表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第7章 初めての報酬
50/67

第44話 初めての報酬

○87日目


 昨晩の戦いはほとんどのアンデットを雄介達が倒したため、ジェバラナの防衛を務めていた人たちはケガ人だけで死者は出なかった。

4000匹の大群という未曾有の危機を乗り越えたため、再び大宴会が開かれることになった。

前回は物資が不足していたのだが、今回はジェバラナ周辺に狩りに行く余裕もあり、雄介の援助もあり、備蓄をはき出しての大盤振る舞いであった。

説教を受けた雄介は少々ふらついていたが、物資が充分なら他のみんなも呼ぼうということで、ティアナやルカやアルジェも連れて来たのである。

雄介達は街を救った大英雄として、下にも置かないもてなしを受けていた。

雄介としても10000ポイントを突破し妹の完治が決定した喜びは例えようもなく、ティアナやカサンドラですら見たこともないようなハイテンションであった。

両親が事故死して以来、心底から笑ったのは初めてかもしれない。



 雄介の周りにティアナ・ルカ・ダークテンペスト・カサンドラ・ロベリアが取り巻いていた。

雄介はお酒が入ったこともあって完全にタガが外れていた。

べろんべろんに酔っ払ってしまったのだ。


「8ヶ月で10000人の生命を救うって聴いたときは、ホントど~なることかと思ってたんだけどね。

3ヶ月で達成できるとは、これはもうみんなのお陰だよ~。

ホント感謝感激雨あられって感じなんだ」


「考えてみたらうちが雄介に逢ってからもう3ヶ月なんやね。

雄介が新人として冒険者登録に来た日のこと昨日みたいに思い出せるで。

ほんまによう頑張ったなぁ。

でもな、雄介、もう飲みすぎやで。

ビールもう23杯目やん」


「ビールなんだから大丈夫だって。

ルカはどう?

確かお酒は苦手だったよね?

まあ、食べて食べて」


 そういってルカの取り皿に焼肉の大きな塊りを乗せた。


「わわ、こんなに食べきれないにゃ。

ちょっと手伝ってにゃ。

雄介様、あ~ん♪」


 ルカは焼肉を一口サイズに切り分けると雄介に差し出す。

雄介はいつもなら2人きりのときしか食べないのだが、今日は人前で食べてしまった。


「うむ、旨いぞ。

ほれ、お返しだ。

ルカ、あーん♪」


 そして今度は雄介が指し出した。

すると、横からダークテンペストがそれを食べてしまった。


「こら黒王、それは行儀が悪いだろうに」


「うにゃ~、せっかく雄介様が……」


「雄介よ、たまには余にもこういうことをせぬか」


 どうも今日はダークテンペストも酔っているようだ。


「え? あ~、ルカにはやりやすいんだが、黒王にはどうもキャラ的にな。

王の威厳みたいなところがあるし。

よしよし、黒王、おいで」



 カサンドラはワインをちびちび飲みながら雄介達を見ていた。


「(こんな雄介さん初めて見たなあ。

いつも気を抜かないというか、トラブルが起きても対処できるよう気を付けてるのに。

無防備な雄介さんは……かわいいなあ)

雄介さん、私にも一口くださいよ」


「カサンドラさんもなの?

はい、あーん♪」


「雄介様、私はダメでしょうか?」


「ロベリアまで?

良いよ。おいで」



 町を救った英雄は女たらしだという噂がジェバラナ中を駆け巡ったのは言うまでもない。

雄介は翌日になって自分の行動を思い出し、穴があったら入りたい思いをした。

宿屋の女将さんや娘のルジェナ、そして町の人々から冷やかされまくった。

そして昨日の出来事を黒歴史に認定したのだった。



「みんな、今日からしばらくの間地球で過ごすことになるから、パーティの活動はなしね。

緊急の用事が起きなければ、多分1週間くらい自由に過ごして構わないから」


「雄介殿の妹の治療ですな。

では、わしは王都におりますので何か有れば連絡して下さい」


「あたしはどうしようかな。

ねえ、ロベリア。

あたしと遊びに行かない?」


「あ、行きます。

ほかの日は教会に居ると思います。

最近全然教会に行けなかったですから」


「僕はジェバラ周辺を見て回ろうと思います」


「(雄介さん、私も妹さんの治療に同席しても良いですか?)」


「(カサンドラさんがログアウトしたらイギリスだよね。

日本まで来るの?)」


「(ええ、妹さんに会いたいのですが、ダメでしょうか?)」


「(会うのは勿論OKだよ。

でも美鈴は英語は話せなかったと思うけど、どうするの?

俺の英語力は片言程度だし、通訳は頑張るけど不十分だよ?)」


 GWOの世界では自動翻訳のスキルで自由に会話できるのだが、地球に戻れば言語の違いが問題になるのだ。

地球での住所や電話番号、メールアドレスは既に交換している。

とはいえ、滅多に使うことはないのだが。


「(私に考えが有りますから)」


「(う~ん、まだナイショってことね。

分かったよ。

空港に迎えに行くから到着する便が決まったら知らせてよ)」


「(じゃあ、後でメールで送りますね)」



 メンバーが解散すると、雄介とカサンドラは勇者ポイントの報酬を受け取ることにした。

2人はキーワードを唱えた。


「「我は願う。

人の生命を救いし結果が今まさに現れんことを」」


 すると2人の視界が変わり、果てしない荒野と青空が広がっていた。

2人は狭間の世界に移動したのだった。

しばらくすると、白いローブの老人と10代後半の勝気そうな美少女が瞬時に現れた。


「カサンドラと雄介じゃな。

元気にしておったかの?」


「お久しぶりです、神様。

はい。元気ですよ」


「こんにちは、神様。

ええ、お陰様で」


「カサンドラさん?

ってことは、あたしの前任者ですか?

あたし、管理者補助のマリー・アンペールと言います」


「2ヶ月前まで管理者補助をしていたカサンドラ・ディアノです。

あなたが後任を務めているのね。

マリーさん、よろしくお願いしますね」


「プレイヤーの滝城雄介だ。

よろしくな」


「カサンドラさん、よろしくお願いします。

そして、あなたがカサンドラさんを口説いてプレイヤーとして連れて行ってしまった滝城さんね。

あたし、軟派な男って嫌いなの。

はあ、どうしてこんな男に……」


「神様、一体どんな説明をしたんですか?」


「ん? 事実をそのまま伝えただけじゃぞ?

それをどう解釈するかはマリーの自由じゃろう」


 老人は悪びれもせず、しれっと答えた。


「……まあ、いいです。

それより用件は勇者ポイントの報酬です。

あらゆる病気を治す薬、万病薬をお願いします」


「うむ、10000ポイントと引き換えじゃ。

まさか3ヶ月未満で10000ポイント集めてしまうとはのう。

おぬしが今までの最短記録保持者じゃ。

ただし、カサンドラを除けば、じゃがな」


「そういえば私は2ヶ月未満で10000ポイント超えてますもんね」


「ええ!?

今までの最短記録は6ヶ月のはずよ。

それを2ヶ月とか3ヶ月とか、凄すぎじゃない。

まあ、流石はあたしの前任者ってことね。

……仕方ないわね。

滝城さん、口だけじゃないってことは認めてあげるわ」


「認めてあげるって、何で上から目線なんだよ。

しかし、今までの最短記録が6ヶ月だったのか」


「雄介よ、おぬしに一万ポイント突破最短記録保持者の称号を与えよう。

カサンドラは元管理者補助として色々と優遇されておる。

正規プレイヤーとの比較は不公平になるからのう」


「有り難うございます。

そういえば、称号ってどんな意味があるのでしょうか?」


「意味は……人に自慢できるぞ」


「ちょ、それだけですか?」


「称号を得るまでの行為に価値があるのであって、称号自体は肩書きに過ぎんからのう」


「う~む、それはそうかも。

あ、それで万病薬をお願いします」


「うむ、これじゃ」


 老人の右手に栄養ドリンク程度の小瓶が現れた。

そして左手にB5サイズ程度の紙が出現した。


「これが万病薬で、こちらが注意書きじゃ」


 そういって小瓶と紙を雄介に渡した。



万病薬について


①万病薬は対象者に飲ませるか、注射等で体内に注入すると効果を発揮します。


②万病薬には肉体的精神的なあらゆる病気を治し、心身共に健康にする効果が有ります。

ただし、傷・肉体欠損・肉体的障害には効果はありません。

また、一旦健康体になって以降に発病することは有ります。


③1瓶で1人用ですので、複数人に分けると効果は有りません。


④突然病気が回復したことは対象者とGWOのプレイヤー以外の人間には認識されません。

ごく自然に治癒したものと認識されます。


⑤科学的な成分の分析が行われた場合、ただの水として認識されます。



「中には黄金色の液体が入ってるな。

これが万病薬……」


 雄介は万感の思いを込めて小瓶を見つめていた。


「これで報酬は終わりかの?」


「俺は終わりです。

カサンドラさんは、有るんだろ?」


「あら、気付かれてたのですね。

私は記憶力増強薬をお願いします」


「記憶力増強薬か。

5000ポイントじゃな」


 再び老人の右手に栄養ドリンク程度の小瓶が現れた。

ただし中には緑色の液体が入っている。

そして左手にはB5サイズ程度の紙が出現した。



記憶力増強薬について


①記憶力増強薬は対象者に飲ませるか、注射等で体内に注入すると効果を発揮します。


②記憶力増強薬は覚えたいと思った経験・映像・言葉・音楽・味・匂い・感覚などの記憶力を増強する効果が有ります。

また、忘れたい記憶を自由に忘れる効果、忘れていた記憶を思い出す効果が有ります。

これらの効果は生涯に渡って続きます。


③1瓶で1人用ですので、複数人に分けると効果は有りません。


④急激に記憶力が増強したことは対象者とGWOのプレイヤー以外の人間には認識されません。

ごく自然に成長したものと認識されます。


⑤科学的な成分の分析が行われた場合、ただの水として認識されます。



 小瓶と紙がカサンドラに渡されると、カサンドラは注意書きを数回読んだ。

そしてキャップを開けて緑色の液体を飲み込んだ。

だが見たところ、何の変化もなかった。

そこでカサンドラが驚きの声を上げた。


「……凄いです。

幼い頃のことでもこんなに鮮明に思い出せるなんて。

これなら今から学ぶことをどれだけすぐに覚えられるでしょう」


「身体に異常はないよね?」


「ええ、勿論です」


「わしの創った薬じゃぞ。

身体に害のあるはずがないじゃろ」


「滝城さん、神様に向かって失礼ですよ」


「念のため、ですよ。

見た目が毒々しい色をしてますから」


「む、緑色はまずかったかのう」



 その後しばらく今の生活などについて話をして、雄介とカサンドラはログアウトした。

カサンドラが日本に到着したのは翌日である。

飛行機の到着予定時刻の2時間前から雄介は空港で待っていた。

待ちきれなかったのだ。

カサンドラが到着するとすぐに2人は病院に向かった。

美鈴の病室の前に2人は立っていた。

雄介がコンコンコンと3回ノックする。


「……どうぞ」


「俺だ。入るぞ」


 雄介が病室に入ると、美鈴がやつれ切った顔でベットに横になっていた。

髪はまったく生えておらず、身体は骨と皮ばかりである。

明らかに3ヶ月前よりもやせ衰えており、率直に言えば骸骨に似ていた。

死臭に近い臭いが辺りを漂っており、医学の素人でも死が近いことを見通せるだろう。


「兄さん、いらっしゃい。

見舞いに来たの、4日ぶりよ」


「ああ、済まない。

美鈴、紹介したい人が居るんだ」


「紹介したい人?」


「カサンドラさん、入って」


 カサンドラが緊張した面持ちで病室のドアを開けた。



次回の投稿は明後日0時となります。

サブタイトルは「美鈴」です。


ある程度長くなってきたので、章分けしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ