異世界でお茶を【改訂版】
後半部分を少し改定しました。
今回は中世ヨーロッパ風異世界ではお茶がどんなものになるのかをコンセプトに色々考察したいと思う。
現代ではさまざまなものがお茶として飲まれている。その中でヨーロッパで昔から飲まれているものというとまずコーヒー、ココア、紅茶、ハーブティーが考えられる。
その中からまずはコーヒーについて考察したい。
コーヒーはアフリカ原産の植物の種子で、コーヒー栽培が本格的に始まったのが17世紀以降である。ヨーロッパでは寒くて栽培が出来ないため基本的に輸入品だ。トルコの方からヨーロッパにコーヒーが伝わったのが16世紀で、コーヒーハウスの流行で一般的になったのが17世紀になる。ヨーロッパで一般的に中世とされるのは5世紀から15世紀までなのでコーヒーは中世ヨーロッパでは飲まれていなかったことになる。
次にココア(ホットチョコレート)。
ココアを作るカカオの木は中央アメリカから南アメリカの熱帯地域が原産地になる。やはりヨーロッパでは栽培できない。
カカオはスペイン人によって16世紀の始めごろヨーロッパに伝わる。(伝わったのはいわゆる大航海時代ってやつですね) それからスペイン王族の婚姻により他の国に広まっていって17世紀には各国の王侯貴族に贅沢品として取り扱われるようになった。やっぱりココアも中世ヨーロッパでは飲まれていなかったことになる。
ちなみに今現在出回っているようなココアを商品開発したのはオランダのカスパルス・ヴァン・ホーテン氏で1828年に特許を取っている。1828年って思いっきり産業革命期だね。
それから紅茶。
茶の木は亜熱帯が生育に適した植物なのでやっぱりヨーロッパでは栽培できない。原産地は中国南部といわれている。
ヨーロッパに入った経緯なのだが、17世紀にオランダにより中国からまず緑茶がもたらされた。それから中国でヨーロッパ人の口に合うように醗酵を深めた紅茶が開発され(注1)、18世紀にイギリスの貴族社会で大人気になる。ちなみに庶民に広まったのは産業革命期(イギリスの産業革命期は大体1760年頃から1830年頃まで)になってからである。当然、紅茶も中世ヨーロッパでは飲まれていなかったことになる。
最後に今回の大本命、ハーブティー。
ハーブの歴史は要するに薬の歴史でもある。薬草として飲んでいたものがいつからお茶として飲まれるようになったのかははっきりとしない。今だって風邪気味だからなどといった理由でハーブティーを飲む。ハーブはいわゆる古代から利用されてきたものなのだ。
そのため昔からハーブとして知られるものでヨーロッパが原産の植物は、ハーブティーとして中世の時代でも飲まれた可能性がある。今回はよく言われるハーブティーの中でもメジャーになるものや実際に私が飲んだことのあるものについて書いてみる。(東南アジア原産や南米原産のハーブなどで中世ヨーロッパで明らかに飲んでいないと思われるものは省いた)
その1……カモミール。
西ヨーロッパ原産。これはとっても有名。「大地のりんご」とか言われている。不眠症や風邪の初期症状に効くと言われている。リラックス効果が高く、アトピーにも効くらしい。ただ、ここで残念な話になってしまうが、私はカモミールに対してアレルギーがあるようでカモミールティーが飲めない。過去に何度かカモミールティーを飲んで気分が悪くなってしまったことがあるのだ。飲用の際にキク科の植物にアレルギーを持つ人は注意して欲しい。味については飲んだのは随分昔の話になるので覚えていない。スーパーなどで手軽に購入できるので飲める方は実際に飲んでみて自作に生かしてください。また、コンパニオンプラント(注2)やバンカープラント(注3)として有名な植物なので栽培の際は相性のよい植物と育てると相乗効果が得られると思う。
その2……ミント。
ユーラシア大陸原産。ガムや歯磨き粉なんかのフレーバーとしても有名。すっきりとさわやかな香りは気分がリフレッシュされる。ミントは品種がとても沢山ある。代表的なものとしてはペパーミントやスペアミント、アップルミントなど。ただし、飲食できないミントもあるので注意。食欲増進効果があり、胃腸の調子を整えてくれるので胃腸の弱い人にお勧め。風邪なんかにも効果がある。メジャーなので飲んだことのある人が多いだろうと思う。味については今更なので省略する。メジャーなのでスーパーで購入できる。また、栽培は簡単にもほどがあると言うくらい簡単。放っておいても増える、と言うより地植えにすると増殖しすぎて大変なことになる。簡単なのは本当でミントに害虫などはつきにくい。
その3……レモンバーム。
南ヨーロッパ原産。割とメジャー。レモンのような柑橘系のさわやかな香りがする。長寿の薬になると言われている。とても美味しい。フレッシュハーブティーにして少し蜂蜜をたらすと非常に美味しい。フレッシュハーブティーは蒸らし時間を置きすぎると青臭さが出てしまうのでそこは注意すること。他のハーブティーに比べて断トツに癖が少ない。ハーブティーにするだけでなくサラダやデザート、ドレッシングなどのソースに刻んで入れても美味しい。スーパーでは取り扱ってない可能性が高いので、エッセンシャルオイルなどを取り扱っている専門店にいけばたぶんドライハーブが購入できると思う。また、栽培はやっぱり簡単です。もさもさと茂ってきたら適度にむしって風通しよくしてやってください。
その4……タイム。
地中海沿岸原産。お茶としてより料理に使うほうが有名。うちではよくローストチキン(注4)に使う。防腐性や殺菌性に優れている。咳を鎮め、痰を切る効果があるので風邪やインフルエンザのときに飲むとよい。薬っぽい独特の香りがする。ハーブティーとしての味もなんだか薬っぽい。後味がピリッとする。しかし、大変飲みやすい。砂糖などは逆に味をまずくしてしまうと思うのでストレートをお勧めする。通信販売以外でハーブティーとして商品化されているのを見たことがないので、ちょっと飲む分にはスーパーのスパイスコーナーに行って購入するのが一番手軽だと思う。栽培は簡単。もさもさ茂ってきたら適当にむしるか株分けしてやってください。
その5……ローズマリー。
地中海沿岸原産。お茶としてより料理として使う方が有名なハーブ。さまざまな料理に使われる。うちではよく魚料理に使う。料理に使う際は香りが結構きついハーブなので入れすぎに注意。消毒、殺菌効果があり、消化を良くする効果がある。ハーブティーにするとローズマリー独特のツンとした香りがする。味はうっすらと甘く飲みやすい。甘味を加えないストレートティーをお勧めする。ハーブティーとして商品化されているのを見たことが無いので、ちょっと試すだけならスーパーのスパイスコーナーへ行くことをお勧めする。栽培はしたことが無いがシソ科なのであまり難しくなさそうである。
その6……オレガノ。
地中海沿岸原産。これも料理に使う方が有名なハーブ。ピザとかトマトソースなどに良く使う。頭痛や風邪に効くとされる。胃腸にもよい。ハーブティーにすると正△丸っぽい匂いがする。味もちょっと薬臭くてそんな感じ。でもけっして不味くて飲めないと言うほどではない。これも甘味を加えずストレートがいいと思う。やっぱりお茶として商品化されているのを見たことがないのでお求めはスーパーのスパイスコーナーへどうぞ。やはり栽培したことないがこれもシソ科なのでたぶん簡単。
その7……リンデン。
西洋菩提樹の花をお茶にするハーブティー。西洋菩提樹は中世ヨーロッパでは「自由」の象徴とされた。安眠作用や血圧降下作用がある。随分昔に飲んだきりであまり美味しいと思わなかった。私は正直苦手だ。カモミールティーなんかと同じハーブティーコーナーにあったりするので買おうと思えば意外と簡単に手に入ると思う。樹木なので栽培はお勧めしない。この木は街路樹みたいな大木になってしまうから。そもそもその辺の園芸店では気軽に売ってなさそうだ。大きな園芸店にはあるようだけれど。
その他、セージ、ヤロウ、ラベンダー、ローズなどが考えられる。サフランも地中海沿岸原産の植物なので考えられなくも無いが、あまりにも貴重で高価なのでそんなもの飲めたのは王侯貴族くらいだろうし、飲んだとしても薬としてだと思う。
また興味を持って試飲する際には、くれぐれも良く調べてから飲むこと。妊婦さんが飲んではいけないハーブ(サフランや、はと麦茶とか)や、一度に多量摂取してはいけないハーブ(サフランとか)などがある為。ハーブティーを飲んで体調が悪くなったら病院に行くことも考慮してください。
そのほかに注意点としてハーブに詳しい人間を登場させるのは良いが、中世ヨーロッパではハーブに詳しい人間が魔女狩りの対象になっていたので、リアルな中世ヨーロッパを舞台にした歴史物なんかはその点を考慮する必要がある。
それから、中世ヨーロッパ風異世界ならば別に既存のお茶を出さないでオリジナルのお茶を考えてもかまいません。私は商業作品に出てくる飲み物で飲みたいものがあるくらいだ。
また、コーヒーなどがすでによその地域から輸入されているものとしてもかまわないでしょう。ただし、コーヒーや紅茶などは気候からして中世ヨーロッパ風異世界では栽培できないので、高価な輸入品になると思う。しかもかなり遠い国からの輸入品という扱いになるはずだ。魔法でもない限り中世レベルでは交通の便がどうにも悪い。運搬に時間がかかる分、品質もあまり良いものといえないかもしれない。ただ値段については植民地や従属国などから搾取している設定(注5)ならば別になるけれど。
上記の考察を参考に、ぜひあなたの小説にさりげなくお茶を出してアクセントを加えてください。
~~~おまけの楽しい園芸・簡単なハーブの育て方~~~
初めてハーブを育てる方は種からよりも苗から育てるほうが失敗しにくいです。茎が太くバランスが取れていて葉の色、つやが良いものを選びましょう。斑点や縮れがあるものは病気の可能性があるので選ばないように。ハーブの苗は春と秋に出回ります。種類によって植え時が違うので購入の際には確認しましょう。
ハーブを植える土は専用の培養土もありますが一般的な培養土でも十分です。また、肥料を遣る際には少な目を心がけましょう。大体のハーブが風通しがよく適度に日のあたる場所を好みます。植える場所にもちょっとだけ気を使ってあげてください。
基本的なハーブは地中海沿岸原産が多いです。ほとんどが日本より乾燥した土地の植物のため水の遣り過ぎに注意しましょう。水を遣りすぎると根腐れします。鉢植えやプランターでの育成の場合、土の表面が乾いていたら水を遣るようにしましょう。見てよく分からなければ土の表面を触ってみましょう。(ただし後でしっかり手を洗うこと) 水遣りの量は底から少し水が流れてくる位です。しばらくして受け皿に溜まった水は捨てること。地植えの場合は雨が降らない日が続いたら水をあげましょう。どちらの場合も様子を見ながら夏場は水遣りの回数を多くし、冬場は控えめにしましょう。
(注1)ヨーロッパに船で緑茶を運んでいるときに緑茶が醗酵して紅茶が出来たという説はガセです。よく考えると高温で乾燥させた緑茶が醗酵するって変でしょう?
(注2)コンパニオンプランツとは近くで栽培すると互いに良い影響を及ぼしあう植物のこと。レタスとアブラナ科の植物などが有名。例として、レタスとキャベツ等は互いの害虫を遠ざけると言われています。
(注3)バンカープランツとはあえて害虫の被害にあいながら栽培目的で育てている作物の天敵を増やす植物のことです。要はおとりになる植物ですね。カモミールは自身にアブラムシを増やしてニンジンなどを守ってくれます。
(注4)ローストチキンは鶏モモ肉(骨付きでも骨無しでもどちらでも可)に軽く塩コショウしてタイムを一枝、二枝のせて200度ぐらいのオーブンで火が通るまで焼くだけです。単純だけど美味しいです。
(注5)封建社会ではそもそも農民が農民と言うより農奴であったりするわけで、ましてや植民地のような立場の弱いところで搾取が行われないのは考えにくい。実際、インドやアフリカの歴史を考えるとなんとも苦い感じがする。
このエッセイのコンセプトからは、だいぶずれた話になるが17世紀後半から19世紀始めまでイギリス東インド会社が紅茶の輸入を独占しアメリカへの輸出に高い植民地税をかけたせいで1773年にボストン茶会事件勃発しアメリカの独立に繋がっていくとかお茶の歴史はなかなかに激しい。