第37話 SSクラスの魔物
○78日目
ギガンテスを倒して7日が過ぎ、雄介達は12階層に達していた。
ギガンテスの魔石を使った連絡用の魔法具は既に2個完成し、王都のギルドマスターとジェバラナの領主に渡している。
緊急事態が起きればテレポートで直ぐに助けに行くことができるのだ。
今はレギルにステータスアップ系の魔法具を作らせている。
ギガンテス以降にSクラスの魔物を8匹倒し、その魔石で作らせているため完成すれば相当強力な魔法具となるだろう。
迷宮の奥から何かの足音が聞こえた。
だが、雄介がマジックサーチを使っても何の反応もなかった。
いぶかしげに首をかしげる雄介は、何か悪い予感がするのを感じた。
足音がするほど近寄りながら、何の気配も感じなかったのだ。
全員に対し、最大限の警戒を呼びかける。
しかし、雄介達は既に罠にはまり込んでいたのだ。
「無駄ですよ」
完璧な発音の女の声で、だがしかし人間とは思えぬ重々しさで何者かの声が響いた。
今まで経験したことがないほどの規格外の化物が近づいてくることを感じた。
暗闇の中から美しい女の顔が……常人の10倍ほどの顔が現れた。
顔の下にはライオンの前足が見える。
それはスフィンクスだった。
女の顔とライオンの胴体と鷲の翼を持った、全長15mほどのスフィンクスだった。
「ここは私が作り出した亜空間。
ここに入り込んだ以上、貴方たちの死は絶対です」
雄介達は迷宮の12階層に立っていたはずだった。
だが、突然周囲の景色が変わった。
燦燦と輝く太陽の熱気を感じる。
見渡す限りの砂漠に変わっていたのだ。
そのスフィンクスはSSクラス上位の魔物だった。
一切の魔力と気配を隠して迷宮に罠を張り、歩いてきた冒険者を亜空間に閉じ込める。
どこにも隠れるところがなく、動きが鈍くなる砂漠で冒険者を食い殺すのである。
この砂漠も太陽も、スフィンクスが亜空間に作り出した擬似的な物である。
擬似とはいえ太陽を作り出せるだけでも、このスフィンクスの規格外の魔力が分かるだろう。
そして、スフィンクスが作り出したということは、この砂漠にある一切の物はスフィンクスの自由になるということだ。
「まずは小手調べと行きましょう」
太陽の光が強まり、一気に気温が上がった。
砂漠とはいえ異常なほどの高温、おそらくは80℃を超える気温に上がった。
息を吸うだけで肺が焼かれそうな熱気が漂っていた。
「カサンドラさん、全員の周囲にアイスストームを」
カサンドラがアイスストームを発動させ、冷たい空気を全員の周囲に行き渡らせる。
「では、もう1段階上げましょうか」
更に気温が上がり、100℃を超えだした。
地面に落ちた汗が瞬時に沸騰し、砂漠の砂は火にかけたフライパンのように熱くなっていた。
立っているだけでも、足が火傷するのは時間の問題だった。
「黒王とブルーダインに乗って、空から戦う。
カサンドラさんとクラノスは常時氷魔法で全員を護って」
ダークテンペストが黒鷲から黒不死鳥へと変わり、雄介・クラノス・ロベリアが乗った。
クラノスが氷魔法で3人の周囲の気温を下げる。
ブルーダインにはカサンドラ・リセナス・トゥリアが乗り、飛び出した。
それを見て、スフィンクスは愉快そうに笑った。
「これは面白い。
私と空で戦おうとする者は久しぶりですよ」
スフィンクスも翼を広げて空へと飛び出し、空中戦の火蓋が切られた。
ダークテンペストとブルーダインが正確なコンビネーションで飛び回り、スフィンクスを翻弄する。
どうやら速度ではダークテンペストとブルーダインに分があるようである。
ダークテンペストが高速飛行を続け、スフィンクスの背後を取り、黒炎魔弾を撃ち込んだ。
凝縮された黒い炎球が背中からスフィンクスに向かった。
だが、スフィンクスは振り向きもせずに突然地面から砂が固まった壁が立ち上がり、黒炎魔弾を防ぐのだった。
次はブルーダインがスフィンクスとの距離を詰めた。
あと少しとなったところで、空に光が見えた。
いくつもの隕石が空から落ちてきたのだ。
秒速100数十mの隕石が次々とブルーダインに迫る。
ブルーダインが回避しようとしたとき、隕石の向きが変わった。
隕石がブルーダインに向けて追尾行動をしたのだ。
あと少しで直撃すると思われたそのとき、カサンドラのガイアシールドグレートが間に合い、辛うじて防ぐことが出来たのだった。
「隕石攻撃とはな。
どうやらスフィンクスは、この亜空間にある物体を自由に動かせるみたいだ」
「じゃあ、防げないほど強い攻撃をしますよ」
砂の壁によって防がれるならそれ以上の威力で攻撃しようと、カサンドラは自分の最強の魔法を使った。
魔力操作強化、複合魔法発動、ロードインフェルノ&ホーリーカルナシオンを発動した。
直径100mを超える炎の魔法陣が描かれ、それに上に清らかな浄化の光が立ち昇っていく。
魔法陣内の温度はどこまでも上がっていき、10000℃を超える超高熱に至った。
スフィンクスが魔法陣から出ないよう、ダークテンペストとブルーダインが牽制を行う。
スフィンクスの姿が光熱により遮られ白く塗りつぶされた。
骨も残らず燃え尽きたと思われたそのとき、背後から無傷のスフィンクスが現れるのだった。
「中々大した魔法ですね。
これほどの攻撃魔法を見たのは初めてですよ」
「バカな。
絶対に魔法陣から脱出した動きはなかった。
……何か秘密があるはずだ」
雄介がダークテンペストから跳躍し、スフィンクスに向かった。
ジャンプの瞬間、金剛力を発動させ人間の限界を超えた飛躍を見せる。
水晶竜牙の太刀を振りかざし、あと少しで切り裂けるとなったとき、突然スフィンクスの姿が消えた。
そして一瞬後、雄介の背後に現れてその爪で切りつけたのだった。
「くそっテレポートか。
しかもあんな一瞬で発動させるなんて」
「テレポートは発動まで数秒かかるはずなのに。
これじゃ戦いようがないですよ」
「何か方法が有るはずだ。
諦めるな」
「言ったはずです。
私が作った亜空間に入った時点で、貴方たちの死は絶対だと」
それからも雄介達は戦い続けた。
だがリセナスがどれだけ斧を振るおうが、トゥリアがどんなに速く双剣で切りつけようが、クラノスがどれだけ多くの矢を射ようが傷1つ付けることは出来なかった。
雄介やカサンドラがどんな攻撃や魔法を使っても、スフィンクスは守るかテレポートで避けるかして当たらないのだ。
ロベリアは皆が傷つくたびに回復を繰り返していたが、砂漠の環境と理不尽なまでに一方的な戦況に体力気力共に磨り減ってきていた。
雄介達の傷はすべて治っているが、防具はかなり傷だらけだ。
しかし、それでもスフィンクスは無傷なのだった。
雄介達はテレポートで亜空間から出ようとしたこともあった。
だが、亜空間内でのテレポートは可能だが外には出られなかった。
ログアウトは可能なようだが、弟子たちは出られないため、ログアウトは選べなかった。
「おっほっほ。
これほど私を楽しませた者は初めてです。
褒めてあげましょう。
そろそろ決着にしましょうか」
「(雄介さん、何か思いつきました?)」
「(方法はある。
スフィンクスが少しずつ油断してパターンが単純化してきてる。
スフィンクスのテレポート先を予測して、現れた瞬間に攻撃するしかない。
まだ神移は使ってないからな。
トップスピードを知られて警戒されたらもう勝ち目はないだろう)」
「(では、テレポートするように追い込むのは私たちがやります)」
クラノスがブラインドハイディングを付与して見えなくなった矢を次々と射かけた。
だが、スフィンクスは空気の変化を感知して矢を避けていく。
そこへカサンドラはクリムゾンフレアとアイシクルディザスターを同時に発動させ、スフィンクスの周囲150mを攻撃範囲として包み込んだ。
スフィンクスがテレポートを使用せざるを得ない状況になった瞬間、雄介は神移を使った。
スフィンクスの出現場所を過去の動きからシュミレートし、最も可能性の高い場所を予測し移動したのだ。
リセナスとトゥリアが韋駄天を使い、それぞれ2番目3番目に可能性の高い場所に移動した。
そしてテレポートしたスフィンクスは、雄介の位置から右に6mの位置に現れた。
雄介はブラッドブレイクを使い、6m先のスフィンクス目掛けて三日月状の漆黒の斬撃を飛ばした。
流石のスフィンクスもテレポートの直後に再びテレポートは出来ず、斬撃が直撃し片翼を斬り飛ばしたのだった。
スフィンクスはこの戦闘で初の攻撃を受け、ほんの1~2秒の動揺を起こした。
ほんの僅かな時間だが、その1~2秒が生死を分けた。
ダークテンペストが黒炎魔弾を撃ち込み、ブルーダインがギガフレアを放った。
雄介は黒炎魔弾とギガフレアが自分にも当たるのも覚悟の上で神移を使い、スフィンクスに密着ししがみついた。
雄介の金剛力で締め付けられたスフィンクスの動きは鈍く、黒炎魔弾とギガフレアが直撃した。
無属性のブレスであるギガフレアにより雄介の全身は血まみれだが、スフィンクスを締め付ける力が緩むことはなかった。
スフィンクスは雄介ごとテレポートを使い逃げ出そうとするが、雄介も時空魔法の使い手であり、テレポートの発動を阻害した。
リセナスとトゥリアが韋駄天を使い、距離を詰める。
2人の乾坤一擲の一撃がスフィンクスに決まった。
致命傷には至らないまでも相当に弱まっているのが感じられた。
「カサンドラさん、やってくれ」
「……わかりました」
カサンドラはロードインフェルノを使い、雄介ごとスフィンクスを地獄を思わせる業火で焼き始めた。
直径100m、高さ300mの巨大ビルを思わせる炎の円柱が立ち上った。
すると、どこからともなく黒雲が現れ、土砂降りの雨が降り出した。
スフィンクスが起こしたものだろう。
だが、土砂降りの雨を持ってしてもロードインフェルノをある程度弱らせただけで消すことは出来なかった。
ロードインフェルノを見てロベリアが驚倒し、カサンドラに食ってかかる。
「雄介様ごと攻撃するなんて、何を考えているんですか!」
「雄介さんなら大丈夫よ。
しばらく待って居たら良いから」
「いくら雄介様でもこんな炎の中じゃ助かるはずが……」
それから数分後、雨足が弱まり止んだ瞬間、周囲の亜空間が歪んでいき、元の迷宮の12階層に戻ってきた。
カサンドラがすぐに炎を消すと、水晶竜牙の太刀を杖にして立っている雄介が現れた……右手に巨大な魔石を持って。
「雄介さん!」
「雄介様!」
「心配をかけてごめんね。
最後までスフィンクスはしぶとかったし、念話を使う余裕もなかったよ」
「うぅ、雄介さまぁ~良かったぁ。
私、わたし……うわ~ん」
ロベリアは泣き崩れた。
カサンドラは大丈夫だとは言ってはいたが、胸を撫で下ろしていた。
リセナス・トゥリア・クラノスもほっとしていた。
「流石にもうボロボロだね。
さあ、帰ろうか。
……え?」
雄介は恐ろしく強大な魔力を感知したのだ。
その魔力はスフィンクスと勝るとも劣らない、明らかにSSクラスかそれ以上を示すものだった。
いま雄介達は満身創痍であり、MPもほぼ切れかけである。
しばらく休憩しなければ、6人全員がテレポートで戻れるかどうかも危ないほどであった。
「全員、全力で警戒。
隙を見て撤退する」
迷宮の奥には黄金に輝く古代竜が居た。
古代竜は数千年の昔から生き続けたドラゴンである。
生きた伝説であり、人間以上の知能と上級悪魔並みの魔力、そして竜魔法と呼ばれる竜族特有の魔法を使いこなす。
何より恐ろしいのは幾千年に及ぶ比類なき戦闘経験を持っていることであり、SSクラス上位に位置する魔物である。
全長約20m、黄金色の鱗と漆黒の瞳を持ち、2枚の翼と5本の角を持っている。
「あれは……古代竜!
あまりにも危険過ぎます。
テレポートが難しいなら、直ぐに11階層へ逃げましょう」
「いや、11階層側にも規格外の魔力を感じるんだ。
おそらく、人間のはずだ。
俺が古代竜の足止めをする。
カサンドラさんは11階層側の誰かと交渉してくれ」
「へえ、こんな程度の階層で古代竜なんて珍しいな」
「そうね。
それにあの6人、相当疲労してるわ。
助けたほうが良さそうね」
迷宮の11階層側には10代後半の少年と少女が立っていた。
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「新たなる勇者」です。




