第30話 弟子の選定
○52日目
雄介とカサンドラは王都のギルドマスターと話し合っていた。
アスタナ共和国の状況についての報告は終わっている。
「つまりスラティナが攻められるのは早くてもハッセルト帝国の後ということじゃな?」
「大型悪魔はそう思っていました。
今後変更することはあり得ますが、可能性は低いと思います」
ハッセルト帝国とは、アスタナの東にある帝国主義国家であり、過去に周辺国への侵略が繰り返し行われている。
皇帝による専制国家であり、現在の皇帝は大変好戦的な人物だと知られている。
周囲から孤立した国であり、悪魔がハッセルトを攻撃しても他国からの援軍の可能性は低いといえる。
ちなみにスラティナは過去3回、ハッセルトに侵略された経験がある。
「現在、悪魔への対応として友好国と協力して戦うとの協議が進められておる。
だが、ハッセルト帝国には友好国と言える国は皆無じゃからのう。
悪魔がハッセルトを攻撃しても他国からの援軍は期待できんし、妥当な線じゃな。
それから悪魔がアスタナの人民を襲撃していたのは、何のためじゃと思う?」
「1つは遊び半分。
もう半分は国内の反対勢力の減少とアンデットを増やすためでしょう」
「アンデットを増やして自軍を増強させるか。
悪辣じゃな」
「ええ、これ以上悪魔の犠牲者は出したくありません」
「そうですね。
ジェバラナの町の人たちを、アスタナの人たちを護りたいです。
何か遠くから会話ができるような物はないでしょうか?」
「そうだね。
ジェバラナの危機を防いだはずなのに、勇者ポイントはその分が増えてなかった。
おそらく一時的な危機を乗り越えただけで、長期的にはまだ助けられていないからだと思う。
今のままだと、また魔物の襲撃があるはずだ」
「ふむ、助けを呼べるようにか。
遠距離の連絡ができる魔法具はわが国にはないが、ハッセルトには有るはずじゃ。
じゃが、戦争に使えるため他国には輸出しておらんのじゃよ」
「そういえばハッセルトには迷宮都市があるそうですね。
迷宮に入れば、強くなるのも速いし魔石が手に入るとか。
でも、それも他国の人間には許可していないはず」
「そうじゃな。
迷宮に入れば自分の強さに合った魔物と効率的に戦うことが出来るからのう。
それに魔石によって魔法具の開発が盛んなのじゃ。
あれらが戦争以外に使用されればどれだけ便利なことか」
「俺自身としてはたとえハッセルトのような好戦的な国であっても悪魔の攻撃で滅ぶのは防ぎたいと思っています。
ただこの国の人たちがハッセルトの支援は出来ないと感じるのも理解できます」
「ハッセルトの皇帝が死んでも構わんが、国民がアンデット化すればスラティナも危ないからの」
「勇者の立場を利用すれば、ハッセルトから魔法具を得ることが出来るかもしれませんね」
雄介達はハッセルトへの対応について色々と話し合うのだった。
個人として雄介達がハッセルトに行くことを検討中である。
「ところで、弟子を取るための有望な冒険者のリストは出来ました?」
「おお、そうじゃった。
もう出来ておるぞ」
ギルドマスターは秘書を呼ぶと書類を持ってこさせた。
雄介が書類を受け取る。
「ふむふむ、分かりやすく纏められていますね。
カサンドラさんはどう思うかな?」
「弟子にしたら、育成のためパーティーメンバーとして一緒に戦うんですよね?
信頼できる人が良いと思います」
「まあ、それはそうだけど。
現時点の強さより、潜在能力が高い人がほしいからな。
リストから成長が早い人を100人ほど抜き出して、実際に戦ってみるのが良さそうだね」
その後、3人で冒険者リストを見ながら話し合い、100名過ぎの候補を選び出した。
遠方の人についてはダークテンペストが迎えに行くことになった。
「カサンドラさん、弟子は最終的に4人選ぼうと思うんだ」
「どうして4人なんです?」
「GWOのパーティは6人までと決まってるからね。
今は俺がダメージディーラーとタンクを受け持っていて、カサンドラさんがヒーラーとキャスターを受け持ってる。
黒王とブルーダインが支援と騎乗を担当だね。
今後少なくともヒーラーとキャスターは分けないと上の相手には勝てなくなると思うんだ。
ほら、俺がアンデット相手にケガをした時、カサンドラさんが態々こっちに来ないといけなかったでしょう。
SSクラス相手だとそんな暇はないはず。
ヒーラー専門は必要だよ」
「そうですね。
魔法使いの適正を見るのは私に出来ると思います」
「じゃあ、俺は戦士の適正を判断するね」
翌日に、1日かけて実技と面談によって弟子の選択が行われた。
本来パーティメンバーには戦闘能力以外にも多岐に渡る技能が求められるのだが、今回は戦闘に関する適正が優先された。
最終的に選ばれたメンバーは、Cクラス冒険者盾戦士のリセナス・ペンフィールド、Bクラス冒険者双剣士のトゥリア・カスカベル、Dクラス冒険者弓兵のクラノス・アリケメス、司祭のロベリア・アルベナルの4人だった。
戦士向けの冒険者は72名で、雄介との模擬戦が行われた。
冒険者は真剣を使い、雄介は竹刀を使った。
時間を無駄にしないため、落選した人にはその場でアドバイスを行った。
その中の23番目がリセナス・ペンフィールドであった。
リセナスは身長が2mを超える筋骨隆々の大男で、灰色の髪の30代の男だった。
重さ10kgを超えそうな巨大な戦斧を右手に握り、長さ1mを超える黒い金属製のタワーシールドを左手に持っていた。
「わしはCクラスのリセナス・ペンフィールドです。お手合わせ願います」
リセナスはタワーシールドを雄介に向け突撃した。
まずシールドをぶつけて相手の体勢を崩し、戦斧を叩き込む戦法なのだろう。
シンプルだが、繰り返し練習し熟練の技となっていることが伺えた。
並の冒険者なら2~3人を弾き飛ばせる威力があった。
だが雄介は金剛力を発動させ、正面から受け止めた。
足に根っこが生えたように、びくともしない。
リセナスは戦斧を振り上げると雄介に振り下ろした。
雄介を左手を上げると、振り下ろされた戦斧の柄を受け止めた。
戦斧がまるで万力で締め付けられたように止まった。
リセナスは全力を込めて押そうとするのだが、動かなかった。いや、突然動き出した。
雄介が戦斧を引っ張り、リセナスのバランスが崩れる。
雄介はそのままリセナスの左腕を取ると一本背負いをするのだった。
頭を打たないよう左腕を引いて、背中から投げ落とした。
「痛た……わしの筋肉が通用しないとは。
雄介殿、噂に違わぬ腕前感服致しましたぞ」
「大した力だな。
それに斧と盾の使い方に熟練の技を感じたぞ。
あなたは面談を待っていてくれ」
56番目がトゥリア・カスカベルだった。
トゥリアは170cmほどの少し大柄の女性で、赤毛のショートヘアの23歳だ。
雌豹のようにしなやかに鍛えられた身体の美人であり、2本の80cmほどのショートソードを両手に握っていた。
「Bクラスのトゥリア・カスカベルです。よろしくお願いします」
トゥリアは雄介を中心に円を描くように動き出し、少しずつ距離を詰めた。
雄介はわざと動かず、トゥリアに後ろを取らせた。
トゥリアは後ろから雄介に近づくと両手のショートソードで無数の突きを放った。
疾風迅雷というべき速さであり、観客の冒険者の中にその突きが見えた人は居なかっただろう。
雄介は殺気を感じた瞬間、動き出した。
「な、消えた!」
「こっちだよ」
トゥリアの後ろから声がかかる。
トゥリアが振り向くのを待って、練習していた新スキル・飛燕三連突きを発動させた。
全く同時としか思えない速さの3つの突きがトゥリアに襲い掛かり、首筋の直前で止まっていた。
「攻撃のタイミングとしなやかな身体の使い方は天性のものだ。
貴女も面談があるから待っていてくれ」
最後の72番目がクラノス・アリケメスだった。
クラノスは181cmの長身の男で、紫の長髪のエルフだった。
150cmほどの大きな弓を持っており、見た目は20代前半だが後で聞くと100歳を超えていた。
「Dクラスのクラノス・アリケメスです。
僕が使うのは弓なので、模擬戦ではなく実演が良いと思うのですが」
「実力が分かれば何でも良いからやってみてくれ」
クラノスは50mほど離れた大木に向かって矢をつがえずに弓を引き絞った。
見物の冒険者たちは何をやっているんだという顔をしていたが、一変した。
クラノスが弓の弦を離したとたん、大木に穴が開いたのだ。
2度3度と弓を引くたびに、大木の穴が増えるのだった。
「その矢にブラインドハイディングを付与しているのか?」
「流石ですね。
こんなに簡単に見抜くとは」
クラノスは今度は見える矢をつがえると弓を引き絞った。
矢じりが赤く染まっている。
矢が大木に刺さると共に燃え出したのだった。
「今度は火炎属性魔法か。
種々の魔法のエンチャントが出来るようだな。
よし。面談をしよう」
魔法使い向けの冒険者は35名で、模擬戦ではなく、カサンドラの前で魔法の実演を行った。
皆それぞれに自分の得意な魔法を披露したが、残念ながらカサンドラの半分の魔力を持つ者も居なかった。
これはもう全員落選かと思われたそのとき、1人の女性が声をかけてきた。
「あのう、私冒険者じゃないんですけど、弟子にしてもらえないでしょうか?」
その女性はロベリア・アルベナルと言い、白を基調とした司祭の服装をしていた。
158cmの16歳の美少女で緑色の髪が腰まで伸びていた。
スラティナの宗教では女性の司祭が認められているが、それでも16歳の司祭は並外れて若いと言える。
「私攻撃魔法はからっきしですが、回復魔法と防御魔法には自信があるんです。
私ではお役に立てないでしょうか?」
「まず防御魔法の程度を見せてもらいますね。
何か防御魔法を使ったら私が攻撃します。
防御魔法が破れても当てないようにしますから、動かないで下さいね」
ロベリアは聖光属性上級魔法ゾディアックウォールを発動させた。
カサンドラはゾディアックウォールに向け、クリムゾンフレアを放った。
大火球が飛び出し、星が散りばめられたように光り輝く壁にぶつかった。
10秒ほどゾディアックウォールは耐え続けたがやがてひびが生じ、砕け散ってしまった。
「そんな……私のゾディアックウォールが破られたのは初めて見ました。
こんな程度じゃまだまだですね」
「そんなことないですよ。
クリムゾンフレアにあれだけ耐える時点で相当な強さですから。
回復魔法は何が使えますか?」
「ヒール・ホーリーヒール・キュアを同時に複数の人にかけられます」
「それは凄いですね。
面談があるから待っていて下さいね」
ようやく全員の実技が終わり、実技に合格した4人は、個人別に雄介とカサンドラとの面談があった。
まず弟子としての待遇についての説明があり、本人の希望の確認が行われた。
待遇としては月収金貨1枚(約100万円)は保障すること、パーティー時の報酬は各自1/6に等分されること(銀貨未満は切り捨て)、武具については希望があれば雄介側で用意すること、雄介がパーティリーダー、カサンドラがサブリーダーとしてその指示に従うこと、弟子を辞めることとパーティーからの離脱は自分の意思で出来ること、パーティを組んでいた時に知った機密性の高い情報についてパーティから離脱しても他言してはならないこと、パーティとして今後SSクラス以上の魔物と戦う可能性が高いこと、冒険者としての生命の危険は自己責任であることなどが確認された。
全体としてかなりの高待遇であり、その条件で4人は了承した。
ロベリアはSSクラスの魔物との戦いを心配していたが、悪魔の件について話をすると納得したのだった。
「じゃあ、パーティ申請をするね」
6人全員で手を握り、雄介が「我ら6人ここに在り。共に冒険に挑み、共に戦い、共に勝利を掴む仲間なり」というと、弟子たち4人の頭にパーティ申請が浮かんだ。
パーティ申請がされました。
了承しますか? YES NO
「こ、これは一体!?」
「文章が勝手に思い浮かんでる……」
「このような現象は初めてだな」
「神託のようなものでしょうか?」
「勇者には色々な特殊能力が有ってね。
こうやってパーティを組むことで色々と得することが有るんだよ。
危険は一切ないからYESを選んでね」
「万一問題があったら後でパーティから抜けることも出来ますから安心して下さいね」
ロベリア、リセナス、トゥリア、クラノスの順にYESを選んだ。
「(今念話で話しかけているんだけど、聞こえるかな?)」
「おお、雄介殿の声が……」
「念話って一体なんです?」
「勇者の特殊技能のようなものでしょうか?」
「神に選ばれた勇者様というのは本当だったのですね」
「(パーティを組んだから誰でも念話が使えるはずですよ。
自由に使えるよう練習して下さいね)」
その後、念話を使って勇者のパーティの機能について説明が行われた。
この日がスラティナ王国において永く語り継がれる勇者のパーティメンバーが揃った日となったのである。
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「弟子の育成 (1)」です。
設定集を改訂しました。




