第20話 再会
○35日目
雄介たちは王都のギルドに付いた。
ギルドの前にはティアナとルカが居た。
どうやら心配してギルドに状況を聴きに来ていたらしい。
「あ、雄介おかえり♪
一晩帰らへんかったから、心配したんやで。
それで、そちらの美人さんは?」
「雄介様、おかえりなさいにゃん。
あれ? 黒王様の匂いがするにゃん」
「ただいま~。
心配かけてごめんな。
こちらの女性は、えっと黒王なんだ」
「余はダークテンペストである。
少し見た目は変わったかもしれんが、あまり気にするでないぞ」
「ええ~!!」
「うにゃ~少しじゃないにゃ」
雄介は昨日有った戦いについて掻い摘んで説明した。
「は~大変な戦いやったんやね。
でも、無事でホント良かったわ」
「雄介様、無茶しすぎにゃん。
時には逃げることも必要にゃ」
「確かになあ。AクラスとSクラスって違いすぎだろう」
「クリスタルドラゴンは雄介との相性が悪かったからのう。
だが、今の雄介ならSクラスの魔物相手でも何とかなるほどの強さに達しておるぞ。
特にディメンションエッジが使いこなせるようになればな」
「ディメンションエッジは欠点も多いけど、必殺技って感じだね。
勿論避けられたらどうしようもないんだけどさ。
MPの問題があるから、毎晩寝る前に練習しようっと」
「雄介、必殺技覚えたんや。
いつか見せてな」
「今晩寝る前に見せてやるよ」
「やった。約束やで」
「ルカもルカも♪」
その後、雄介はギルドの受付に向かった。
美人3人を連れた雄介に男からの嫉妬の視線が向けられたが、雄介はどこ吹く風だった。
「ミノタウロス、シーサーペント、キマイラの3件受けてたんですが、キマイラは倒せなかったんですよ」
「そうでしたか。
でも1日でAクラスを2匹も倒せたら充分過ぎるほど凄いですから。
キマイラはまた後日でしょうか?」
「いや、依頼のあったキマイラは俺が行った時にはもう死んでまして。
クリスタルドラゴンが食べてたんですよ」
「はい?
…クリスタルドラゴンってあのSクラスの中でも上位のあれですか?
白銀色にキラキラ光る、あれですか?」
「そうそうそれです。
やっぱりSクラスでも上位なんですね。
いや~強かったですよ、流石Sクラス」
「はぁ~よく命が有りましたね。
キマイラについては雄介さんが倒した訳ではないので、討伐料はないですが良いですか?
死亡を確認できるものがあれば、ある程度のお金は貰えますが」
「キマイラの死亡確認は洞窟に埋まってしまったので難しいですね。
キマイラのお金は勿論要りませんから。
それよりクリスタルドラゴンの討伐確認お願いできます?」
「え?あの~、クリスタルドラゴンを発見して逃げられたのでは?」
「倒しましたよ?
時空魔法で身体全体を持ってきたので、大きすぎてここでは出せませんから外に行きませんか?」
雄介たちはギルド外の広場に移動した。
話を聞きつけた冒険者たちが見物している。
雄介は亜空間からミノタウロスの角、シーサーペントの身体全体、クリスタルドラゴンの身体全体を取り出した。
この違いはミノタウロスは武具などの素材にならないためである。
周囲から驚きの喚声が上がった。
受付嬢は目を丸くしている。
他の職員に呼ばれたのか、そこへギルドマスターがやってきた。
「これはまた凄まじいのう。
どれどれ…何と、クリスタルドラゴンの首を切り落としたのか。
しかもこの滑らかな切り口は…一体どうやったんじゃ?」
雄介はディメンションエッジについて簡単に説明した。
「シルバーゾーンにまさかそんな使い方があったとは。
しかし、そんなことが出来るのは天賦の才を持つ者だけじゃろうな。
う~む、クリスタルドラゴンを倒した以上、Sクラス冒険者に認定しよう。
約1ヶ月でSクラスとは呆れた奴じゃ」
冒険者証明書
名前:滝城雄介
種族:普人族
性別:男
年齢:22歳
クラス:Sクラス
技能:読み書き・計算・火風闇系魔法・剣術・強化魔法・念動魔法・時空魔法
報奨金はミノタウロス金貨2枚、シーサーペント金貨2枚銀貨50枚、クリスタルドラゴン金貨10枚だった。
シーサーペントの身体全体の売値は金貨3枚で、合計金貨17枚銀貨50枚(約1750万円)を得た。
クリスタルドラゴンの身体全体の売値は金貨15枚だったが雄介は売らなかった。
自分の武具の素材にするためである。
氷精の小手の片方を失ったし、今の装備ではSクラス相手は厳しいと知ったからだ。
王都一の鍛冶屋に行き、武器と防具一式を注文した。
一世一代の名品を造ってみせると鍛冶屋は興奮していた。
出来るのは5日後ということだ。
それから、王城の役人に言って、適当な家の購入を頼んだ。
雄介とダークテンペストの希望は伝え、具体的な選択はティアナとルカに任せた。
予算は金貨20枚である。
貴族用の邸宅などでなければ、充分な予算であった。
翌日、雄介はテレポートを使った。
一月ぶりの友人に会うために。
ダークテンペストは黒鷲になり、雄介の肩に乗っている。
テレポートの消費MPを減らすためである。
ティアナとルカは物件の下見に行っている。
カサンドラと会い、GWOのチュートリアルを受けた場所を思い浮かべる。
時空間を歪め、空間の狭間を通って目的地へのルートを把握する。
亜空間を使って安全に通れるルートを確保したら移動である。
雄介はテレポートに成功した。
再び恐ろしく広い荒野に立っていた。
辺りを見ると、見覚えがある。
カサンドラの家の方向に向かった。
家の前に行くと、カサンドラが洗濯物を干していた。
雄介に気が付きカサンドラは驚いていた。
そして満面の笑みを見せる。
「わぁ~雄介さん、来てくれたんですね♪
えっと…1ヶ月ぶりですね。
1ヶ月でテレポートを覚えるって凄く早いですよ。
お元気でしたか?」
「う~ん、それなりに元気だったよ。
カサンドラさんはどうだった?」
「そうですね、私は特に何事もなく新人さんの相手でした。
あら?その肩の黒い鷲は何ですか?」
「余はダークテンペストである。
この姿を見せるのは初めてだったな。
カサンドラよ、しばらくぶりだな」
黒鷲は黒不死鳥王の姿に戻った。
「わ、変身が出来たんですね。
こんなに大きさの違う変身ができるなんて凄いですよ」
「うむ、今は基本的にこの姿でおる」
ダークテンペストは少女の姿になった。
雄介がすぐさま魔法の布袋から女性用の服を取り出して渡す。
「むう、毎回着替えねばならぬとは人間とは面倒なものだ」
「黒王、頼むから人前で変身はしないでよ。
特に街中では絶対ダメだからね」
カサンドラは唖然としていたが、我に返った。
「…事情は分かりました。何とかしないとダメですね。
ちょっと待ってて下さい」
カサンドラは自分の家に入っていった。
しばらくすると戻ってきた、手に指輪を持って。
「この指輪には収納魔法と念動魔法が宿っています。
ダークテンペスト、この指輪をはめてみて。
そして他の姿に変身して下さいね」
ダークテンペストは指輪を左手の中指にはめた。
そして黒鷲に変身してみる。
通常であれば、足元に服が落ちるはずなのだが、どこにも見当たらない。
指輪は黒鷲の左足にはまっていた。
再び少女の姿に戻るとアッという間に服が自動的に着せられたのだった。
「おお、これは便利だのう。
服が脱げると念動魔法で収納され、人になると着せられるというわけか」
「人型に変身する幻獣のために造られた指輪ですよ。
サービスで上げますね」
「なるほどね。黒王の他にも人間に変身する幻獣は居るんだね」
「黒王?」
「ダークテンペストの渾名だよ」
「なるほど。
雄介さんとダークテンペストって仲が良いんですね」
「まあ、そうだね。
戦闘はいつも2人だし」
「うむ、そうだのう。
余と雄介はパートナーだからな」
「え?戦闘は2人だけなんですか?
他のパーティーは居ないのですか?」
「うーん、他のプレイヤーには会ってないし、GWOの人とパーティーを組むと相手が危険すぎるから居ないんだ」
雄介は有名な冒険者なので、実はパーティーのお誘いはそれなりに有るのだが、雄介は危険なクエストに次々と挑戦するため断っているのである。
「危険すぎるって、2人だけの方が危険ですよ。
今のLVと冒険者のクラスは何です?
あと勇者ポイントは?」
「LV39でSクラスだよ。1024ポイントだ」
「えぇ!まだGWOを開始して1ヶ月ほどですよね。
物凄いハイペースじゃないですか。
妹さんのためっていうのは分かりますけど、ちょっと無茶しすぎですよ」
「う~ん、一昨日の戦いは流石に厳しかったよ。
左腕を無くしてしまうくらいだったし」
「うむ、あの戦いは余も一度死ぬほどであったしな」
「…詳しい話、聴かせてくれますか?」
カサンドラは頭から湯気を立てながら雄介に尋ねた。
言葉は丁寧だったが、顔は般若のように怖かった。
雄介は詳細な説明をせざるを得なかった。
「何て無茶なことを。
クリスタルドラゴン相手にLV39のプレイヤー1人と幻獣1匹で普通は勝てるはずないんですよ。
死にに行くようなものです。
黒王、なんであなた止めないんですか。
クリスタルドラゴンの敏捷は低いんだから逃げられたはずですよ」
「相手が強いことは分かったけど、悪魔との戦いがあることを考えたら強い相手から逃げるわけに行かないから」
「余は雄介が戦うと決めたら全力でサポートするだけだ。
決める前ならアドバイスはするがな」
「悪魔との戦い?」
「隣のアスタナ共和国が悪魔に滅ぼされてしまってね。
うちの国もいつ攻撃があるかもしれないって状態なんだ」
「アスタナはかなり強い国だったはず。
アスタナが滅びたなんて…。
そんなことになってたんですね」
「GWOの世界でどんなことが起きてるかは知らないの?」
「私の仕事は新人さんのチュートリアルだから、それに必要のないことは教えて貰えないんです。
アスタナについて知っていることを教えて下さい」
雄介はアスタナがどのように悪魔に滅ぼされたのかについて詳細に話した。
「うわぁ、悪魔王が居るんですか。
…それもう詰んでますね」
「詰んでる?」
「雄介さんの今の戦力をどう組み合わせても勝ち目がないってことです。
前にSSSより上のプレイヤーはまだ出ていないって言ったの覚えてます?」
「うーん、あ、うん聴いたよ」
「SSSのプレイヤーが複数人居ないと悪魔王相手には勝ち目はないですよ。
GWOの世界の人にSSSクラスの人は居ないし、プレイヤーが1人じゃ勝利不可能ですね」
「つまり、現在のプレイヤーの最強クラスを複数人集めないと勝てないってことね。
でも、どうしてSSSより上の人は居ないの?
俺よりずっと長く続けてる人も居るんでしょ。
LVを上げ続けたらSSSより上の人は出てくると思うけど。
LVのカンスト(スコア上限)とか?」
「LVのカンストは999だから余裕はあるはずですよ。
でも、途中でLVが上がらなくなってしまうんです。
えっと、自分のステータスの平均値より200以上弱い相手なら経験値は0になる設定だから。
例えば、自分のステータスが平均500で、魔物のステータスが平均300以下なら、経験値は無しになります。
その場合10000匹倒してもLVUPも無しということですね。
でも勇者ポイントは獲得できますから」
「へ~、そんな設定になってたのか。
ステータスが平均500のプレイヤーならSSS、魔物が平均300ならSのはず。
SSSよりも上にあがろうとすれば、SSかSの上位の魔物を倒さなければいけないって訳だね?
でも、Sの上位は強いからあまり戦いたくない。
失敗したら死ぬんだから。
それに戦わなくても勇者ポイントは貯まるし、お金も貯まるし、みんなからも賞賛されるから。
そういう訳で、SSSになったらLVUPが止まってしまう。
この理解で良いの?」
「雄介さんはやっぱり頭が良いですね。
SSSのプレイヤーでもSの上位に不意打ちされたり、多数に囲まれたら負けるかもしれません。
そんなリスクを犯さなくても、SSSの強さならローリスクハイリターンな戦いが出来ます。
雄介さんもSクラスの敵とは戦わないで、Aクラスまでの魔物を狩り続けるだけで相当LVUPもするし、妹さんの命も助けられますよ」
「そうだね。
仮にAクラスの魔物の獲得勇者ポイントが50として、残り9000ポイント貯めるのに180匹か。
1日1匹で6ヶ月。
毎日Aクラスの魔物を1匹ずつ倒しているだけでも、あと7ヶ月以内に10000ポイント集めることは出来そうだね」
「毎日Aクラスの魔物を1匹ずつってだけでも並のプレイヤーじゃないですよ。
この1ヶ月、雄介さん本当に頑張ったんだから、これ以上は無理しないで。
ね、無理の無い範囲で戦ったら良いじゃないですか」
雄介はしばらく考え込むのだった。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「確かに俺がGWOを始めた目的は妹の命を助けることだったから、その達成の見通しが立ったのは嬉しいよ。
でも今の俺はそのためだけに戦っているんじゃないんだ。
スラティナ王国には良い人も居れば悪い人も居る。
全員を助けたいわけじゃないけど、それでも見捨てられない大切な人も沢山居るんだ。
スラティナ王国のプレイヤーは俺1人みたいだから、俺が見捨てたら国のみんなが殺されてしまう。
それに今の俺にとっては、スラティナが自分の居場所なんだよ。
だから、俺は戦う。
たとえ悪魔王が相手でも何とかして倒してみせるよ」
「うむ、雄介は絶対に余が死なせはせぬぞ」
カサンドラは悩んでいたが、一念発起した様子で微笑を浮かべた。
「本当に無茶な人ですね。
でも、雄介さんらしいわ。
本気で国を救う気なら、私も協力しますよ。
知ってました?
私、地球の出身だからプレイヤーになれるんです」
「それってプレイヤーになってパーティを組んでくれるってこと?
凄く助かるけど、本当に良いの?」
「はい。
ちょっと待っててくださいね」
カサンドラは何か念話をしているようだ。
非常に真剣な表情をしている。
「(カサンドラさんがプレイヤーになるってマジか。
GWOの管理者補助の人がプレイヤーになるって許されるのかな)」
カサンドラの念話が終わったようだ。
「お待たせしました。
神様が来られるそうです」
その場に突然白いローブの老人が現れた。
契約したとき以来の神との対面だった。
以前とは違い、厳しい表情を浮かべていた。
遂に20話まで進みました。
読んで下さっている皆さんのお陰です。
有り難うございます。
キャラクターが増えてきたので、設定集を載せます。
設定集の投稿は本日21時となります。
21話の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「パーティ結成」です。




