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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第6章 ハッセルト帝国
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第35話 迷宮 (1)

○67日目


 迷宮内は岩壁が掘られており、迷宮造り(ダンジョンメイカー)によって硬質化しているらしくそう簡単には崩れないようだった。

それでも強力な爆発系の魔法は使えないだろう。

入り口の光が届かなくなるにつれて暗くなってきたので、フレイムを常時展開することで明かりを確保した。

今の雄介やカサンドラにとって、その程度のことは何の負担にもならなくなっていた。



 雄介達は1階層を進んでいた。

キメラ以降も次々と魔物は襲ってきた。

まず現れたのはウッドゴーレムが12匹だった。

ウッドゴーレムは木製の自動人形であり、魔法使い系の魔物によって作成される。

作成者の命令には絶対服従であり、侵入者の排除が命じられているようであった。

知能は低く、命令者が傍に居なければ単純な命令しか行うことができない。

一般に大きな物ほど強力な力を持つが、今回のウッドゴーレムは身長2m前後で標準的な大きさと言えた。

それでも人間の数倍の力を持っており、Cクラスの強さであった。

この程度の敵なら雄介達の敵ではなく、弟子たちだけで余裕を持って対処できたのである。

リセナスが魔斧ロードオブアックスで叩き割っていき、薪にしていた。

トゥリアは回避と攻撃が直結した攻防一体の動きでカウンターを取っている。

クラノスは矢に火炎魔法を付与(エンチャント)して射立てていた。

ロベリアは最近覚えた聖光属性下級魔法のフォトンショートでウッドゴーレムをバラバラに砕いていた。



 次に襲ってきたのはスライム6匹だった。

スライムといえば雑魚モンスターの代名詞のように使われるが、現れたのは異常成長した5mほどの巨大スライムだった。

毒や酸を使い、その身体に飲み込まれると毒で動けなくなり、骨も残らず溶かされる凶悪な魔物である。

打撃攻撃ではほとんどダメージは与えられず、斬撃や刺突のダメージも少ないため魔法攻撃で戦うことがセオリーだ。

不思議なことに6匹それぞれ色が異なっていた。

小さなスライムならEクラスだが、これほどの大きさならCクラスだろう。


 クラノスが火炎の矢を射掛けると赤いスライムが身体を伸ばし、その矢にぶつかった。

スライムは何らダメージを受けた様子がなく、クラノスは今度は氷結魔法を付与した矢を射た。

すると今度は青いスライムが体型を変え、赤いスライムを庇ったのだった。


「バカな。スライムがお互いをカバーするなんて」


「色の違いでそれぞれの属性への耐性を持っているみたいね」


「かなりの知能を持っているようです。

僕はこんなスライムを見たのは初めてですよ」


「……考えが有ります。

孤立したスライムを攻撃して下さいね」


 ロベリアはスライムの中に突撃すると、赤いスライムと他のスライムとの間にゾディアックウォールを使った。


「今です!」


 クラノスが氷結の矢を射ると、青いスライムはゾディアックウォールに阻まれ近づくことができず、赤いスライムを凍りつかせることに成功したのだった。

後は火炎の矢を防ぐ手段を失ったスライム5匹を焼き尽くすだけであった。


「ロベリア、今のは良いアイディアだったね。

ただし、スライムの中に突撃するのは危険だぞ。

ある程度遠距離からゾディアックウォールを張れるよう練習しておくようにな」


「あ、遠くから張れたら危険はなかったですね。

雄介様、練習頑張りますね」


「ああ、頼むよ。

それからカサンドラさん、そろそろシルフィードソナー使ってみてよ」


「そうですね。

念のため調べてみます」


 カサンドラがシルフィードソナーを発動させると、1階層は地図の通りで特に変化はなかった。


「あ、あと50mほど先で右に曲がると何かアイテムがあるみたいですよ」


「初アイテムだね。

注意しつつ行ってみよう」


 曲がり角に来ると、前のほうに地面がぽっこりと盛り上がっていた。


「あれがアイテムね♪」


 トゥリアが取りに行こうとすると、突然クラノスが大声を上げた。


「トゥリアさん、ダメです。罠だらけです!」


「え? 罠!?」


「あのアイテムの周囲8ヶ所に落とし穴が有りますよ。

落ちたら槍状の底で串刺しでしょうね。

大地の精霊が教えてくれました」


「危なかったな。

クラノス、アイテムは取れそうか?」


「ええ、罠の場所が分かれば大丈夫です。

罠の扱いは慣れてますから」


 クラノスは森の中のエルフの里で100年以上生きてきたため、罠の設置も解除もお手の物だった。

落とし穴を避けて地面の盛り上がりをナイフで切り裂くと、中からプラチナヘルムが現れた。


「なかなか良さそうなプラチナヘルムですよ。

おそらくこの迷宮で亡くなった冒険者が使っていた物でしょう。

ただし竜脈の影響で魔力が宿っていて、元の品よりずっと防具としてのランクは上がっているみたいですね」


「ちょっと見せてくれないか。

ふむ、市販品より相当堅固な兜になってるな。

クラノスには重いだろう。

リセナスに合いそうだが、どうかな?」


「わしですか?

おお、頭に合わせて大きさが変化しましたね。

凄い。ぴったりです」


「よし。

じゃあリセナスが使うことにしよう」


 迷宮で亡くなった冒険者の武具は人型の魔物が拾って使うこともあれば、迷宮造り(ダンジョンメイカー)によって罠のおびき寄せに使われることもある。

迷宮は竜脈の影響で高純度の魔力が満ちているため、迷宮の武具は魔法を付与(エンチャント)されたのと同様の状態になり、特別な能力を持つことが多いのである。

そのため、今回のプラチナヘルムは硬度が上昇し、持ち主に合わせて大きさが変わる能力を持っていたのだ。

ちなみに下層の品はそれだけ長期間魔力にさらされるため、高級な品に変化していることが多い。



 それからも激戦の連続だった。

Bクラスのグレムリン4匹、Cクラスのガメゴン8匹、Bクラスのストーンゴーレム7匹、Cクラスのヘルジャッカル12匹などが現れたのだった。

そしてようやく、2階層への階段にたどり着いた。

ここで雄介が今日の迷宮探索の終了を指示した。


「今日これ以上進むのは辞めた方が良いな。

テレポートで戻るぞ。

この地点のことは覚えたし、明日はここまでテレポートで来よう」


「ふう、初日から大変でしたね。

しかし、雄介殿のテレポートは本当に便利ですな」


「そうね。

テレポートなしでは迷宮の深層にたどり着くのはほとんど無理だわ」


「迷宮の敵は強いですよ。

ストーンゴーレムの堅さは竜狩りの大弓でなければ矢が刺さらなかったでしょう」


「回復魔法もかなり使いましたね」


 雄介とカサンドラのテレポートで迷宮の出口に戻ると、ステータスを確認した。


滝城雄介

LV46

HP:SS MP:S 筋力:SS 体力:SS 敏捷:SS 技術:SS 魔力:SS 精神:S 運のよさ:評価不能


カサンドラ・ディアノ

LV30

HP:A MP:SS 筋力:D 体力:S 敏捷:S 技術:A 魔力:SS 精神:SS 運のよさ:S


盾戦士(シールダー)のリセナス・ペンフィールド

LV:39

HP:A MP:B 筋力:S 体力:A 敏捷:B 技術:A 魔力:B 精神:B 運のよさ:C


双剣士(ツインソード)のトゥリア・カスカベル

LV:43

HP:A MP:C 筋力:A 体力:A 敏捷:S 技術:S 魔力:B 精神:C 運のよさ:B


弓兵(アーチャー)のクラノス・アリケメス

LV:39

HP:B MP:A 筋力:B 体力:B 敏捷:A 技術:S 魔力:A 精神:B 運のよさ:B


司祭(ビショップ)のロベリア・アルベナル

LV:38

HP:C MP:S 筋力:E 体力:B 敏捷:C 技術:B 魔力:S 精神:S 運のよさ:B



「今日1日で、俺はLV1UPで魔力がSSに、カサンドラさんが1UPでHPがAに上がったんだな。

そしてリセナスが1UPでMPがBに、運のよさがCに上がり、トゥリアが1UPで魔力がBに、クラノスが1UPでMPがAに、ロベリアは2UPで体力がBと技術がBに上がってるな。

1日の結果としては相当なものだね」


「迷宮はLVUPが速そうですな。

魔石は取れましたか?」


「魔物の遺骸を亜空間から出すから、解体は男連中でやってしまおう。

女性陣は休んでいて構わないよ」


 雄介達が魔物の解体をすると、心臓付近から魔石を見つけることができた。

魔石は黒曜石のような黒光りする石であった。

また、討伐確認部位を切り取ったのである。


「キメラの魔石が1番大きいな。

握りこぶしくらいあるぞ。

じゃあ、半分は迷宮管理局に持っていこう」



 迷宮管理局の受付嬢に渡すと、驚いて言った。


「これは大きな魔石ですね!

Aクラスの魔物ではありませんか?」


「いや、Bクラスのキメラだったけど、強さはAクラス相当だと思ったよ。

入り口傍であれだけ強い魔物が居たら危険じゃないかな」


「入り口付近にAクラス相当のキメラですか。

よく無事でしたね。

最近そういう事例がたまに有るんですよ。

下層にいるはずの魔物が突発的に上層に上がってくるんです」


「(そんな魔物に出くわしたのは不運補正だろうな。

最近、どこぞの少年探偵並みに事件に出くわすような……)

はあ、そうなんですか」


「ええ、他の冒険者にも注意を呼びかけておきますね」


「そうですね。

その方が良いでしょう。

ところで、魔法具はどこで買えるんですか?」


「管理局を出て左手側に徒歩5分ほどに魔法具専門店が有りますよ。

そこで魔石の買取もやっています」


「あ、近いんですね。

それは良かった。

それではまた」

 

 雄介は管理局での用事を終えると魔法具専門店に向かった。

3階建ての立派な建物で、1階が店舗で2~3階が工房になっているようだった。

店舗には魔力が宿った見たことが無い道具が所狭しと並んでいた。

入り口近くには比較的安い物が、奥のほうには高価な品が並べられていた。

その比較的安い物でも、銀貨10枚(約10万円)は超えている物が多かったのである。

店の主人は親しみやすそうな笑顔を浮かべた壮年の男性であったが、その目には商売人らしい物見高さが現れていた。


「あの~すみません。

1000km以上の遠方と連絡が取れるような魔法具は無いでしょうか?」


「1000km以上かい?

遠方と会話するための魔法具はあるがな、今ここにあるのは100km程度の品だね。

それ以上となると、軍隊用になるからどの店でも売ってないよ」


「魔石はこちらで用意しますから、特注で作ってもらうことは出来ませんか?」


「あんたら、この国の者じゃなさそうだね。

流石に他国の者にそんな魔法具を作るわけには行かないよ」


 経験豊富な商人にかかっては、外国人かそうでないかは見た目や雰囲気などであっさり見破られていたのである。


「仕方ないですね。

では、これを見てもらえますか?」


 雄介はスラティナ王国の王印が押された勇者認定書とハッセルト帝国皇帝の印が押された入国許可証を見せた。

すると、店の主人の顔色が一変した。

顔色をなくしていながらも、主人は毅然として言い放った。


「勇者様とは知らず、これは失礼を致しました。

しかし……帝国とスラティナ王国は休戦中の間柄です。

勇者様でしたら、おそらくはスラティナ王国で最大の戦力を持たれているのでしょう。

申し訳ありませんが、スラティナ王国の勇者様には売ることはできません」


 雄介は己の失策を理解した。

勇者という立場を明らかにすれば交渉を有利に進められると思っていたが、完全に逆効果であった。

スラティナ王国とハッセルト帝国は過去3回も戦争をした間柄だとは知ってはいたが、実感が伴っていなかったが故の失敗であろう。

ハッセルト帝国の民から見れば、スラティナ王国の勇者に魔法具を売ることは利敵行為と見なされるのであった。

魔法具店同士の横の繋がりが有るのだから、エリスタ中のどこの魔法具店でも雄介に強力な魔法具を売る店はないだろう。

低級の魔法具程度なら金額次第で売るかもしれないが、それは雄介の求める品ではないのだった。


「……分かりました。

そういうことでしたら、無理に売ってもらうことは出来ませんね。

しかるべき人に交渉することにします」



次回の投稿は明後日0時となります。

サブタイトルは「迷宮 (2)」です。

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