6/8
第1章 第4話 「エコーの街、沈黙の声」
夜明け前、ヴェルティアの街は曇りガラスのように眠っていた。
中条潤はコンビニの明かりに背を向け、屋上へ向かう。
いつものようにAURAが耳元で語る。
「都市ノイズ値、午前四時現在で通常の七倍です」
潤は苦笑して煙草をくわえた。「お前、静寂を知らんやろ」
屋上の柵越しに、薄明かりが滲む。
そこに立つのは、前夜に見た“影”の人物。
フードを脱ぐと現れたのは、同じタワーの清掃員・凛子だった。
「……あなた、昨日、光を見たでしょ」
「え?」
「私も。誰かに“見られてる”感じがして」
彼女の声は震え、手には古い通信端末が握られている。
そこには、意味の分からない文字列――『SAKURA-CORE LINK』の文字。
潤は息を飲んだ。「これ……ただの信号じゃない」
AURAが割り込むように発声する。
「解析不能なコードを検知。人間の感情パターンと同期しています」
その瞬間、街のスピーカーがノイズを発した。
遠くのビル壁面に、紅い“花びら”のような映像が映り、消える。
凛子が呟く。「この街、誰かが繋ごうとしてる」
潤は空を見上げた。
そこには電波でも光でもない――“誰かの想い”が、形を持ち始めていた。




