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第1章 第3話 「階層の音、静寂の亀裂」
「ピンポーン……」
中条潤が部屋のドアを開けると、向かいの老婦人が険しい顔で立っていた。
「夜中の洗濯機、止めてくれへん? 壁が揺れるんや」
潤は慌てて頭を下げる。「すみません、タイマー設定間違えただけで……!」
引っ越して三日。夢にまで見た高層の暮らしは、早くも現実の騒音に染まりつつあった。
彼の部屋には、AIスピーカー〈AURA〉が設置されている。
「環境ノイズ、平均値を超過。近隣のストレスレベル上昇を検知しました」
無機質な声が告げる。潤は苦笑した。
「AIにまで説教される時代か……」
一方、管理人室。神代は防犯カメラのモニターを見つめていた。
映像の隅、誰もいないエレベーター前で、影が一瞬“揺れた”。
「またか……昨日も、同じ階層や」
隣の職員が眉をひそめる。
「システムのバグじゃ?」
神代は首を振る。「ちゃう。これは“ノイズ”やない、“気配”や」
夜、潤の部屋に不意の通知音。
〈AURA:未登録の電波反応を感知しました〉
彼がカーテンを開けた瞬間、対面のタワーの一室で光が瞬く。
一瞬だけ、誰かの“影”がこちらを見ていた。
――ヴェルティアの空に、静寂の亀裂が走る。
まだ誰も、その音の意味を知らない。




