紹介
こちらを見つめる大きな橙色の瞳は、熟れすぎた果実のように見えた。
深くて、鮮やかで、濁りがない。
それが、真っ直ぐにこちらを見ている。純粋な好奇心に満ちている。
カブトムシを観察してる子供みたい。
そう感じたのはあながち間違いではないと思う。
…だって、「この生き物」呼ばわりされたし。
今にも私のことをつっつきだしそうな彼との間に、シリルさんが割って入った。
「ご紹介しましょうー!」
とても先ほどまで命の危険にさらされていたとは思えない笑顔。キラキラーっと指先をひらめかせて私を指す。
「こちら、ウィロウさんです。」
「僕は1年のノア。能力はオレンジの従属。」
人差し指をくるりと回すと、先っぽに明るいオレンジ色の光が宿った。
紹介をされたので、返事代わりに私より一回り大きいシリルさんの背から少し身を乗り出してぺこりと頭を下げる。
海面から少し浮いているノアさんは、そんな私を遠慮なく上から覗き込んできた。
「君の能力は?見たことない色だけど。」
能力?色?
「だからあ、個人魔法のこと。」
「ノアちゃん、ウィロウさんは人間のお方ですよ。」
シリルさんがこそこそと――まあ私にも丸聞こえだがーーノアさんの耳に手を当てて口を寄せ一言。
すると、ノアさんの大きくてまんまるな目が、こぼれ落ちるんじゃないかってくらいさらに大きく丸く見開かれた。
「ニンゲン…?これが?」
そうですけど、なにか。
「わあーっ!ほんとにいるんだっ!」
ノアさんの顔にぱぁっと笑顔が咲いた。
目を輝かせ、私の周りをぴょこぴょこ飛び跳ねてはしゃいでいる。能力がなかったり?魔法使ったことないってこと?なんてキャーキャー言い出す始末。
「僕っ、ニンゲンって御伽話の中にしかいないんだと思ってた!」
と、聞いた時には流石に噴き出しそうになった。どうやら人間の存在に真剣に感動しているらしい。
「あの…、知らないと思うんですけど、私もセイレーンや魔法使いなんてものは御伽話にしかいないと思ってたんですよ…。」
「じゃあー、僕今日からニンゲンのこと信じるからウィロウも魔法を信じてね?」
「あ、はい。」
わかるようでわからない、なんだかどこかズレている提案だがまあ受け入れてうなずく。
「シリル様が連れてきたってことは転校生だよねっ、同じクラスになれるかなあ?」
え?
「気に入ってくれたのなら、同じクラスになれるように言っておきますね。」
「やったあ~!」
ん?
よかったですねノアちゃん、と親戚のおじさんみたいにあたたかい目線を送るシリルさん。
さっき以上にはしゃいでいるように見えるノアさん。
2人の中で、わたしがこの学園の新入生みたいに扱われている気がする。
気のせいだろうか。
「さあて、早速陸に上がって入学手続きをしに行きましょうか。」
気のせい…じゃないかも。
え、私の意向ガン無視?勝手に決まってない?
船が岸についた。シリルさんが人差し指を軽く振ると、ふわふわと紫に光る、船と陸を繋ぐ階段のようなものが現れた。
先に上がったシリルさんが、私に手を差し出す。
エスコートだなんて初めてしてもらった。
……じゃなくて。
「あのっ!」
ピタッと動きが止まる。
「どうして私が入学することになってんですか。」
私は人間。魔法なんて使えない。国立の学園らしいがこの魔法の国の住民じゃない。魔法を学ぶ学園に通う理由も学園側のメリットもない。
すでに絵面も浮いてるもん。
白髪赤青オッドアイと、橙の髪と瞳に挟まれる黒髪が。
そしてなにより、足を引っ張るだけの落ちこぼれ学校生活なんてこっちから願い下げだ。
少し戸惑ったような顔をしていたシリルさんは、階段を登ってこない私にかがんで目線を合わせて、笑いかけてこう言った。
「あなたの命のため、とでも言いましょうか。」
先に少し遠くにいたノアさんも、こちらに駆け寄ってきた。
「シリル様、それじゃ言葉が足りなくない?」
彼によると、シリルさんが言いたいのはこういうことらしい。
このあたりで、人間である私の命が保障されるのは、この学園の寮の中くらいだ……と。




