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第1.5章:運命の王冠

大陸 Aurvel の東の果て、荒れ果てた町にて。北風は鋭い刃のように家屋の隙間を突き抜け、朽ちた屋根を震わせていた。道は泥と瓦礫に覆われ、濁った水たまりが薄暗い月明かりを映している。

しかし不思議なことに、そこには子供たちの笑い声や、貧しい人々の温かな挨拶がこだましていた。まるで欠乏そのものが、彼らに不屈の精神を鍛え上げているかのようだった。


古びた木の家。広場を見渡す窓のそばに、一人の若者が座っていた。油灯の光が彼の顔を照らし、眉を寄せて世界の重荷を背負っているかのように見える。黄金の髪は汗と埃に濡れ、夜の湖のように深い青の瞳は、不安の波に揺れていた。


彼こそが王 Regalus III の次子、**Alwen** 王子であった。しかし、王位継承を宿命づけられた兄とは対照的に、幼い頃から **Alwen** は影のように扱われ、余計者、まるで運命の盤に誤って置かれた駒のように見なされてきた。


背後に立つのは一人の男。大柄で精悍な体つき、戦場で刻まれた長い傷が左頬を横切っている。黒髪に白いものが混じり、後ろで束ねられていた。静かな褐色の瞳は常に揺るがぬ決意を宿す。彼の名は Ronan。数十もの戦役を生き延びた歴戦の兵であり、唯一 **Alwen** を決して見捨てなかった腹心であった。


「Alwen 殿下……」

低く温かな声。胸の鼓動のように力強く響き、忠実な従者の落ち着いた気遣いが滲んでいる。

「またあのことをお考えですか?」


Alwen は顔を上げ、疲れ切った眼差しを見せた。顎に手を当て、空が肩にのしかかるかのような溜め息を吐く。


「……Ronan。お前は思うか……私の決断は、間違っていたのだろうか?」

ためらいがちな声。心の奥底では言いたくない言葉を無理に吐き出しているようだった。


Ronan は歩み寄り、硬く荒れた手を彼の肩に置いた。その手は剣も盾も握りしめてきたが、今は羽のように柔らかく、しかし確かな温もりを伝えた。


「殿下……私が代わりに選ぶことはできません。ですが、一つだけはっきり言えます。この地の人々は殿下を信じています。貧しくとも笑い、共に生きる。その一因は、殿下が彼らを見捨てなかったからです。」


窓の外では、やせ細った民の顔に月光が差していた。石のように硬いパンを分け合いながらも、笑顔は絶えない。子供たちは木の棒を剣に見立て、騎士ごっこに興じる。ひび割れた手の女たちは、子を抱き歌を口ずさむ。苦しみさえも風の一過にすぎぬかのように。


Alwen の瞳に涙が滲み、声は掠れた。

「……そうだ。私は座して待つことはできない。立ち上がらねばならぬ。父に、皆に証明してみせる——私の道は誤っていないと!」


彼の声は熱き決意そのものだった。

Ronan はうなずき、珍しく口元に笑みを浮かべた。


「私はいつも殿下の後ろに控えております。」

その短い言葉には、何があろうと全力で支えるという揺るぎなき誓いが込められていた。



やがて場所は変わる。

大地に刻まれた深い黒き峡谷。月光すら届くことを拒むような闇。切り立った岩の隙間を風が吹き抜け、悪鬼の嘆きのような不気味な音を奏でていた。そこに Alwen と Ronan が立っていた。


村人たちは後方に身を寄せ合い、必死に武器を構える者が周囲を守っている。幼子は泣き叫び、母の腕にしがみつく。遠方では村が炎に包まれていた。だが炎だけではない、家屋や大地の至るところに巨大な爪痕が刻まれていた。人知を超えた存在の仕業は明らかだった。


「GRRRAAAAUUUUOOOOOHHHHH——!!!」

闇を裂く咆哮。真紅の瞳が光り、三眼の狼(The Three-Eyed Direwolf) が姿を現した。それは死神の群れのように血に飢え、村を滅ぼした元凶だった。


漆黒の巨体は軍馬の二倍もあり、爪は岩を引き裂き、不気味な紫光を放つ第三の目を額に宿している。唸り声は雷鳴のようで、立つ者の足をすくませた。


「道を開け! 民を逃がすんだ!」

Alwen の叫びは夜を震わせた。剣を握る腕が小さく震える。それでも彼は一歩も退かない。


一頭の狼が黒い閃光となって飛びかかる。牙は短剣のように鋭い。Alwen は剣で受け止めた。

*キィィィン!*

衝撃で骨が震える。それでも食いしばり、獣の右目へ突きを放つ。

「アウウウウ——ッ!」

絶叫とともに巨体が崩れ落ち、大地を揺らした。


「殿下、背後です!」

Ronan が槍を投げ、別の狼を地に縫いとめる。

血が飛び散り、Alwen の顔を赤く染めた。


村人も必死に応戦するが、狼の群れは狡猾で、戦術を持っているかのようだった。


「ひっ……! お母さん……!」

幼い少女が防御の輪からはじき出された。


巨獣が跳びかかる。開いた口は子供一人を容易に呑み込めるほどだった。


「Alice——!!!」

父親の絶望の叫び。しかし誰も間に合わない。


その瞬間、鋭い金属音。

少女の前に立ちはだかったのは Ronan だった。細身の槍を獣の顎に突き立て、凄まじい力で引き裂く。狼は喉を貫かれ、苦悶に転げ回る。

すべては一瞬の出来事。人々は何が起きたのか理解できなかった。


剣戟と咆哮、荒い息。死闘の旋律が響く。多くが傷を負ったが、村人たちは皆、生き延びた。子供たちも親の腕に抱かれていた。

**Alwen** は荒い息をつきながらも、確かな決意を瞳に宿す。

「私は……守り抜いた。」



また場面は変わる。

豪奢な大理石の広間。毛皮の椅子に腰掛けた領主たちが金銀の器を並べ、外の貧困と対照を成していた。


「王子だと?」嘲笑が響く。「あの弱々しい小僧が何の価値もあるものか。」


だが Alwen の瞳は燃えていた。

「あなた方の足元で民は飢えている! Aurvel が滅びれば、この宝は一族の墓標に過ぎぬ。私と共に立て! 王子だからではない、私もあなた方と同じ Aurvel の子だからだ!」


その言葉は広間を震わせた。やがて沈黙の後、次々に領主たちが頭を垂れる。火は心に灯され、Alwen は侮られる存在から導く者へと変わった。



さらに時は進む。

円形闘技場。灼熱の太陽の下、Alwen は巨漢の敵将と対峙していた。父すら恐れた猛将。山のような体、筋肉、無数の傷、二メートルの戦槌。


「小僧! お前ごときに勝てると思うか!」

雷鳴のような怒声。


Alwen は飲み込むが、退かない。

大槌が振り下ろされ、石をも粉砕する威力。必死に回避し、汗が噴き出す。剣で反撃するも、巨体には小さな傷しかつかない。敵は嘲笑い、槌を薙ぎ払う。砂塵が吹き荒れる。


「殿下には無理だ!」兵士が叫ぶ。

「いいや、できる!」Alwen が吼えた。瞳は炎のように輝く。次の一撃に、避けずに踏み込み、槌の懐に潜り込む。剣を腰へ深々と突き立てた。敵は絶叫し、崩れ落ちる。観衆の歓声が轟いた。


膝をつき、血を流しながらも、Alwen の視線は決して逸らさなかった。

**Ronan** が駆け寄り、その体を支える。

「私は……越えたのだ!」


Ronan は何も言わず、ただ彼を優しく抱いた。


こうして数多の試練が Alwen を鍛え、捨てられた王子を鋼とし、皆を照らす炎とした。


……そして、運命の日が訪れる。

お待たせしてしまってごめんなさい! 新しい章がこんなに遅くなってしまった理由は、学校が始まって執筆に使える時間が半分以下になってしまったからです。どうかご理解いただければ嬉しいです。

それでも、物語を追い続けてくださって本当にありがとうございます。皆さんの応援こそが、私にとって作品をより良くしようと頑張れる一番の原動力です ❤❤❤


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