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74:属性と紋章


 図書館で紋章――漢字を発見した、次の日。

 オーケヌスは約束通り、ミオティアルの部屋から、彼女の研究成果を集めてきた。

 本来であればあまり褒められたことではないのであろうが、重要な案件として、オーケヌスの責任のもとに持ち出された。


 ティアの居住スペースの空き部屋に、ずらりと並べられた書物と資料。

 種類別に並べられたそれからは、ミオティアルの隠れた執念さえ感じられた。


「……それにしても膨大な量ですね」

「ああ。……流石に驚いた。一体いつから研究をしていたのか」


 オーケヌスの説明によると、ミオティアルは几帳面な性格であるせいか、研究をまとめた書物は全て一箇所にまとめられていたらしい。そのため、特に内容を確認する必要もなかったそうだ。


 ティアは、並べられた書物のうち、一番端のものをそっと持ち上げた。

 一目で使い込まれたとわかる表紙。

 ぱらぱらと捲ると、もともと書かれていたであろう文章に負けない量の書き込みがされていた。


 しばらく眺めた後、再び表紙に戻る。


「……風属性の植物……」


 ポツリと呟き、その下にあった本の表紙に目を移す。

 風属性の鉱物、と書かれている。


「隣は……水属性……」


 (もしかして、これ全部……)


 ティアはハッとしてすぐ後ろに立っているオーケヌスの顔を仰ぎ見る。

 オーケヌスは、コクリと頷いた。


「そうだ。全ての属性の植物や鉱物、(しゅ)や言い伝えなど、多岐にわたる研究をしている」

「……すごい……」


 ティアは目を丸くする。


「もちろん、すべての内容を確認する時間はなかったのだが、表紙を見れば大体見当がつくからな。……ただ」


 オーケヌスはそこで言葉を切ると、一冊の本をティアに見せた。


「これは?」


 ティアが尋ねると、オーケヌスは眉を顰め、ほんの少しだけその瞳が揺れる。


  ――効率は重視する?


 不意に、昨日の伶夜の声が脳裏をかすめる。


「……殿下?」


 ティアの瞳が、オーケヌスの顔を覗き込んだ。


  ――貴方が覚悟を決めてくれれば良いだけだよ?


 オーケヌスは、ふるりと頭を振る。


「……いや。これは、例の、『古代文字』らしきもので綴られている……君の手を、借りることになりそうだ」

 

 何枚もの資料を簡易的に束ねたそれは、各属性に一冊ずつ、あるという。


「……なるほど」


 (……今日の殿下はちょっと元気がないね)


 目を閉じて、ふうっと息を吐き、スッと目を開ける。


 (よし、ここは腕の見せ所かな)

 

 ティアは手にした本を元に戻すと、右手の人差し指を口元に当てて、ニコッと笑みを浮かべる。


 (いつも揶揄(からか)われてばかりだし、たまにはいいよね)

 

 少しだけ、声を高くして。

 できるだけ、可愛らしく。

 やや上目遣い。

 それから、いつもより、わざとらしく。


「……オーケヌス様。考え事をする前に、甘いものを頂きましょう? そのほうがきっと、捗りますから」


 ね? とティアは小首を傾げる。


「…………!」


 オーケヌスが、ぱちぱちと瞬き、意表を突かれたような顔になるのをみて、ぷくく、とティアが笑い出す。



 オーケヌスはコホン、と咳払いを一つする。


「……そうだな。せっかくの誘いだ、頂こう」


 そう言って、くるりと後ろを向いてしまう。

 心なしかその動きはぎこちない。

 


 (なんてことをしてくれるんだ、君は……)


 

 深い、深いため息をついた後、右手で顔を覆った。


 

 ◇◇◇



「ティア様! 本日のお茶とお菓子は、新作なんですよ!」


 じゃーん! とでも言いそうな勢いで、リリアナがカフェテーブルにティーセットを並べていく。

 真っ白な陶器のカップにとくとくと注がれるお茶は、淡い緑色。

 同じく白いお皿に美しく飾られたお菓子は、色とりどりの宝石を集めたように輝いていた。


 (……ひとくちゼリー? それとも、グミの類かな?)


 ティアはキラキラと輝くお菓子の中から、黄色い粒を一つ摘んで、じっくりと観察する。

 ゼリーのような中に、何かが入っているのが見えた。


「……何か入ってますね」

「こちらは、普通のお菓子ではないのです」


 にこーっと効果音がつきそうな笑顔で、リリアナは解説を始める。

 

「今日は調べ物をされるとのことでしたので、少しでも作業が捗るようにと……かねてより研究しておりました、薬効のあるお菓子をご用意致しました」


 (リリアナ、すごい……)


 ティアが目を丸くして感心していると、オーケヌスもまた、淡い水色に輝くお菓子を摘んでまじまじと見る。

 

「……つまり、この菓子や茶には、何か効果が込められているということなのか?」

「はい。お薬を調合するときの手順の応用です」


 そんなことが可能なのかと呟いた後、ぱくりと口の中に放り込む。


「……味は全く問題ないな」


 ティアも、手にしていたお菓子を口にする。


「……美味しいです」


 意外そうにする二人を見て、リリアナは、ふふーと満面の笑みを浮かべる。


「頑張って研究してきた甲斐がありました。属性や薬効の食品への付与については、元々研究していたのです。ですが、あと一歩のところで決め手が無く……ところが、先日の薬草図鑑に探していた答えがあったのです!」


 少し興奮気味に説明を続けるリリアナを横目で眺めながら、オーケヌスはお茶の入ったカップを持ち上げた。

 香りを確認し、一口。それからふむ、と小さく頷く。


「それで、これらにはどんな属性と効果が付与されているのだ?」

「作る工程も気になります」


 オーケヌスも興味をそそられたのか、話に乗ってきた。

 ティアも身を乗り出す。


「もちろん説明させていただきます!」


 リリアナは、スカートのポケットを探ると、何やらメモを取り出す。


「材料に、属性を含んだものを使うのはもちろんなのですが、加熱や冷却の時につかう魔法陣に、一工夫をするのです……こちらを」


 そう言って広げたのは、二つの小さな魔法陣。

 一見するとそれほど複雑ではない。リリアナが先に説明した通り、よくある加熱と冷却の魔法陣だ。


「……この部分をご覧ください」


 そう言って、魔法陣の中心部を指差す。


「……ここに、付与したい属性をもつ物質を載せるのか……?」

「はい。その通りです。まずこの場所に属性の粉を載せて、加熱を起動。粉が魔法陣全体に馴染んで輝きを放ったところで、加熱したいお菓子や、茶葉などを載せるのです」


 (へええ……)


 その他にも、水に魔力や属性を付与する方法などを説明していく。

 ティアは感心しながらも、リリアナの話す内容を必死に記憶する。


 (何か、ヒントになる知識があるかもしれない)


 続いてリリアナは、今日のお茶とお菓子の説明を始めた。


「こちらのお茶は、閃きの属性と呼ばれる、風属性を乗せています。それから、こちらの紅いゼリーには、集中力を高める火の属性、青は知性と熟考の水属性……」

「色々と研究したのですね……」


 ティアはカップに半分ほど残ったお茶を眺めながら、リリアナの説明を頭の中で反芻する。


「本当は、古代にあったという紋章があれば、工程を省けるのですが……」


「!」


 ポツリと溢した言葉に、ティアとオーケヌスは顔を見合わせる。


「り、リリアナは、紋章を知っているの?」

「あ、いえ。そう言うものが昔はあったと、存じているだけです。先生方の中にも、実際に使える方はいらっしゃいませんし」


 (属性と、紋章……)


 ティアは、傍に置かれた古代文字で書かれているという資料に、目を向ける。


 表紙には、【風の書】と書かれている。


 ティアは、お皿の上で煌めく宝石と、二つの魔法陣を見比べる。

 属性を乗せる魔法陣と、工程を省く紋章。


 (ミオティアル様の図鑑に、書かれていた……)


「殿下……」

「ああ、やはりその書を読み解く必要がありそうだな」


 オーケヌスは難しい顔で呟くと、カップに残ったお茶を飲み干した。


 

 

次回更新は木曜夜です。

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