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第0章第1話 風が泣いた瞬間
湾岸の再開発地予定地。
夜明け前、霧を含んだ雨が街の灯を滲ませていた。
仮設足場の上、現場監督の神代誠一は遠く国道の光を見つめていた。
雨音に紛れて、瞬間的に閃光が走る。
何かが倒れ、人影が駆け寄ったように見えた。
だが、その手前の歩道にも、別の影がいた。
傘も差さず、空を見上げる人。
電柱の下にしゃがみ込み、何かを拾い上げる人。
反対側の高架の影には、輪郭だけ浮かぶ細身の姿。
風の流れが重なり、まるで世界が一拍だけ“呼吸を止めた”ようだった。
「……変な夜やな」
神代の呟きに、美咲が小さく笑った。
「この街、いろんな人の思いが集まるんですよ。きっと」
雨が止む。雲間から、朝日が差し込む。
塔の鉄骨が一瞬だけ光を返し、遠くで誰かの運命と、ここに立つ街の未来が静かに交わった。
誰も、その意味をまだ知らなかった。




