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秘された旦那様は、目隠しの彼女を離さない ――片岡あやの顛末  作者: じょーもん
第三章 泥中の蓮

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第十六話 写真の中の私たち

 マチは結局、宵月の下につき、

 “玉兎(ぎょくと)”という名で、あやより数日早くお披露目があった。


 他の二人は、まだ置屋に来て日が浅いということで、姐さんの下でしごかれている。


 玉兎は宵月の旦那にも気に入られていた。

 宵月の旦那は羽振りの良い男だった。

 玉兎には、何枚も振袖が仕立てられ、そのすべてに兎と月があしらわれていた。


 舞で定評のある宵月の下で、玉兎は目論見通りに舞手として開花した。

 兎のように愛らしく軽やかに、けれども玉のようにしっとりと。

 名の通りに舞うその姿は、たちまち高級官僚や将校の間で評判となった。


 舞の玉兎と唄の小唄――


 二人の半玉は翠玉楼の二枚看板となり、小唄の唄に合わせて舞う玉兎を見れば、

 寿命が一年延びるなどと、まことしやかにささやかれた。


 二人の人気は、年を開けても衰えず、十五になって桜が咲く頃にも、影りは見えなかった。


「ねぇ、写真を撮るって、恐ろしくない?」


 男衆に連れられて写真館に向かう道すがら、玉兎が問う。


 今日は、二人の姿を写真に収め、土産物として売り出したいと、

 東京でも指折りの写真館に招かれていた。


「生駒姐さんが言うには、親指を隠していれば魂は吸われないとか。

 でも、雁金姐さんは笑ってはいけないって言っていた。」


 あやが答えると、玉兎は困った顔をする。


「それは難しいわね……、でも、写真を撮ったからって魂とられた人、本当にいるの?」


「うーん、三好屋の真澄姐さんが死んだのは、写真を撮られ過ぎたからだって、お師匠さんが言っていたけど……、眉唾だと思う。

 だって、私、写真は何回か撮られたことがあるけれど、別に何か減ったような気がしなかったわ。」


「……あんた、写真撮ったことあるんだ……。だからお家が没落したんじゃあ……」


 あやは一瞬心配になったが、ふと思い出して首を横に振る。


「ううん、やっぱり関係ないと思う。

 だって、うちの殿様、ご自身や奥方のお写真を家臣各家に配ったけれど、まだお元気だって聞いているわ。」


「ふーん……、でもさ、私たちの姿が、海の向こうの誰かに見られるって、なんか不思議じゃない?」


「そうね――、写真の私が見ている風景が見えたら、きっと楽しいでしょうね……」


 そう言っているうちに、写真館へとたどり着く。

 玉兎はきょろきょろと、物珍しそうにカメラやスクリーン、小道具を見回している。

 写真館は、どうやら初めてらしかった。


 ――玉兎が“ニセモノ”って、ゴマが言ってたけど、本当みたいね……


 あやは、自分の周りの士族たちが、それなりの頻度で写真を撮っているのを知っていた。

 もし玉兎が自称する身分が正しければ、彼女はここでこんな新鮮な反応はするはずないのである。


 ――やだな……私も玉兎に影響されたみたい。花街で生まれなんて、何の意味もなさないのに……


 一瞬玉兎を見下した自分を恥じて、ふっと目を閉じる。


「写真師さん! この玉兎を一番美しく撮ってくださいな。

 あー、小唄は私のこう、半歩後ろへ――」


 玉兎はあやの袖を引き、スクリーンの上へと引っ張ってゆく。


「……なぜ私が半歩後ろ……?」


 あやが聞くと、玉兎は無邪気に笑う。


「だって、ほら、私の美しさが引き立つでしょ? ね?」


 ――前言撤回。このニセモノ許すまじ。


 あやは額に青筋を立てないよう気を付けながら、玉兎に負けじと半歩前へと乗り出した。

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