第1.1章:生きる氷塊の新しい一日
数えきれないほどの宇宙。その中では、生命と死が常に交差し、不条理や規則を超えた出来事が日常のように起きていた……
そんな世界に、目的もなく、冷淡で無感情な一人の男、アネカワ・ウズキが突如として、宇宙の悪戯の中心に据えられた。
「システム」が現れる。
だが、それは力も特権も与えない。代わりに彼にもたらしたのは、厄介事と望まぬ旅路のみだった。
宇宙は変わり始め、法則は崩れようとしている――
その中心にいるのは、英雄になどなりたくもない男、ウズキ。
彼を待ち受けるものとは、一体何なのか?
*走れ…*
*ハァ…ハァ…*
狭くて薄暗い裏路地には、機械油と錆びた金属の臭いが立ち込めていた。
そこを一人の少年が息を切らせながら駆け抜けていく。怯えた目が何度も後ろを振り返る。
「…はぁ…はぁ……ったく、まじで……撒いたか…?」
壁にもたれかかるように倒れ込む。足は震え、今にも崩れ落ちそうだ。
壁の向こうでは、浮遊する高速車両が何台も行き交いながら彼を追い詰めていた。
「クソッ…あいつら、マジで速すぎる…」
息を整えながら、少年は霧のかかった空を見上げる。
「…あとは…この星を脱出する方法さえ見つければ…!」
*カチッ。*
金属が擦れるような音とともに、冷たい感触が首筋に触れた。
「――な、なんだよこれっ!?」
背後から腕が回され、紙のように薄い刃物が喉に押し当てられる。
「動くな。」
低くて重い声が、耳元で鳴る。
「お、おい兄ちゃん……ガーディアンか? 話せば分かるって!」
「……ガーディアンじゃない。」
その声は氷のように冷たく、鋭く、今にも喉を裂きそうなほどだった。
「ただの賞金稼ぎだ。」
その言葉を聞いた途端、少年の態度が一変する。
「な、なぁ!見逃してくれたら、金の半分やるよ!?マジで!」
しばらくの沈黙。
そして――ため息。
「……無駄だ。」
「はっ?」
次の瞬間、何かが落ちたような音。
*バシッ!*
少年はその場に倒れ、意識を失った。
その場に立っていたのは――**アネカワ・ウヅキ(姉川ウヅキ)**。
彼は静かに手袋を外し、無表情で倒れた男を見下ろす。
その瞳は黒一色。光を一切反射しないような暗黒。
彼は男が盗んだ金を確認すると、まるでゴミ袋を持ち上げるように軽々と担いだ。
身長180近い体格が、夜の街並みにすっと立つ。
それはまるで、地獄から来た死神のようだった。
彼は軽く体を回し、ゆっくりと歩き出す。
夜空に広がる満天の星、そして宇宙に浮かぶ淡く輝く惑星たち――
まるで真っ黒なビロードの海に漂う宝石のようだった。
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*警察署 – 22:43 PM*
「おおっ!?また指名手配犯かよ!」
若い警官が顔を上げる。
扉の向こうから、意識を失った男を引きずりながらウヅキが入ってくる。
「ついでだ。」
「お前なあ…ほんとその態度…はぁ、まあいいや」
「おい!こいつを拘留室に連れてけ!」
*カチャカチャ…*
警官が腕の端末を操作し、振り返って言う。
「OK、報酬は送金済みだ。確認してくれ。」
ウヅキは無言で腕時計を見下ろす。
「……金額、合ってる。」
それだけ言って、背を向ける。挨拶も礼もない。
警官は呆れたようにその背中を見送りながら、隣の男に問いかける。
「なぁカイン先輩、あいつ誰? 強盗にしか見えねぇぞ。」
カインは腕を組み、小さくため息をつく。
「本名は**姉川ウヅキ**。確か、隣町の出身で21歳だったか。」
「賞金稼ぎ?」
「ああ、自由契約だ。昔、別の指名手配犯もあの状態で連れてきたことがある。」
「ふーん、プロって感じか?」
「いや…人間味がなさすぎて、逆に不気味なんだよ。」
その時――指令室から怒号が飛んだ。
「勤務中に無駄話するなあああ!!」
二人はビクッとして、すぐ直立する。
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室内は暗く、最低限の家具だけが置かれている。
自動ドアが閉まる音が静かに響く。
ウヅキは入室し、手袋とコートを外す。バッグを机に置く。
*ピッ*
小さな電子音。
収納棚の中から小型ロボットがふわりと浮かび上がり、淡い光を放つ。
「おかえりなさい、マスター!今回の任務は完了です!特別報酬の抽選が――」
ウヅキはロボットに視線を投げる。
片目だけで。
「お前…それだけを言うために出てきたなら…」
「……今すぐ消えろ。」
「ハイ!直ちに退避しますっ!」
*シュイン!*
ウヅキは表情一つ変えず、ゆっくりと歩き出す。
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*コツ、コツ、コツ…*
靴音が夜の街に響く。
頭上では車輪のない浮遊車が音もなく空を駆け抜ける。
風に揺れる黒髪の隙間から、光を吸い込むような瞳がのぞく。
その顔は一切の表情を持たず、見る者に不気味な寒気を与える。
彼は無言で帰路についた。
やがて、母親から受け継いだ小さな家にたどり着く。
周囲の近未来的な家とは違い、どこか昔ながらの素朴さが残る。
ウヅキは手を扉に添え、少しだけ空を見上げる。何かを思い出したように。
*カチャ。*
静まり返った通りに、小さな音が鳴り響く。
ドアがゆっくりと開く。
ウヅキはそのまま家に入る。
*パチッ、パチッ*
二回の拍手。
室内の照明が自動で点灯し、シンプルなリビングが明らかになる。
彼はゆっくりとソファに座り、スマホを取り出す。
*シュッ*
機械音と共に、キッチンの奥からアームロボットが出現。
平らな皿の上には、熱々のコーヒー。
ウヅキはそれを受け取り、静かに一口。
その時――スマホから通知音。
*Ting.*
彼は即座にタップする。
画面からホログラムで浮かび上がったのは、可愛らしい顔立ちの少女。
だが、その瞳は明らかに隊長のもの。
「うず…じゃなかった、ウヅキ。君、合格したよ。」
明るい声だが、落ち着いた自信がある。
「チームDに配属ね。詳細は明日話すから、よろしく~!」
「……」
「じゃ、また明日!」
画面がスッと消え、静寂が戻る。
(明日は…忙しくなりそうだな。)
口に出さず、ただ思った。
静寂な空間を見つめながら――
*Ting… Ting… Ting…*
部屋には、目覚まし時計の音が響く。
朝日がカーテンの隙間から差し込む。
*Creak.*
浴室のドアが開き、ウヅキが姿を現す。
黒のスーツに黒のネクタイ。完璧に整った身なり。
彼は階段を下りながら、時計を確認する。
**6:05**
彼は何もない空間に手を差し出す。
*テンッ*
小さな音と共に、何かが手の中に現れる。
ウヅキはそれを破り、無言でかじった。
――どうやら、携行食のようだ。
*ビューン!ビューン!*
家を出ると、目の前を学生たちがすごいスピードで通り過ぎていく。
彼らは銀と青の制服に、浮遊型スケートボード**NeonTora-Xを使っている。
若者の間で流行している移動手段だ。
(NeonTora-Xは、光のストリップと空中浮遊機能を備えたテクノロジースケートボードであり、若者の間で非常に一般的な移動手段の一つである。)
ウヅキはそれを一瞥し、まったく気にせず歩き出す。
イラストも表紙もないこの作品を読んでくださって、本当にありがとうございます。
読んでいただけただけでも、とても光栄です。
皆さんの関心と応援が、この作品をさらに発展させる原動力になります。
心から感謝いたします。
【第1.2章は近日中に更新予定です】