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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第1章 神との契約
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第2話 雄介の答え

 雄介は深く考え込んでいた。

考えていたのは、契約するかどうかではなかった。

デスゲームとはいえ、悪意を持って設計されたゲームではないことが契約書から読み取れた。

従って、慎重に注意深く行動すれば死の危険は避けられるだろうと思われた。

死の恐怖は感じているが、たった1人の家族の命がかかっている以上、雄介にとって契約は自明のことだった。


 では、雄介は何を考えていたのか。

契約内容を検討し、如何にリスクを下げ、目的到達の確実性を上げられるか思考しているのだ。

契約内容の交渉は、契約書にサインする前にしかできないことは当然だったからだ。

いわば、雄介の戦いは既に始まっているのだった。


 雄介は大事な判断ほど冷静にしなければならないことを知っている男だ。

4年前、滝城家が交通事故に遭ったとき、雄介は骨身に染みるほど厳しい経験が有ったからだ。

交通事故で冷静さを失い、感情に任せて茫然としていたら、妹も自分も助からなかっただろう。



 雄介は1時間ほど検討した後、老人との交渉を開始した。


「勇者ポイントは1人の命を助けたら1ポイント取得と聞きましたが、『命を助ける』の定義が契約書にないですね」


「そういえば、そうじゃのう。

例えば、人が魔物に襲われているのを助けるクエストならもし助けなかったら3人死ぬ状況なら3ポイントというように計算されるんじゃ。

また病人10人の治療薬の材料を採取するクエストなら、死亡率50%の病気なら5ポイントと計算するのう。

普遍的な定義が難しいから、契約書に載っとらんわけじゃ」


「自分の行動の結果によって、行動しなければ死んだはずの人が生きていれば、『命を助けた』ということになるわけですね」


「ふむ……そういうことになるのう」


「それでは魔物の討伐イベントはどうでしょうか。

ゴブリン100匹を倒したとします。

私が行動しなければ、ゴブリン100匹が生き残り犠牲者が出るでしょう。

その犠牲者の数は、仮に1ヶ月に3人と仮定すると1年後には36人に上ります。

『行動しなければ死んだはずの人』とは、どれだけの範囲の人を指すのでしょうか?」


「ほう、面白いところを突いてくるのう。

おぬしがゴブリン100匹を倒さなければ、やがて他の者が倒すか、それ以外の要因で死ぬであろう。

だからおぬしの行動による犠牲者数の減少が、おぬしが助けた人数となる」


「それならば、多くの犠牲者を出すような危険な魔物ほど、他の者が倒せないような強い魔物ほど、獲得できる勇者ポイントは多いということでしょうか?」


「勇者ポイントのシステム内容はあまり詳しく教えるわけにいかんのじゃ。

そういう傾向はあるが、それだけで決まるわけではないと答えておこう」



「(この点を突っ込むのはここまでにするか)

ところで話変わるのですが、行商人5人が盗賊10人に襲われているとします。

その行商人を助けるクエストで、盗賊10人を倒したらポイントは貰えるのでしょうか?」


「行商人に命の危険があれば、行商人を護ったことによって貰えるぞ。

その地域の法律に基づいて、死刑相当の罪人や正当防衛の場合は倒しても問題ない。

とはいえ、国ごとの法律など煩わしいからの、クエストが成立した時点で注意事項は表示されるのじゃ」


「それは便利ですね。

そういえば、契約書に『冤罪で無実の人を殺した場合や悪意を持って人を害した場合はペナルティが付く』と有りますね」


「そりゃそうじゃろう。

悪質な場合、勇者失格としてポイントが0になることもあるぞ」


「PKはほとんど有りえないということでしょうか?」


「限りなく現実に近いVRMMORPGじゃからな。

勇者ポイントを諦め、犯罪者になる覚悟があれば、する者が居るかもしれんがのう。

βテスターは人数が少ないからまずおらんじゃろうな」


「(勇者ポイントを諦めるような人はデスゲームの契約はしないだろうな。

メリットがなさすぎる。

βテスター同士のパーティは信頼性が高そうだ)

βテスターって、どれくらい居るのでしょうか?」


「ゲームの初期位置はバラバラにするからのう。

地球くらいのサイズの世界に数百人といったところか」


「……物凄く広くて、人数が少ないですね。

お互いに滅多に会えないのでしょうか?」


「功績を上げて英雄と言われるようになれば、お互いの噂を聞くこともあるじゃろう。

そうすれば、パーティも組めると思うぞ。

まあ、それ以前にNPCとパーティを組むことになると思うがの」


「そういえば、パーティの人数は6人まででしたね。

NPCとパーティを組んでいて、NPCだけでクエストをクリアした場合、ポイントは得られるのでしょうか?」


「おぬしが全く関与しておらんかったら、おぬしのポイントにはならないのう。

ちなみに、経験値も一緒に戦えば分割されるが、何もしなければ取得できんのじゃ」


「寄生プレイなどは対策されているってことですね。

それから、NPCは本当に生きているのか、コンピュータのプログラムなのか、どうなのでしょう?」


「少し難しい話になるが、良いかの?

元々存在しておった並行世界の物理法則に上乗せする形で、高位コンピュータによるプログラムを走らせてゲームを成立させておるのじゃよ。

じゃから、ゲームとしての扱いはNPCじゃが、並行世界の住民として生きておるよ。

自由意志の制限は何もしとらん」


「……えーと、いきなり話が広がったので驚きました。

並行世界ということはパラレルワールドということですね。

パラレルワールドが実在しているとは思いませんでしたよ」


「宇宙とは人間の認識にはのらないほど広大なものじゃ。

まして、全次元世界は更に広大にして深遠でな、起きる可能性のある出来事は全て起きていると言ってよい。

現時点の地球の科学では、まだまだ測りしれんことが有るのじゃよ」



 雄介と老人の話はその後も続き、雄介は契約書では明らかでなかった点を確認していった。

ゲームの創造者にして管理者とプレイヤーが1対1で会話できるなど、値千金の情報収集であった。

そうして約2時間が過ぎ、雄介が目覚めるまで10分となった。


「色々と教えて下さって有り難うございます。

さて、もう時間も少なくなりましたし、契約をしようと思うのですが」


「おお、そうか。

中々楽しい会話じゃったぞ。

自分の作ったゲームについて話をするのは面白いもんじゃわい。

それでは、契約書のここにサインと拇印をすれば良い。

これで、契約は締結じゃ」


「今後、βテスターとして頑張りますので、宜しくお願い致します」



 契約書にサインし、朱肉を老人に借りて拇印を押したとたん、雄介は衝撃を受けた。

契約書の一字一句が頭の中に叩き込まれ、鮮明に思い浮かぶのだった。

雄介は老人が本当に神なのか自分の夢の生み出したものではないのか、一抹の疑いを感じていたのだが、その疑いが晴れていくのを感じていた。

少なくとも老人が常識では測れない存在であることは明らかだった。


「これは凄いですね。

写真のように鮮明に記憶されていますよ」


「契約書には強制力が有ると言ったじゃろ。

忘れようにも忘れられんようになっておる。

まあ、不都合はないはずじゃ」


「確かに、便利な能力ですね」


 勉強や仕事の際に、こういう能力が使えれば良いのにと思わずにおれない雄介だった。


「それでは、さらばじゃ。

勇者ポイントの報酬を受け取るときにはまた会えるじゃろう。

支援はできんが、応援はしとるぞ。

頑張るが良い」


「はい、それでは失礼します。

またお会いできるのを楽しみにしています」


 雄介の視界が霧に覆われるように隠れていく。

真っ白に塗りつぶされると同時に雄介は目を覚ましたのだった。

周囲を見渡すと、いつもと何も変わらないベットの上だった。


「さっきの出来事、本当のことなんだろうね。

契約書は覚えてるけど、物証は何もなしか。

まずはログインして確かめてみるか」


 窓のカーテンなど他人からは覗かれる環境にないことを確認して、雄介は少し恥ずかしそうに呟いた。


「神様って良い人そうだけど、絶対センスがおかしいと思うなあ。

ゲームの名前がまんまじゃないか。

ゴッズ・ワールド・オンライン ログイン」


 そう言ったとたん、雄介の姿が地球上から消えたのだった。



次回の投稿は明日0時となります。

サブタイトルは「雄介のステータス」です。

やっとゴッズ・ワールド・オンラインが始まります。

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