#1アオハルって何色?
空は冷たい色をしていた。
その上に綿飴をちぎって、優しく置いたような景色がずっと続いていた。
僕は優しい色の上に寝転がった。
風が僕の髪を掻き上げた。
風が吹くのと共に、舞っている黒髪を眺めていた。
僕の耳は草が揺れる音に包まれていた。
「お兄さんなんでこんなところに転がってるの?」
僕の顔を覗き見た人間がいた。
初めて人間と目が合った。
黒曜石のような目で僕の正体を見破るように。
「うわっ」
途端に怖くなって上半身を起こした。
人間は身軽に僕の頭を避けた。
学生の持っていそうな手提げ鞄を担いで、腹を捩らせた。
「あははは驚かせちゃった。」
「いやあ、お兄さん良い青春してんね。年齢わかんないけど。多分俺とタメ?」
随分と上から目線な人間だった。
蛇のように距離を縮めて笑う目。制服の袖を捲って勝ち誇ったように傾ける重心。
僕の姿を捉えている目線。
「きみは、僕が見えているの?」
「え?お兄さんが寝転ぶところからちゃんと俺みてたよ?」
「俺、結構視力いいし。」
(そういうわけではない。)
僕は息を吐いた。
どんな温度をしていたか、確かめる間も無くその息はすぐに風に運ばれて行った。
ー◇ー◇ー◇ー
ケラケラと笑いながら親しげに話しかけてきた人間。
いつの間にか隣に座っていた。土をぐりぐりと靴の先で掘るように足を揺らしていた。
「俺の名前は中杜友喜。お兄さんも名前教えてよ。せっかくの縁だし。」
(名前…。人間だった時にあったな。)
(あれ?なんだったけ?)
「……。」
遠くで鈴が鳴る音がした。上の方で子供が駆け回る声がした。
軽やかな音が無邪気な声と共に輪唱していた。
(僕の名前は…っ)
「お兄さん?」
「もしかして嫌だった?」
「あっいや、」
「嫌なら教えなくていいよ。」
「俺またやっちゃったかなあ、あはは。」
「いつもこうなんだよなあ。」
人間。いや、中杜は目を細めて笑った。
黒い眼は、夕日のじんわりと暖かい色を受けて光ごと閉じ込めてしまいそうだった。
「じゃ、お兄さんまたね。」
掘り返していた土を雑に踏み固めて立ち上がった。
「待って。」
咄嗟に声が出た。
僕の姿が見えた人間。未知の存在だった。そして僕の周りにあるものも未知のものばかりだった。
「きみの言っていた『青春』ってなに?」
聞いたことがない言葉だった。最後にそれだけは知りたかった。
すぐに返事が返ってこない。さっきまでずっと喋り続けていたのに。
自分の服の裾を握って、俯くことしかできなかった。
熱を帯びた手が視界に飛んできて僕の両手を握った。
「お兄さん『青春』知らないの?!」
「アオハルだよ!青色の春!」
「青色?」
「ええっ青色は流石にわかるでしょ。澄んだ色、一番光を取り込む空の色!」
僕の両手を掴んだ腕を縦にブンブンと振られながら説明された。
勢いだけで何もわからなかった。それと僕が草の上に寝転がったことがどう結びつくのかわからない。
「ごめん。わからない。」
「だけど教えてくれてありがとう。」
振られていた腕が止んだ。中杜は何か呟いていた。小さくて聞き取れなかった。
「…ったいないよ。」
「?」
「もったいないよ。」
「人生は短いんだよ、青春しないと、楽しまないと。」
「いや僕は…」
「いや、俺が嫌。」
「お兄さん、俺と青春しようよ。」
ー◇ー◇ー◇ー
僕の姿が見える謎の人間「中杜友喜」
そんな人間が僕一人に向かって高々と宣言した。
「アオハルが何色か俺が教えるんだ。」
僕は呆気に取られるだけだった。
こうして僕の「青春模倣譚」は幕を開けた。
お疲れ様です。竹野原です。
新しい作品です。人間?と人間が出てきます。
どうやら「青春」するみたいです。
最近は別作品の会話劇しか書いていなかったため、小説を書くのは久しぶりです。




