったんじゃがのう」


 ここで雄介が口を挟んだ。


「以前、盗賊を倒すべきかどうかの判定にクエストを利用したことが有りました。

それと同様に知識などの持ち込みの判定に使えば良いということですね?」


「そんなことが有ったんですか」


「おお、その通りじゃ。

1から10まで説明はせんから、システムの応用は自分で色々と試してみたら良いぞ」


「分かりました。

ところで、先ほどの結論は持ち込んでも良いが自己責任ということですね?」


 カサンドラがおずおずと確認した。


「その通りじゃ」


「よし、美鈴。

スラティナ王国に地球の知識や科学技術を伝えることは認める。

そのために協力するのは構わない。

だが、俺は国王になる気はないぞ。

自由に動けない立場になるのはまっぴらだからな」


「え? 兄さんを国王にするなんて誰が言ったの?

最高権力者って言ったのよ」


「王国で最高権力者って国王じゃないのか?」


「政治にやる気がない国王なんだから、裏で操った方が良いでしょう。

流石に異世界人の兄さんが正式に国王になるのは無理があるわ。

そのために九尾の狐をパートナーにするのよ」


「あ、引退させると言ったのは宰相のことか。

そして国王を操る者が最高権力者か、なるほどね。

本気で内政を良くしようと思ったらそれくらいしないとダメか。

確かにあの宰相じゃなあ」



 それからあれこれと方法を話し合った。

しばらくして話し合いがひと段落したところ、そこへマリーが声をかけてきた。


「幻獣の選択は決まったかしら。

九尾の狐にするの?」


「あ、はい。

九尾の狐でお願いします」


「美鈴、幻獣の召喚にはコップ1杯の血が必要なんだが大丈夫か?

自分で切るのはかなりきついぞ。

痛みが無いように俺が血を抜いてもいいぞ」


「そうね。

ケガをしたならともかく、自分で切るのは辛いって人は結構居るわ。

滝城さんは自分で出来たのかしら?」


 意地悪そうな笑みを浮かべてマリーが雄介に問いかけた。

そこへカサンドラが割って入る。


「雄介さんは何の問題もなく自分で切れましたよ」


「あら、そうなんだ」


「兄さんが自分でやったのなら、私もやってみる」


「美鈴、がんばれよ。

そういうマリーは幻獣の召喚はできるのか?

チュートリアル係りになって日が浅いんだろ」


 雄介がマリーにやり返す。


「ば、馬鹿にしないでよ。

それくらい出来るに決まってるでしょ」


 マリーの言葉は強気だが、どこか焦っているようだった。


「そうか、それじゃあその腕を見せてもらうぞ」


「その目をかっぽじって私の召喚魔法を見てなさいよ」


「かっぽじるのは耳だろうが。

目をかっぽじったらケガをするじゃないか」


「う、五月蝿いわね。

美鈴、さっさと行くわよ」


 マリーは美鈴を連れて召喚のための魔法陣へと移動した。

その後を雄介とカサンドラと老人が付いて行く。



「う、神様も見ているのですか?」


「ああ、ワシもここで見学させてもらうぞ」


「はぁ……分かりました」


 マリーは気付かれないよう小さくため息を付くと、魔法陣に向かった。

どうも神様に見られて緊張しているようだ。

マリーの身体から魔力が立ち昇るが、以前カサンドラが見せた姿よりずっと不安定なものだった。

魔法陣に魔力を流して召喚しようとするのだが……何も起きなかった。

雄介が見たところ、持っている魔力自体には問題はないが、どうも上手くコントロール出来ず、成功率が低いのだと思われた。

いつもなら2回に1回は成功しているのだが、今回は緊張しているため3回連続失敗している。

一言で言えば経験不足である。


「マリー、ちょっと待って」


「何よ、邪魔しないでよ。

もう少しで成功するんだから」


「そんなにガチガチになってて成功するはずないだろ。

肩の力を抜いて深呼吸してみろ。

そう睨むなって」


「うう、分かったわよ。

深呼吸すれば良いんでしょう」


 スーハースーハーとマリーは深呼吸した。

終わったところで雄介を見ると……雄介はひょっとこのような顔をしていた。

マリーは唖然とし、やがて吹き出してしまった。


「ぷっあはははは。

あなた何て顔してるのよ。

あたしを笑い死にさせるつもり」


 マリーは笑い転げている。


「笑って緊張がほぐれたみたいだな。

それでやってみろよ」


「あ、そのためか。

うぅ、あ、ありがとね。

別に感謝なんてしてないんだからね。

社交辞令なんだから」


 雄介が元の位置に戻ると、カサンドラと美鈴がふくれっ面をしていた。

どうも後で何かお詫びが必要なようだ。

今日の夕飯は外食にしようと決める雄介だった。


 マリーが魔力を高めると、今度は先ほどとは比べ物にならないほど安定していた。

魔法陣が光り輝き、その中心に黄金色の光を放つ物体が現れた。

美鈴が走って近寄ると、ナイフを振り上げる。

しばらくためらってから、自分の左手を刺したのだった。

そして溢れる血を黄金色の物体に降りかけた。


 その物体が放つ光が強くなり、とても直視できなくなった。

美鈴が眩しさに目を閉じる。

その数秒後、目を開けると驚愕した。

目前に10mを超える巨大な狐が居たからである。

ふさふさとした尻尾が9本有り、黄金色の柔らかい毛が体中を覆っていた。

その瑠璃色の瞳が優しく美鈴を見つめていたのである。


「貴方が(わたくし)のマスターですか?」


「ええ、私よ。

私は滝城美鈴ね」


「では、私に名前を下さいませ」


「……空幻(くうげん)

あなたは空幻よ」


「私は空幻。

契約に従い、マスターを護りましょう」


「わかったわ。

よろしくね、空幻」


「マスター、私の姿は人型がよろしいでしょうか?」


「聞いていた通り、変化の術が使えるのね。

なってみてくれる?」


 ポンッと音がすると巨大な狐の姿はなく、そこに金髪の絶世の美女が立っていた、ただし狐耳の。

服装は着物に似た姿であった。

ちなみに服装は空幻が毛を元に生み出した物である。


「わあ、美人ね。

空幻、最初に絶対の命令があるから、よく聴いてね」


「はい、何でしょうか?」


「兄さんには絶対に色目や魅了は使ってはダメよ」


 美鈴の目は真剣だった。



 その後美鈴は皆に空幻を紹介した。

そしてステータスを確認すると筋力20・体力30・敏捷20・魔力50・精神50・運のよさ30の上昇であった。

九尾の狐の加護により、特性として火炎属性中耐性・魅了絶対耐性・慧眼の瞳が得られていた。

慧眼の瞳とは変化の術などによる隠された真実を見抜く目である。

嘘や罠を見抜く能力も上がっている。

BPはすべて体力に使うことにした。


 美鈴が魔法を覚えるため精霊との契約を結ぶと、成功したのは火・土・闇の精霊であった。

これで美鈴のチュートリアルは終了である。

やがて美鈴は空幻の力を使ってスラティナ王国に大変革をもたらすことになるのである。



滝城美鈴


LV:1


年齢:18


職業:精霊魔法使いLV1


HP:271 (E)


MP:318 (D)


筋力:29 (E)


体力:71 (D)


敏捷:34 (E)


技術:3 (E)


魔力:50 (F)


精神:84 (D)


運のよさ:36 (E)


BP:0


称号:プレイヤー・βテスター・九尾の狐の加護


特性:火炎属性中耐性・大地属性弱耐性・暗黒属性弱耐性・魅了絶対耐性・慧眼の瞳


スキル:自動翻訳


魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・アースランス(20)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)


装備:綿の服


所持勇者ポイント:0


累計勇者ポイント:0



次回の投稿は申し訳ありませんが、明後日0時となります。

明日に上げたかったのですが、どうしても納得の行くものが出来ませんでした。

サブタイトルは「王国の変化 (1)」です。

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