異世界召喚されたので、論理でプリン泥棒を探します
琥珀さまの「春の異世恋推理'26」参加作品です。
初推理なのでお手柔らかに……お手柔らかにお願いいたします……。
途中で≪解決編≫が始まりますが、当てられるのは「誰がやったのか」だけです。
「異界の地から、よくぞ参った。其方にはぜひ、我が王城で起きた事件の謎を解いてほしいのだ」
突如、光が視界いっぱいに広がったかと思ったら、こんな場所に立っていた。
きらびやかな照明に、真っ赤なカーペット。そして、前にいる人たちは全員が奇抜な髪色をしている。
……これ、異世界召喚ってヤツだ。
「いまや、この事件には王城の者全員が恐怖している。この謎を解くことができるのは、其方しかいないのだ!」
王様(?)が高らかに、威厳のある声で言った。
「は……はい? あの、ここから帰してもらうことって……」
あたしはびくびくしながら問いかけた。やっぱり人を前にすることに慣れている人は威圧感が違う。
「もちろんできるぞ。だが、できれば、この謎を解いてからにしてくれないか」
めちゃくちゃ困った顔で王様(?)が言った。結構庇護欲そそられる感じ。
……あ、できちゃうんだ……。ふつうこういうのって、魔王を倒さなければ帰らせぬって脅すもんじゃないの?
「あ、そうなんですか……。それじゃあ、謎って、何ですか? あたしにできるなら、手伝いたいです」
王様(?)が困った顔をしていたからか、つい申し出てしまった。強面威厳オーラ出しまくってる人がする困り顔って、ズルいと思う。
それはそうと、謎とはなんだろうか。殺人とかだったら、怖いなぁ。
「それがだな…………プリンがなくなったんだ」
「…………は???」
プリン? pudding? あの、卵と牛乳と砂糖でできててカラメルがかかっててたまにバニラエッセンスも入ってる、あの、プリン?
「プリンだ」
「What’s happened???」
「プリンがなくなったんだ」
あぁ、異世界語との自動翻訳機能だから英語でも自然に伝わるんだー……じゃなくて!
「……そんなにプリンって大事ですか?」
「大事なプリンなのだ。我が愛しの娘、セレンが『食べるのがもったいない』と四日とっておいた熟成プリンなのだぞ。今や、王城の全員が自分のプリンがなくなるのではないかと恐怖している」
……それ、賞味期限とかって……。
「プリンがなくなったのは、およそ一時間前。娘も、もちろん私も食べていない。冷蔵室に立ち入れるのは、私以外に数人しかいないのだ」
すごいなその数人。
「どうか、どうかこの通りだ。この謎を解き明かしてくれないか」
王様が椅子から降りて、土下座をしようと膝をカーペットにつけた。
「あああ、大丈夫です大丈夫です、解決して見せますから!」
──言ってしまった。その場のノリってやつだ。
***
「犯人候補を連れてくるからそこで待っててねー」と王様が出て行って、数分。あたしは優雅に紅茶とお菓子を嗜んでいた。
「もぐもぐ……これ、おいしい」
日本よりも茶葉への造詣が深そうだ。さすが異世界。
紅茶のおかわりをいれてもらって、一口ごっくんしたところで、扉が開いた。
「第一犯人候補だ」
王様に連れられ、真っ青の髪の人が入ってきた。
「初めまして、異界からのお嬢さん。俺、第二騎士団の団長やってます、ミズフリードって言います」
気さくな口調の青年だ。それなりに若いと思う。その年で団長をやっているというのは、だいぶエリートコースを歩んでいる人なのだろう。
「じゃあ、証言というか、言い訳というか、させてもらいますね。
……『犯人は嘘つきではない』」
ミズフリードは妙にかしこまった声、硬い口調で言った。
ぽかーんとしているあたしに、ミズフリードの背後から王様が言った。
「『今から其方の前で喋る人は、王である私を除いて、x人が嘘つきであり、x人が犯人である。ただし、3x=2x+1とする』」
……あたし、これ、知ってる。
論理クイズ、ってやつだ。しかも、ちょっと難しめの。
紅茶を一口飲んで心を落ち着かせると、あたしはミズフリードに問いかけた。
「普段はどういうお仕事をされているんですか?」
彼は青い目を瞬かせて、それから不敵に笑った。
「騎士団長だから、前線に立ってますよ」
笑顔の凄みを感じた。異世界ってこういう人たちばっかりなのだろうか。
「えーっと、じゃあ、事件の時には何をしていたんですか?」
「もちろん、訓練ですよ。騎士たるもの、一日たりとも訓練は欠かせませんから」
なるほど。チャラい感じの口調に反して、中身は真面目らしい。
「お話を聞かせてくださりありがとうございました」
***
「二人目の犯人候補だ」
王様が連れてきた人は、筋肉むきむきで赤髪赤瞳のとにかく暑苦しい感じの人だった。
「失礼するぜっ! 俺はヒガモエールっ! 第三騎士団で騎士団長をしているっ!」
喋り方もなんとなく想像通りである。
「じゃあさっそく言うぜっ! 『金髪は犯人ではない』っ!」
やはり、そういうゲームであるらしい。
「えーっと、素敵なお身体ですね」
これまでとはちがう、物理的な威圧感に当てられて、言えるのはそのくらいである。
「そうだろうそうだろうっ! この筋肉には俺の愛と努力が詰まってるんだぜっ!」
そういうの自分でいう感じなんだ。ちょっと……ううん、だいぶひいた。
「それでは、事件の時には何をしていたか教えてください」
「そりゃ、この愛しの筋肉を愛でていたに決まってるだろっ! たしか、あのときは、上腕三頭筋に語りかけていたんだ……っ!」
それまで影を薄くしていた王様が、大きくため息をついた。きっといろいろ苦労しているに違いない。
「ありがとうございました。えーっと、いろいろがんばってくださいね」
***
次はまともな人だといいな。そんな希望は、早々に打ち砕かれた。
次に現れたのは、全身が緑の男性だった。
「第三犯人候補だ」
王様が事務的に言った。
「初めまして、カワイ子ちゃん? 是非ボクのこのつややかな緑色を見てくれるかな? あ、申し遅れたね。ボクは第四騎士団長のキガハエールだ」
左手には鏡、右手にはごてごてとした櫛。
圧倒的、ナルシストであった。
「ボクの証言はこれだよ。『キミと喋った人のうち、ボクの一個前に喋った人か一個後に喋る人のどちらかは嘘をついている』」
わかりにく……。
「普段はどういったことをされているんですか?」
「う~んそうだねぇ。ボクのこのとぅるとぅるの緑の髪を櫛で梳いたり、その櫛を綺麗にしたり、櫛を綺麗にするやつを綺麗にしたりしている、かな?」
あぁ、こいつに聞いてもいいことはない気がする。
ぱっぱと済ませたい。
「ところで、なぜ前後の人のうち、片方が嘘をついているとわかったんですか?」
「なんというか……ボクの勘が告げているのさ。ボクの前後で良からぬ輩がいる、ってね」
王様、本日二度目のため息である。
***
四人目の犯人候補が入ってきたとき、これまでとはあきらかに雰囲気が異なっていた。
「初めまして。第五騎士団長のツチツモールです。以後、お見知りおきを」
所作がいちいち綺麗なのである。間違いなくいいところのおぼっちゃんだ。
ちなみにこれまでの奇抜な髪色、瞳の色とは異なり、ツチツモールは落ち着いた茶色だ。
「それでは……。『キガハエールは本当のことを言っている』」
「ツチツモールさんは、いつもどんなことをされているんですか?」
恒例の質問をする。推理の手がかりにもなるだろうし、なによりちょっと楽しくなっている自分がいた。
「そうですね。私の得意とする技『沸騰寸前の紅茶を優雅にぶっかける』の練習ですかね」
なにそれ物騒。そしてもったいない。
「その技は、前線で使うんですか?」
「えぇ。部下にアツアツの紅茶を生成できる魔法を持っている者がいますし、私は体さばきには自信があるのです。魔物は熱に弱いですから、悶えながら倒れていきますよ」
優雅に微笑みかけられた。ちょっと鳥肌が立った。
「なぜ、キガハエールが本当のことを言っているとわかったんですか? 聞いていないはずですよね」
ツチツモールは手を顎に当てて、少し考えるしぐさをした。
「そうですね、物語の強制力、とでも言いましょうか」
***
「最後の犯人候補だ」
王様が五人目の犯人候補を連れて、部屋に入ってきた。紅茶を飲みすぎた気がしたから、一旦コーヒーをいれてもらったところだ。
目の前に座るのは、金髪の美丈夫。異世界風のイケメンである。……あ、なんかバクバクしてきた。
「ちっす。第一騎士団で団長やってます、キンピカールっす」
……話し方が解釈不一致!
ちょっとしたドキドキが遥か彼方へと飛んで行った。この見た目でこの喋り方は、ナイ。
「じゃあ、ヒントっすね。『ヒガモエールは嘘つきだ』」
「普段はどんなことをされているんですか?」
「そうっすね。愛しの恋人といちゃいちゃしてます」
部屋の隅で話を聞いていた王様が、盛大にむせた。
「恋人、いたんですね……」
というか、騎士団長なら仕事をしろ……。
*解決編*
あたしは、王様からもらったスケッチブックに、それぞれが言っていたことを書きだしていた。
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ミズフリード(青):犯人は嘘つきではない
ヒガモエール(赤):金髪は犯人ではない
キガハエール(緑):ボクと喋った人のうち、ボクの一個前に喋った人か一個後に喋る人のどちらかは嘘をついている
ツチツモール(茶):キガハエールは本当のことを言っている
キンピカール(金):ヒガモエールは嘘つきだ
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そして、王様が言っていたこと。
『今から其方の前で喋る人は、王である私を除いて、x人が嘘つきであり、x人が犯人である。ただし、3x=2x+1とする』
3x=2x+1 は移項すると、
3x-2x=1 になる。
x=1
……つまり、犯人と嘘つきは一人ずついるってことね。
あたしはスケッチブックに書き足した。
────────────
嘘つきは一人、犯人は一人である。
ミズフリード(青):犯人は嘘つきではない
ヒガモエール(赤):金髪は犯人ではない
キガハエール(緑):ボクと喋った人のうち、ボクの一個前に喋った人か一個後に喋る人のどちらかは嘘をついている
ツチツモール(茶):キガハエールは本当のことを言っている
キンピカール(金):ヒガモエールは嘘つきだ
────────────
「こういうのは一人ずつ嘘つきだって仮定してけばいいの」
まず、ミズフリードが嘘つきだとすると、正解の文章は、『犯人は嘘をついている』。
そして、キンピカールはヒガモエールが嘘つきだって言ってる。そうすると、嘘つきがミズフリードとキンピカールの二人になってしまう。
だから、ミズフリードは嘘つきではない。
次に、ヒガモエールが嘘つきだとすると、本当は『キンピカールが犯人』ってことになる。
キガハエールの発言は、キガハエールの一個前に喋ったヒガモエールが嘘つきだから、本当。
キガハエールが本当のことをいっているから、ツチツモールも本当のことを言っている。
キンピカールも、ミズフリードも本当のことを言ってるってわかる。
……これで、成立した。
「王様、犯人が分かりました。キンピカールさんです」
王様は大きく目を見開いて、急いでキンピカールを呼びに行かせた。
部屋に入ってきたキンピカールは、隣に可憐な女性を連れていた。
「セレン……」
王様が小さくつぶやいた。この女性が王様の娘さんなのか。想像より年齢が高めだった。
「王様、何の御用っすか」
キンピカールが言った。態度が悪いというより、かわいい犬感がある。
「プリンを食べたのは其方なのか、キンピカール」
「正確には、そうじゃないっすね」
ほう。
「食べたのはあなたの娘、セレンと俺の二人ですよ。そしてセレンは、我が愛しの恋人でもあります」
「はあぁぁぁ!? 認めん! 其方のようなチャラい男に娘など……!
それに、何故隠していたのだ!」
王様が激昂して机を叩いた。
「……そういうと思ったから、言わなかったのよ」
それまで沈黙していたセレンが諦め顔で言った。
王様、相当な子煩悩なのだろう。
「むむむ……」
「もったいなくて食べれない、って言ってたんで。なら半分こしようって話になったっす」
「……ちなみにプリンは、おいしかったのか?」
王様の問いに、キンピカールは実にいい笑顔で答えた。
「愛のスパイス、最高っすね!」
王様が再び机を叩いた。
***
それからの顛末を、あたしは知らない。
長くなりそうだったから、『帰ります!』と言って帰ってきた。ちなみに、何事もなく普通に帰れた。
ただ、一つだけ、思ったことがある。
「今日のデザート、プリンにしよ……」




