第33話 ハッセルト帝国へ
○61日目
雄介達は王都の自宅に着いた。
弟子たちは雄介の自宅に入るのは初めてである。
あらかじめ準備を頼んでいたので、ティアナとアルジェが手間暇掛けて宴会の準備を進めていた。
ティアナとアルジェはそれなりに料理が出来るのだが、ルカはあまり料理が得意でないためそれ以外の用事を担当していた。
扉を開けると台所から美味しそうな匂いが漂ってきた。
扉の音を聞いて、ルカが出てきた。
「お帰りなさいにゃ。
お客様、いらっしゃいませにゃ」
「ただいま~」
「ただいま帰りました」
「失礼します」
「お邪魔するわね」
「お邪魔します」
「失礼しますね。
ここが雄介様の自宅なんですね」
台所からティアナとアルジェが出てきた。
アルジェはリハビリは終わり、現在仕事を探し中である。
今は雄介が養っている状態だ。
「雄介の弟子たちやね。
いらっしゃい。
雄介、カサンドラ、お疲れ様」
「皆さん、いらっしゃい。
もうすぐ出来上がるからダイニングルームで待っていて下さいね」
料理が出来あがり、皆がダイニングルームでテーブルを囲むと当然のように雄介に質問があった。
「雄介殿、カサンドラ殿以外にも女性が3人おられるようだが、どういった関係なのですかな?」
「カサンドラさんと付き合ってるとは聴いたけど、他の人の話は聞いてないわよ」
「まあ、雄介さんの個人の自由なのでしょうが、皆さんエルフの女性と比べても遜色ないほどの美人ですね」
「雄介様、まさかとは思うのですが……」
4人とも微妙な目線を雄介に向けていた。
カサンドラは何も言わず雄介を見つめていたが、内心はドキドキであった。
「黒王、人間の姿になってくれ」
「うむ」
ダークテンペストが黒鷲から人間の姿に変化した。
弟子たちは黒鷲の姿と黒不死鳥の姿は知っていたが、人の姿は見たことはなかった。
雄介が時期が来るまで見せないよう指示していたのである。
絶世の美女となったダークテンペストを見て、4人とも目を丸くしていた。
「これが余のもう1つの姿である。
今まで見せず、すまなかったのう」
雄介は落ち着き払って説明をする。
いや、落ち着いて見えるが心臓が早鐘を打っていた。
「じゃあ、全員そろったから紹介するよ。
ティアナは最初に出来た彼女で婚約者の1人だよ。
アルジェさんはティアナの姉だから将来の義姉だね。
ルカは俺の従者で婚約者の1人だ。
黒王は俺のパートナーで婚約者の1人だよ。
カサンドラさんは彼女だね。
全員、俺にとって命をかけて護るべき大切な人たちだ。
あとここに居ないけれど、入院中の妹も大切な家族だ」
婚約者と紹介されティアナは喜色満面の顔をし、アルジェは仕方ないかと言いたげな表情をしていた。
ルカは飛び上がらんばかりに喜び、ダークテンペストは当然といった顔をしながらも口元はにやけていた。
カサンドラは恥ずかしくて仕方がないらしい。
「むう、そこまではっきり言われるとは」
「全員紹介されて喜んでいるわね。
それならあたしには何も言う必要はないわ。
でも、そんなに何人も結婚できるの?」
「ああ、貴族の地位を取れば正妻と側室を迎えることができるからな。
貴族の地位は取ろうと思えばすぐにでも取れるぞ」
「族長は複数の女性を娶ることがありますからね。
なんてうらやま……いえいえ、何でもありません」
「雄介様…………不潔です」
ロベリアの視線は零下50度の冷気を帯びていた。
「この1週間を見ていて、そろそろ紹介しても良さそうだと感じたから家に招待したんだ。
まあ、貴族が一夫多妻でも市民は一夫一妻が普通だからね。
苦情は受け付けるよ」
「雄介殿を家に招待する予定でしたが、娘に会わせるべきではないのかもしれません」
「娘さんって14歳と6歳だろうが。
流石にそれはないぞ」
「あら? 14歳だったら結婚できる年まであと2歳じゃない」
「雄介殿、娘はやりませんぞ」
「雄介さん、男のロマンですね」
「雄介様………………不潔中の不潔です」
ロベリアの視線は零下100度の冷気を帯びていた。
「あ~、えっと、そうだなあ。
食事が冷めてしまうし、始めよう」
「「「「「「「「「「いただきます(にゃ)」」」」」」」」」」
1週間戦い続けたストレス発散もあり、雄介はその晩、皆からいじり回されるのだった。
雄介邸始まって以来の大狂乱の宴となったのである。
「雄介殿には色々と驚かされましたが、今日が最大の驚きかもしれません」
「そう? 雄介ならそれくらいしていても可笑しくないと思うわ。
むしろ十人くらい居ても不思議ではないわね」
「おいおい、トゥリアにとっての俺のイメージってどうなってるんだ?」
「聴きたい? 聴きたいなら話すわよ?」
「……いや、良い。
聴いたら落ち込みそうだ」
「トゥリアさんはなかなか毒舌ですからね」
「あら、そういうクラノスこそ毒舌だと思うけど」
「雄介さまぁ、ひっく、聴きたいことがぁあります~」
ロベリアはいつもなら飲まない量の酒を飲み、目が据わっていた。
「何かな?
……お手柔らかに頼むぞ」
「グランデ教ではぁ、愛する人は1人が良いとされるんですねぇ。
雄介様はあんなぁに女のひとをはべらせて、ひっく、どう思ってるのですか?」
「はべらせるって表現がきついな。
……人を幸福にするのは難しいことだ。
一時楽しいと思わせるのはそこまで困難じゃないが、幸せを続かせるのはとても難しいことだ。
それを踏まえた上で、なお相手を幸福にできるなら、その自信があるなら何人と付き合っても良いと思う。
って、単なる自己正当化かもしれんな」
「私はぁ、2人以上の男性と付き合うことなんか考えられませんよぉ。
でも~、雄介様が皆さんのこと大事にされていることはぁ分かりました。
その中にぃ私も入れないでしょうか?」
「(う~む、みんなを紹介したのはロベリアを諦めさせる意図も有ったんだがな)
ロベリアは大切な仲間だよ。
それではダメなのかな?」
「今はぁそれで良いですよぉ。
でも、ず~っと私はただの仲間の1人なのですか? ひっく」
「それは……」
「うぅ」
ロベリアの顔色が急に悪くなった。
どうやら酒量が限界を超えたらしい。
口を押さえてトイレに向けて走って行ってしまった。
やがて戻ってきたが、流石にその後色っぽい話をする雰囲気にはならなかった。
翌日、雄介は冒険者ギルドに向かった。
弟子たちは今日は休みである。
リセナスはきっと家族サービスをしているのだろう。
「ハッセルト帝国からの返事が届いておるぞ」
「届きましたか。
どう言ってきました?」
「条件は迷宮で得られた魔石を半分よこせと言っとる」
「なかなか業突く張りですね。
でもまあ、想定の範囲内ですから構わないでしょう」
「ふむ、いつから行くんじゃ?」
「色々しないといけないこともあるので5日後でしょうかね」
「そうか。
5日後ということで伝えておくぞ」
「それでお願いします」
「それから、弟子に取った4人は物になりそうか?」
「ええ、成長は相当早いですよ。
昨日は実質4人だけでレッドドラゴンを倒して軽傷だけでしたから」
「ほお、Aクラスのレッドドラゴンを倒したか。
冒険者のクラスを上げるかの?」
「全員Aクラスにして、カサンドラさんはSクラスにして貰えませんか?」
「ふむ、帝国に行くなら肩書きは大事じゃからな。
それで良かろう」
邸宅に帰るとカサンドラが昼食を作っていた。
ティアナは何とか仕事に行き、ルカたちは二日酔いで休んでいる。
2人で昼食を食べることになり、カサンドラは上機嫌だった。
「あれ? どうして笑ってるの?」
「昨日は私の料理食べてもらえなかったから、今日は食べてくれたなぁって思って」
「カサンドラさんの料理は美味しいけど、何かと忙しいからね」
「戦闘の方が優先ですからね。
でも、恋人に手料理作るのはやっぱり憧れなんですよ」
「そういえば付き合ってると言ってから手料理を食べたのは初めてだな。
ジェバラナではずっと外食だったし」
「そうですね。
そういえば雄介さん、どうして家で宴会を開いてみんなを紹介したんです?」
「いくつか理由があってね。
単純にパーティが仲良くなるため、ティアナたちへのサービス、あとグランデ教にカサンドラさんたちとの関係を知らせておくためだよ」
「え? どうして知らせるんです?
教えたら利用しようとするかもしれませんよ?」
「黒王からの情報で、予想通り最近グランデ教では勇者に好意的な意見が強くなったそうだ。
その状況でカサンドラさんたちを溺愛してることを知ったら危害を加えようとは思わないだろうさ。
グランデ教の情報収集力は俺よりずっと上だ。
危害を加えようとする者が居たら護ろうとする可能性が高い。
もしくは俺に知らせて借りにしようとするかな。
カサンドラさんはともかく、ティアナたちはいつも一緒にはいられないからこそ安全性は上げておきたいんだ。
ま、保険の1つだね」
「溺愛なんて言われたの初めてですよ、もう。
保険って他にも何かしてるんですか?」
雄介にからかわれているのだが、カサンドラは茹蛸のように赤くなっていた。
「まあ、色々ね。
例えばもし王都に魔物の襲撃があってもこの家はAクラスの魔物でも立ち入れない結界を張ってあるでしょ」
結界石は携帯用なので一晩の使いきりアイテムなのだが、結界岩を使えば長期間結界を張り続けることができる。
魔力を付与すれば永続的に結界が続くのだ。
当然相当高価な物だが、家の敷地の四隅に埋めてあるのである。
「ええ、それは知ってますけど。
王城でも一部の部屋しかそんな結界は張ってないのに、家全体を囲むなんて」
「それくらいしてないと心配で外国まで行けないからね。
そうそう、5日後からハッセルト帝国に行くことにしたから」
「あ、行くのが決まったんですね。
それまではどうするんです?」
「兵士達に武術指南と情報管理指南をしないとね。
指南役を引き受けたはずなのに、あまり出来てないし。
あと帝国に関する主な本は読んでおきたい」
「じゃあ、私は弟子の4人と一緒に狩りをしてLVを上げてますね」
「ああ、そうしておいてくれ。
今日はこれから遊びに行かないか?」
「良いですね。
じゃあ、エスコートは任せますよ」
「中々大変そうだが、頑張るよ」
そうして5日が過ぎ、ハッセルト帝国に出発する日となった。
ダークテンペストとブルーダインに乗って帝国の国境の砦に近づいた。
すると黒不死鳥とバハムートを見て、帝国の国境警備隊が続々と出てきたのである。
厳戒態勢となった警備隊に対し、ダークテンペストから降り、悠々と近づく雄介。
「き、貴様一体何者だ?」
「あのような巨大な魔物から降りてくるとは魔物使いなのか?」
「俺はスラティナ王国の勇者、滝城雄介。
ハッセルト帝国皇帝の入国許可は取っている。
ここを通して貰いたい」
そういって雄介はハッセルト帝国皇帝の印が押された入国許可証を見せた。
「勇者様!?
これは確かに皇帝印……。
知らぬこととはいえご無礼を致しました。
どうか平にご容赦を」
「構わない。
通してくれればそれで良い」
「分かりました。
おい、この方々を通して差し上げろ」
国境を越えると再びダークテンペストに乗って出発するのだった。
「無事入国できましたね」
「皇帝印のある入国許可証なんてよく手に入ったわね」
「雄介さん、凄いですよ」
「雄介様、どのようにしたのです?」
「アスタナに行ってる間に外務大臣経由で書簡を送って貰って、許可を取っただけだよ。
その代わり、迷宮都市で手に入る魔石の半分は渡さないといけないけどね。
それより、この5日間のLVUPはどうだった?」
「やっぱり雄介殿がおりませんと効率が落ちますが、それでもそれなりの強化はできましたぞ」
滝城雄介
LV45
HP:SS MP:S 筋力:SS 体力:SS 敏捷:SS 技術:SS 魔力:S 精神:S 運のよさ:評価不能
カサンドラ・ディアノ
LV29
HP:B MP:SS 筋力:D 体力:S 敏捷:S 技術:A 魔力:SS 精神:SS 運のよさ:S
盾戦士のリセナス・ペンフィールド
LV:38
HP:A MP:C 筋力:S 体力:A 敏捷:B 技術:A 魔力:B 精神:B 運のよさ:D
双剣士のトゥリア・カスカベル
LV:42
HP:A MP:C 筋力:A 体力:A 敏捷:S 技術:S 魔力:C 精神:C 運のよさ:B
弓兵のクラノス・アリケメス
LV:38
HP:B MP:B 筋力:B 体力:B 敏捷:A 技術:S 魔力:A 精神:B 運のよさ:B
司祭のロベリア・アルベナル
LV:36
HP:C MP:S 筋力:E 体力:C 敏捷:C 技術:C 魔力:S 精神:S 運のよさ:B
「リセナスは2、トゥリアは1、クラノスとロベリアは3上がったのか。
カサンドラさんは上がってないね」
「まあ、LVは上がらなかったですけど、技術はAになりましたし索敵魔法は身につけましたよ。
風魔法シルフィードソナーです。
風の精霊が魔物や怪しいものを見つけて知らせてくれるんですよ」
「お、やったね♪
(あと、勇者ポイントはどう?)」
「(勇者ポイントは723上がって4871になりましたよ)」
「(大分上がったね)
あ、迷宮都市エリスタが見えてきたよ」
「あれが迷宮都市ですか。
防壁が随分としっかりしていますね」
「あれが噂に聞く迷宮都市ですか。
わしも行ってみたかったのですよ」
「強い魔物がうじゃうじゃ居るらしいわね。
楽しみだわ」
「そうらしいですね。
僕も楽しみです」
「私はちょっと心配です。
雄介様、本当に迷宮に潜るのですか?」
「ああ、魔道具がどうしても必要だからね。
さあ行こう、迷宮都市へ」
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「迷宮都市」です。




