第25話 新しい武具
○40日目
ドンムント将軍との戦いの翌日、雄介とカサンドラは王都一の鍛冶屋に向かっていた。
5日前に武具の作成を頼み、今日完成したはずだからである。
雄介とカサンドラは上機嫌だった。
雄介は待っていた武具が手に入るから、カサンドラは雄介が嬉しそうだからだ。
鍛冶屋の親父は困り果てていた。
雄介に頼まれた武器がまだ完成していなかったのだ。
鎧・兜・小手・具足は完成したのだが、大剣だけが何度作っても納得の行くものが出来なかった。
クリスタルドラゴンの身体は素材としてこの国で最高級品と言って良い。
その牙や爪で武器を作れば、ドラゴンの鱗ですら易々と切り裂ける武器を作ることができる。
その鱗を使えば、水冷属性と聖光属性に強力な耐性を持ち、並大抵の武器では傷一つつかないほど堅い防御力を誇る防具を作成できる。
そして王都一の鍛冶屋の親父は、ドラゴンの鱗を切り裂ける大剣を作ることはできた。
だが、親父はクリスタルドラゴンの素材の良さを生かせば更に一段階上の武器ができることに気が付いてしまった。
そして今試行錯誤を繰り返して袋小路に入ってしまっていたのである。
「親父さん、居るかい?」
「雄介、来やがったか」
「おや?随分と機嫌が悪そうだが、どうしたんだい?」
「すまねえ。一世一代の武具を作ると約束しておきながら、俺はまだ出来ていないんだ」
「そこにある白金に輝く武具は違うのか?」
「凄く綺麗ですね。
あんな防具は初めて見ました」
「防具一式は満足の行く品が出来た。
武器も以前の俺なら納得していただろう。
だが、今の俺はあの大剣じゃ納得が行かねえんだ」
「とりあえず見せてもらうよ」
雄介は大剣・鎧・兜・小手・具足を一つ一つ丁寧に確認していく。
どれもぴったりと雄介の身体に合った物だった。
「これでも満足行かないってどういうこと?
今までの品よりも遥かに凄い品みたいなんだけどな」
「確かにその大剣はかなり良い出来だ。
並のドラゴンなら容易く切れるだろう。
だが、それ以上の武器を作りたいんだ。
何とかすれば出来るはずだって俺の勘が言ってる」
「なるほどね。
でも今武器がないからどうしても何か必要なんだ。
とりあえずこの大剣の威力を試してみても良いかな?」
「ああ、そこのクリスタルドラゴンの身体の一部は使わない部分だから自由に切ってみて構わんぞ」
雄介はスキルを使わず、クリスタルドラゴンの身体に切りつけてみた。
30cmほど切り裂いたところで刃が止まっていた。
「おおすげw
前使った剣ならスキルや強化を使っても1cmほどだったのに」
「そりゃ、クリスタルドラゴンの鱗より弱い素材だったからだろう。
だが、その大剣はクリスタルドラゴンの爪で出来ている。
当然自分の鱗より堅いから切れるのは当然なんだ」
「なるほどね」
「確かに爪は皮膚が硬質化した物ですから、鱗と同じかそれ以上のはずですね。
爬虫類の鱗は皮膚が角質化してできるんですよ」
「(はたしてクリスタルドラゴンは爬虫類なのだろうか)」
「お嬢ちゃんは物をよく知ってるな。
そして牙は体で1番堅い物質でな、牙で武器を作れば爪より更に強い武器が作れるんだ。
だが、牙で大剣を作ると堅すぎて逆に脆くなってしまうんだよ。
恐ろしく鋭いが、使い続けるとすぐに折れてしまうような大剣は認められん」
「昨日黒竜鋭牙の大剣が折れてしまったんだ。
模擬戦だったから問題なかったが、実戦なら命に関わるだろうな」
「あの将軍との戦い凄かったですね。
大剣が折れた瞬間、雄介さんが負けてしまうって思ったら、折れた武器で将軍を降参させてしまうんですから。
私、感動しましたよ」
「カサンドラさん、泣いてただろ。
終わって会ったら、目が潤んでたの見たぞ」
「あ~、気が付いてたんですね。
もう、恥ずかしいところ見られちゃったなぁ」
「将軍ってドンムント将軍か?
あの王国最強の男に勝ったっていうのか?」
「僅差だったけどな」
「か~そりゃすげえ。
気合入れて武器作らねえとな。
切れ味を落とさずに折れない方法があればなぁ」
「堅すぎて逆に折れやすい剣か。
何か解決策があるはず……日本刀とか?
親父さん、大剣を作るとき堅さの違う複数の素材を組み合わせて作ることって有るのかい?」
「いや、金属で作るならそういうことも出来るんだがな。
牙の場合、大剣の大きさに削って磨き上げて研いで作るんだ。
だから今回困ってるんだよ」
「金属じゃないから無理かな。
う~ん、調べてみるか。
カサンドラさん、俺は出かけてくるから自由にしててね」
「あ、はい。じゃあ、私は王都見物してますね。
戻ったら念話で知らせて下さい」
雄介はログアウトすると図書館に行き、日本刀の構造について調べてみた。
調べる前は、単純に柔らかい心鉄を堅い皮鉄で包み込む構造をしていると思っていた。
だが実際は、刀鍛冶の流派や製法、鉄の種類や歴史的変遷によって色々な構造があることが分かったのである。
そのため、主要な20種類ほどの構造を覚えてログインし紙に書くことにした。
また刀の反りについて説明を付け加えておいた。
反りのある片刃の刀は引いて切ると、直剣よりよく切れるとされる。
ちなみに大剣の構造は両刃の直剣である。
切るよりも突く、叩くが攻撃の中心になる。
今まで雄介は力で押しつぶすようにして切ってきたのである。
雄介は鍛冶屋の親父に日本刀の構造に関するメモを見せ、反りの意味を説明した。
そして、クリスタルドラゴンの牙と金属を組み合わせた、反りのある片刃の刀の製造を頼んだのである。
刀の内部構造については、約20種類の構造のメモを参考にして適切なものを選ぶよう言った。
「こ、こんな変わった武器を頼まれたのは初めてだぜ。
作ったことがないんだから、できるかどうか分からねえぞ」
「それでも良いよ。
当面はクリスタルドラゴンの爪で作った大剣を使わせて貰うよ?」
「ああ、そりゃ勿論かまわねえ。
しかしこれは忙しくなったぜ。
何日かかるかわからねえから、出来たら連絡を入れるぜ」
「日本刀は知ってましたけど、こういう作りをしてたんですね。
面白いです。
サムライやニンジャが使ってたんですよね?」
イギリス人であるカサンドラには日本刀や侍、忍者に興味があるようだ。
「ああ、忍者は普通より短い刀を使ったそうだけど、構造は変わらないはずだよ。
新しい装備になったから、ステータスを確認するよ」
滝城雄介
LV:41
年齢:22
職業:冒険者LV33・精霊魔法使いLV30・強化魔法使いLV25・念動魔法使いLV19・時空魔法使いLV15
HP:1715 (S)
MP:1594 (S)
筋力:361 (SS)
体力:331 (S)
敏捷:410 (SS)
技術:346 (S)
魔力:318 (S)
精神:320 (S)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:0
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・黒不死鳥王の寵愛・スラティナ王国の勇者・スラティナ王国武術指南役・スラティナ王国情報管理指南役・竜殺し・スラティナ王国最強の男
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性中耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(100%)・サンダーレイジ(100%)・ブラッドブレイク(100%)・思考加速(100%)・流水(100%)・韋駄天(100%)・記憶力上昇(100%)・金剛力(90%)・真 疾風覇斬(60%)・真 天竜落撃(60%)・ディメンションエッジ(20%)・超回復(100%)・神移(20%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ライトニングインパクト(120)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・アビスグラビティ(220)・強化魔法(任意)・複合魔法(魔法次第)・クロックアップ(150)・クロックダウン(150)・シルバーゾーン(200)・テレポート(距離次第)
装備:水晶竜爪の大剣・水晶竜鱗の鎧・水晶竜鱗の兜・水晶竜鱗の小手・水晶竜鱗の具足・光王虎のマント
所持勇者ポイント:1284
累計勇者ポイント:1284
「装備が水晶竜爪の大剣・水晶竜鱗の鎧・水晶竜鱗の兜・水晶竜鱗の小手・水晶竜鱗の具足・光王虎のマントって凄いですね。
でも、光王虎のマントはそのままなんですか?」
「マントはクリスタルドラゴンの素材じゃ作れないからね」
「装備してる姿は全身が宝石で彩られていて威風堂々って感じますよ。
黒のマントがバランスを取っていると思います」
「光王虎のマントは元々は白金色だから、黒く染めてあるんだ」
「そうなんですか。
あ、称号:スラティナ王国最強の男になってますよ」
「昨日の戦いの後見たらそうなってたんだ。
技術も1日で40も上がったし、新スキルの神移も覚えたし、有意義な1日だったな」
「私も技術上げたりスキル覚えたりした方が良いんでしょうか?」
「強化魔法の応用は魔獣の森での狩りから帰ってから教えたよね。
それを練習して、まずは思考加速を覚えたら良いよ。
他のスキルはそれからね」
「魔法使いにとって思考加速は大事なんですよね」
「そうだね。
そういえば、王城の兵士だけじゃなく冒険者を鍛える必要もあるんだよな。
俺が忙しいとき、ブルーダインとだけで狩りに行けそう?」
「え、それはそのう。
マジックサーチが使えないと索敵に不安がありますから」
「我が探しても良いのだがな」
「Bクラスまでなら大丈夫だと思うよ。
不安があったら念話で相談してくれたら良いし」
「そうですね。
自分で戦えるようにならないと」
「戦うこと自体はあまり問題ないんだけど、今はまだ判断が出来てないって感じるんだ。
状況を全体的に捉えて何を優先すべきか判断するのが苦手みたい」
「わかり…ました。
頑張ってみます」
「ブルーダイン、サポートを頼むよ。
戦闘経験はブルーダインの方がずっと豊富なはずだから」
「我に任せておくが良い」
◇◇◆ティアナside◆◇◇
その頃冒険者ギルドでは、ティアナが問い詰められていた。
勇者にして有名冒険者の雄介に話しかけたくても、緊張してしまって話しかけられないギルド職員は多かった。
そんな中雄介とティアナが仲が良いことで注目されていたのだが、一緒に住んでいることを耳ざとい先輩職員が知ってしまったのである。
しかもこの先輩は36歳独身女性(彼氏募集中)であった。
「ティアナさん、あなたと雄介様が同じ家から出てくるのを見たという人がいるのですが、本当ですか?」
「あ、見られてたんや。
なんや恥ずかしいわ」
「見られてたんやってそんなあっさりと。
このギルドで働き始めた初日からあなたが雄介様と親しげにしているのを見て私はどれだけ…。
い、いえ何でもありません。
それに雄介様は勇者様だというではありませんか。
本当に雄介様はあの伝説の勇者様なのですか?」
「そうや。
雄介は勇者として毎日必死に頑張ってんで」
「ああ、何と素晴らしい。
この一週間だけでもSクラスのクリスタルドラゴンやフォレスト・ジャイアントを倒しておられる。
Sクラスの魔物は出現が確認されたら軍隊が動くほどの怪物ですのに。
そんな方と一緒に居られるなんて何てうらやま…。
はっ、しかもあなたは雄介様のことを呼び捨てにするなんて恐れ多いことを。
そんなことが許されると思っているのですか!」
「雄介が許したら、ええんとちゃう?
あと、雄介は確かに勇者やけど、それ以前に一人の人間なんやで。
雄介はそういう恐れ多いとか、伝説の勇者様とか言われるのは望んでないんやけど?」
「そ、そうなのですか?
世人の尊敬と憧れを一身に受けられる伝説の勇者様ですのに」
「それは流石に言い過ぎやん。
雄介は人を救うために一生懸命やけど、戦ってない時は庶民的な肩の凝らない生活が好きなんや。
雄介を尊敬したり憧れたりするのは自由やけど、雄介は勇者としての色眼鏡で見られるのは嫌がってるのは知っておいてな」
「そんな……。
じゃあ、私のこの気持ちは雄介様の迷惑になるというのですか?」
「そんなことはないと思うで。
ただ雄介に接することの多いギルド職員には、雄介のこと正しく知っていてほしいだけや」
「私は色眼鏡で見ていたのかもしれません。
色眼鏡でなく正しく知る、ですか。
雄介様はそれを望んでおられるんですね?」
「そうや。
うちが言いたかったことはそういうことやで」
後日雄介がギルドに行くと、気さくに話しかけてくる職員が多くなったことに驚くのだった。
◇◇◆ルカside◆◇◇
その頃、ルカは王都を買い食いしながら歩いていた。
「やっぱり王都には美味しい物がいっぱいにゃ」
屋台を回って、次々と注文している。
「(雄介様はルカには使い切れないほど給与を下さるにゃ。
ルカは従者としてそれだけお役に立ててるかにゃ。
何か雄介様が喜びそうな食べ物ないかにゃ?)」
ルカの従者としての待遇は、家付き食事付きで月に銀貨20枚(約20万円)であった。
雄介としてはもっと高額でも良かったのだが、ルカが遠慮したのである。
家族がおらず、王都に友人も居ないルカは余ったお金は貯金していた。
道を歩いていると、屋台からよだれが落ちそうな匂いが漂ってきた。
「あ、これは何にゃ?」
「ホワイトヒツジンの焼肉だよ。
一皿銅貨5枚(約500円)だ。
一皿どうだい?」
「(雄介様、焼肉好きだったにゃん)
5皿下さいにゃ」
「5皿かい。お嬢さん美人だからサービスして銅貨23枚だ」
「ありがとにゃ♪」
買った焼肉を魔法の布袋に入れて歩く。
この魔法の布袋は雄介が普通の布袋にシルバーゾーンを掛けて作った物だ。
便利だから同居している人全員に渡している。
ルカが歩いてると路地裏で悲鳴が聞こえた。
「きゃあああぁ」
獣人の耳は常人より数段良いのである。
「(一体どうしたにゃ?)」
ルカが路地裏に入ってみると若い女性が3人の男に絡まれていた。
女性は取り立てて目立つほどではないが、健康的で素朴な美しさがあった。
男がナイフを突きつけている。
「持ってる金出して一晩付き合ってくれるなら、無事に帰してやれるんだぜ。
痛い思いをしてから金を出すか、痛くないうちに金を出すかどっちか選びな」
「お、お金は出しますから、付き合うのは勘弁して下さい。
お願いします~」
女性は既に涙声だ。
ルカは男達を観察する。
「(ナイフを出してるのは1人にゃ。
他の2人は大きな武器は持ってないにゃん。
荒事になれてるだけで鍛えてる感じはしないにゃん。
まだルカには気付いてないにゃ。
だったらにゃんとかなるにゃ)」
ルカは魔法の布袋から長いロープを取り出すと念動魔法をかけ、ナイフを持った男を縛り上げてしまった。
「て、てめえ何しやがる」
「(雄介様直伝のロープ拘束魔法にゃ)」
残った男2人もナイフを持ち出した。
縛り上げたロープを切ろうとするが、鋼線が織り込まれているため切れなかった。
ルカは雄介に習った強化魔法を使い、視力を強化する。
男達がむやみやたらに振り回すナイフを避けることは造作もない。
ルカはもう1人もロープでグルグル巻きにしたのである。
「あと1人にゃ。
まだやるにゃ?」
「くそっ覚えてやがれ」
最後の男は2人の仲間を引きずりながら逃げていった。
ルカはもう二度と会いたくないと思いつつ、3人を見逃すのだった。
「大丈夫だったにゃ?」
「は、はい。有り難うございます。
うぅ、うわ~ん」
女性は安心したのかすっかり泣き出してしまった。
表通りに出てからルカは女性を慰めた。
「怖かったにゃね。
もう大丈夫にゃ。
これでも食べて元気出すにゃ」
焼肉を一皿差し出した。
「こ、これは?」
「美味しい物食べると元気でるにゃ」
「有り難うございます。
私、ナンシー・リューベックと言います」
「ルカはルカ・ブラザヴィルにゃ」
その後ナンシーは、王都で出来たルカの初めての友人になったのであった。
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「魔物図鑑」です。




