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第2話:ネジ締めマスター覚醒の日

昼休みの休憩室。

カップ麺の湯気が漂う中、俺は弁当の卵焼きを噛みしめながら考えていた。

「このまま一生ネジ締め……なのか?」

そのとき、向かいに座った新人タカハシが箸を止めた。


「先輩、僕……気づいちゃいました」

「やめろ。悟りみたいな顔するな」

「ネジって、宇宙の構造に似てません?」

「……は?」


彼は本気だった。

「銀河も渦巻き。ネジも渦巻き。つまり……僕らは宇宙を回しているんです!」

まぶしい。うるさい。若さが暴走している。

だが少しだけ胸が熱くなった。

「宇宙整備士ってことか」

「そうです!先輩は今日から宇宙の守り人です!」

――新手の宗教みたいだが、気分は悪くない。


午後のライン作業。

今日は不思議と心が軽い。

「カチッ」「キュッ」「カチッ」「キュッ」。

ネジを回すたび、宇宙が1ミリ動く……ような気がした。


隣の佐藤さんが呆れた顔を向ける。

「お前、今日なんかテンション変だぞ」

「宇宙を整えてるんです」

「病院行け」


そんな中、突然ラインが「ガコン!」と停止した。

警報音が鳴り響く。

「誰だ非常停止押したのは!」

大山課長の怒号が飛ぶ。


見ると、非常停止ボタンの前にタカハシ。

「すみません……でも、ちょっと見てください!」


彼が指差す先を見ると――

ネジが一本、宙に浮いていた。


「磁気か?静電気か?」

「違います。意思です」

「は?」


タカハシは真剣な目で言う。

「ネジが……『もう少し優しく締めてくれ』って」


課長は額を押さえた。

「お前ら、寝不足か?」

だが俺は気づいた。

ネジは微妙に震えている。

そして――


――“やさしくしてくれ”


確かに聞こえた。

気のせいだと思いたかったが、タカハシが小さくうなずいている。

「先輩、聞こえましたね?」

「聞こえてない。いや……ちょっと聞こえた」

「ですよね! これはネジとの共鳴です!」


こうして、俺たちの秘密の活動――

**「ネジ対話プロジェクト」**が始まった。


毎日、締める前に軽く声をかける。

「よろしく頼む」

「今日、固くない?」

「トルク強めでいくぞ」


周囲からすれば頭のおかしい二人組だが、

驚くことに、作業ミスが激減した。


数日後――

大山課長が腕組みして言った。

「お前らのラインだけ、不良ゼロだぞ。何した?」

俺とタカハシは顔を見合わせる。

(ネジと会話してます)

……とは言えず、笑ってごまかした。


帰り道。

夕暮れの工場裏で、タカハシがつぶやく。

「先輩……ネジってすごいですね」

「まあな。今日も宇宙が平和でよかった」


ふとポケットのネジを握ると――

――“ありがとう”

そんな気がした。


俺は笑いながら返した。

「こちらこそ。明日も頼むぞ、相棒」


ネジ一つで世界は変わらない。

でも、俺の気分はちょっと変わった。

それだけで十分だった。

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