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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第6章 ハッセルト帝国
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第38話 新たなる勇者

○78日目


 榎木秋生(えのき あきお)は苛められっこだった。

小学校でも中学校でも苛められていた。

高校に入ったら何か変わるかもしれないと思っていたのに何も変わらない、いやもっと酷くなった。

苛められる自分を変えたい、それが無理なら自殺してしまいたい、それが榎木秋生の願いだった。

そんな16歳で自殺を考えていた頃、夢の中で老人に出会った。

それから2年、榎木秋生はSSSクラスのプレイヤーになっていた。

老人は榎木秋生の願いを叶えてくれたのだ。

そう、帝国中で歓迎される勇者になることによって。



 ラナ・エマーソンはアメリカ人だ。

中流家庭の娘としてごく普通に生きてきたが13歳の事故が人生を変えてしまった。

交通事故に遭い、下半身不随になったのだ。

常に車椅子での移動になったラナは泣き続けた。

そして14歳のある日、GWOの契約をしたのである。

それから3年、あらゆるケガを癒すという報酬によりラナの下半身不随は治っていた。

下半身不随であったため成長は遅く、3年かかってやっとSSSクラスになったのである。


 ちなみにある程度条件が満たした人しか夢の中で神と会うことは出来ない。

条件とは、①命をかけても叶えたい願いがあること ②悪人(平気で犯罪を犯すような人)ではないことである。

そのため、プレイヤーになれるのはよほどの事情がある人であることが多いのだ。



 カサンドラは11階層へと急いでいた。

今の雄介と古代竜(エンシェントドラゴン)では勝負にならない。

傷はロベリアが回復中だが、疲労困憊しMPが残り少ないのは事実だ。

11階層へと続く階段の前に少年と少女が立っていた。

その2人にはカサンドラは見覚えがあった。

名前までは流石に覚えていないのだが、2~3年ほど前に狭間の世界でチュートリアルをした覚えがある。

プレイヤーなら協力してくれる可能性は高い。


「あの、お久しぶりです。

GWOの最初に会ったカサンドラです。

お願いします、助けて下さい」


「あれ?

カサンドラさん!?

どうしてここに?」


「いまそんな話してる暇はないでしょ。

もう古代竜(エンシェントドラゴン)との戦いは始まっているわ。

助けに行くわよ」


 秋生とエマはルシフェンウイングを使い、高速飛行で古代竜(エンシェントドラゴン)の前に直行した。

幸い、雄介達は皆無事だった。


「オレは榎木秋生、勇者です。

古代竜の相手はオレ達がするっすよ」


「ラナ・エマーソンです。

古代竜程度なら私たちだけで充分だから休んでて」


「滝城雄介だ。

よろしく頼む」


 雄介が後ろに下がると、秋生とラナが前に出た。

秋生とラナの魔力が膨れ上がり、迷宮全体へと広がっていく。

ラナが火炎属性魔法の初歩であるファイアーアローを発動させた。

ただし、数千本に及ぶ数である。

通常のファイアーアローは一般の矢ほどのサイズなのだが、ラナのファイアーアローは1本1本が巨大な槍ほどもあった。

並の魔物ならその1本でも身体を貫かれ息絶えるだろう。


 だが当然、古代竜(エンシェントドラゴン)は並の魔物ではない。

古代竜は闇をもたらす雪嵐ニウィス・テンペスターズ・オプスクランスを使った。

死の氷結を与える吹雪が巻き起こり、嵐となってラナへと吹きすさんだ。

ラナのファイアーアローと古代竜の闇をもたらす雪の嵐がぶつかった。

炎と吹雪が相殺され、次々と消滅していく。


 その魔法合戦は傍から見れば美しいショーのように見えたかもしれない。

だが、雄介の目にはどちらも恐るべき練度の魔法であることが知らされていた。

ラナは数千本のファイアーアローを完全にコントロールし、効果的に相手にダメージを与えられるように調整していた。

また古代竜は数千本のファイアーアローを1本残らず消滅させるように闇をもたらす雪の嵐を調節しているのだ。

どちらも魔法使いとしてのLVは雄介やカサンドラより遥かに上だったのである。


 ふと見ると秋生の姿が消えていた。

古代竜が闇をもたらす雪の嵐を使っている間にテレポートしたのだろう。

秋生が現れた場所は古代竜の上だった。

巨大で壮麗な槍をその手に持ち、古代竜を狙っている。

古代竜は秋生に気付くとすぐさま体勢を変え、その丸太より遥かに大きな尻尾を振り回し、秋生を弾き飛ばそうとした。

しかし、秋生は何のダメージも受けることなく、ぎりぎりに避けると尻尾に槍を振るった。

古代竜の黄金色の鱗をあっさりと切り裂き、骨に達する傷を付ける。

雄介は見抜いていた。

秋生はぎりぎり()避けたのではなく、攻撃を見切ってほんの数cm、ぎりぎり()避けたのだ。

明らかに秋生の体術は雄介より上のLVにあった。


 大型の魔物の動きは大雑把で細い隙があることが多いのだが、古代竜はそうではなかった。

20mに及ぶ巨体でありながら、無駄のない高度な動きを続けていた。

ほんの僅かな動きにまで豊富な戦闘経験に基づいた細やかな神経が行き届いており、一分の隙もないと雄介には感じられていた。

だが、その古代竜の動きを秋生は凌駕していた。

古代竜の攻撃を秋生はかわし、はじき、時には受け止めていた。

そしてラナの魔法によって古代竜に隙ができたとき、秋生の攻撃が直撃していた。

もしくは秋生の行動によって古代竜の動きが止まった瞬間に、ラナの攻撃魔法が直撃していた。


 秋生とラナがほぼ無傷のまま、古代竜は全身から血を流していた。

古代竜は起死回生の一撃として秋生とラナが同じ方向になった瞬間に稲妻を放つユピテルの嵐ヨウース・テンペスターズ・フルグリエンスを使った。

ユピテルとは様々な気象を司り雷をとどろかす古代ローマの神だが、当然ユピテル自身を呼び出した訳ではない。

風雷属性の高位の精霊を呼び出し、暴風を起こして敵の動きを止め、稲妻によって攻撃する非常に高度な竜魔法(ドラゴニスマギカ)である。

まるで竜巻のような暴風が吹き荒れ、秋生とラナの動きが鈍くなる。

その隙を逃さず、1億ボルトに及ぶ雷が秋生とラナを襲った。

写真のフラッシュを数万倍にしたような稲光が周囲を照らし、大地が割れたかと思うような雷鳴が響き渡った。


 今度こそ死んだはずだと古代竜は期待したのだろう。

しかし、その期待は外れた。

秋生とラナは立っていたのだ。

秋生はその巨大な槍で雷を受け止め、エネルギーとして吸収していた。

ラナはエアロガードを2重に使うことで真空を生み出し、雷を遮断していた。

秋生は投げやりの体勢になり、全力で振りかぶった。

全身の筋力を使い、奥の手である雷神無双撃を放った。

音速に匹敵する速度で槍が飛び、古代竜の頭部に突き刺さり、粉砕したのだった。



「まあ、ざっとこんなもんすよ」


「何言ってるんだか。

私のサポートがなかったら危なかったじゃない」


「へ~へ~感謝してるよ」


「感謝してるとはとても思えない態度ね」


「まあまあ。

何はともあれ有り難う。

お陰で助かったよ」


「えっと、榎木君とエマーソンさんだったわね。

助けてくれてありがとう」


「え~っと、カサンドラさん。

秋生のほうで呼んでくれない?」


「私もラナで。

プレイヤー同士なんですから、もう少しフランクにしましょうよ」


「わかったわ。

秋生君とラナさんね」


「じゃあ俺も秋生君とラナさんと呼ぼうか。

俺のことは雄介で良いから」


「雄介さんね。

よろしく」


「あんたね~そこはよろしくお願いしますでしょ」


「え~オレ敬語苦手なの知ってるだろ」


「練習しろって言ってるのに。

まったく、成長しないんだから」


「とにかく、ここは危険だから一旦出ないか?

俺もそろそろテレポートできるだけのMPが回復したし」


「う~ん、まあ、いいっすよ。

助けたんだし、今晩メシおごってくださいよ」


「あはは。

それくらい構わないよ」


「いいんですか?

秋生ってかなり食べますよ」


「ああ、腹いっぱい食べたら良いよ」


「おっしゃ、今日は食うぞぉ」



 雄介達がテレポートでエリスタに戻ってくると、既に夕方になっていた。

雄介は今日の迷宮探索が終わったため、ステータスを確認した。


滝城雄介

LV51

HP:SS MP:SS 筋力:SS 体力:SS 敏捷:SSS 技術:SS 魔力:SS 精神:SS 運のよさ:評価不能


カサンドラ・ディアノ

LV38

HP:A MP:SSS 筋力:D 体力:S 敏捷:S 技術:S 魔力:SSS 精神:SSS 運のよさ:S


盾戦士(シールダー)のリセナス・ペンフィールド

LV:49

HP:S MP:B 筋力:S 体力:S 敏捷:A 技術:A 魔力:B 精神:B 運のよさ:B


双剣士(ツインソード)のトゥリア・カスカベル

LV:51

HP:A MP:B 筋力:S 体力:A 敏捷:S 技術:S 魔力:B 精神:B 運のよさ:B


弓兵(アーチャー)のクラノス・アリケメス

LV:49

HP:B MP:A 筋力:B 体力:A 敏捷:A 技術:S 魔力:A 精神:A 運のよさ:A


司祭(ビショップ)のロベリア・アルベナル

LV:48

HP:C MP:S 筋力:E 体力:B 敏捷:B 技術:A 魔力:SS 精神:S 運のよさ:S



 夕方なので、早速秋生たちお勧めの料理店に向かった。

プレイヤーとしての会話をするため、弟子の4人は別のテーブルに別れて座った。

帝国の料理についてあまり雄介達は知らないため、注文は秋生達に任せることにした。

そうして出てきた料理は、ジャガイモみたいな芋と猪型の魔物の肉を煮込んだシチュー、チーズらしきものを詰めたパイ、黒いインゲン豆みたいなものとソーセージのスープ、ちょっと酸っぱい味のコロッケ、大麦のパンなどだった。

パンを除いてどれも日本では食べたことのない物ばかりだったが、意外に雄介の舌に合うのだった。

秋生が日本人であるためらしく、カサンドラはシチューとパン以外は合わないようだった。


「プレイヤー同士ってことで自己紹介をしようか。

俺は名前で分かると思うけど、日本人だよ。

隣のスラティナ王国で勇者をしてる。

22歳で、GWOを始めてまだ3ヶ月弱だな」


「私はチュートリアル係を辞めてプレイヤーになりました。

イギリス人です。

GWO歴はまだ1月半です」


「ぶww

え? マジ?

3ヶ月とか1月半ってまだ初心者じゃん。

それで迷宮入るとか自殺行為だよ。

っていうか12階層までどうやって進んだの?

まさかパーティの他のメンバーのほうが強いってことはないよね?」


「……あの、本当に2人とも3ヶ月以下なんですか?

感じる魔力はSSクラス程度はありそうなんですが」


「え~そりゃ無茶苦茶だよ。

3ヶ月以下って言えば、普通Bクラス程度だよ。

廃人プレイでもせいぜいAクラスじゃん」


「俺は運のよさ以外は全部SSクラスだよ。

敏捷はSSSだけどね」


「私はステータス平均はSクラスです。

魔力と精神はSSSですよ」


「は?

ありえないっすよ。

Sクラスになるのに1年くらいかかるのは普通だし、SSクラスなら1年半が目安ですかね」


「えっと、LVを聞いても良いですか?

私はGWO歴は3年でLV124で、秋生は2年でLV128です。

私は少し遅い方で、秋生が普通くらいですね」


「2人とも強いなぁって思ってたらLVが2倍以上も違うんだね。

俺はLV51だよ」


「私はLV38です。

あのう、私はLV1の時点で魔力と精神がSSクラスだったんです。

理由はちょっと言えないんですが」


「ちょ~、マジすか。

オレ、LV1のとき魔力0っすよ。

というか、地球の人は皆最初は0だと思ってた」


「3ヶ月以下でLV51ってすっごい速いですよ。

1月半でLV38なら、多分雄介さんに引っ張ってもらったんでしょ。

一体どんなプレイしてるんですか!?」


「どんなプレイと言われてもね……」



次回の投稿は明後日0時となります。

サブタイトルは「招待」です。

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