第43話 ベルゼブブ
○86日目
ベルゼブブは濃密な瘴気を吐き出した。
普通の人間ならば一息吸っただけで土気色の顔色で昏倒するだろう。
もっとも雄介は暗黒属性絶対耐性を持っているため、何の影響もないが。
瘴気が広がり、ベルゼブブの姿が見えなくなったとたん、瘴気の壁を打ち破って無数の氷の柱が突き抜けてきた。
それはベルゼブブが放ったアイシクルディザスターだった、しかも通常の数倍の威力の。
雄介の周囲500mに、万物を凍りつかせる氷の世界が出現した。
雄介はクリムゾンフレアを使いベルゼブブに対抗するが、魔力の差は歴然としていた。
ほんの数秒もっただけで押し切られてしまった。
とはいえ、その数秒で雄介は韋駄天を使い氷の世界から脱出するのだった。
この一合で雄介は分かってしまった。
クリムゾンフレアは雄介の魔法でもかなり上位の魔法だ。
それが完全に圧倒された以上、魔法での戦いではベルゼブブに勝ち目はないということだ。
ベルゼブブの殺気が膨れ上がり、3つの腕から魔力が立ち昇った。
腕に水冷属性・大地属性・風雷属性の上級魔法並みの魔力がそれぞれ宿り、最後の1本には不気味な色をした毒液がにじみ出ていた。
「雄介よ、お前のことは逃げ帰った大型悪魔から情報を得ている。
それ以降、調べていたのだ。
火炎属性と暗黒属性の魔法は効かないそうだな。
そして水冷属性・聖光属性・毒が弱点らしいな」
「(流石に聖光属性魔法は使えないみたいだな。一応ごまかしておくか)
はあ? いきなり何を言ってんの?
それより、下級悪魔は角が弱点だったが、貴様はその触手が弱点なのか?」
「フッ、この程度では顔色1つ変えないか」
ベルゼブブが風雷属性の腕を一振りすると、周辺一帯に雷撃が雨のように降り注いだ。
一撃一撃が大木を消し炭にするほどの威力を秘めていた。
一瞬で雄介は韋駄天を使い、右側に飛び出した。
雄介の動きに合わせ、ベルゼブブは大地属性の腕を動かすと大地が割れ、マグマが噴き出してきた。
マグマは1000℃を超える高熱を持っており、岩石を弾き出して、雄介を狙った。
エアロガードを使い辛うじて防いだところで、次はベルゼブブは水冷属性の腕を動かした。
巨大な氷山並みの氷の塊りが時速200km以上の高速で雄介に向かった。
咄嗟に神移を発動させ、氷山を避けたところに待ち構えていたようにベルゼブブが現れた。
巨大なハエであるベルゼブブは高速で飛ぶのである。
「そこだ!」
ベルゼブブの毒を宿した腕が、狙いすました一撃を放った。
雄介は金剛鉄の太刀でかろうじて受け流すが、左肩をかすった瞬間、激痛が走った。
見ると傷口の周囲がどす黒く変色していた。
ベルゼブブの毒は普通の人間なら即死するほどの猛毒であり、市販の毒消し薬程度では気休めにもならない。
雄介は黒不死鳥王の寵愛による超回復によって命ながらえているのだ。
それでも、毒の影響は大きく、雄介の命を刻一刻と削っていた。
「(上級魔法3つをためも無しに連発できるとはな。
それにこの毒はただダメージを受けるだけの毒じゃないな。
身体が重く、目が霞んできてる)」
「オレの3連撃を避けるとは大したものだな。
だが、いつまで避け続けられるかな」
ベルゼブブが腕を振るうだけで上級魔法が発動していた。
雷撃が降り注ぎ、大地から岩の槍が飛び出し、氷柱が飛び交った。
竜巻が起こり、岩石の壁が動きを阻害し、大津波が襲った。
それらを避け続ける雄介に僅かでも隙があれば、ベルゼブブの毒の一撃が襲ってきた。
毒の攻撃を受けるたびに少しずつ雄介の動きは鈍くなり、視力は低下していた。
雄介はマジックサーチを常時展開し、上級魔法の魔力の流れやベルゼブブの動きを予測して回避を続けた。
だがそれでも小さな傷は積み重なっていき、全身から血が流れていた。
「(このままだとジリ貧だな。
辛うじて目が見えるうちに反撃をしなければ……。
ベルゼブブの魔法は上級魔法を3回使ったら、次に使うまで3秒のクールタイムがあるようだな)」
ベルゼブブがタイタニックノア・ライトニングインパクト・コキュートスアラウンドを使った直後、雄介は神移を発動させた。
神速を超えた速さで距離を詰めた雄介は、飛燕三連突きを改良した飛燕五連突きを放った。
人間の目には同時としか思えない5つの突きがベルゼブブを襲った。
だが、驚くべきことにベルゼブブは避けなかった。
ベルゼブブは飛燕五連突きをその身に受けると同時に毒の腕を横薙ぎに振るった。
雄介のわき腹に直撃し、全身に巨大なダンプカーが衝突したような衝撃が広がり、30mほども跳ね飛ばされたのだった。
水晶竜鱗の鎧に護られたとはいえ、肋骨の数本は折れ、毒が更に流し込まれた。
「……まさか避けようともしないとはな」
「フッ、避ける必要がないからな」
ベルゼブブは近くに居たデュラハンに噛り付いた。
そのまま骨まで食べてしまい、そして3匹のアンデットを喰らった。
すると、見る見るうちに飛燕五連突きのケガが癒えていった。
数秒後には跡形もなく完治したのだった。
「なん、だと」
「オレは暴食のベルゼブブ。
喰えば喰うほど強くなるのだ。
お前を食えばどれほど強くなれるか、楽しみだぞ」
「(マズイな。
さっきの一撃で目が更に見えなくなった。
あと少しで全く見えなくなるだろう。
そして相手は無傷か)」
雄介は念話を使い、パーティメンバーに呼びかける。
しかし、大型悪魔とアンデットによって皆それぞれに足止めをくらっており、誰かが抜ければ戦況は一気に悪魔側に傾く状況であった。
助けを呼べば、ジェバラナの防衛は諦めることになるだろう。
「もはや毒の攻撃は必要ないな。
あとは魔法攻撃だけで充分だろう」
ベルゼブブは再び魔法攻撃を連発した。
ただし今度は近づいての毒攻撃はしようとしなかった。
それどころか常に雄介から一定の距離を取るように動いていた。
自分が致命傷を受けさえしなければ、やがて雄介の全身に毒が回り、死に至るのは自明だったからだ。
そして遂に雄介の目はまったく見えなくなったのだった。
もし相手が直接攻撃をしてくれるなら、盲目になった雄介でも勝機はあるだろう。
ある程度なら気配を感じて攻撃することは出来るし、マジックサーチで大体の位置は把握できるからである。
しかし、雄介より遥かに強力な魔力を持った相手に距離を取って戦われてはどうすることも出来なかった。
「(魔法で攻撃してもベルゼブブにダメージは与えられない。
ケガをしてもアンデットを喰って回復してしまう。
直接攻撃で一撃で即死させる以外にないが、盲目になり、毒で素早さも半減してる。
どうすれば……)」
雄介は乾坤一擲の大勝負をする覚悟を決めた。
右手にアビスグラビティ、左手にクリムゾンフレアを発動させ、複合魔法を使った。
独自魔法、アビスグラビティ&クリムゾンフレアを発動した。
雄介の前に暗い半透明の球体と巨大な火球が現れる。
その球体は段々と大きくなり直径50mほどにも成長し、火球を飲み込み、その中は地球上の数十倍もの重力による圧縮が起こっていた。
数千度の巨大火球が超重力による圧縮により更に温度を上げていく。
その上に雄介は無理を承知で、クリムゾンフレアを重ねがけした。
クリムゾンフレア2発分の熱量がアビスグラビティの超重力によって圧縮され、数万度の超高熱に至り、プラズマ化を起こしていた。
アビスグラビティの内部にプラズマボールが形成されていた。
この攻撃が終わったら雄介のMPは無くなるだろう。
問題はこのプラズマボールをどうするかである。
1対1の状態で油断をしていないベルゼブブ相手にぶつけることなど出来るはずがない。
いつプラズマボールを発射されても余裕を持って回避か迎撃できるように、距離を取ってベルゼブブは様子を見ていた。
雄介がプラズマボールを放った後の隙に攻撃魔法を撃ち込めば、ベルゼブブの勝利は確定であった。
だから雄介は…………プラズマボールを使わなかった。
アビスグラビティの効果時間が終わった瞬間、超重力は解除された。
数万度のプラズマが空中に開放され、大爆発が起こった。
半径数百mは草木も土も石もアンデットも全てが蒸発した。
半径数kmの範囲では光熱と爆風によりすべてが吹き飛ばされた。
ベルゼブブもまた圧倒的な爆風により吹き飛ばされはしたが、警戒していたため爆発によるダメージはほとんど無かった。
そう、『爆発による』ダメージは無かったのである。
アビスグラビティの効果時間が終わる5秒前、雄介はテレポートを発動していた。
今の雄介はテレポートを発動してから実際に移動するまで約5秒かかる。(1人の場合)
大爆発の直後、雄介の移動した場所はベルゼブブの後方であった。
プラズマの大爆発によりベルゼブブの視界は閃光に埋め尽くされ何も見えず、大爆音により何も聞こえない状態に陥っていた。
更に爆風によって自由な飛行が阻害されていたのである。
雄介は死力を尽くし、ディメンションエッジを振るった。
空間を切断する一撃がベルゼブブに迫った。
目も見えず耳も聞こえず、それでも殺気を感じたベルゼブブは回避しようとするが、爆風に煽られた状態ではいつもより遥かに遅い動きしかできなかった。
雄介の金剛鉄の太刀が、ベルゼブブの頭から真っ直ぐに振り下ろされた。
上級悪魔のベルゼブブといえど、真っ二つになれば即死せざるを得なかったのである。
パーティーメンバーには念話でプラズマの大爆発について知らせていたため、ケガ人は居なかった。
アンデットどもは当然知らなかったため、爆風により吹き飛ばされ、バラバラにはぐれてしまった。
雄介はもう戦えなかったが、ベルゼブブが倒されたことにより大型悪魔にも動揺が走り、アンデットとはぐれたため比較的容易に倒すことが出来た。
こうしてこの戦闘は終了したのである。
雄介の毒による失明は一時的なものであり、超回復のスキルとカサンドラとロベリアの回復魔法により翌日には回復した。
翌日、カサンドラが泣きながら説教したことは言うまでもない。
ロベリアは号泣していた。
パーティメンバーは皆心配で眠れなかったらしい。
滝城雄介
LV:59
年齢:22
職業:冒険者LV46・精霊魔法使いLV43・強化魔法使いLV36・念動魔法使いLV28・時空魔法使いLV26
HP:2035 (SS)
MP:1874 (SS)
筋力:401 (SS)
体力:411 (SS)
敏捷:460 (SSS)
技術:456 (SSS)
魔力:378 (SS)
精神:370 (SS)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:80
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・黒不死鳥王の寵愛・スラティナ王国の勇者・スラティナ王国武術指南役・スラティナ王国情報管理指南役・竜殺し・スラティナ王国最強の男・レギルの主
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性中耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(100%)・サンダーレイジ(100%)・ブラッドブレイク(100%)・思考加速(100%)・流水(100%)・韋駄天(100%)・記憶力上昇(100%)・金剛力(100%)・真 疾風覇斬(100%)・真 天竜落撃(100%)・ディメンションエッジ(80%)・超回復(100%)・神移(100%)・飛燕五連突き(50%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ライトニングインパクト(120)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・アビスグラビティ(220)・強化魔法(任意)・複合魔法(魔法次第)・クロックアップ(150)・クロックダウン(150)・シルバーゾーン(200)・テレポート(距離次第)
装備:金剛鉄の太刀・水晶竜鱗の鎧・水晶竜鱗の兜・武人の小手・水晶竜鱗の具足・スフィンクスのマント
所持勇者ポイント:12246
累計勇者ポイント:12246
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「初めての報酬」です。




