七人の小人
抒情文芸2018年冬季号佳作本文掲載作品です。選者は直木賞作家出久根達郎氏でした
小さな男の子と大きな女の子の恋物語。小柄でひょうきんで歌の上手い山野は、小学校の同級生で背が高いことでいじめられていた女の子えりををかばっていた。山野は学級会で七人の小人でソロをするくらい歌が上手かった。大人になってクラス会でえりに再会したら、長身の売れっ子モデルになっていた。えりはかつて自分をいじめていた男子に告白されるが「私より背が高くなったならね。」と答えその場を沸かす。えりと話す間も無くクラス会後一人駅のホームにいるとえりに会い、いじめられた時かばってくれたお礼を言われた。どこかから鏡の精の声がして「世界で一番美しいのはあなたたちだ。」と告げた。
小学校の劇って生涯忘れられない思い出だったりします。僕の思い出は「七人の小人」
白雪姫と仲良く暮らす小人の物語なんだ。学芸会じゃ魔女を殺す場面は残酷だってことでやりませんでした。「私が悪かったよごめんなさい。」魔女が呟いてみんな仲良く踊るんだ。
ずっとそれが本当のお話しだと思っていましたが。
クラスで一番かわいい子が白雪姫で、先生のお気に入りの男の子が王子様役。
「あなたは小さいけど歌が上手いから小人の役ね。」
クラスで一番小さい僕は今思うとよほど小さかったんだね。でもありゃあ先生によるいじめだよ。僕は何言われても平気だと思われてたのだろう。
わざとドジをして笑いを取っていれば意地悪されないし、なんか失敗しても「山野君またあ。」と苦笑されるだけで済んだからね。
「あら、山野君?」
バス停で声をかけられた。
「あれ?もしかしてゆみこちゃん?」
そう、みんなのアイドル白雪姫のゆみこちゃんだ。
「超お久しぶりね、小学校卒業以来ね。」
白雪姫役のゆみちゃんとは小学校まで同じだったけど、僕は中学生になる前に親父が家を建てて、引っ越しちゃったので別の学区の中学に行くことになったんだ。同じS区だったけどね。
「山野君変わんない♪すぐわかったわ。」
まあ体小さいし童顔で大学生なのにたまに小学生と間違えられるからなあ。映画館じゃ得するからいい。
「ねえ、今度小学校のクラス会やらない?アキラ君にこの間会ったらね、クラス会したいねえって話してたの。みんな成人式迎えるしし。」
アキラ、王子様役の子だったな。二人はあれからまだ付き合ってるのかな?僕には高嶺の花のゆみこちゃん。少しだけ淡い思いもあったけど、一時的な思いで終わったな。どこか勝気なところもあったしね。
クラス会は駅前にあるフリースペース、もとキャバレーだった場所らしい。
せり舞台があって、照明から音響設備もそろってる。厨房もあるからみんなで持ち寄ったものをここで準備できる。
「山野君良い場所見つけたわね。」
父親から紹介されたんだ、昔接待で行ったことがあるらしい。
僕は幹事にされて場所の交渉やらセッティングやらはっきり言って雑用係だ。
こういう時にかいがいしく動く女の子もいれば、もっぱらおしゃべりばかりして手の動かない女の子、それが当然のような雰囲気丸出しの子とかいろいろいる。あんまり性格って変わらないんだね。
いわゆる女子グループのリーダー、委員とかにも選ばれるのだけど、気に入らない子がいるとよくその子をハブってた。
ゆみちゃんはもっぱら話す方にまわっている、王女様なんだなあ今でも。
「皆様お待たせしました、只今より6年3組のクラス会を始めます!」
わーーい、ぱちぱち、、、
「とも君うまいわねえ。」
「一時期芸人さん目指してたらしいよ。」
「ほんと?小学校の時から面白かったよね、お楽しみ会で落語やってたわよね。」
同じ小人役の智夫、今ではひょろっとして背が高くいかにも人好きのする雰囲気だ。
ていうか、みんなの中で僕は埋もれているじゃないか。
「山野君変わらないわよね。」
「山野はすぐわかったよ。」
褒められているのかけなされているのか分からないけど、嫌味じゃないことは確かだから気にしない。
思春期になってから女の子と話すのが苦手になったけど、小学校の同級生は気を遣わなくて済む、なんでだろうね。
「あれ?あのきれいな人だれ?」
受付をしているスタイルの良い子がいる。
「えっ?」
「誰かなあ。」
「まさか、木下えり?」
ああ、魔女役だったえりだ。
「お久しぶりぃ、すごくきれいになっちゃって見違えちゃったなあ。」
えりは子供のころはおとなしくて男子からもいじめられていたっけなあ。
「へえモデルさんしてるの、すごい!」
女の子たちは目を丸くしてえりを見ていました。
「へっ、このデカ女!」
「声キモイ!」
「おまえスカイ・ツリーかよ。」
「ツリー女。」
男子たちは大柄で、声の低いえりをいじめてた。
二十歳になった今は、大人の魅力のあるアルトの声、大柄な体はモデルさんにぴったしだった。
「なあその辺でやめときなよ!えりがかわいそうだろ!。」
小さな僕は自分もいじめられかねない状況だったかもしれない。だけどいつも自虐的なギャグで周囲を笑わせていたし、キレるとすさまじかったから、いじめの対象にはならなかった。別に仲間じゃないけど悪ガキ連はキレると暴れる僕を仲間のように思ったのだろう。
悪ガキ連中は意外と僕が止めに入ると引いてくれた。暗黙の了解、キレると危ない仲間じゃないけど仲間らしい奴の言葉とでも思ったのだろう。
僕は悪はしないから真面目なグループの子とも遊ぶ。クラスの妙なつなぎの子としての存在。
妙に不誠実なことは嫌いで意地悪なことをするのもされるのも嫌だった。だからマジ切れしては机や椅子を投げては先生に怒られていたよ。
意地の悪いことを言われ続けられるより先生の長々と続く説教を我慢してる方がましだったからね。
「二人並ぶと凸凹コンビ。」
えりとは偶然席が隣になったことがある。小学校六年生で百四十㎝の僕と百六十㎝のえり、アルバムで見ても吹き出しそうな凹凸だ。スカイツリーと小屋、まあそう言われても怒らなかったしそれをネタにふざけてた。
「山野は小屋、略して山小屋。」
「山小屋の向こうにはツリーが見えます。」
自分からおどけてえりの前に立ったりしたよ。えりもクスッと笑うんだ。
自分がおどければえりにはいじめがいかないしね。
男子にからかわれて隣の席で泣いてるえりに
「大丈夫か?」って聞いた。えりは首をふつて泣きじゃくる、仕方がないから「ほら。」とティッシュを渡した。なんでティッシュなのかって、ハンカチが汚れてたからだ。
えりは一瞬吹き出しそうになった。そのテッイシュは駅前で配っていた可愛いアニメキャラが印刷されたパチンコ店のもの。
「ありがとう」と言ってえりはティツシュを受け取り顔を拭いていた。
えりがだんだん笑いをこらえているのが周囲にも分かるようになった。
「山野君、これ可愛い。でもパチンコ屋のじゃないの、まさかパチンコしてるとか?」
「いや、お母さんがティッシュもったいないからって家に溜めているの。ただでもらえるからもらえるものはもらっておくとか言ってね。」
えりは吹き出してしまいました。それで泣き止んだけど。
それを見ていた悪ガキはそれ以上えりをからかうのを止めた。
ちっちゃいけど、僕というバックがついているって訳でもないが、僕がかばった子だから手を出しちゃいけないんだという意識なのだろう。子供の世界の暗黙のルールだ。
「さあ、宴会もたけなわです。ここで僕から提案です。今日はここに小学校でやった白雪姫の台本を持ってきました。」
おおお、ざわざわ、どよめきどよめき。
「台本の山場を全員分コピーしてきました、皆さんお手にしてください。」
「へえ、これまだ持ってたんだ。」
「ああ、そうそう、おれ馬の役だったぜ。」
「俺なんか鏡の声だぜ。」
「あたしたちは花の精で踊ったわ。」
最初はみんなでハイホーの歌。
楽しかったなあ、体が小さい分声はきれいなボーイソプラノだったから、あの時は注目されたっけ。一人で小人のソロを歌ったよ。
「ハイホー♪」って舞台で最初に歌うんだ、見てる人からおおおって声が聞こえたよ。
みんなで順番に台本を読んでいきました。
魔女役のえりの番になりました、うますぎる!!!
「フフフ、この毒りんごで白雪姫を殺してやるhhhh。」
ドーンとした雰囲気そしてみんなからおーーー。
「えり、迫力ある!」
「表情もすごい!」
「演技の勉強もしてるんだって。」
「そうよね、私CMでえりみたことあるわ、有名な女優さんと一緒に写っていたわ。」
そういえば王子役がいないな。
「アキラ王子どうしたの?」
「仕事で遅れるってさ。」
ゆみちゃんが心配そうな顔をしてた。
いよいよラストシーン、白馬に乗った王子がやって来る場面。
あの芝居の後、アキラとゆみちゃんはほんとに付き合ってたらしい。
「キスの練習の時、ホントにしてたわよ。」
「ちきしょー!」
「マジかよ!」
やっぱりあの噂は本当だったんだなあ。
「さあ王子様の登場です、」
ライトが白雪姫の横に当たりました。
「ああ、ごめんごめん遅れて。」
「ん、えっ?これ読むの、へえーこの台本まだあったんだ。」
アキラ王子の登場、みんな沈黙。そこには普通のおじさんがいたのです。
「アキラ君老けすぎ。」
「大人びてたけど、超老けるの早いわ。」
確かにアキラ王子は小学生にしては大人の雰囲気あったけど、今はありすぎなのです。
ハンサムだけど子供がいるパパの雰囲気なのです、ちょっとお腹も出てたりして。背が高いと思っていたけど今じゃあ普通の身長だし。
何とか無事に白雪姫の再現も終わり、みんなでまたハイホーを歌いました。僕は大学の合唱部でテノールを歌ってるので声が良いわねえと言われ嬉しくなりました。
「ねえ、山野君声変わりしてないんじゃない?」
とか、でも悪い気はしない。
「アキラ、ふけたじゃん。」
「そうかあ、俺バイト先がおじさんばっかの仕事場だからかなあ。」
しばらくは雑談タイム、あっちこちで遅すぎる告白してる。
だれだれちゃんが好きだったとか、どうでもいいや。僕は小さすぎて相手にされないと思うし。
ゆみちゃんはアキラのこと今でも好きなのかなあ、アキラとずっと話してる。ある意味偉いかもだけど。
お転婆な女の子の方は気を遣わなくて済むから、僕は元気な子と適当に話してる。
「えり、ずいぶんきれいになったよね。」
ゆみちゃんは心配そうにえりとアキラを見て言いました。
アキラがえりを口説いてる、それまずいよなあ、相手はモデルさんだもの。それにゆみちゃんとつきあってるんだろう?
「ねええり、付き合ってる人とかいるかな、いなかったら俺とかw。」
その時えりは
「いいわよ。」
え!
「私より背が高くなったらね。」
周囲は最初沈黙、すぐに爆笑。えり、やるなあ。
あっけにとられているアキラの腕をゆみちゃんが取ってえりから離した。
「ゆみ焼いてやんの。」
隣の男子がそう言った、そしてこの件は終わった。クラス会の一できごととして。
クラス会終了間際、今度は撮影タイム。アキラはゆみちゃんとツーショット撮ってる。やっぱり仲良かったんだ。これはこれでいいのだと思う。
僕は何人かの女の子と撮影してもらった。
「山野君一緒に撮ろうよ。」
みんな少ししゃがんで、僕は背伸びして見せる。反射的に笑い取ろうとしてしまう。えりにはなぜかみんな声をかけない。さっきのアキラとの件があるからか遠慮してるみたいだ。僕も一緒に撮ってもらいたかったんだけど言えなかった。子供の頃は平気で声かけられたのに。
目が合ってにこっとしてくれて、話しかけようと思ったけど。
えりは女の子からしきりに芸能界のことを聞かれていて話しかける暇もなかった。
クラス会が終わり、僕はホームにいた。僕のように変らない人とアキラやえりみたいに変わった人。年を取るってこういうものなのかな。こういうのがきっとこれからどんどん進んで行くのだろう。
笑ったり、喧嘩したり、今じゃ許せるのになんであの頃はあんなにいがみ合ってたのだろうとか、なんであの人は意地悪してたのだろうとか、可愛い子やかっこいい子がそれ程でも無くなったり、普通の感じの子がきれいになったり、人生のページを一つめくった気がする。
「山野君」
「えり?」
隣にえりが来ていた。
「家はこっちなの?」
「うん、子供のころ引っ越したからね。だからみんなとは帰る方向は違うんだよ。えりもこっちなの?」
「私は家を出て事務所に近いところにマンション借りてるのよ。」
「ぼくらと同い年でマンション借りてるの、すごいね。」
ゆみもえりもどんどん手が届かないところに行ってしまう。
「そうそう山野君ありがとう。」
「え?」
「子供のころ私がいじめられた時、かばってくれたでしょ、うれしかったわ。それに席が一緒でいつもみんなから凸凹コンビとか言われてたよね。」
「ああ覚えててくれたんだね。」
「山野君、いつも自虐ネタで、みんなから体が小さいことネタにされてなんか言われると私と背比べして、おどけてたわよね。」
「だって、小さいのはしょうがないし、ああやっておどけてたらいじめられないですむもの。」
「わたし山野君と一緒にいる時は不思議といじめられなかったのよ。だから席が一緒になって嬉しかったのよ。」
「さっき、アキラにナンパされてたね?」
「見てたの?」
「えりちゃんておとなしかったイメージだったからすごいなあって思ったよ、強くなったね。」
えりは少しはにかんで
「私ね、アキラにいじめられてたのよ。アキラって成績もそれなりに良かったし先生の前じゃいい子にしてたけど、影じゃいじめっ子のリーダーだったのよ。なのにあんなこと言ってきて。仕返しするつもりはなかったんだけど、私もモデルしてるし困るじゃない。でとっさにあんなこと言ってしまったの。」
「みんななんて返事するのかなあって思ってたよ。」
「内心ね、やったあと思ったけどね。」
えりはにこっとした。
人気のいないホーム。凸凹カップルが立っていました。昔のようにふざけあうえりちゃんと山野君。
「山野君、一緒に写メ撮ろう。」
夜空をバックにスカイツリーと山小屋がパシャッ。
世界で一番美しい魔女とツーショットの二人です。
何十年か小説を投稿していませんでした。いじめをテーマにした小説を書きたかったのは自分も小柄でからかわれやすい少年時代を思い出したからです。でも暗い話は読む立場としても辛くなるので、
ラブコメ仕立てで書いてみました。図らずも佳作ですが本文も掲載されました。
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