第24話 武術指南
○39日目
フォレスト・ジャイアントを倒した翌日、雄介たちはギルドに居た。
今日からティアナは王都のギルドで働いている。
「Aクラスのキングパオームの象牙の破片と、Sクラスのフィレスト・ジャイアントの耳だよ
あとはBクラスの魔物をいくつかだね」
「流石は雄介とカサンドラさんやね。凄い戦果や。
でも、キングパオームとフォレスト・ジャイアントはどちらも酷く損傷してるやん。
う~ん、ギルドマスターの判断になるで」
ティアナが象牙と巨人の耳を持って奥へ入っていく。
しばらくすると戻ってきた。
「魔獣の森でフィレスト・ジャイアントが出たという話は聞いたことがないから、詳しい話が聞きたいやて。
信用はしてるみたいやから、大丈夫やと思うよ」
「やっぱりそうなったか。
ところでティアナ、新しい職場には馴染めそう?」
「初日やからまだわからへんわ。
雄介、あんじょう頑張ってな」
ティアナがSクラス到達最短記録保持者の雄介と親しく話している様子を見て、他の職員は興味津々でこちらを見ていた。
只でさえ新人の職員は注目されるのだから当然である。
雄介とカサンドラがギルドマスター室に入った。
今頃、ティアナは先輩職員からあれこれ聞かれていることだろう。
ギルドマスターは相変わらず元気そうに重厚な椅子に座っていた。
机の上には先ほどの象牙と耳とその他色々が置かれていた。
「フィレスト・ジャイアントが出たという話じゃが、詳しい話を聞かせてほしいんじゃ」
「まあ、当然でしょうね。
魔獣の森ではAクラスの魔物も少なく、Sクラスは出たことがないという話ですし」
雄介はフィレスト・ジャイアントの出現位置やその時の状況などを詳しく説明した。
「ふうむ、そっちの娘さんがアイシクルディザスターを使ったとはのう。
それに釣られて奥地のジャイアントが出てきたのかもしれんな。
実力を評価すればFクラスから一気にAクラスに上げることもできるんじゃが、娘さんどうするかね?」
「私は雄介さんが居なければろくに戦えない程度の実力しかありません。
それに目立つようなことはしたくないんです」
「まあ、俺のパーティメンバーってだけでもどうしても目を引きますからね。
今はEクラスに上げるくらいで良いんじゃないでしょうか?
Fクラスの方が不自然に思われるでしょうし。
今後は自然な程度に上げて行ったらどうでしょう?」
「それくらいでしたら」
「うむ、そうするか。
しかし、雄介、どこでこんな美人で強い魔法使い見つけてきたんじゃ?」
「俺がスラティナに来る前からの友人なんですよ。
困ってるから手伝ってくれるって話になったんですね」
雄介が友人と言ったのを聞いて、カサンドラは眉をしかめていた。
背を向けていたため、雄介はカサンドラの表情に気が付かなかった。
だが、経験豊富なギルドマスターは気付いていた。
「ほお、健気な娘さんじゃな。
パーティに迎えた以上、大事にしなければならんぞ」
「…同じような台詞を前にも言われたような気がします。
まあ、気をつけますよ」
「では報奨金じゃ。
Bクラスのレッドベア3匹・ダークネスコブラ7匹・ライオンヘッド7匹・ワニシャーク5匹は各銀貨50枚で金貨11枚、Aクラスのキングパオームは金貨2枚、Sクラス上位のフィレスト・ジャイアントは金貨8枚じゃ。
合計は金貨21枚(約2100万円)じゃよ」
「1日の仕事で昨日の家が一軒買えるなんて…」
「う~ん、確かにな。稼ぎすぎな気がする」
「そのことじゃがな、使わないお金はギルドに預けるのはどうじゃ?
どこの町のギルドでも引き出せるようにするぞ。
君たちの強さは規格外じゃ。
このままじゃと金貨数百枚を家に置くことになりそうじゃろ」
「へえ、それは便利ですね。
(このままだとギルドの報奨金の予算が大変なんだろうな)」
「雄介さん、どうします?」
「(カサンドラさん、この世界には銀行がないからその方が良さそうだね)」
「(そうですね。そういえば、狩りについての私のお金はどうなるのでしょう?)」
「(それは半額ずつで良いんじゃない?)」
「(それは雄介さんに悪いんじゃ)」
「(パーティを組んでるんだからお金の件は平等が良いよ)」
「(うぅん、じゃあそうして下さい)」
「今後報奨金については半額ずつに俺とカサンドラさんに分けて下さい。
そしてギルドに預け、必要に応じて引き出すことにします」
「うむうむ、そうしてくれるか」
カサンドラはEクラスに昇格した。
冒険者証明書
名前:カサンドラ・ディアノ
種族:普人族
性別:女
年齢:21歳
クラス:Eクラス
技能:読み書き・計算・火水土風光系魔法・強化魔法・念動魔法
その日は午後からスラティナ王国軍の大隊長と中隊長に武術指南をする予定である。
スラティナ王国武術指南役として初仕事と言える。
「カサンドラさんはどうする?
見学してても良いし、自由に過ごしても良いよ」
「そうですねぇ、見学したいです」
雄介との距離を縮めたいとの想いからの答えだった。
王城の演習場に行くとドンムント将軍、大隊長5名、中隊長52名が居た。
その場の全員が雄介よりも年上である。
22歳の若輩者に指導などできるのかといぶかしむ空気が漂っていた。
カサンドラと書記官は少し離れたところで見学している。
「ドンムント将軍も演習に参加されるのですか?」
「いや、俺は見学だ。
雄介がどのように進めるのか興味があってな」
「分かりました。
どうぞご自由に」
雄介は竹刀を持って隊長たちの前に立った。
竹刀は武器屋に言って作らせたもので、予備を含めて数本持っている。
「これより演習を始める。
武術指南役に任命された滝城雄介だ。
俺が指南するのは初めてということで不安を感じている者も居るだろう。
そのため、今日は模擬戦を行う。
大隊長5名、中隊長52名、全員、1人ずつ、1回ずつ俺と戦ってもらう。
戦闘開始前に所属と名前を述べよ。
模擬戦は俺はこの竹刀を使う。
お前たちは真剣を使え。
武器が直撃したら、その時点で模擬戦は終了だ。
ケガ人が出ても安心しろ。優秀な回復魔法使いを連れてきている。
戦闘中でない者は、模擬戦を観察し、模擬戦終了後アドバイスをしろ。
勿論俺もアドバイスする。
分かったな?」
「「「「「了解しました」」」」」
軍隊である以上、返事はしっかりしていた。
しかし、内心では皆驚いていた。
雄介の言うとおりなら雄介は57連戦をすると言う事だからだ。
しかも使う武器は竹刀で真剣を相手にするという。
つまり受け太刀をしないということだ。
雄介の言動は圧倒的な自信を示していた。
ちなみに優秀な回復魔法使いとはカサンドラである。
「第1大隊所属中隊長、チョルム・ボルワディン。お願いします」
チョルムは片手剣を持って雄介に切りかかってきた。
チョルムはBクラス相当の強さである。
チョルムにとっては全力の攻撃だったが、視覚強化を使っている雄介にとってはスローモーションのようなものだった。
アースランスなどの攻撃魔法も使ったが、雄介には通用しなかった。
雄介は最初の3分間はひたすら避け続けた。
相手の動き、癖、リズム、攻撃の組み立て、体捌き、技術などチョルムの長所短所を丸裸にしていく。
気が付いたことは記憶力強化で覚えていった。
3分経過すると、雄介の一撃でチョルムは吹っ飛ばされた。
使用したのは竹刀なので打撲しかしていない。
「そこまでだ。
チョルム、よく聞け。
袈裟切りは鋭いが、横薙ぎが甘い。
スキルの発動が遅いし、強化魔法の切り替えが出来てない。
相手の隙もないのに攻撃魔法を使って当たるはずがないだろう。
魔物相手の戦いと人間相手の戦いの違いが意識できていないぞ。
軍隊である以上、どちらとも戦うことになる。
魔物に有効な戦い方、人間に有効な戦い方の違いを理解し、使い分けられるようになれ。
一撃一撃を分けて考えるな。
連撃を一塊で考え、攻撃の繋ぎを意識しろ。
自分の立ち位置を有利な位置に、相手を不利な位置に誘導しろ。
チョルムは完全に俺にコントロールされていたぞ。
俺からは以上だ。
他の者から何かアドバイスはないのか?」
見ていた者たちから種々のアドバイスが出てきた。
予め雄介に指示された通り、書記官はアドバイスの内容を紙にまとめ、チョルムに渡した。
「よし、次」
「第3大隊所属中隊長、カウナス・カチカナル。手合わせ願います」
「第2大隊所属中隊長、ルジェフ・コガルイムです。お願いします」
「第5大隊所属中隊長、ラハティ・ボルネンゲだ。よろしくお願いします」
次々と中隊長が3分で倒されていく。
雄介の敏捷は既にSSクラス上位に達しており、掠める者も居なかった。
そして数時間が経過した頃、中隊長52名全員が倒されていた。
雄介は汗まみれではあったが、怪我もなく体力にはまだ余裕があった。
少々の疲れがあっても、超回復によって活力を取り戻すのが速いのである。
「中隊長はここまでだな。
次、大隊長。かかって来い」
「第1大隊隊長、アビン・マグノリム。お願いします」
アビンは大隊長でも1、2を争う強さでSクラス下位相当の強さである。
雄介の動きを観察し、どうすれば倒せるのか検討を重ねていた。
敏捷ではアビンに勝ち目はないが、剣術の上手さ自体にはそう大差はないと見抜いていた。
筋力では雄介に分があるが、受け太刀ができない以上、模擬戦では関係がない。
先日の独自魔法の件によれば魔力では勝負にならないが、雄介は模擬戦では攻撃魔法は使っていない。
では、雄介を倒すにはどうすれば良いのかアビンは考えた。
最初の3分間は雄介は観察に徹しているため、よほどの攻撃でも当てるのは難しい。
3分間が過ぎて、攻撃に転じようとした時に奥の手をぶつけるのが良いとアビンは考えていた。
アビンとの模擬戦が始まった。
アビンは自分のトップスピードを見せないよう8割ほどの速度で攻撃を重ねていく。
それでも中隊長より格段に速い攻撃だった。
雄介は違和感を感じていた。
アビンは巧妙に隠そうとしていたが、動きにどこか余裕があり、全力を出していないことを雄介は見抜いた。
なら、全力を出すのはいつか、雄介は警戒した。
雄介が攻撃のために隙を作る瞬間をアビンは待っていた。
雄介はアビンに全力を出させるために、故意に隙のある動きをした。
今か今かと待ち構えていたアビンはその隙に身体が反応してしまった。
アビンの奥の手、飛燕三連突きが放たれる。
雄介ですら容易にはかわせない神速の突きが三連続で撃ち込まれた。
だが、雄介はその位置には居なかった。
雄介は自ら隙を作った瞬間にどんな攻撃が来ても避けるため、韋駄天を発動させていたのだ。
飛燕三連突きを使ってしまったアビンは、雄介の一撃を受け吹っ飛ばされるのだった。
後日雄介は飛燕三連突きを練習し、習得することになる。
「よし、次」
「第2大隊隊長、バリナス・フェルナンドです。お願いします」
「第3大隊隊長、アリノス・アラビラムだ。よろしく頼む」
「第4大隊隊長、カシアス・サルゲイロです。お願い致します」
「第5大隊隊長、モンテス・バレイラス。お願いします」
大隊長全員を倒した頃には夕方になっていた。
流石に雄介も疲れている。
「わっはっは。まさか大隊長と中隊長全員を倒しきるとはな。
驚くべき奴だ。
どうだ?俺と手合わせしてみないか?」
ドンムント将軍である。
「勿論お願いします。
大分疲れてますけれど、良い演習になるでしょう」
ドンムント将軍は雄介にとって格上の相手だ。
疲れが溜まっている今の状態では長期戦は無理だろう。
クロックアップを使い黒竜鋭牙の大剣を握って戦闘準備を終わらせる。
将軍は長さ4mの大身槍を持って立っていた。
将軍の大身槍はオリハルコン製の神槍グングニルだ。
「滝城雄介、お願いします」
ドンムント将軍の構えは覇気に満ち、一分の隙もない。
雄介は視力強化と韋駄天を使い、将軍との距離を詰めた。
金剛力を使い、真・疾風覇斬を放つ。
だが将軍は楽々と雄介の一撃を防いだ。
「なかなかの一撃じゃないか」
敏捷だけなら雄介は将軍と同等である。
だが、将軍の筋力は雄介以上であり、今までの戦いで雄介の動きは将軍に把握されているのだ。
逆に雄介は将軍の動きを何も知らない。
雄介は袈裟切りから左薙ぎに繋ぐと、突きを狙った。
将軍は袈裟切りを受け流し、横薙ぎを弾き、突きを悠々と避けた。
数十もの連撃が飛び交っていた。
将軍は8割の力で、雄介は全力で戦い、互角の攻防が続いた。
息のつけない戦いが続いた。
どう見ても将軍が有利な戦いだった。
だが、戦いながら雄介は学んでいた。
この国最強の男の戦い方を。
雄介の攻撃が少しずつ将軍に近づいていく。
剣と槍の違いはあるが、攻撃の組み立てや威力、その動きが磨き上げられていく。
「指導はここまでだ」
将軍が全力攻撃に転じた。
大身槍を薙ぎ払い、突き、振り回した。
雄介は薙ぎ払いを防ぎ、突きが掠りながらも避け、振り回しから韋駄天で距離を取った。
将軍のグングニルを防御すれば、黒竜鋭牙の大剣がきしんだ。
一瞬でも雄介が気を抜けば負けていただろう。
雄介は防戦一方になってしまった。
将軍が大身槍を使う限り、遠距離では勝ち目はない。
自分の間合いに踏み込まねばならないが、将軍の嵐のような攻撃に近づけないのだ。
バランスよく韋駄天と流水を組み合わせ、神速にして無駄のない流麗な動きに近づけていく。
将軍の百を超える連撃を避け、弾き、防いだ。
周りの隊長たちからは雄介が分身の術を使っているように見えたという。
やがて流水と韋駄天が融合し一つのスキルとなった。
更に融合したスキルと思考加速を組み合わせていく。
神速にして流麗な動きに適応した思考の速度が発揮されていく。
一定調子の速さでなく、緩急自在変幻自在の動きで将軍を翻弄し始めた。
韋駄天だけでは動き出したら大まかな動きしか出来なかったのだが、一挙手一投足に細やかな神経を使った動きに変わった。
そして流水・韋駄天・思考加速が一体となり新スキル・神移が生まれた。
神移を使い始めると雄介は完全に将軍の攻撃に対処できるようになっていた。
将軍の連撃を回避し、距離を詰めていく。
大剣の間合いとなり、金剛力を発動させ真・天竜落撃を放った。
上段からの唐竹割りが将軍に迫る。
グングニルを横にして将軍は身を護った。
雄介の一撃とグングニルの激突に耐え切れず、黒竜鋭牙の大剣は折れてしまった。
折れた大剣はナイフのような長さであった。
至近距離でのナイフを大身槍では防げなかった。
そのナイフを雄介は将軍の首筋に突きつけたのだった。
「俺の負けだな。
まさか自分の半分ほどの歳の者に負けるとは」
「俺を鍛えるために途中まで相当手を抜いていたじゃないですか。
最初から全力なら、アッという間に負けてましたよ」
「最後には全力だったからな。
今の雄介は俺より強いさ。
……雄介、この国を頼むぞ」
「はい」
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「新しい武具」です。




