第12話 勇者
○16日目
雄介は女性達を連れてマシュハドのギルドに向かった。
女たちの姿はオーガの住処に居たときとは見違えるようであった。
オーガに捕らえられていたときは、泥に汚れボロ切れを身に纏っていた。
そのままの格好で町を歩かせるのはあんまりだということで、宿屋でお風呂に入れ服を揃え食事を食べさせたからだ。
雄介がマシュハドのギルドに入るのは初めてのことだ。
受付嬢の所に向かう。
冒険者証明書を見せながら雄介は言った。
「Cクラス冒険者の雄介です。
西南にあるオーガの住処に突入し、捕えられていた女性達を救出しました。
後ろの女性達がそうです。
重大な案件ですので、できればギルドマスターに報告したいのですが」
「えっと……オーガの住処と言いますと、あのオーガの住処ですね。
確かに数日前、ある村にオーガの襲撃が有ったと聞いています。
ちょっとお待ち下さい。
マスターに相談致します」
しばらく待つとギルドマスターが出てきた。
40代くらいの冒険者に見える。
アラドのギルドマスターよりかなり若い。
目つきのあまり良くない男……というか目に猜疑心が浮かんでいた。
雄介は事情を説明した。
「おいてめえ、ふざけるのもいい加減にしろよ。
黒鷲のユースケの名はオレも聞いてる。
だけどな、Cランクの冒険者があのオーガの住処に行くなんて話があるか。
しかも1人だと。
オーガって奴はくそ強えんだよ。
Cランクが1対1でも苦戦し、何とか倒せるって奴だ。
第一だな、てめえCランクまでの昇格が2週間じゃそうじゃないか。
Cランクまで進むには普通何年もかかるもんだぜ。
オレですら5年もかかってるんだ。
それがてめえみてえな若造が、どんな詐欺をやったんだ」
「単なる憶測だけで人を詐欺師呼ばわりとは、穏やかじゃないね。
冒険者の強さはランクだけじゃないだろう」
「ああ、冒険者になる前から強いって奴は世の中たま~に居るからな。
だがな、てめえ、冒険者になる前の記録が見付からないそうだぜ。
それほどに強いんなら、その前は何やってたんだ。
兵士か、傭兵か、それとも盗賊か?
何の記録も残さないような平凡な市民やってた奴にはとても見えねえぜ」
その発言を聞き、雄介に助けられた女達は黙っていられなくなった。
「ちょっとあんた、雄介様に向かって何てこと言うんだい。
この方は私たちを助けるために命がけで戦って下さったんだ。
ここに居る女全員がその証人だよ。
そんな方が盗賊なんてやってたはずがないじゃないか」
「そうよそうよ、雄介様を侮辱しないで。
あの恐ろしいオーガ達を次々と切り捨てていったんだから。
私たち、この目で見たのよ」
「そうにゃん。雄介様は、私たちの命の大恩人なのにゃ」
「(雄介様って恥ずかしいなあ)
まあまあ、落ち着いてよ。
これくらい大したことじゃないから」
「女が9人ってなあ、姦しいなんてもんじゃないな。
仕方ねえ。
オーガを倒したってことは認めてやらんでもない。
だが、冒険者になる前の話は聴かせてもらおうか」
雄介は知らなかったが、雄介の名前が広がると共に、ギルド上層部はその過去について調査を行っていた。
だが、約2週間前に「王都から来た」と言ってアラドの町に来たとき以前のことは何も分からなかった。
影も形もなかったのだ。
この国に戸籍制度は出来ていない。
だが、何らかの分野で活躍した人の情報は残るものだ。
雄介の存在は、ギルドから見て『不自然』だった。
アラドのギルドマスターは信頼できそうな人物だというコメントはしていたが、疑う人は居るものである。
「(オーガの一件を本気で疑ってるんじゃないな。
俺を挑発して情報を引き出そうとしてる。
知りたいのは、『俺が何者か』だな。
ただの市民でした、で押し切るのは無理だ。
今日はごまかせても後で余計に疑惑が大きくなるだろう)
俺の強さの秘密が聴きたいって訳だね。
まあ、良いだろう。
それを説明するから、外に出てくれないか。
ギルドの中じゃ都合が悪いんだ」
「強さの秘密、か。
……他に何人か職員を連れていっても良いな?」
「何人いても別に構わないよ。
ちょっと驚くかもしれないけれど、騒がないでくれよ」
雄介やギルドマスター、職員、女たちはギルドの外に出た。
雄介は近くの広場に移動し、大声を張り上げた。
「皆さん、ちょっと私の話を聴いて下さい。
今からここに巨大な鳥が現れます。
驚くかもしれませんが、全く危険はありません。
安心して下さい。
さあ、ダークテンペスト」
周囲の人々に声が届いたのを確認すると、ダークテンペストは黒不死鳥王の姿を現した。
翼を広げると10mを超える巨体であり、漆黒にして優美なるその姿は人々の度肝を抜いた。
威厳ある落ち着いた声でダークテンペストは語りかける。
「人間たちよ。
余の声を聞くが良い。
余こそは黒不死鳥の王、ダークテンペストである。
幻獣の中の幻獣にして、最強の幻獣だ。
これなる男、滝城雄介は余のパートナーである。
神に選ばれた勇者にして、この地の人々を救うために現し者であるぞ」
「(おいこら、そこまで言えって言ってないだろう。
神に選ばれた勇者って脚色しすぎだろうが)」
「(こういうものは最初が肝心なのだ。
見よ、ひれ伏しておるぞ)」
助けた女性達は土下座をし、他の人たちも跪いていた。
ギルドマスターが真っ青な顔色で土下座をしながら話し出した。
「も、申し訳ありませんでした。
神に選ばれた勇者様に無礼千万な発言の数々。
どうか、どうか平にご容赦願います」
「(おいおい、反応が極端すぎるだろう)
いや、ギルドマスターの立場であれば俺に対して不審を抱くのは当然のことだろう。
俺は一人の冒険者に過ぎないんだ。
冒険者として、人を助ける働きをしているだけだよ。
それ以上の過剰な待遇は求めていない。
ただの冒険者として扱ってもらえば充分なんだが、出来ないかな?」
「謙虚にして慈愛に満ちた御言葉の数々、深く感謝致します。
本日は最高の宿を用意し、勇者様を迎える宴を開きたいと思いますが、如何でしょうか?」
「(目下には高圧的で、目上には卑屈か。信用できそうにないなあ)
宴会は止めておいて。
ただ誘拐されていた女性達は一晩宿に泊めてほしいんだけど、良いかな?」
「それは勿論でございます」
「それからオーガの報奨金は頼めるかな。
角は持ってきたから。
特別扱いはしないでね」
「承知致しました」
ギルドに行き、オーガ110匹・ハイオーガ13匹・オーガメイジ8匹・オーガヘッド1匹の報奨金を受け取った。
オーガ銀貨15枚・ハイオーガ銀貨50枚・オーガメイジ銀貨50枚・オーガヘッド金貨2枚のため、合計金貨29枚(約2900万円)であった。
また、冒険者のクラスがBに上がった。
Aクラスを勧められたが、雄介が固辞した。
冒険者証明書
名前:滝城雄介
種族:普人族
性別:男
年齢:22歳
クラス:Bクラス
技能:読み書き・計算・火風闇系魔法・剣術・強化魔法
数時間後、夕方になると雄介は女たちを連れて夕食を食べるため、(ごく普通の)飯屋に行った。
雄介の姿を見ると店長が顔色を変えて飛んで来た。
「あなたはまさか勇者様では?
こんなきたない店に来ていただけるとは。
しがない飯屋ではありますが、精一杯のもてなしを致します」
ハシュハドは人口3000人ほどの小さな町であり、早くも勇者の名はマシュハド中に広まっていた。
「(この様子だと、夜ログアウトするのが見付かってしまうかもしれないなあ。
お金に余裕はあるし、今晩は宿に泊まるか)
いつも出している料理で良いですよ。
お金は払います」
女性達との夕食は、料理も酒も美味しく大変盛り上がった。
その晩、女性達の希望で同じ宿に泊まることになった。
そして深夜、雄介の寝室のドアをノックする者が居た。
「こんな時間に誰だい?」
「雄介様。ルカにゃん。入れてほしいにゃん」
「用事があるみたいだね。
どうぞ、入って」
そこに居たのは助けた女性達の1人、猫の獣人、ルカ・ブラザヴィルだった。
ルカは157cmの17歳である。
猫耳と猫の尻尾があり、桜色の髪が腰まで垂れていて、美人で胸は大きいほうだ。
決意を秘めた大きな瞳でじっと雄介を見つめている。
高鳴る鼓動に突き動かされるようにルカは告白した。
「雄介様、お願いがあって来ましたにゃん。
ルカを雄介様の下女にしてほしいにゃん」
「……え?
下女? 何でまた下女に?」
「……オーガにルカの家族は皆殺されてしまったにゃん。
村に帰ってもルカはたった1人にゃ。
そうなったら男の獣人は力が強いから冒険者とかで食べていけるけど、女の獣人は……身を売るくらいしかないにゃん。
ルカは家事はできるし、雄介様のそばにいられるなら何でもするにゃん。
雄介様がルカたちのためにあんな大きなオーガたちと戦っているのを見て、雄介様に何としても恩返ししたいと思ったにゃん。
そして雄介様が勇者様だって知って、みんなのために生きる方だって分かったにゃん。
だからどうか、下女で良いから雄介様と一緒に居させてほしいにゃ」
「俺に着いて行きたいの?
今付き合ってる人が居るんだけどな。
仕事の紹介なら構わないけれど、下女というのは……」
ルカはそれを聞いてショックを受けた様子だったが、それでもなお引く気はないようだった。
ルカは必死で言葉を続けた。
「雄介様は本当に凄い人だけど、だからこそ、人より重いものを背負ってるにゃん。
多くの人の命や希望や夢を背負って進んで行かれる方にゃ。
おそらく雄介様は1人の女じゃ支えきれないにゃん。
だから、ルカは雄介様のお役に立ちたいにゃ」
「役に立ちたい、か。
まず仕事のことは分かったから、それは何とかするから安心して。
ただ、下女にするかどうかはしばらく考えさせて」
「ありがとございますにゃん」
告白後もルカはその場に立ったままだったので、雄介は帰らせた。
ルカは少し残念そうだった。
「(1人の女じゃ支えきれない、か。
下女って一緒に住むわけで、ティアナのことを考えるとなぁ。
ダークテンペストはどう思う?)」
「(ふむ、男と女のことはなるようにしかならぬ。
汝がルカと一緒に居たいと思うなら、そのように行動せよ。
ティアナのことを心配しているのであろうが、今のままでは危険だぞ。
ルカのことを抜きにしてもな)」
「(ルカのことを抜きにしても、今のままではティアナのことが危険?
どういうことだ?)」
「(これ以上は汝自身で、いや2人で考えるべきことだ)」
「(……わかった)」
翌日ルカ以外の女たちは、自分達の村に戻ることにした。
雄介はどうしてもお金に困っていた人には当面の生活費を渡した。
女たちは雄介に幾度も涙ながらにお礼を言って帰っていった。
ルカは雄介が答えを出すまでそばに居ることになった。
滝城雄介
LV:27
年齢:22
職業:冒険者LV19・精霊魔法使いLV16・強化魔法使いLV12・念動魔法使いLV1
HP:1055 (A)
MP:824 (B)
筋力:181 (B)
体力:231 (A)
敏捷:220 (A)
技術:181 (B)
魔力:168 (B)
精神:160 (B)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:100
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・マシュハドの勇者
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性中耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(80%)・サンダーレイジ(50%)・ブラッドブレイク(80%)・思考加速(80%)・流水(60%)・韋駄天(80%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・強化魔法(任意)・念動魔法(任意)
装備:ゴブリンキングの大剣・竜鱗の胸当て・氷雪虎のマント・聖護の小手
所持勇者ポイント:204
累計勇者ポイント:204
「称号:マシュハドの勇者って何これ?
マジで勇者になったの?」
「まあ、そのようだのう。
念動魔法使いLV1か。練習しておったからのう」
「まだ小石を動かすくらいだけどね。
勇者ポイントはやっと200を超えたか。
もっとペースを上げないと間にあわないなあ」
「今のペースでは間に合わんな。
そうそう、クリムゾンフレア(150)は火炎属性上級魔法だぞ」
「遂に上級魔法を覚えたか。
BPは魔力と精神に割り振ろう」
雄介はステータスを魔力:218 (A)・精神:210 (A)に上げた。
雄介はアルジェの見舞いに行った。
一緒だと何か問題が起きそうなので、ルカは別行動をしている。
「アルジェさん、体調はどうかな?」
「まだ歩けないけれど、起き上がることは出来るようになりました。
ところで、勇者様ってどういうことです?」
「アルジェさんもその噂聞いたんだね。
ダークテンペストが幻獣で、俺はそのパートナーで、勇者なのは一応事実だよ」
「ということは、それ以外の部分の噂は背びれ腹びれってことですか。
噂すごいことになってますよ。
……はあ、ティアナから色々と凄い人だって聞いてたけど本当なんですね」
「どんな噂が流れてるの?
うーん、聞くのが怖いな」
「オーガ100匹以上を1人で倒したとか、神に選ばれたとか、最強の幻獣を連れてるとか……女の人を何人も連れてるとか。
最後のは何です?」
アルジェの瞳に冷たい光が宿った。
「最初の3つは一応正しいな。
オーガ100匹以上を1人と1匹で倒して、神との契約で勇者になって、連れてる幻獣は最強です。
女の人を何人もっていうのはオーガに浚われた女性を救出しただけだよ」
「常識が通用しない人だってよく分かりました。
ティアナ、色々と心配でたまらないでしょうね」
「戦いが危険なのは、心配だろうね。
まあ、でも大分強くなったから、そうそう危険はないはずだよ」
「戦いもそうでしょうけど、女の心配はそれだけじゃないですよ」
「冒険者としての仕事は順調だし……他の何かな?」
「言わないと、気が付きそうにないですね。
ティアナ、愚痴こぼしてましたよ。
1回キスして以来、求められたことも気持ちを伝えられたこともないって」
「うーん、ティアナを大事にしてることは行動で示してたはずなんだけどな」
「ええ、それはティアナも分かってました。
でも、それだけじゃダメなんですよ」
「あ、今のままじゃ危険ってそういうことか」
「他の人からも同じようなアドバイスを貰ってたみたいですね」
「あはは、意味分かってなかったよ。
アラドに帰るね。
退院は5日後だったね。
アルジェさんが退院してアラドに移動するときは送るから」
「お願いします。
ティアナによろしく言っておいて下さい」
「ええ、それではまた」
「ルカ、アラドに移動するぞ」
「わかったにゃん」
雄介とルカはダークテンペストに乗り、アラドへと飛んだ。
アラドで宿屋を10日予約し、ルカは自由行動にし、雄介は冒険者ギルドに向かった。
念のためエアロガードを使い、ティアナとの会話が人に聞こえないようにした。
「あ、雄介、お姉ちゃんの様子どうやった?」
「顔色も良くなってたし、退院まで後5日だってさ。
送迎は俺がするから」
「分かった。
でも、うち雄介にしてもらってばっかりな気がする。
うちに何か出来ることない?」
「食事に付き合ってほしい。
今日の仕事終わったら、メシに行こう」
「分かった。
えへへ、デートや」
「あ、そうそう、勇者とかって話は聞いた?」
「え? 勇者様? 何の話なん?」
「マシュハドの噂はまだ伝わってないんだね。
勇者について何か知ってること有ったら教えてほしいんだけど」
「えっと、この世界に広まる伝説があって、神に選ばれた勇者様が現れて人々を救ってくださるって話なんや。
勇者様は幻の獣を従えてるんやって。
あれ? 雄介って幻獣を連れてるよね。
あはは、まさかね」
雄介の顔色が青くなった。
雄介にとっての勇者のイメージは使い古された、ただのゲームの主人公だったのだが、GWOの世界の勇者様のイメージは神の選んだ救世主という認識がされていることに気が付いたからだ。
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「王城からの招待」です。
雄介はこの後、国の政治に巻き込まれていくことになります。




