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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第5章 ジェバラナの町
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第31話 弟子の育成 (1)

○54日目


 雄介とカサンドラは弟子たちを連れ、王都一の鍛冶屋に向かった。

弟子たちの装備を整えるためである。


「親父さん、居るかい」


「おお、今日は大人数で来やがったな」


「こいつらに適当な武器を見繕ってやってほしいんだ。

金は俺が持つから金額に糸目は付けないで構わないよ」


 その言葉を聴いて弟子たちは驚愕していた。

冒険者として中堅の武器で金貨1枚(約100万円)程度が相場といえる。

当然高級になれば価格はうなぎ登りである。

親父はリセナスに話しかけた。


「そっちのでかいの、これはどうだい?」


「こ、これは魔斧ロードオブアックスでは?

こんな最高級品を良いのですか?」


「まあ、冒険者は武具に命がかかってるからな。

美人の娘さんには水晶竜牙の双剣はどうかね?」


「こ、こんな美しい剣は初めて見たわ。

わ、軽いw」


「雄介のアドバイスで改良した物だからな、切れ味は王都でトップクラスを保障するぜ。

エルフの兄ちゃんにはこれが良いんじゃないか?」


「竜狩りの大弓ですか。

竜の鱗を易々と貫く威力が有ると聞いています」


「並のドラゴンくらいなら穴だらけにできるぞ。

司祭のお嬢ちゃんはこれを使ってみな」


「これはムーンライトワンドですね。

確か大司教様が使っておられましたが、私のような者が使っても良いのでしょうか」


「武器は使ってなんぼだからな。

鍛冶屋で埃をかぶっててもしょうがないだろう。

これら全体で金貨30枚でいいぜ」


「雄介さん、半分は私が持ちますからね」


「カサンドラさん、ここは俺が」


「みんなは私の弟子でもあるんですから、良いんです」


 弟子たちは冒険者なら垂涎の的であろう、そして自らも憧れていた武器を渡されて目を輝かせていた。

それらは王都で購入できる最高級品、つまりこの国全体でも最高級の品であり、その合計金額は金貨30枚を優に超える物であることは明らかだった。

雄介がクリスタルドラゴン以外にも種々の素材を持ち込んでいるためのサービスであった。

ロベリアがおずおずと声をかけた。


「あのう、雄介様本当にこんな良い物を受け取って良いのでしょうか?

今はないのですが、お金が貯まれば必ず返しますから」


「パーティの装備は良い物にしたいからね。

それに俺とカサンドラさんで1日狩りをしたら金貨20枚を超えるからそう気にしなくても良いよ」


「1日で金貨20枚……ですか。

(私の月収で銀貨12枚だったのに……)」


 雄介の言葉を聴いて他の弟子たちも唖然としていた。

並の冒険者が1日狩りをしても多くて銀貨数枚であり、Bクラスのトゥリアでも金貨1枚に届かないのである。

ロベリアは司祭であるため、清貧が身に付いていたため尚更であった。

超の付くほどの規格外の冒険者だと実感し、畏敬の思いを抱くのだった。


「やっぱり親父さんに任せるのが正解だったみたいだね。

防具も頼むよ」


「おう、俺にまかせとけ」



 弟子4人の武器防具が揃ったので、次は相互理解のためのミーティングであった。

装備を先に揃えたのは、恩を先に売っておけばパーティが纏まりやすいという雄介の計算である。

カサンドラはそういった発想は持っていなかった。

喫茶店に入り、雄介が座り、右隣にカサンドラが座ると、左隣にロベリアが座った。

あとはトゥリア・クラノス・リセナスの順であった。


「まずはお互いの紹介から始めようか。

じゃあリセナスから」


「わしはリセナス・ペンフィールドです。

33歳で、冒険者になってもう15年です。

冒険者になったのは、この身体を生かして生活していくためと強くなりたいから。

好きな食べ物は肉で、両親と妻と子供が4人おります」


「ベテラン冒険者の戦うお父さんだね。

このパーティは危険な相手と戦うことも多いけど、良いのかい?」


「魔物はどこに居ても襲ってきますから。

家族を護るためにも魔物を野放しにする訳に行きません」


「なるほどね。

33歳で子供4人っていくつで結婚したの?」


「18歳です。

子供は14歳の娘、12歳の息子、9歳の息子、6歳の娘です」


「そうか。

今度家族を紹介してくれよ」


「ええ、食事に招待しますよ」


「リセナスは守備力を徹底的に上げて、生きて帰ることを最優先で考えること。

タンカーが堅ければ、パーティ全員の生還率が上がるからね。

あとベテランの視点からの意見はどんどん言ってくれ。

その点は師匠とか弟子とかは一切関係なしね。

ロベリアはリセナスの回復を最優先にしてよ」


「あ、はい。分かりました」



「じゃあ、次はあたしね。

あたしはトゥリア・カスカベルよ。

冒険者になったのは魔物を殺すため。

3年前に村が魔物の襲撃で皆殺しになってさ。

家族もみんな死んじゃったから、冒険者になったんだ」


 魔物について話をするトゥリアの瞳には憎悪の炎が見えるようだった。

GWOの世界ではよく聞く話だが、トゥリアの憎しみはひと際強いのだろう。


「そうなんだ……。

そういえば冒険者になって3年でBクラスまで上がったってこと?

(復讐のためか。

模擬戦でも守備を考えず攻撃一辺倒だったのはそのためかもな。

回避が高いから生きてこれたのだろうな)」


「そうよ。

魔物を殺しまくってたら自然と上がってBクラスになっちゃった。

まあ、1月でSクラスの勇者様とは比べ物にならないわよ」


「ええっ!

雄介様は1月でSクラスになったのですか?」


「雄介殿がSクラス到達の最短記録保持者なのは冒険者のあいだでは有名ですよ。

あの魔物図鑑と冒険者の心得の書き写しは半年待ちなほどの人気ですし」


「ああ、そのことなら後数ヶ月で解決するよ。

今活版印刷を進めていて、それが完成すれば一気に刷ることが出来るようになるから。

みんなの分は用意してるから、魔物図鑑と冒険者の心得を持ってない人にはミーティングの後渡すので。

あと俺のことは勇者様って呼び方はなるべくしないでくれ。

雄介のほうが良いんだ」


「わかったわ。雄介。

魔物図鑑と冒険者の心得はほんとに助かるわね」


「私、呼び捨てはちょっと。

雄介様で良いですか?」


「まあ、その呼び方で良いよ」



「僕はクラノス・アリケメスです。

見ての通りエルフです。

こんな見た目ですが、183歳です。

エルフの里を出て冒険者になったのは2年前ですね。

冒険者になった理由は、自由にあちこちを見て回るには冒険者が都合が良いからです」


「エルフは長命というのは本当なんだな。

一体何年くらい生きるのかな?」


「魔物に襲われたりしなければ600年くらいですね」


「それは凄いですね。

エルフの里から出るのに反対されませんでした?」


「やっぱり反対は有りますよ。

エルフの里から出るのは用事があって短期間だけがほとんどですから。

なので、出られたのは180歳を超えてからですし」


「弓矢に付与(エンチャント)するのは初めて見たけど、相当難しいのかな?」


「エルフでも出来るのは僕だけなので難しいみたいです。

いつのまにやら自然と出来たので、よく分からないのですけど」


「ふむふむ、天才肌という奴みたいだね。

長距離射撃はどれくらいまで射れるの?」


「新しい弓になったので分かりませんが、今までの弓なら200mまでならほとんど外さないですよ」


「わしは知り合いに弓使いの冒険者がいますが、人間程度のサイズなら50mくらいまでなら当てられると言ってましたよ。

それはもう天才を超えてないですか?」


「実は種が有りまして、風の精霊の声を聞くことで長距離でも狙えるんですよ」


「となると魔力が上がれば更なる長距離射撃が狙えるな。

瞑想状態なら精霊と会話は出来なくも無いが、戦闘中にはとても無理だよ」


「そういうのは慣れですね。

100年くらい毎日のように会話してたら出来ますよ」


「そんなの出来るのエルフだけじゃない。

エルフが精霊と親和性が高いのは長寿だからなのかもね」



「次は私ですね。

グランデ教の司祭のロベリア・アルベナルです。

冒険者登録は昨日したばかりです。

皆さんの足を引っ張らないよう頑張りたいと思います」


 グランデ教とはバルサス市国を中心に大陸中に広がる宗教である。

この大陸では最も多くの人に信仰されており、単純に教会と言ったらグランデ教の教会を指すほどである。

グランデ市国にいる教皇が最も偉く、次いで枢機卿、大司教、司教、司祭という位がある。

スラティナ王国には枢機卿はおらず、3人の大司教が最も上位である。

ちなみにグランデ教の神と伝説の勇者を選ぶ神が同一かどうかについては、グランデ教内でも意見が分かれている。



「そういえば、司祭と冒険者を兼業するってできるの?」


「本来は出来ないはずなのですが、雄介様のパーティに入ることになったと報告したら特例として認められました。

大司教様が便宜を図って下さったのです」


「昨日まで司祭だった人がどうして俺の弟子になろうと思ったの?」


「勇者様のお役に立てるなら、もっと多くの人を助けられるはずだと思ったからです。

司祭として人を癒す仕事をしていても、昨日癒した人が今日また魔物に襲われるといった出来事が何度もありまして。

私はどうしたら本当に人を救えるのか悩んでいて大司教様に相談したのです。

その時勇者様が弟子を探しているという話を聞きまして、受けることになった訳です」


「大司教に直接相談できるって相当偉いんじゃないの?」


「偉いなんて、そんな。

大司教様は御優しい方ですから、親しくして下さっているだけです。

司教候補と言われていたんですけれど、どうなんでしょう?」


「そりゃ充分偉いってば」



「俺の番だね。

22歳で、勇者をしているよ。

兵士達を相手に武術指南などもやってる。

この黒鷲がパートナーで本当の姿は黒不死鳥(ブラックフェニックス)なんだ。

名前はダークテンペストで渾名は黒王だ。

街中では本当の姿は見せられないから、狩りに行くときに見せるよ。

多分、色々噂を聞いているだろうから質問を受け付けるよ」


「余が黒不死鳥(ブラックフェニックス)の王、ダークテンペストである。

雄介の仲間であれば、黒王と呼ぶことを許すぞ」


 ただの鳥だと思っていた黒鷲が言葉を話したため、皆驚愕するのだった。

その後は質問タイムになり、リセナスが手を上げた。


「今まで倒した中で最も強かった魔物を教えて下さい」


「最も強い魔物か。

Sクラスのクリスタルドラゴンと大型悪魔(グレーターデーモン)はどっちが強いんだろうな。

苦戦したのはクリスタルドラゴンだね。

フォレスト・ジャイアントはまだ比較的弱かったかな」


「……軍隊で対応するはずのSクラスを3匹、ですか。

本当に冒険者になってまだ数ヶ月しか経ってないのですか?」


「言いにくいことだけど、まだ2ヶ月経ってないよ」


「「「「ええっ!」」」」


 これは流石に弟子たちは開いた口が塞がらなかった。


「じゃあ、あの、神に選ばれた勇者ということを教えてほしいのですが」


「ロベリアはやっぱりその辺が気になるみたいだね。

22歳までは普通に生きてきたんだけど、2ヶ月前に神様に会って勇者として多くの人を救う契約をしたんだよ。

10000人の生命を助けたら、妹の命を助けてもらえるんだ。

最終的には100万人を助けることを目指してるよ」


「神様に直接会われたのですか!?」


「会ったよ。

俺だけではなくて、世界中に数百人居る勇者は皆神に会っているよ」


「勇者様がそんなに居るなんて……。

でも、雄介様はやっぱり凄い方ですね」


 ロベリアはそっと雄介の手を握った。

雄介はカサンドラの剣呑な視線を感じて手を離すのだった。


その後も色々と質問は続き、質問の度に驚きを深めていくのだった。

異世界の情報とゲームとしての内容は伏せつつ雄介は答えていた。



「私はカサンドラ・ディアノです。

パートナーはこの蒼鷹で、本当の姿はバハムートです。

名前はブルーダインで、特に渾名は持ってないですね。

雄介さんに協力するためパーティメンバーになりました」


「カサンドラさんはSSクラスの魔力の持ち主で、攻撃魔法の使い手としてはこの国で1番だよ」


 ロベリアが驚いて言った。


「SSクラスの魔力って伝説的な魔道士並ですよ。

それにバハムートってドラゴンですよね。

そんな方に弟子入りできるなんて光栄です」


「伝説的な魔道士なんてそんな。

雄介さんにお世話になってばかりで申し訳ないくらいですから」


「カサンドラさんはアンデット100匹以上を燃やし尽くすほどの魔法が使えるんだよ」


「それほどの魔法の使い手はエルフでも居ないでしょうね。

少なくとも僕は聞いた事もないです」


 このとき、突然ロベリアが話題をひっくり返した。


「ところで、雄介様とカサンドラさんは仲良さそうですが、付き合っておられるのでしょうか?」


 この質問で雄介とカサンドラは固まってしまった。

冒険者パーティのミーティングに相応しい話題に思えず、リセナスとクラノスは苦笑していた。

トゥリアは興味があるらしく楽しそうに雄介とカサンドラを見ていた。

雄介が何とか答えようとする。


「えっと、それはね……」


 カサンドラが固唾を呑んで見ているのを雄介は感じていた。

これはカサンドラとの関係の分岐点になると直感したのだった。


「付き合ってるよ。

少なくとも俺はそのつもり」


 カサンドラは頬を赤らめて顔を手で隠してしまった。

ロベリアは落胆の思いが身体全体に溢れていた。

目に見えて落ち込んでしまった。


「そ、そうですか。

残念です……」


 その後もミーティングは続き、パーティとしての戦い方などを検討した。

そして翌日から狩りに出ることが決まったのだった。



 その日の晩、自宅で雄介とカサンドラは話し合っていた。

ミーティングからずっとカサンドラは上機嫌だった。


「カサンドラさん、弟子たちについて感じた印象を教えてよ」


「印象ですか。

そうですね~。

リセナスさんは、落ち着いた大人の印象を受けました。

家庭では良いお父さんなんだと思います」


「確かにね。

ベテランの判断力やいざというときの落ち着きが期待できそうだ。

トゥリアはどうかな?」


「トゥリアさんは魔物に対する物凄い憎しみを感じました。

わが身を省みずに魔物に突撃しそうで心配です」


「俺との模擬戦でもそんな感じだったね。

本当に強い敵相手にそういう行動をされたら本気で死にかねないから気をつけよう。

じゃあ、クラノスはどう?」


「クラノスさんは183歳なのに若者っぽいですね。

発想の豊かさが有るんだと思います」


「天才肌の持ち主だからね。

奇抜な発想が期待できそうだ。

最後にロベリアはどう思ったの?」


「ロベリアさんはちょっと天然の印象です。

明るくて良い子だと思いました。

あと、雄介さんにアプローチしまくりでしたね」


「う~ん……その様子だとやっぱり気が付いてなかったんだね。

ロベリアが明るくて良い子というのは同感だけど、その好意はグランデ教からのハニートラップだよ」



次回の投稿は明後日0時となります。

サブタイトルは「弟子の育成 (2)」です。

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