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スカイ 第1章 第1話 「鉄骨の下の約束」
湾岸の空気は鉄の匂いと潮風が混ざっていた。
まだ陽も昇らぬ朝、神代誠一は静まり返った建設現場に立っていた。
58階建て予定の《スカイリンクタワー》――その骨格が、夜明けの街に影を落とす。
「今日も始めるか……」
彼は手にした図面を折り畳み、空を見上げる。
そこに見えるのは、無数の光。
地上ではまだ完成していない“夢の塔”が、空の中ではすでに立っているように錯覚する。
スマートヘルメットの通信が鳴る。
『現場監督、確認を。昨日のセンサー、再起動不能です』
「またAI管理の不具合か……人間より神経質やな」
皮肉を呟く神代の耳に、微かな音が届いた。
――カラカラ……と風に転がるスパナの音。
だが、誰もいないはずの足場の上で、それは“呼吸”のように響く。
神代は足場を見上げた。
そこに、誰かの“影”が揺れている。
照明のない早朝、ありえない光の反射。
まるで人の形をした“残響”が、梁の上を歩いていた。
「……お前は誰や?」
返事はない。
ただ、風が吹き抜けた。
鉄骨の間に、一瞬だけ桜の花弁のような光が舞った。
神代は息を呑む。
都市の中の“静寂”が、何かを産もうとしていた。
それが、タワーに宿る“心”の始まりだとも知らずに――。




