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第3話:ライン長、謎の異動と“バリ取りの呪い”

翌週月曜日。

工場に来ると、社員たちがざわついていた。


「おい聞いたか? 大山課長が異動だってよ」

「え、急すぎん?」

「昨日までは普通に怒鳴ってたぞ」


そう、大山課長――トルクの鬼が、突如別部署へ飛ばされたのだ。

理由は誰も知らない。

ただ一つ確かなのは、工場の空気が急に“春”になったことである。


「課長、いなくなるんですか!?」

新人タカハシは目を丸くする。

「お前らのことは……嫌いじゃなかったぞ」

大山課長は最後に、なぜか遠い目でそう言った。

照れてるのか? それとも本当に良い人だったのか?

判断が難しい。


そして新しくやってきたのは、

“生産技術課 副主任・霧島きりしま”。

メガネが光った瞬間に全員の緊張が走る。

嫌な予感しかしない。


「みなさん、本日からこちらを担当します」

声は落ち着いているが、妙に冷たい。

「まずは……バリ取りですね」


工場内が凍りついた。

バリ取り――つまり、部品の端に付いた“余分”を削る地獄の作業。

細かい、地味、地味すぎる、そして精神が削られる。


「バリ取りは心の乱れが出ます。集中しましょう」

霧島は淡々と言い放つ。

「心の乱れ!? 精神論!?」

俺の心はすでに乱れた。


その日の午後――

ラインが止まった。

ネジではない。バリ取りだ。


タカハシが机に顔を埋めていた。

「先輩……バリが……バリが増殖してます……」

「んなわけあるか」

だが見ると、確かに削っても削ってもバリが湧き出てくるように見える。


そこへ霧島がスッと現れ、

「原因は“魂の迷い”です」

とだけ言い残して去って行った。

なんなんだコイツは。宗教か?


夕方、ついに事件が起きた。

タカハシが叫んだ。

「先輩! このバリ……動いてます!」

「落ち着け。バリは動かない」

「いや、これ見てください!」


机を見ると――削りカスの一つが、

“くねっ、くねっ” と蠢いていた。


「……!?!?!?」

俺は本気で叫びそうになった。

だがそのとき、また脳内に声が響く。


――“削りすぎだバカ”


ネジに続いて、バリまでも喋るのか。

俺は崩れ落ちそうになったが、タカハシは感動していた。

「先輩! ついにバリとも会話できるように!」

「いらねぇよそんなスキル!」


困惑する俺たちを尻目に、

霧島副主任が静かに近づき、

机の上のバリをひょいとつまむ。


「これは……良い兆候です」

「なにが!?」

「あなたたちの“現場感覚”が研ぎ澄まされている証拠です」


彼はバリを見つめ、

「この工場……まだ進化できますよ」

と言い残して去っていった。


――進化?

――工場が?

――何が始まるんだ?


帰り道。

タカハシが神妙な顔で言った。

「先輩……やっぱり僕たち、選ばれてますよね?」

「何に?」

「ネジとバリの……意思疎通係です」

「そんな役職いらんわ!」


だが、俺のポケットの中で小さな声がした。


――“よろしく頼むよ、兄ちゃん”


どうやらバリまで増えてしまったらしい。


俺は空を見上げ、深いため息をついた。

工場は今日も、想像以上にカオスだった。

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