第13話 王城からの招待
○17日目
「雄介、なんか顔色が悪いけどどうしたん?
勇者様の話のせい?」
「えっと、落ち着いて聴いてほしい」
「う、雄介がそういう時ってホントとんでもないこと言うよね。
いいよ、何でも聴くよ」
「その伝説の勇者って俺なんだ。
しかもそれをマシュハドで公表せざるを得なかった。
(公表したときのマシュハドの反応が異常なほどオーバーだったのは伝説のせいだな)」
「……うすうすそうじゃないかなと思ってたよ、うち。
やっぱりそうなんやね。
はあ、自分の彼氏が伝説の勇者様って色々心配やなあ。
うち、つり合いが取れる気せえへんよ」
「つり合いとか言うなよ。
好きだから一緒に居る。それで充分だろ?」
「わ、雄介からそんなこと言われるなんて初めてや。
ひょっとしてお姉ちゃんから何か言われたんとちゃうか?」
「いやいや、そんなことないって。
(うわ、鋭いな)
ところで、俺が勇者だっていつから気付いてたんだ?」
冷や汗をかきながら雄介は話題を変えた。
「ダークテンペストが幻獣って知ったときや。
幻獣って普通一生に1回も見られるようなもんやないよ。
それをパートナーにしてる冒険者って言ったら、ねえ」
「それで他にも隠してることが有るだろうって言ったんだな?」
「そうや。これで全部?」
雄介は腹をくくってティアナに全て話すことにした。
女の直感は鋭い。
今話さなくてもやがて話さざるを得ないときが来るだろう。
「いや、まだ有る。
俺は異世界から来たんだ。
神と契約してこの世界の人たちを助けるためにここに来たんだ。
それと引き換えで妹の命を助けてもらうことになってる」
「えっ! 雄介、いつかその異世界に帰ってしまうん?」
「いつか帰るというか、向こうの世界とこっちの世界と行ったり来たりが可能なんだ。
向こうに行って妹の見舞いをしてからこっちに戻ることも出来るんだ」
「うちは雄介の世界に行くことはできへんの?」
「ごめん、それは無理なんだ」
「じゃあ、雄介がいつかこの世界に来なくなることってあるん?」
「それはない。ティアナが居る限り、俺はこっちに来るよ」
「絶対やで。絶対雄介いなくなったらあかんよ」
「ああ、わかった」
雄介はティアナにキスをしようとして……ここがギルド内であることを失念していたのに気がついた。
周囲の視線が集まっている。
いくら声を周囲に聞こえないようにしていても、会話の様子は伝わってしまうものだ。
嫉妬のこもった男達の視線は矢のように雄介に突き刺さっていた。
2人は茹でダコのようになってしまった。
神のβテストが終わると、βテスターは終了し、GWOが正式開始となる。
βテストがいつ終わるかは神が決めることなので、雄介にとっては不明である。
ただし、βテスターは正式開始以降も希望すればプレイヤーを続けることが可能だと神との契約書に定められているのだ。
当然、獲得した勇者ポイントは正式開始以降もそのまま保持される。
つまりずっとGWOを続けることは可能なのである。
雄介とティアナはその晩、レストランに行った。
いつもどおり、雄介はティアナを下宿まで送った。
その日、雄介が帰ったのは翌朝だった。
それから数日、雄介はBクラス以下の魔物を狩り続けた。
Aクラスの魔物の情報はアラドのギルドには入っていなかった。
そして王都からの早馬が、ギルドに届いた。
「ギルドマスター、何か用事だと聞いたのですが」
「雄介か。王都から連絡が来たぞ。
王城に来てもらいたいという招待状を携えてな」
「ああ、いつか来るとは思ってましたが、やっぱり来ましたか」
「確認したいのだが、おぬしが本当に伝説の勇者様なのか?」
「う~ん、勇者なのは確かですが証明は難しいです。
伝説の勇者の判定方法というのは有るのでしょうか?」
「勇者様の名前を騙る者は数年ごとに出るのじゃよ。
勇者様となれば、国家の要人であり、少なくとも貴族並、働きに応じて貴族以上の立場に就けるからのう。
連れている幻獣、品格や人柄とその強さを見て判断される。
幻獣を連れているということじゃが、魔物使いとの区別が難しい。
上級の魔物と幻獣との区別はつかんしの」
プレイヤーが連れている幻獣で多いのはドラゴンだが、魔物でもドラゴンは居る。
幻獣のドラゴンと魔物のドラゴンの違いは人を護るか人を襲うかの違いであり、魔物使いの支配下にあれば区別は難しいのだ。
「正直な話、そういう面倒そうな立場には就きたくないのですが。
冒険者で充分過ぎるほど稼いでいますしね。
(クエストをこなす時間が減るのが1番困るんだ)」
「しかしマシュハドで自分は勇者だと宣言したのじゃろ。
もしそれで偽者だとなれば、詐欺罪で牢屋行きじゃぞ。
まあ、死刑にはならんであろうがの」
雄介もダークテンペストも冒険者として必要な情報は集めていたが、文化に関する情報は集めていなかった。
そのため、GWOの世界では子供でも知っている勇者の伝説を知らず、隠し切れそうにないから話そうという考えで言ってしまったのだ。
もし知っていれば、もっと上手い配慮をして隠していただろう。
ちなみに、他のプレイヤーにも勇者だと公言している者としていない者がいる。
「仕方ないですね。
勇者であることを証明する方法を何か考えておきます」
「まあ、人柄は問題ないじゃろうし、強さについてはAクラス冒険者じゃから心配なかろう。
それにこの町では、既におぬしは勇者様だと認識されておるぞ」
Aクラスのオーガヘッドとここ数日で多数のBクラスの魔物を倒した功績により雄介は既にAクラスに昇格していた。
約3週間でのAクラス昇格は、前代未聞そのものだ。
アラドの町では雄介が唯一のAクラス冒険者である。
冒険者証明書
名前:滝城雄介
種族:普人族
性別:男
年齢:22歳
クラス:Aクラス
技能:読み書き・計算・火風闇系魔法・剣術・強化魔法・念動魔法
「ええ、まあそうですね。
どこに行っても周囲の目が集まって困ります。
(お陰で最近ログアウトしてないんだよね)」
「とにかく、招待状を王城の門番に渡せば入れるはずじゃ。
10日後に謁見じゃから、その前日までに着くようにとのことじゃ。
早く着くのなら、いつでも良いそうじゃ」
「分かりました。
あ、謁見の日の前後にティアナの休みを貰えませんか?
王都に連れていってやりたいので。
それに合わせて王都に行きます」
「おぬしティアナといちゃいちゃするのもほどほどにせいよ。
休みの日程はティアナと相談して決める。
その代わり、今度依頼を頼むぞ」
「OKです。
それではこれで」
ギルドマスターとの面談室を出ると、受付に向かった。
「ティアナ、ギルマスとの話終わったよ。
何か良さそうな依頼はない?」
「今ね、Aクラスの魔物を見かけたって話が来たんよ。
下級悪魔なんや。
国内では目撃情報が滅多にない珍しい魔物なんやで」
「ほほう、下級悪魔は見たことないなあ。
どこへんで目撃したって?」
「アラドから北東に40kmほど行ったところにあるマランド山の中腹や。
そこまで高い山やないで」
「マランド山ね。
分かった、行ってみる」
「あ、雄介。
ルカちゃんから近々大事な話があると思うから、しっかり聴いてあげてな」
「ルカから?
あれ、ティアナとルカって仲良かったっけ?」
「雄介が狩りに出かけてる間に一緒にお菓子食べに行くことがあって、そのときにね」
「そうなんだ。
まあ、仲良きことは美しきかなってね」
「好きなものが一緒やから。
凄く仲良くなるか、凄く仲悪くなるかどっちかしかないと思うよ」
「好きなものって俺?」
「他に何があるて言うの」
ティアナは照れくさそうに笑った。
それから雄介は頭を切り替え、下級悪魔と戦う前にステータスを確認した。
今はもうティアナの前でもそういった行動をするようになっている。
滝城雄介
LV:32
年齢:22
職業:冒険者LV25・精霊魔法使いLV21・強化魔法使いLV18・念動魔法使いLV12
HP:1155 (A)
MP:1074 (A)
筋力:231 (A)
体力:231 (A)
敏捷:270 (S)
技術:236 (A)
魔力:218 (A)
精神:210 (A)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:0
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・マシュハドの勇者・アラドの勇者
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性中耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(100%)・サンダーレイジ(100%)・ブラッドブレイク(100%)・思考加速(100%)・流水(100%)・韋駄天(100%)・記憶力上昇(30%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・強化魔法(任意)・念動魔法(任意)
装備:黒竜鋭牙の大剣・地竜大鱗の鎧・光王虎のマント・氷精の小手・烈風の具足
所持勇者ポイント:512
累計勇者ポイント:512
「この一週間でそれなりに強くなったな。
LVは5UPで、記憶力上昇以外スキルは全部100%になったし、装備は一新したしな」
「勇者ポイントは300ほど上がったな。
汝が勇者としての立場を利用して大きな働きをすれば、一気に獲得できるのではないか?」
「称号:アラドの勇者ってなってるな。
勇者ってネームバリューがあるから、利用しようって貴族や有力者が多いみたいだ。
それを上手く逆利用して、大きなクエストをどんどんクリアするのが近道だな」
「そういえば取得途中のスキルが無くなってしまったが、新しいスキルは見付かったのか?」
「いま疾風覇斬と天竜落撃を発展させた技を研究開発中だよ。
さて、下級悪魔退治に向かうか」
雄介はダークテンペストに乗ると、マランド山に向かった。
中腹と思われる場所にたどり着くと、マジックサーチを使った。
「右後ろ600mの所に強力な魔力を感じるな。
Aクラスの魔物と見て良さそうだ」
雄介はブラインドハイディングを使い身を隠す。
ダークテンペストは隠密を使い、魔物の向こう側に回って挟み撃ちする作戦だ。
雄介が魔物に近づいてみると、下級悪魔がそこにいた。
下級悪魔とは悪魔族の中では下級だが、人間とは比べ物にならない魔力を持っており、それなりの智恵を持っているとされる。
身長2m前後で、羊の顔と2本の角を持ち、蝙蝠の如き2枚の羽を持ち、茶色の毛むくじゃらの姿をしている。
下級ですらAクラスに認定されるということでも、その強大さが分かるだろう。
雄介が100mほどに近づいた時点で、悪魔は声を上げた。
「ワレに何のようだ、ニンゲン」
雄介の頭にクエストが浮かんだ。
クエスト:下級悪魔討伐
獲得勇者ポイント:137
「貴様を殺すためだ!
(ち、見付かったか。
何て奴だ。1匹で137人もの人を殺すというのか。
絶対にこいつはここで倒す)」
「ふっ面白い。やってみろ、ニンゲン」
悪魔はいきなりブラックエクスプロージョンを放った。
雄介を中心に直径10mほどの漆黒の大爆発が起こった。
暗黒属性絶対耐性のため、ダメージはないが、それでも弾き飛ばされる雄介。
周囲の木はバラバラに砕かれている。
悪魔の背後から、ダークテンペストが黒炎を凝縮させ、黒炎弾を飛ばした。
地面が砕かれ、高さ約20mの炎柱が上がった。
悪魔が炎に巻き込まれ苦しんでいるのが見えた。
雄介はその隙を突き、全力の魔力を込めてクリムゾンフレアをぶっ放した。
悪魔の周囲に太陽の如き光と炎が立ち上る。
近くの岩が融け、マグマの如きドロドロの姿に変わった。
悪魔は水冷属性上級魔法コキュートスアラウンドを使った。
悪魔の周囲が氷の世界に変わる。
何十本もの氷の柱が立ち並び、先ほどまでの火炎が消えてしまった。
だが、確実に悪魔にダメージを与えているのが分かった。
雄介は黒竜鋭牙の大剣を握り締め、思考加速・流水・韋駄天を同時使用して悪魔に突撃した。
零下何十度の極寒が自分を蝕むのを感じた。
だが、雄介は怯まなかった。
雄介は少しも速度を落とすことなく、その刃を悪魔の角に叩きつけた。
雄介は観察していたのだ。
目を凝らし、一瞬も見逃すことなく観察していた。
悪魔の強力な魔力の源は何か。
その角に高密度な魔力が蓄積されていることを見抜いた。
生半可な一撃ではその堅い角をへし折ることはできない。
雄介は正に渾身の一撃を以って刃を悪魔の角に叩きつけた。
そして、2本ある角の1本が叩き切られた。
空へと飛び上がる角。
悪魔は自らの誇りである角が空を飛ぶのを呆然と見上げた。
雄介はその隙を逃がさなかった。
返す刃で、袈裟切りに天竜落撃を悪魔に切りつけた。
深々と突き刺さる刃だが、まだ心臓までは届いていなかった。
「ワレはもはや助からぬ。
だが、貴様も道連れだ」
悪魔は最後の力を振り絞り、雄介の首を握り締め、最後残った1本の角の魔力を暴走させた。
諸共に自爆しようというのだ。
この時、雄介が逃げようとしていれば雄介は死んでいただろう。
雄介は最大限の強化魔法を以って腕力を向上させ、その金剛力をもって更に刃を食い込ませた。
悪魔が自爆するよりも早く、雄介の一撃は悪魔を真っ二つに切り裂いた。
悪魔の心臓を切り捨て、即死させたのだった。
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「王都への出発」です。




