第42話 アークデーモン
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○86日目
ジェバラナの北方15kmには腐臭が渦巻いていた。
見渡す限り、アンデットが群れをなしていたのだ。
そこに生きている人間はなく、まさしく死の国であった。
闇夜のなか、Fクラスのゾンビが約1500匹、Eクラスのスケルトンが約1200匹、Dクラスのグールが約800匹、Cクラスのアンデット・ナイトが約400匹、Bクラスのスカルドンとデュラハンが約200匹、Aクラスのリッチが約50匹、合計4000匹以上の大群が迫っていた。
その頃、ジェバラナでは作戦会議が行われていた。
「周囲を調べてみたが、前回のような伏兵は居ないらしい。
全体は3部隊に分かれている。
SSクラスの上級悪魔が2000匹を纏め上げ、Sクラスの大型悪魔2匹がそれぞれ1000匹を指揮しているようだ。
俺が上級悪魔と2000匹に対応する。
リセナスとクラノスが1部隊、トゥリアとロベリアが1部隊を担当してくれ。
カサンドラさんとブルーダインと黒王は遊撃として動き回って対応が遅れてるところをフォローしてくれ。
迅速に倒すにはできるだけ見晴らしの良い場所が良いから、戦闘予定地はここだ」
雄介は地図を広げて説明した。
「それは雄介殿の負担が大きすぎでしょう」
「雄介が上級悪魔と戦っている間に配下の2000匹がジェバラナを襲うかもしれないわ」
「それは予想しているから、対策は取っている。
それに全体の援護としてレギルを使うんだ」
作戦会議の3時間前、雄介はレギルと話していた。
「レギル、アンデットの大群と戦うことになった。
ゴーレムを貸してくれないか?」
「Aクラスのメタルゴーレムを30匹用意しています。
ウッドゴーレムとストーンゴーレムはそれぞれ50匹ほどです。
私は戦わなくても良いのですか?」
「強制してアンデットと戦わせるのは流石に酷だろう。
レギルにとっては仲間ではないのか?」
「アンデットに対して仲間意識というものは有りません。
……実は私は120年前まで普通の人間の魔法使いでした。
上級魔道士として帝国で働いていたのです。
ですが、当時の皇帝の命によりリッチ化の人体実験が行われ、その被験者となったのです。
そのためにこんな骸骨のような身体になったのですよ。
私はすっかり帝国が嫌になり、それ以来この迷宮に隠れ住んでいました」
「むう、それは気の毒だな。
……レギルは人間に戻りたいか?」
「この120年間はリッチから人間に戻る研究とゴーレム作成などの魔法具技術の開発をしていました。
そして人間として生まれ変わる理論は完成したのですが、SSSクラスの魔力でも足りないことが分かりまして」
「生まれ変わるということは、元の人間に戻るのとは違うみたいだな。
それでもリッチから人間化の理論を完成させるとは、レギルは天才かもしれんな。
しかし、SSSクラスでも無理か。
やがてカサンドラさんの魔力はSSSクラスより上のクラスまで上がるだろう。
そうなったら協力して貰ったらどうだ?」
「本当に、良いのですか?
私はリッチですよ?」
「隷属の首輪で嘘はつけないようにしているからな。
人間化したら、隷属の首輪を外すことも検討しよう」
「おお、有り難うございます。
この度の戦い、私も参戦します」
「分かった。頑張れよ」
再び、作戦会議。
「……とまあ、レギルとこんな話をしていたんだ。
ん? なぜぽかんとしてるんだ?」
雄介の話を聞いて一同は唖然としていた。
リッチはアンデットの一種とされる。
つまりリッチが人間に戻るとは、一度死んだ人間が生き返るくらい不可能に近い内容なのだ。
生まれ変わりだから不可能ではないのだろうが、それでも皆の常識がひっくり返るような内容だったのである。
「レギルが人間になるんですか!?」
「雄介様、レギルは単なるアンデットの魔物としか考えてなかったですよ」
「一般にリッチは魔道士が更なる魔法の研究のために自らアンデット化したものだ。
人間の寿命では魔法の深奥に至るには足りないことが多いからな。
自らアンデット化するような人間は真っ当な者でないことが多いし、アンデット化することで精神にも影響を受ける。
今回の戦いの相手のリッチは悪魔の指示で動いてるんだ。
一切同情する必要はないぞ。
レギルはどうも人間っぽいリッチだと思っていたら、まさか強制的にリッチにさせられていたとはな」
「雄介さん、リッチから人間に戻る技術があるなんてビックリしましたよ。
それにしても、強制的にリッチ化させるなんて、何て酷いことをするんでしょう」
「120年前の皇帝はスラティナ王国にも一方的な侵略戦争を行った人物だからな。
相当な暴君だったらしいな。
さて、今晩の戦いに話を戻そう。
ゴーレムは2つに分けて、リセナスとクラノスに半分、トゥリアとロベリアに半分を付けるぞ。
レギルは黒王に乗せて遊撃にする。
強力な魔法攻撃ができる者が空から高速移動しながら攻撃したら物凄く役に立つからな。
じゃあ、出発するぞ」
「「「「「はい」」」」」
アンデットの前に行くと雄介の頭にクエストが浮かんだ。
クエスト:上級悪魔討伐・アンデット討伐
獲得勇者ポイント:3856・討伐数次第
「上級悪魔1匹で3856ポイントか。
過去最高だな。
こいつを倒せば10000ポイントだ。
待ってろよ、美鈴」
リセナスとクラノスの戦闘が始まった。
クラノスは高台の上から火炎魔法を付与して次々と矢を射掛けていく。
当然矢はたっぷりと用意している。
ゴーレムがアンデットを近づけないようにし、リセナスはアンデットに飛び込んで次々と切り捨てていた。
クラノスの火炎の矢はCクラスのアンデット・ナイトやBクラスのデュラハンを一撃一殺で倒していた。
集団戦のセオリーは弱い相手から倒していくことだが、一撃で倒せるなら強い奴から倒すべきだ。
クラノスは強化魔法で視力強化を行い、闇夜であったが次々と射抜いていた。
今やクラノスの長距離射撃は500mを超えており、遠距離攻撃の出来ないアンデット・ナイトやデュラハンは次々と倒れていった。
リセナスのスフィンクスアクスが振られるたびに、Dクラスのグール以下のアンデットは2~3匹がバラバラになっていた。
リセナスは盾戦士なのだが、今回は盾を持っていない。
ひたすらにスフィンクスアクスを振り回しているのだ。
スフィンクスアクスはスフィンクスの爪を刃にした大きな斧であり、スフィンクスの強大な魔力が宿っているため、恐るべき切れ味を誇る。
リセナスは斧使いとして円熟の使い手となっており、一瞬も止まることなく斧を振り回し、それはあたかも刃の颶風であった。
刃の制空圏を形成し、自分の間合いに入ったものは何者も切り捨てずにはおかない気迫が溢れていた。
アンデットにとってその姿は死の壁というべきだった。
カサンドラがブルーダインに乗って周囲を旋回する。
スカルドンとリッチを見つけたとたん、ブルーダインがギガフレアを放った。
ブルーダインの口から溢れ出す光は辺り一面を薙ぎ払い、その光を浴びたアンデットはこの世から消滅した。
スカルドンとリッチだけでなく、その周囲のアンデット数十匹がまとめて消し飛んだのである。
生き残ったリッチが次々とライトニングインパクトなどの上級魔法を放つが、カサンドラがリフレクトガードを使えば何の役にも立たなかった。
それどころか、はね返された上級魔法によってアンデットどもが燃やされていくばかりであった。
トゥリアとロベリアは当初、比較的苦戦していた。
トゥリアの攻撃速度はリセナス以上だったが、ロベリアが攻撃魔法が苦手なため、全体の殲滅速度が遅かったためだ。
だが、雄介が念話で指示を出したとたん、状況は一変した。
「(ロベリア、複数人相手に回復魔法を使うやり方でアンデットを攻撃したら良いぞ)」
「(あ、なるほど。
わかりました。)」
ロベリアはゾディアックウォールで身を護りながら、アンデットを相手にホーリーヒールを使った。
ロベリアの周囲10mに渡って回復魔法の美しい緑の光が広がっていく。
回復魔法が届いたとたん、アンデットの身体がバラバラと崩れていく。
ロベリアは2つの魔法を同時に使えるようになっているため、格下相手に自分の身を護るくらいは容易いことだ。
アンデットが密集しているところに飛び込んでは、ホーリーヒールを使い続けた。
ロベリアの回復魔法を前にしては、BクラスのスカルドンとデュラハンやAクラスのリッチであろうと粘土の塊りのように崩れていくのだった。
トゥリアの戦いは冥雷覇双剣を握って剣舞をしているようだった。
冥雷覇双剣は迷宮の18階層で見つかった武器だ。
暗黒属性と風雷属性の魔力を秘めており、優れた使い手が握れば、振るうたびに稲妻がほとばしり、切られた傷はよほど上級の回復魔法でなければ回復は不可能である。
トゥリアと冥雷覇双剣の相性は抜群であり、この双剣を使うようになってから動きのキレは更に上がった。
無数のアンデットを相手にしながら、その攻撃のことごとくを避けながら斬り続け、トゥリアが通り過ぎた後には死屍累々であった。
もっともアンデットは元々死体なのだが。
レギルはダークテンペストに乗って、戦場全体を飛び回っていた。
竜脈の流れる迷宮で120年も生きてきたレギルは並のリッチよりも遥かに強い魔力を持っていた。
クリムゾンフレアやアビスグラビティを連発していく。
1発ごとに100匹近くのアンデットが消し飛んでいく。
ダークテンペストも黒炎魔弾を次々と撃ち出し、アンデットを灰にしていった。
黒炎が圧縮され、マシンガンを連射するように次々と魔弾を撃ち続けていくのだった。
雄介は前回アンデットの大群と戦ったとき、再び戦うときが来ることを予想していた。
だからこそ、1人で大群と効率的に戦う方法を考えていた。
その答えがこれである。
雄介は金剛鉄の太刀を握って、何の構えもなくアンデットの前に立っていた。
2000匹ものアンデットが近づいているというのに、雄介は動かない。
あと数十mまで近づいたとき、雄介は金剛鉄の太刀を下に向けて振りかざし、地面に突き刺した。
金剛鉄の太刀を使って強力な魔力を大地に流し込んだのである。
そのとたん、直径3kmにも及ぶ巨大な魔法陣が出現した。
魔法陣の要所には聖光属性の結界石が埋められていた。
あらかじめ、戦場予想位置に結界石を埋め込め、自分が囮として立っていたのである。
結界石は魔物を近づけない結界を張れるだけで、本来魔物を倒すほどの効果は持っていない。
だが雄介は、魔法陣を使って一斉に多数の結界石の効果を爆発的に引き上げ、数秒で崩壊させた。
つまり一晩かけて消費される結界石を数秒で使い切ったのである。
それは通常の数百倍の効果を持っていた。
直径3kmの魔法陣に入っていた千数百匹のアンデットはその数秒で浄化され消し飛んだのである。
運よく魔法陣に入っておらず生き延びたアンデットは500匹ほどに過ぎなかった。
「数秒で結界石代の金貨40枚(約4000万円)がパーだな。
成功して良かったよ」
「恐るべき手だれだな。
名前を聞こうか」
地獄の底から響いてくるような重く心臓が凍るような声が聞こえた。
魔法陣の中に居ながら、そいつは無傷のようだった。
「滝城雄介。勇者だ。
お前は上級悪魔だな?」
「お前が雄介か。
以前逃げ帰ってきた大型悪魔から話は聞いている。
オレは上級悪魔、暴食のベルゼブブだ」
ベルゼブブは悪魔の君主の1名であり、その名前はハエの王を意味する。
全長3mほどの巨大なハエで、大型悪魔よりも一回り小さいが、全身から放たれる威圧感と魔力は比べ物にならない。
全身は真っ黒で、足が2本、腕が4本あり、4枚の羽を持ち、紅い複眼をしていた。
その醜悪な姿は生理的嫌悪感を抱かせるだろう。
SSクラスとはされているが、実力はSSSクラスに匹敵するモンスターだ。
小国程度なら1匹で滅ぼせるほどの怪物中の怪物である。
「ふむ、7つの大罪に比肩する悪魔か。
お前以外に上級悪魔は6匹居るのか?」
「フッ、今から死んでいくお前には関係のないことだろう」
「よく言った。
証明してみるが良い」
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「ベルゼブブ」です。




