72:筆頭侍従の矜持
クレイは、主であるオーケヌスの誰よりも近いところにいるという、自信があった。それは決して自惚れの類ではなく、事実そうだった。
リヴァジーユ家は身分こそ低いが、王子と歳周りが近いことから、クレイは幼き日より、共に過ごす機会を与えられた。
「――クレイ。共に苦難の道を歩んでくれるか?」
それは、クレイ十四歳、オーケヌス十二歳の、静陽上の月の頃のこと。
いつも通り、主であるオーケヌスの身の回りの世話を終えたクレイが、就寝の挨拶をしようとしたときだった。
「……それはどういう……?」
突然の出来事に、クレイは顔をあげる。
まだ大きすぎるベッドの端に腰掛けたまま、こちらをまっすぐに見据えるオーケヌスと目が合った。
静かな、深い蒼色。
まだ幼さの残るあどけない顔と、少し高めの声。
懸命に背伸びをするように、似合わない凛々しさを纏おうとしている。
自分が、この都を背負って立つのだと、幼いながらもきちんと自覚しているようだった。
「クレイなら、私を預けられる。……共に笑い、共に怒り、共に悲しみ、共に悩む。……私が間違った時には、正してくれる強さを持つ其方こそ、私の腕として相応しいと思う」
その言葉に、クレイの魂がゾクリと震えた。
左胸に添えた手に、グッと力がこもる。
迷いは、無かった。
「この、クレイ=レイル=リヴァジーユ、身命を賭して、オーケヌス王子殿下に生涯お仕え致します」
この時からクレイは、オーケヌスの最も信頼し、唯一の友人と認められる侍従となった。
「……懐かしい夢を見たな」
早朝、火の刻を過ぎた頃。クレイはむくりと体を起こし、そのまま両手で頭を抱えると、深くため息を吐いた。
(あー……格好悪いなぁ……)
落ち着け。と自分に言い聞かせる。
何が、『時折違う人物に見えることがある』だ。
――私自身であったのか、それとも他の誰かであったのか――
手掛かりを示してくれていたじゃないか。
――私は、酷い男だな――
弱音を吐けるのも、自分の前だけだったじゃないか。
それに、聖女ティアと会う時には、自分以外を伴っていかない。
こっそりと手紙を挟んだ贈り物の図鑑も、自分に託された。
自分を、信頼してくれているではないか。
今日の散策だってそうだ。あれだけ二人きりになることに拘っていたが、譲歩案として供を許されたのは自分だけだった。イオニスが仕向けたとはいえ、主が選んだのだ。
きっと、何か事情があるに違いない。
よく見ろ。色眼鏡は捨てろ。
他の者に惑わされるな。
あの時誓った己に恥じないように。
自信をもて。矜持を持て。
私が信じるものは、たった一つだ。
我が主にして、この都の王子。
私は、彼にとってただ一人の友人なのだ。
――クレイ。共に苦難の道を歩んでくれるか?――
そうだ。そのためならば、私は命を賭ける。
女王の思惑さえも、糧にしてみせる。
次回投稿は木曜夜です




