第32話 弟子の育成 (2)
○54日目
「……その様子だとやっぱり気が付いてなかったんだね。
ロベリアが明るくて良い子というのは正しいと思うけど、その好意はグランデ教からのハニートラップだよ」
「えぇ!? ハニートラップって確か色仕掛けで篭絡しようとする罠ですよね。
どういうことです?」
「順番に話をするね。
国中から有望な冒険者を集めたはずなのに、魔法使いは箸にも棒にもかからない人ばっかりだったよね。
そして全員が落第したところで、司祭が飛び入りで参加して並外れた結果を出した。
防御魔法も相当な物だったそうだし、回復魔法は複数人を同時に回復できるそうだね。
SSクラスの魔力を持つカサンドラさんでも出来ない特殊な回復魔法がロベリアには出来た。
多分ロベリアは回復魔法の使い手としてはこの国で随一だろうね。
そんな特別な人が、司祭から勇者の弟子になることを1人で勝手に決められるかな。
それにロベリアは大司教から勇者が弟子を探してるという話を聞いたって言ってたけど、なぜ大司教はそんなことを知ってるのだろうね。
弟子を探すことを知らせたのは冒険者対象で弟子の選定の前日の話だよ。
1つ1つなら偶然かもしれないけど、これだけ重なると必然としか思えないんだ」
「確かに不自然ですね。
でも、ロベリアさんはハニートラップなんて出来るタイプに見えなかったですよ」
「ロベリアは自分の意思で行動してるつもりなんだろうけど、多分大司教に誘導されているんだよ。
大司教ほどの立場の人間にとっては、16歳の純粋な人を誘導するのは簡単だろうね。
ここまでの話は推測に過ぎないから、黒王に頼んでロベリアが相談したという大司教を調べて貰ってるんだ。
神に実際に会って選ばれた勇者が世界中に何百人も居るなんて情報は、グランデ教徒にとっては大事件だ。
確実に尻尾を出すだろうね」
「そんな……ロベリアさんが可哀想ですよ。
そんなことをする人が大司教なんですか」
「う~ん、可哀想というのは言いすぎかもしれないよ。
勇者に憧れる回復魔法の得意な女性司祭が居たから、勇者と引っ付けたらグランデ教にとっても本人にとってもお得だなって考えたんじゃないかな。
ちなみにグランデ教では司祭の結婚は許されているそうだ」
「それは……でも、16歳の女の子の恋心を利用するなんて許せません。
私はそんな大司教は信用できませんよ」
「別に大司教は信用しなくて良いさ。
でも、ロベリアは人間的には信頼できそうな人だから仲良くしたら良いよ。
ただし、ロベリアが知ったことはグランデ教に筒抜けの可能性が高いというのは知っておいてね」
「うう、分かりました。
気をつけます」
黒王の活躍により後日分かったことだが、大司教としての意図は勇者に関する情報の入手、勇者とグランデ教の関係の緊密化、できれば勇者をグランデ教に引き込むこと、勇者パーティにグランデ教の司祭が参加することによる名声、そしてグランデ教にとっては悪魔の殲滅は至上命題であり悪魔打倒の協力であった。
またグランデ教の神と伝説の勇者を選ぶ神が同一かどうかについての喧々諤々の議論が行われた。
数百人の勇者の実在が根拠となり最終的に同一と見なすという意見、つまり勇者に対し好意的な意見が支配的になったという。
翌日、雄介のパーティはアスタナ共和国のジェバラナに居た。
アスタナの人々を護るためと魔物がスラティナよりも強いためであった。
そして何より悪魔の被害について肌で感じてもらうためである。
「悪魔の攻撃で滅ぼされた村がこれほど多いとは。
強い魔物の気配がうようよ有るな。
皆、気を抜くなよ」
「ええ、そうね。
でも、2時間もかからずにアスタナに来れるなんてね。
あたし、外国に来たの初めてよ」
「僕も初めてです。
アスタナの空気はスラティナとはやはり違いますね。
空気が乾燥しています」
「黒いフェニックスやドラゴンに乗れるとは流石雄介様です」
「まずはジェバラナの現状を確認し、問題がなければ周囲の魔物の討伐をするぞ。
1週間ほどこの国に居る予定だからな。
1日1回はスラティナにテレポートで戻って緊急の知らせがないか確認するから、用事があったら言ってくれ。
ジェバラナは物資が不足してるから、買い物は王都でするぞ」
「「「「はい」」」」
ジェバラナの領主に会うと歓迎してくれた。
ここ数日は魔物の襲撃はないそうだ。
雄介は高級な結界石と聖水を渡しておいた。
再びアンデットの襲撃があっても1晩はもつだろう。
「魔物の討伐に行くぞ。
前衛はリセナスと俺、中衛はトゥリアとクラノス、後衛はカサンドラさんとロベリアだ。
黒王とブルーダインは援護してくれ。
まずは見通しの良い荒野で戦い、慣れたら魔物の多い森に入るからな。
俺とカサンドラさんは守備重視で戦うから、倒すのは弟子がすること。
魔物の遺骸は俺が亜空間に収納して、素材剥ぎなどはジェバラナの人たちにやってもらうから。
あと、現時点のステータスを確認しておくようにね」
「(パーティ用の簡易ステータスがあるんだな。
現時点の強さは……トゥリアが頭1つ上だな)」
滝城雄介
LV44
HP:SS MP:S 筋力:SS 体力:SS 敏捷:SS 技術:SS 魔力:S 精神:S 運のよさ:評価不能
カサンドラ・ディアノ
LV28
HP:B MP:SS 筋力:D 体力:S 敏捷:A 技術:B 魔力:SS 精神:SS 運のよさ:S
盾戦士のリセナス・ペンフィールド
LV:27
HP:B MP:D 筋力:A 体力:B 敏捷:B 技術:B 魔力:C 精神:C 運のよさ:D
双剣士のトゥリア・カスカベル
LV:33
HP:B MP:C 筋力:B 体力:B 敏捷:A 技術:A 魔力:C 精神:C 運のよさ:B
弓兵のクラノス・アリケメス
LV:25
HP:C MP:B 筋力:C 体力:C 敏捷:B 技術:A 魔力:B 精神:C 運のよさ:B
司祭のロベリア・アルベナル
LV:23
HP:D MP:S 筋力:E 体力:D 敏捷:D 技術:D 魔力:S 精神:A 運のよさ:D
ステータスの表示はGWOのゲーム的システムによるものなので、GWOの世界の人たち(NPC)は知らなかった。
勇者の特殊能力という形で弟子たちには説明し、皆関心したり驚いたりしていた。
NPCがLVUPすると、BPを使った割り振りはなく、ステータス全体が自然に上昇する。
幻獣の加護などのため、一般に同じLVならプレイヤーの方がステータスが高くなるのである。
雄介達はジェバラナを出発するとマジックサーチを使った。
下位程度の魔力を感知して接近すると、Dクラスのシャドウワームを発見した。
ギザギザの歯を持った直径2m長さ10mほどのミミズであり、地中から突然現れるため索敵の魔法がないと奇襲攻撃を受けることがある。
噛み付かれ地中に引きずり込まれるとまず助からない相手だ。
色が黒いため、夜間に襲われると見つけにくいが、現在は昼間である。
リセナスがタワーシールドで皆を護り、トゥリアがヒット&アウェイで傷を負わせていく。
シャドウワームはそれなりに頑丈なはずだが、水晶竜牙の双剣なら容易く切り裂けるようだ。
クラノスが5本目の矢を射る頃にはワームは息絶えていた。
「シャドウワーム1匹なら楽勝だったな。
ま、この調子で行こう」
「そうですね。
でも、新しい装備を使いこなすのはまだしばらくかかりそうです」
「魔斧ロードオブアックスの切れ味は凄いですよ。
新しいタワーシールドは恐ろしく頑丈です」
「あたしは水晶竜牙の双剣にはまだまだ慣れてないよ。
軽くて切れ味が良すぎで手ごたえが変わったからさ」
「僕は竜狩りの大弓になれるのは今日中には出来ると思います。
勿論、完熟に至るのはずっと後ですが」
「ムーンライトワンドは魔法にしか使わないので、慣れはあまり関係が無い感じです」
「そうですか?
杖でも自分の身体の一部のようになってくると魔法の発動が早くなるんですよ」
「え? そうなんですか。
分かりました。頑張ります」
「まずはD~Cクラスの魔物を倒して行くよ」
今度はCクラスの魔物・バイトウルフ12匹を見つけた。
バイトウルフは体長2mほどの灰色の狼で、大きな顎と統制の取れた動きをするのが特徴だ。
1匹だけならシャドウワームより弱いと言えるが、群れで行動しているため危険度は遥かに上と言える。
並のレザーアーマーなど容易く食いちぎる攻撃力を持っている。
雄介とリセナスがウルフを押さえ、トゥリアが突撃しウルフのリーダーに向かった。
クラノスは火炎の矢を次々と打ち込んでいく。
ロベリアはルナティックライトを使いウルフを混乱させていた。
5匹ほど倒したところで、ウルフが雄たけびを上げた。
「気をつけろ。仲間を呼んだぞ。
……10数匹がここに来るまで3分だ」
更に4匹倒したところで、バイトウルフ15匹が到着した。
雄介たちの後方に回って襲ってきた。
「仕方ない。
カサンドラさん、やって」
カサンドラがダイヤモンドダストを使うと増援のウルフ15匹が直径10mを超える氷に閉じ込められた。
残り3匹のウルフはリセナスとクラノスが倒すのだった。
トゥリアは軽傷を負っており、ロベリアがヒールをかけた。
「弟子だけでもバイトウルフ12匹は倒せそうだね。
でも、追加の15匹が来たらきつかっただろうな」
「ダイヤモンドダストを使わなかったらケガ人が出たでしょうね。
あと、多数が相手だとパーティのチームプレイがまだまだです」
「新しいタワーシールドもある程度使い方のコツを掴んだ感じです。
ただ、トゥリアが前に出すぎていました。
バイトウルフに囲まれていたときは肝を冷やしましたよ」
「リセナスはベテランだからやっぱり慣れるのが速いみたいだね。
あたしとしてはあれくらい普通なんだけどね。
囲まれたけど、ほぼ回避できてたでしょ」
「トゥリアさんの動きが独特で僕には援護は難しかったですよ。
動き方を覚えていかないといけないですね」
「トゥリアさん、女の子なんですから傷は残さないようにして下さい」
「あたし、女の子って年なのかな。
まぁ、気をつけるよ」
その後も次々と魔物を狩っていった。
Cクラスのガーゴイル6匹、Dクラスのウドラー4匹、Dクラスのオーク14匹、Cクラスのオークメイジ5匹、Cクラスのサーベルウルフ7匹、Bクラスのキメラ1匹などである。
「キメラはなかなか強敵でしたね。
わしがぶっ飛ばされるとは相当ですよ」
「頭が3つも有ったからあたしも回避が大変だったよ」
「Bクラスの魔物を倒したのは僕、初めてなんです。
流石に強いですね」
「でも、みんな軽傷で良かったです。
雄介様が護って下さいましたし」
「今日の狩りはここまでにしようか。
ジェバラナに戻るよ。
戻ったら反省会と訓練をするぞ」
ジェバラナに戻ると魔物の身体を亜空間から出して、素材と討伐確認部位を剥がすのはジェバラナの人たちに任せた。
それ以外の部分については食べられるなら食材として利用され、1000人分以上の腹を満たした。
作業の代金は雄介が支払っている。
働かずにお金を渡すと依存心が深まる為、できるだけ労働の対価という形で渡しているのだ。
雄介が素材と討伐確認部位を持って王都にテレポートし、換金した。
カサンドラが行かなかったのは、シルバーゾーンが使えないと持ちきれないためである。
討伐の報奨金は金貨8枚銀貨20枚で、素材の換金が金貨3枚銀貨80枚だった。
各自の取り分は金貨2枚である。
雄介達は前と同じ宿屋に向かった。
「お兄ちゃんたち、来てくれたんだね。
ありがとう♪」
宿屋に着くとルジェナが大喜びだった。
女将さんも満面の笑みで迎えてくれた。
「大人数で来たんだね。
部屋はどうするんだい?」
「男3人、女性3人なので2部屋ありますか?
それを1週間で」
「勿論お金は要らないよ。
町を救った英雄なんだから」
「いえ、ちゃんと払います。
外貨が入らないと町が貧しくなるばかりですから」
「……そう言われたら受け取らざるを得ないね。
銀貨25枚でどうだい?」
「少し安くなってますよ。
まあ、良いですけど」
こうして1日目が終わり、瞬く間に6日が過ぎた。
そして7日目。
雄介達はAクラスのレッドドラゴンと戦っていた。
雄介とカサンドラは守備的にしか戦っていない。
それでもなお、優勢を維持していた。
レッドドラゴンは火を吐く赤いドラゴンで体長12mほどだ。
2枚の翼を持ち、空を飛ぶがバハムートほど速くはない。
その太い尻尾の一撃はトラックの正面衝突にも似た威力がある。
強靭な四肢を持ち、その牙は容易く鋼鉄すら切り裂くという。
並の冒険者であれば、会った瞬間に死を覚悟する怪物である。
レッドドラゴンを倒した冒険者は一流の仲間入りをしたと言えるだろう。
リセナスは金剛力を発動させ、タワーシールドでドラゴンの尻尾の振り回しを受け止めていた。
トゥリアはドラゴンの攻撃後の隙を突き、韋駄天を発動させ距離を詰めては右前足を集中して斬りつけていた。
リセナスとトゥリアの動きの呼吸が一致するようになっていた。
間接部を狙い次々と矢を射掛けるクラノスは百発百中だった。
思考加速を使い、素早いドラゴンの動きを先読みして撃ち込んでいたからだ。
ロベリアはゾディアックウォールを使い、レッドドラゴンの火炎のブレスを完全に防ぎきっていた。
ゾディアックウォールの強度・維持できる時間共に1週間前とは段違いだった。
戦闘は30分ほども続き、遂にトゥリアのスキル・双撃隠影斬がドラゴンの頚動脈を切り裂き、絶命させた。
弟子4人は皆擦過傷と打撲をいくつも負っているが重傷の者は居なかった。
ロベリアが4人全員同時にホーリーヒールをかけ、瞬く間に治してしまうのだった。
滝城雄介
LV45
HP:SS MP:S 筋力:SS 体力:SS 敏捷:SS 技術:SS 魔力:S 精神:S 運のよさ:評価不能
カサンドラ・ディアノ
LV29
HP:B MP:SS 筋力:D 体力:S 敏捷:S 技術:B 魔力:SS 精神:SS 運のよさ:S
盾戦士のリセナス・ペンフィールド
LV:36
HP:A MP:C 筋力:S 体力:A 敏捷:B 技術:A 魔力:B 精神:C 運のよさ:D
双剣士のトゥリア・カスカベル
LV:41
HP:A MP:C 筋力:A 体力:A 敏捷:S 技術:S 魔力:C 精神:C 運のよさ:B
弓兵のクラノス・アリケメス
LV:35
HP:B MP:B 筋力:B 体力:B 敏捷:A 技術:S 魔力:B 精神:B 運のよさ:B
司祭のロベリア・アルベナル
LV:33
HP:C MP:S 筋力:E 体力:C 敏捷:C 技術:C 魔力:S 精神:S 運のよさ:C
「相当LVUPしたね。
この1週間でリセナスは9、トゥリアは8、クラノスとロベリアは10上がったよ。
俺とカサンドラさんは1だけだね。
(勇者ポイントはかなり上がったな。
1436も上がったし、これで4977だ。あと半分だな)」
「わしの数年分くらいの魔物をこの1週間で倒しましたよ。
信じられないくらい速く強くなってます」
「あたしの敏捷と技術がSになってる!
韋駄天まで使ったら並大抵の相手には完全に見えなくなってるわね」
「僕は全体的にバランスよく強くなってますね。
こんなに上がるものなんだなぁ」
「私は相変わらずバランス悪いですね。
筋力とかほとんど使わないから全然上がってないですし」
「私はLV1しか上がりませんでしたけど、雄介さんに教わって複合魔法を使えるようになりましたよ」
「みんな良く頑張ったね。
王都に帰るよ。
今晩は俺の家で宴会にしよう」
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「ハッセルト帝国へ」です。
弟子のステータスを詳細表示させるとそれだけで膨大なスペースを取りますので、簡易ステータス表示にしています。
背景色を変更しましたが、如何でしょうか?
良かったら意見を聞かせて下さい。




