第15話 盗賊退治
○28日目
高級そうな馬車を10人ほどの護衛が護っている。
馬車は盗賊たちの魔法で壊されたらしく修理しなければ走れなくなっていた。
その周囲を20人ほどの盗賊たちが取り巻いていた。
単純な強さは護衛の方が上のようだが、盗賊は逃がさないよう取り巻いて、弓矢や魔法などの遠距離攻撃をしかけていた。
多勢に無勢であり、護衛対象の馬車からあまり離れられないため、護衛達は窮地に追い込まれていた。
そこにダークテンペストに乗った3人がやってきた。
雄介の頭にクエストが浮かんだ。
クエスト:馬車の護衛の救助・盗賊の成敗
獲得勇者ポイント:救助者数次第・成敗数次第
注意事項:盗賊は全員死刑相当犯罪者
「ティアナ、ルカ、あの盗賊たちを成敗してくる。
…戦ってる姿は見ないでくれ。
黒王、2人を頼んだぞ」
「うむ、良かろう」
「雄介、頑張ってな」
「雄介様、いってらっしゃいにゃん」
雄介はエアロガードを発動させ、冒険者証明書を見せながら馬車の護衛に声をかけた。
矢などが飛んでくるが、エアロガードがはじき返す。
「確認します。
俺は冒険者の雄介です。
あなた方は馬車の護衛で被害者、こいつらは盗賊の加害者で間違いありませんね?」
「冒険者だね。
それで間違いない。
金は出す、助けてくれ」
「了解しました」
雄介は韋駄天と思考加速を使い、盗賊の周囲を回り始めた。
盗賊たちを観察する。
盗賊の構え・動き・体格・装備・気迫・目つきなどから一人一人吟味する。
盗賊は雄介に攻撃しようとするが、目にもとまらぬ速さで近づくことも出来ない。
盗賊の目にはそれはまるで黒い流星のように見えた。
「こいつらは全員格下だ。それならプランBだな」
雄介のプランは決まり、攻撃を開始する。
流水を発動させ、流麗にして無駄のない動きで盗賊に近づく。
「こいつは…ダメだ」雄介の大剣が振るわれ、1人目の首が飛んだ。
「こいつ…もダメ」2人目の首が飛んだ。
周りの盗賊が襲い掛かるが最小限の動きで雄介は避け、3人目の首を飛ばす。
7人目までの首を落とし、8人目のときそれは起こった。
「こいつは…当たりだ」
雄介は大剣の腹を盗賊に当て、最小出力でサンダーレイジを使った。
盗賊は雷撃を受け、スタンガンの要領で気絶した。
9人目の首を飛ばし、そのまま16人目まで進んだ。
盗賊はとっくに勝ち目がないことに気づき、逃げ出そうとするが雄介は許さなかった。
逃げ出した者を優先して倒していった。
17人目を同様にサンダーレイジで気絶させ、最後の22人までを斬り倒した。
雄介は寂しそうに呟く。
「22人居て、当たりは2人だけか。
念動魔法、この2人を拘束せよ」
魔法の布袋から長いロープを取り出した。
念動魔法をかけると、ロープに命が吹き込まれたように動き出した。
気絶していた2人を縛り上げ、拘束したのだった。
雄介は拘束が終わり、他の全員は間違いなく倒したことを確認すると、馬車の護衛に話しかけた。
護衛達は、唖然として雄介を見ていた。
その強さだけでなく、20人の首を刎ねながら、その服装に血が付いていなかったからである。
雄介としては、血が付いた服でティアナやルカと一緒に居たくなかったからエアロガードで防いだという理由だったのだが。
「見たところ重傷の人は居ないようですが、大丈夫ですか?
治療が必要な人が居れば言ってください」
護衛団のリーダーらしき人が返事をした。
30代の男で、戦闘経験が豊かそうな雰囲気がある。
「確か、雄介殿だったね。
助けてくれたことを感謝する。
こちらにも薬の用意はあるから大丈夫だ。
だが、凄まじい強さだね。
冒険者のクラスを聴いても良いかね?」
「Aクラスです」
「おお、流石はAクラス。
冒険者の100人に1人も居ないというが頷ける強さだ。
しかし、その若さでAクラスとは凄いな。
あと、あの2人を拘束したのはなぜかな?
盗賊を働いた以上、警吏に引き渡しても死刑になるだけのはずだが」
「2人だけは更正の見込みがあるから助けました。
説教したら放免します。
他の者は更正の見込みが薄いため斬りました」
「…なんという。
戦闘中にそんなことができるほど自分の眼力に自信があると言うのか。
信じがたい話だが、拘束した者の処遇は雄介殿に任せよう。
報酬だが、どれくらいが良いかね?
金貨1枚(約100万円)でどうだろうか?」
「(自分の眼力で判断した訳じゃないんだけどね)
盗賊22人からの護衛は銀貨66枚が相場ですから、それくらいでどうでしょう?」
「お待ちになってくださいませ」
うら若き女性の声が聞こえた。
金髪縦ロールの碧眼の美形の女性で、華麗にして豪奢な服装を纏っていた。
19歳の163cmである。
「この伯爵家の娘シャロン・カルッシュ・ダルムシュタットが命を救われて銀貨66枚で返したとあっては、伯爵家の名折れです。
金貨3枚を受け取って頂けないでしょうか?」
「立派な馬車だとは思いましたが、伯爵家の御令嬢でしたか。
そういうことでしたら、遠慮する方が無礼に当たりますね。
謹んでお受けします」
雄介は礼儀に従い、優雅に頭を下げた。
それはどこかの貴族の御曹司であってもおかしくない、貴族に対する礼儀にかなったものだった。
シャロンも護衛団のリーダーも内心驚いていた。
冒険者は強さは有っても礼儀は知らないのが常識であったからだ。
「雄介様は貴族としての礼儀を学ばれたことがお有りなのですか?」
「いえいえ、本で学んだ程度の付け焼刃です」
「その落ち着いた振る舞い、騎士であってもそれだけの者は少ないでしょう。
我が家に仕え、騎士になられては如何ですか?
きっと父も許してくれると思います」
「有り難い申し出ですが、自由人として冒険者を続けるのが性に合っているのです」
シャロンは雄介に興味を持ち、しばらくの間会話を続けた。
雄介の知識と立ち居振る舞いは高度な教育を受けた者であることを示していた。
秀でた者との縁は有形無形に利益に繋がるものである。
シャロンの邸宅は王都にあるため、後日改めて客として歓迎することになった。
その後、雄介は拘束していた盗賊2人を1人ずつ起こしては説教をし、銀貨10枚(約10万円)を渡してこう言った。
「お前の仲間は俺が切り捨てた。盗賊としてのお前は今日死んだんだ。
銀貨10枚あれば1ヶ月は暮らしていけるだろう。
その間にまっとうに働いていける仕事を見つけろ。
死んだ気になれば必ずできる。
お前にはそれができると俺は見込んだ。
その上で困ったときはアラドにたずねて来い。
冒険者黒鷲のユースケといえば、アラドなら誰でも知ってる」
盗賊は頷いている。少なくとも一時の反省はしたようだ。
その上で雄介は盗賊を釈放した。
雄介の行動を解説しよう。
まず盗賊を観察して、全員格下だからプランBを選んだとはどういうことか。
雄介は予め犯罪者等との対人戦の方針を検討していた。
相手が同格の場合はプランA、相手を切り殺す覚悟で全力を以って戦う。
相手が格下の場合はプランB、更正の見込みのある者は助け、無い者は切る。
では、どのようにして更正の見込みの有無を判断したのか。
普通なら日本の裁判官が長期間かけても判断が難しいことを戦闘の最中にできるはずもない。
雄介はクエストのシステムを利用することで、それをある程度可能にした。
相手一人についてクエストを意識すると、クエストが表示される。
例えば盗賊の1人目の場合、以下の表示であった。
クエスト:盗賊ブルガス・ヤロスワフの成敗
獲得勇者ポイント:6
注意事項:ブルガス・ヤロスワフは死刑相当犯罪者
これはブルガス・ヤロスワフを生かした場合、今後6人の人を殺害することを示している。
この場合、更正の見込みはないと判断し、切ったのである。
ちなみに首を刎ねたのは比較的苦しみを少なく即死させるためだ。
8人目と17人目の場合、クエストが表示されなかったため、逃がしても今後殺人に手を染めることは無いことが分かった。
実際のところ、殺人以外の犯罪であれば行う可能性は多々あるのだが、殺人をしないのなら死刑は厳しすぎるということで雄介は助けたのである。
最後に、相手が格上の場合はプランC、味方の被害を極力抑えて逃走する、である。
雄介はダークテンペストの所に戻った。
顔色は悪く、気持ちは落ち込んでいる。
盗賊を逃がすまでは、空元気でやり切ったのである。
「雄介、大丈夫なん?
ゆっくり休み」
「雄介様、ルカの膝枕はどうでしょう?
耳や尻尾どれだけ触ってもいいにゃん」
「流石に人を切るのは初めてだから、きついなあ。
しばらく甘えさせてくれ」
「雄介がうちらに戦ってる姿を見ないでほしいって言った気持ちは分かるで。
雄介はよう頑張ったよ」
「そうですにゃん。
雄介様は立派にゃん」
「黒王、しばらくゆっくり飛んでくれ。
俺は休む」
「うむ、それが良かろう」
雄介はダークテンペストの上で、ティアナとルカを抱き枕のようにして休むのだった。
滝城雄介
LV:34
年齢:22
職業:冒険者LV27・精霊魔法使いLV24・強化魔法使いLV20・念動魔法使いLV14
HP:1235 (A)
MP:1074 (A)
筋力:271 (S)
体力:231 (A)
敏捷:270 (S)
技術:236 (A)
魔力:218 (A)
精神:210 (A)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:0
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・マシュハドの勇者・アラドの勇者
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性中耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(100%)・サンダーレイジ(100%)・ブラッドブレイク(100%)・思考加速(100%)・流水(100%)・韋駄天(100%)・記憶力上昇(50%)・金剛力(30%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・強化魔法(任意)・念動魔法(任意)
装備:黒竜鋭牙の大剣・地竜大鱗の鎧・光王虎のマント・氷精の小手・烈風の具足
所持勇者ポイント:773
累計勇者ポイント:773
「(LVは上がってないけど、獲得勇者ポイントは多いなあ。
124もアップしてる)」
「雄介そろそろ王都が見えてきたぞ。
このまま近づけば大騒ぎになるだろう。
降りるぞ」
「ああ、頼む」
「あれが王都なんや。
は~やっぱり大きいなあ」
「王都って初めて見たにゃん」
「(日本で言えば、地方の並の都市くらいだな)
アラドに比べると随分大きいな」
GWOの世界は人口密度が低く、農業の生産性や流通が発達していないためあまり大規模な都市は少ないのだ。
人口は約5万人、面積18平方kmで、周囲を城壁が囲っており、門は大小合わせて12ある。
どの門にも兵士が数人以上居り、出入りする人を確認している。
中央に王城があり、当然だが許可が無ければ入ることはできない。
ダークテンペストは黒鷲の姿になり、雄介は2人と1匹を連れて王都の西大門に向かった。
冒険者証明書と王からの招待状を見せたところ、兵士たちは最敬礼をした。
王城の客人という扱いになるのである。
西大門を担当する小隊長が案内役を申し出た。
雄介たちは王都に不慣れなため、申し出を受け、王城に向かった。
その途中、雄介が小隊長に声をかけた。
「せっかくですから、王城に行く前に一緒に食事でも如何ですか?
今夕方ですし、王都のことを聴かせて頂きたいのですが」
「いえ、今は勤務中の身ですから」
「そんなに時間は取らせません。昼食程度の時間しかかかりませんから」
「まあ、そう言われるのでしたら」
雄介は食事をしながら小隊長から色々と聴きだす。
酒を注ぐと小隊長の口は軽くなった。
勇者の出現については何も聞いていないこと、王都の治安は段々悪化していること、宰相は軍に関する素人なのに何かと将軍に口を出すこと、その口出しした内容も兵士達から見て見当ハズレなこと、そのため兵士の間で宰相に対する不満の声が上がっていることなどの情報が得られた。
雄介はそれらの情報の信頼性について後でダークテンペストを使って確認し、ある程度正しいことを知った。
その後、雄介たちは王城の正門にたどり着いた。
再び冒険者証明書と王からの招待状を見せると客人として迎えられた。
雄介に客間を一室、ティアナとルカに一室があてがわれた。
王との謁見まであと5日、それまで雄介は謁見の準備を進めるのだった。
「雄介、謁見の準備ってどうするつもりなん?」
「まずは王都のギルドマスターを味方につける。
勿論他にも味方を増やせそうなら働きかけるよ。
あとダルムシュタット伯爵家の晩餐に呼ばれてるからそれに出て、貴族たちが王や宰相についてどう思っているか知っておきたい。
それから時空魔法の使い手が居たら、時空魔法教えてもらおうかな。
謁見後だとそんな時間ないかもしれないし」
「流石雄介は色々計画してるんやね」
「限られた時間を有効に使わないといけないからさ」
翌日、雄介はスラティナ王国冒険者ギルド本部に向かった。
王都のギルドマスターに会うためである。
ギルドマスターは80代の老人だった。
若い頃はさぞ優れた冒険者だったのだろう。
瞳に知性の光が輝き矍鑠としており、積み重ねた齢が経験として熟成していることが窺われた。
「初めまして、アラドから来ましたAクラス冒険者の雄介です。
こちらはアラドのギルドマスターからの紹介状です」
「ふむ、君のことは聞いている。
冒険者登録から約3週間でAクラス冒険者になった黒鷲のユースケだな。
Aクラス到達の最短記録保持者と会えて、わしも嬉しいよ」
「いえいえ、単独でドラゴン撃破の経験のある伝説のギルドマスターには及びませんよ」
「フォッフォッフォ、昔のことじゃよ。
若いのにわしのことを知っておったとは感心じゃな」
雄介は王都で有名人と会うときは前もって相手の情報を集めていた。
有名な相手を知らなければ、重大な失策を犯す場合があるからだ。
「紹介状によれば、その肩の黒鷲が幻獣、黒不死鳥の王ダークテンペストということじゃが、確認させてくれるかね」
「余が黒不死鳥王ダークテンペストである。
もう少し広い部屋を用意して貰いたい」
「ふむ、その声を聴くだけでも並でないことがよく分かるよ。
良かろう。こっちの部屋へ」
2人と1匹は大人数用の会議室に移動した。
ダークテンペストは黒不死鳥王の姿を見せる。
「おお、一瞬にして変化したのう。
よほど魔力が強いのであろう」
「ふふ、やはり着眼点が他の人とは違いますね」
ダークテンペストは変身の魔法で姿を変えている。
変身の魔法は魔力が強いほど、変身が早く正確だ。
約70cmの黒鷲が翼長10数mの黒不死鳥王に一瞬で変身したことは、ダークテンペストの魔力が桁外れなことを示していた。
「姿よりも中身が大事じゃからな。
今までそれなりの魔物を支配した魔物使いが勇者を名乗ることは何度もあった。
じゃが、ダークテンペストはそれらの魔物とは桁が違うの。
それに君の冒険者としての実績も大したものだ。
うむ、これほどの力を持つ者が勇者を騙ることは有りえぬじゃろう。
そんなことをせんでも欲しい物は得られるからのう。
君を勇者と認めよう」
「有り難うございます。
さて、色々と相談したいことが有ります。
実は先日下級悪魔と戦ったのですが、なぜ1匹だけでこの国に悪魔が居たのか心当たりは有りませんか?
あと、悪魔の国について知っていることが有れば教えてほしいのですが」
ギルドマスターは突然顔色が真っ青になり、大声でどなった。
「なんじゃと!
本当に下級悪魔がおったのか?
見間違いではあるまいな?」
「え、ええ。
倒して討伐確認の角を提出しましたから、間違いないですよ」
「……大変じゃ。
これは大変なことになるぞ」
ギルドマスターは震えていた。
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「悪魔の国」です。




