第4話 幻獣の誕生
○1日目
雄介が次のページを開くと、古今東西の幻獣がずらりと載っていた。
概数を見れば、ざっと数百種類あった。
コカトリス・ユニコーン・ケルベロス・バジリスク・グリフォン・タイタン・スレイプニル・白虎・玄武・朱雀・青竜……などが並んでいた。
雄介が聞いたことが無いような名前もあり、ドラゴンだけでも色違いに10種類以上あった。
カサンドラは幻獣の説明を始めた。
「プレイヤーは1人1体の幻獣とパートナー契約を結びことが出来ます。
言うまでも無く、これには非常に多くの利点が有るんですよ。
死んだ幻獣の魂を元にプレイヤーの血を触媒にして再生させることで、絶対に裏切ることのない僕になります。
平たく言えば、本来死んでいた幻獣が、プレイヤーから命を貰って改めて誕生するってことですね」
「おー、それは凄いね。
無料で貰えるの?」
「そうですよ。
幻獣はある意味では自分の一部であり、精神を繋げることで極めて高度なコンビネーションが使えます。
また、幻獣の加護によってプレイヤーにはステータスアップの効果が有ります。
幻獣はプレイヤーの成長と共に強くなり、最終的には最強クラスの魔物と同等まで強くなります。
勿論、生まれたばかりは弱いですからね。
幻獣は肉体的損傷によって仮死状態になってもプレイヤーが生きている限り再生することが可能です。
プレイヤーが生きている限り、不死身ということですね」
「それは、プレイヤーが死んだら幻獣も死ぬってことかな?」
「ええ、そうなります」
「不死身といっても、怪我が治るには時間がかかるんだよね?」
「そうですね」
「メリットは分かったけど、デメリットは有るの?」
「幻獣のパートナーは1体しか出来ず、一度決めたら変更できないこと。
パートナーにするには、ある程度の血液が必要なこと。
ヒールをかけますから、一晩寝れば回復する程度です。
幻獣によっては加護がマイナスの意味を持つ場合が有ります。
例えば、イフリートの加護は筋力上昇大と火属性強耐性がメリットなのですが、敏捷低下小と水冷属性耐性低下中がデメリットになります。
トータル的には加護はプラスになるはずですけどね」
「自分のタイプに合わせた幻獣を選ぶのが大事ってことだね。
それ以外のデメリットはあまり大きくなさそうだな。
これはもう貰わない手はないね」
「そういうことですね。
雄介さん、他に聞きたいことは有りますか?」
「そうだなあ。
今までのプレイヤーが1番多く選んだ幻獣って何かな?」
「うーん、他のプレイヤーの個人情報は教えられませんけど、それくらいなら良いですよ。
というか、良く聞かれる質問ですし。
やっぱりドラゴンが多いですよ。
弱点のないバランスの良い強さをしていますし、有名ですからね」
「ドラゴンか、なるほど。
じゃあ、ドラゴンを基準に、より良いものを探すね」
雄介は幻獣一覧から条件に合うものを選び出し、メモを取り始めた。
数百種類の幻獣を順番に一つ一つ検討していく。
そうして30種類ほどの幻獣が選ばれた。
それを見たカサンドラが声をかけた。
「どれもトップクラスの幻獣を抜き出しましたね。
これならどれを選んでもハズレはないと思いますよ。
ただ、この黒不死鳥は避けた方が良いかもしれませんね」
「ふ~む、どうしてかな?
黒不死鳥は不死鳥の亜種で不死鳥より更に一ランク上のステータスだよ?」
「強さは申し分ないのですが、黒不死鳥の加護は非常にアンバランスですから。
いわゆるピーキーな強さになりやすいので、デスゲームであるゴッズ・ワールド・オンラインでは避けた方が無難ですよ。
バランスの良いドラゴンとは対極ですね」
「うーむ、筋力上昇中・体力上昇大・敏捷上昇大・魔力上昇中・暗黒属性強耐性・火炎属性強耐性は凄く美味しいけど、運のよさ低下大・聖光属性耐性低下大・水冷属性耐性低下大が付いてくるんだよね。
低下大が3つも有るなんて、幻獣一覧の中でこいつだけだよ。
でもさ、これだけ運が悪かったら更に下がっても変わらないんじゃないかな」
「運の悪さを上手くカバーする戦い方が確立できたら、有効かもしれませんね。
でも、そんな方法ってあるのかしら」
「戦い方だけじゃなく、日常生活から気を付けないといけないね。
世界一の不運者って、歩いてるだけで隕石が落ちてきて死ぬんじゃないかって気がするんだけど、流石にそれはないかな?」
「雄介さん、ステータスの運のよさは戦闘運に限るんですよ。
だから日常生活の運勢はまた別です。
(とはいえ、雄介さんの日常の運勢も良さそうに思えませんが)」
「戦闘運?
どういうこと?」
「運にも色々あるでしょう。
金銭運・恋愛運・病気の運・友人との出会いの運というようにね。
その一つが戦闘運です。
こちらの世界で、戦闘に関する、強敵と出会わなかったり、状態異常魔法にかかりにくかったり、相手から逃げやすかったりという運のよさをステータスでは表しているんですよ」
「そっか、そうだったんだ。
なるほどね、世界一の不運者だったら22歳まで生きられないんじゃないかって気になってたんだ。
さて、ということは……強敵と出会っても倒せるように、状態異常魔法を使わせないように、相手から逃げなくても問題ないようになれば良いってことだね」
「確かにそうですけど、それって物凄く大変ですよ。
ボスクラスの魔物ってほんっとに強いですからね。
死んだらそこで終わりなんですから。
格上の魔物とは如何に出会わないように、出会ってしまったら逃げられるように冒険するかが本来大事なんですよ」
「それは、そうだろうなあ。
でも運の悪さは変えられないんだから仕方ないよ。
となると、ボスでも倒せるように幻獣はバランス型よりピーキーでもツボにはまれば最強って奴が良いね。
うん、黒不死鳥で行こうと思う」
「そうですねぇ、黒不死鳥ですか。
心配ですけれど……分かりました。
幻獣の誕生はあの場所でやりますので付いて来て下さい」
雄介はカサンドラの後を付いて行った。
10分ほど歩くと、直径8mほどの魔法陣がある場所に着くのだった。
「魔力を通しますね」
カサンドラは魔法陣の前に立つと、雰囲気が変わった。
風がないのに髪がふわふわと動き、薄く光を放っている。
そして、魔法陣までが光りだしたのだった。
「雄介さん、ナイフ渡しますね。
これから魔法陣の中央に黒不死鳥の魂を召喚します。
私が合図をしたら、自分の血を魂にかけてください。
量はコップ一杯くらいで良いです。
終わったら魔法陣の外に出てください。
傷はヒールで直ぐ治しますし、血は一晩で再生できるので安心して下さい。
自分で傷つけるって出来そうですか?」
「やるよ。
これが出来なきゃ魔物と戦うのも厳しいからね。
血は、多くても意味は無いの?」
「う~ん、幻獣の初期ステータスには影響するんですけれど、成長したら変わらないんですよね。
だから、お勧めしません」
「ふむふむ、幻獣の初期ステータスの増加よりも俺が血液不足で動けない方が不利だね。
分かったよ。
じゃあ、召喚を始めていいよ」
カサンドラは雄介のため、全力を尽して黒不死鳥の魂の召喚を始めた。
基本的には魔力の30%も使えば通常個体の幻獣の召喚が出来る彼女だったが、今回は黒不死鳥の中でも最上級の個体を引き寄せようと魔力を全開まで振り絞るのだった。
魔法陣の中央に赤黒い光が放たれる。
人間の目には赤黒い光を放つ黒い塊りとしか見えない物が、黒不死鳥の魂だった。
黒不死鳥は地球ともGWOの世界とも異なる世界である魔界の存在である。
魔界の黒炎の中に住む黒不死鳥にも群れがあり、長が居る。
死してもまた蘇る不死鳥の亜種であるが、長の長、王とでも言うべき個体が死んだ瞬間に召喚の力が働き魔法陣の上に呼び出された。
我が道を行き、人の指図を受けないからこそ王なのであり、本来なら召喚に素直に従うはずもない。
死んだ瞬間だからこそ召喚できたのであり、数分遅れて蘇りが始まっていたら召喚は失敗していただろう。
「マジかよ。
黒不死鳥ってここまで凄い力を持ってるのか。
近づくのを体が拒否してるんだが」
ガタガタと雄介の体が震える。
人間とは存在の格が異なると言って良い上位存在を目にし、雄介は萎縮していた。
その時、カサンドラが叫んだ。
「雄介さん、今です。
急いでください。
長くは抑えていられません」
雄介は勇気を振り絞り、一歩また一歩と近づいていく。
歯の根が合わず、ガタガタと震えてしまうが、それでも足が止まることは無かった。
黒い光を放つ大きな塊りの前に立ち、ナイフを振り上げる。
勢いをつけて左手首を切り、溢れる血を振り掛けたのだ。
その瞬間、大きな加護の力が流れ込んでくるのを感じ、雄介は気を失うのだった。
雄介が目覚めたのは翌日だった。
雄介にとっては知らない天井、カサンドラの家に寝かされていた。
左手を見ると、傷は跡形もなく消えているのが分かった。
雄介が寝室から出ると、カサンドラが朝食を作っていた。
「おはようございます、雄介さん」
「カサンドラさん、おはよう。
無茶苦茶に体が軽いんだけど、これって加護の力だよね?
黒不死鳥ってどこに居るの?」
「散歩に行くとか言ってどこかに飛んでいってしまいました。
雄介さん、念話で呼べません?」
「えーっと、どうやったら呼べるのかな?」
「契約で繋がってますから、相手のことを思い浮かべて、感謝を込めて呼びかければ良いですよ」
「ちょっと恥ずかしいけれど、やってみるね。
(もしもし、黒不死鳥聞こえますか?)」
「(雄介よ、目覚めおったか。
余と契約した者でありながら、ひ弱にもほどがあるぞ。
余が加護の力を加減しなければ死んでおったであろうが)」
「(え、いきなり俺叱られてるし。
加護の力を加減しなければ死んでるってマジか。
幻獣との契約って俺の方が立場上じゃないの?)」
「(契約上は汝の立場が上だ。
しかし、余が圧倒的に力が上だからの。
汝に協力はしてやるが、命令できると思うでないぞ。
勘違いしてはならんぞ)」
「(なるほど、そういうことか。
協力してくれるなら充分だよ。
有り難う)」
「(契約した幻獣に頭を下げるとは珍しい奴だな。
ふむ、気に入ったぞ。
余のことはダークテンペストと呼ぶが良い)」
「(ダークテンペストか、よろしくな。
ところで、散歩から戻ってきてくれないか?)」
「(ふん、家の外に出てみるが良い。
既に戻っておるわ)」
「カサンドラさん、黒不死鳥は家の外に戻ってるってさ。
あと、名前はダークテンペストだって」
「あら、自分で名乗ったんですか、珍しい。
普通は契約した幻獣の名前はプレイヤーが付けるんですよ」
「自分のこと余とか呼んでるし、命令されるのは嫌らしい。
命名されたら明らかに自分が下になってしまうしね。
王様なのかな?」
「黒不死鳥の国が有る訳じゃないみたいですから国王とは違いますが、幾多の群れをまとめて王様と呼ばれていたそうですよ」
「そうなんだ。
じゃあ、待たせるのは悪いし、外に出ようか」
2人が屋外に出ると、ダークテンペストが待っていた。
雄介は一目見て、唖然としてしまった。
ダークテンペストの翼長は10mを超えており、雄介の想像よりも遥か大きな姿であった。
火の鳥を漆黒に染め上げたような姿であった。
至高の黒真珠のような瞳、超一流の彫刻家が黒曜石によって創り上げたような美麗な体をしていた。
「来たか、雄介よ。
余が黒不死鳥王、ダークテンペストである。
契約に基づき汝に助力するが、余の契約者として相応しくない行いをすれば、即刻黒炎によって焼き尽くされると思え。
自己の死を覚悟すれば、契約の楔は打ち破ることができる。
余は不死鳥、死してもまた蘇るのだからな」
ダークテンペストの宣言を聴き、雄介は威圧されていた。
LV1の自分とダークテンペストの差は、スライムとドラゴンの差に等しいと感じた。
恐怖により跪きそうになったとき、それは「余の契約者として相応しくない行い」であることに気が付いた。
ダークテンペストは雄介を試しているのだ。
雄介は自分がどう行動すべきなのか黙考した。
そして、雄介は決断し、胸を張って宣言した。
「ダークテンペストよ。
俺がお前の契約者、滝城雄介だ。
確かに今の俺はひ弱なのかもしれない。
だが、俺は強くなるために、お前の契約者に相応しい者になるために全力を尽す。
俺と共に戦ってほしい」
「ふむ、この余の前で堂々と話せる人間は久しぶりだ。
目に力があるではないか。
良いだろう。
汝の命が尽きるまで、余が汝を支えてやろう」
万一ダークテンペストが雄介に攻撃をしかければ、死力を尽して止めようとしていたカサンドラは、胸を撫で下ろしたのだった。
その後雄介とカサンドラは朝食を取りながら、ダークテンペストと今後のことを話し合った。
「雄介よ、汝の目的を果たすには強くなることが絶対条件だ。
チュートリアルが終われば、余が汝を鍛えてやろう」
「じゃあ、チュートリアルの続きですね。
幻獣の加護によってステータスも変わってるはずですし、まずはそれを確認しましょうか」
雄介がチュートリアルの本を持ち、「ステータス」と唱えると、表示が更新された。
2人と1匹がその内容を見て目をみはった。
滝城雄介
LV:1
年齢:22
職業:無職
HP:585 (C)
MP:198 (E)
筋力:81 (D)
体力:141 (C)
敏捷:134 (C)
技術:12 (E)
魔力:50 (E)
精神:24 (E)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:20
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳
魔法:なし
装備:綿の服
所持勇者ポイント:0
累計勇者ポイント:0
「運のよさ:-999 (評価不能)・三千世界一の不運者って何?
あと、水冷属性至弱・聖光属性至弱って凄い不安なんだけど」
「まあまあ、火炎属性絶対耐性・暗黒属性絶対耐性は本当に良いですから元気出して下さい。
黒不死鳥王の加護って黒不死鳥の加護より相当凄いみたいですね。
……良い点も悪い点も」
「余の数万年の生涯でも、運のよさ:-999は見た事も聞いた事もないのう。
これはよほど気を付けて鍛えねばならんな」
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「魔法の取得」です。
ファンタジーと言ったらやはり魔法ですね。