拙き者
今はもう昔の話の一つであります。
アルバイト生活をしながら、日々詠んだ短歌を無料投稿サイトに掲載している者がいました。恋の歌、人生の歌、そして季節の歌を詠んでは投稿しておりました。
もうすっかり気候が変わって、残暑が長引いてしまい、秋らしい秋が感じにくい年が何年も続くようになっておりました。虫の音や果物やきのこなど秋を感じるものが少しずつ遠くなってしまい、それをどうにか歌にできないか詠んでおりましたが、納得のできる歌はできませんでした。
そんな年をもう何年も過ごしたある年のことでした。詠み人知らずの歌を知りました。それは秋にふさわしい自分では決して詠むことが出来そうもない一首でした。
すなわち、
木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり
自らの拙さを感じつつ、一人の歌人は今日もまた歌を詠むのでした。