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68:始まりの記録と、隠された記録



 ――『月の魔女』について何かご存知でしょうか――

 

 

 オーケヌスから急ぎの手紙を受け取ったウラヌセウトは、侍従のルーファスに伝えた通り、翌日から書庫に(こも)っていた。


 資格のある者のみが入ることができる、王家の地下書庫。

 貴重な資料もあり、適切な保存と管理が必要だが、管理人を配置することができないこの場所には、塵の遮断と湿度の調節ができる、特殊な結界が張られている。


 現王は妻であるアクエリアムだが、彼女は王家を支える四家の一つ、セレストル家から輿入れした身だ。


 王家の記録に直接触れることができるのは、直系の王族のみとされる規則があり、王配のウラヌセウトがこれにあたる。息子のオーケヌスもその一人だが、親世代が現役であり、今はまだ許しが出ていない。

 つまり、現在資料を閲覧できるのは、現王配のウラヌセウトと、前王であるエイヴィスだけということになる。


 (この辺りに、王家の成り立ちの記録があったはず――ああ、あった)


 整然と並べられた資料と書物。歴代の王達によって並べられたその中から、ウラヌセウトは目的のものを見つけ出すと、そうっと手に取る。他に神々の口伝についての書物も必要であろうかと考え、その辺りの書物も探し出し、備え付けの卓に積んでいく。

 

 一通り探し終え、ウラヌセウトは懐から(とき)を計る道具を出す。ゆったりとした動作で衣を捌きながら椅子に腰掛けると、資料の一つを紐解いた。


 鎮まり返った書庫に、ぱらり、ぱらりと、(ページ)を捲る音だけが響く。


 (初代王である、男神ネプトゥヌス、その王妃となった女神アンフィトリテ……この名は、現代まで伝わる称号)


 リュリュイエ建国と時を同じくして、今もなお王家を支える四家が創設されている。

 

 守護女神テティス、月の女神セレーネ。夜の神アストライオス、異界の扉の守護神プルトゥート。

 其々(それぞれ)の家に伝わる門外不出の秘術があり、歴代の当主にだけ伝えられてきた。


 (……魂合の儀が無ければ、知る者をこのように厳選した上で途絶えることが無く伝えることなど、不可能であろうな)


 既に知っている知識ではあるが、都の属性資質や、季節を司る精霊の由来などの記述も辿っていく。

 相対する属性を同時に持つことは不可能とされる中、ときに光と闇の資質を兼ね備えた存在が現れるとの記述を見つける。


 (――これだろうか?)


 月の祝福。古くからそう呼ばれる現象は、月の女神セレーネに由来するセレストル家に時折現れる。

 中でも原初の存在と呼ばれる月の魔女、サイラ=ヘカテルーナは、当時の王や王妃、聖女をも凌ぐ魔力を持ち、その力は絶大であったらしい。その辺りのことは少し知識欲のある者であれば、皆知っていることだろう。

 

 しかし、記録されているのはその二つ名だけ。彼女がどのような生い立ちで、いつ現れた存在なのかは、どこにも記載されていない。

 そもそも彼女がセレストル家に属していたのかどうかもわからない。


 (どういうことだ……?)

 

 調査は暗礁に乗り上げた。

 

 他に何か手がかりがあれば、と思いつく限りの資料をかき集めるが、誰でも少し調べればわかるようなことばかりが書き連ねられている。


 (肝心なことがわからない。彼女(サイラ)の存在は確実であるというのに、不自然ではないのか?)

 


 (しばら)くそうしていると、カツン、カツン、という、ゆったりと階段を降りる音が、ウラヌセウトの耳に届いた。

 読んでいた資料から顔を上げ、出入り口付近を見ると、まさかの姿に、目を(みは)る。

 

「――お主がアクアと離れて調べ物とは、珍しいな」


 驚きに反応が遅れたウラヌセウトに、初老の男が声をかけた。

 (よわい)を重ねながらも、確かな威厳を放つその姿は、第一線を引いたとは思えない貫禄がある。


 どっしりとした低い声の中に、揶揄(からか)いの響きが混じっているのに気づいたウラヌセウトは、何とも言えない表情を浮かべ、口を開く。

 

「……父上。私とて」

「ああ、わかっているさ。それよりも、表は何やら愉快なことになっているではないか」


 ニヤリと口の端を上げ、父上と呼ばれた男――エイヴィスは、全てを知っているかのような深紫色(アメシスト)の瞳を愉しげに細めた。


「……愉快なこととは……少し、お言葉が過ぎるのでは」


 ウラヌセウトが溜め息混じりに言葉を返すが、エイヴィスは素知らぬ顔だ。


「月の魔女と、魂合の儀だろう? 調べても恐らく、まともな答えは出ぬだろうよ」

「なぜそれを……」


 エイヴィスは王を退いた後、表舞台に顔を出すことは無くなった。

 年寄りは邪魔にしかならぬと、妻のルシエラと共にほぼ隠居のような生活をしているが、何故直近の情報を掴んでいるのか。


 (鎌かけか、それとも全て知っているのか)


 ウラヌセウトは一瞬迷ったが、父親が供も連れずにこのタイミングで現れたことには、何か意味があるのではないかと考えた。


「……父上は、何か掴んでいらっしゃるのでしょうか?」


 言葉を選びつつ、慎重に問う。


「我も王位を退いたとはいえ、学ぶ姿勢は持っておる。何せ隠居の身だ。時間など有り余る程にあるからな……その資料だけでは足りるまい。ついて参れ」


 僅かに肩をすくめながらそう言うと、エイヴィスはウラヌセウトの返事を待たず、歩き出した。


 それ程広くない書庫の、一番奥にある棚の陰で、エイヴィスは立ち止まる。

 手にした杖に魔力を込めると、先端に蒼い輝きが灯る。

 重々しい動きで、トン、と床を打ちつけると、口の中で含むように呪を唱えた。


 ――隠されし扉 護られし道

   盟約により 我に光を示せ


 杖のついた場所を中心として、円状に青白い輝きが走り、床に魔法陣が出来上がる。


「これは……?」

「禁書の保管場所へと繋がる陣だ。都の始まりに関わる真実も、月の魔女と呼ばれる、サイラ=ヘカテルーナについても、この先に行かねばわからぬ」


 エイヴィスはそう言うと、魔法陣から立ち昇る青白い円柱の中へ、姿を消した。

 

 ウラヌセウトの喉が、知らずゴクリと鳴る。


 (……この先に、まだ私の知らない真実があると)


「……行くか」


 誰にいうともなく呟くと、エイヴィスの背を追って、光の中へ足を踏み入れた。


 

 

 


 

次回更新は木曜です。

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